第八〇話 迷宮探索者 〇一
「……禁じられた祭壇の追加調査ですか?」
「ああ……先日バジリスクが出ただろう? ギルドから正式に追加依頼が入ったんだ」
婚約破棄が成立してから数日、私とパトリシア、そしてタラスとマルツィオの四人は衛兵隊駐屯地にある隊長の執務室に呼び出されていた。
先日式典を攻撃した人形騎士ヴァルカリオンを退けた私たち衛兵隊は、主力騎であるヴィギルスが重整備のために工房送りになっていた。
まああれだけの戦闘をすれば、そりゃ色々なところにガタが来るのは明白であり日常的な軽整備では追いつかなくなるという判断らしい。
特に騎士級のパワーを受け止めてた腕周りのフレームに歪みが出ているとかで、ジーモンが『また徹夜かぁ……』と悲しそうな顔で呟いていたのが印象的だった。
「衛兵隊に追加調査ねえ……そういうの冒険者の役目じゃないの?」
「彼らは彼らで別の遺跡調査に赴いているよ」
正直に白状するのであれば暇を持て余していたところなので、まあ仕事というならば仕方ないところではあるのだけど。
ダンジョン探索ねえ……ちなみに騎士学園や新兵時代に訓練の一環としてこういった探索がカリキュラムに入っていたのは覚えている。
騎士学園の時はほぼ体験のようなものだったので、どちらかというとサバイバル訓練みたいな扱いでみんなのんびりやっていた気がするけど、新兵時代に行った方は結構ガチめの訓練で、怪我人もたくさん出たんだよね。
この世界のダンジョンなんだけど、これは各地に多く点在する古い遺跡やなんらかの目的があって作られた人工的な洞窟のことを指している。
当たり前だけど自然にこんな迷宮ができるわけなどなく、基本的にダンジョン内はある程度法則性を持っていたりもするらしい。
「……で? 何を調査するんだ?」
「先日バジリスクが出た横穴なんだが、その奥に古代の神殿跡が発見されたそうだ」
「神殿跡……」
「でまあ……ギルド側で調査をしようとしたらしいのだが、あいにくと人手が足りないとかで」
何か出る……というのはおそらく魔物であることは明白だが、この世界における魔物というのは多岐にわたっており、さまざまなものが存在している。
バジリスクやマンティコアなど馬鹿でかいものから、人の形に近いゴブリンやオーク、コボルトなんかは結構メジャーどころだったりするが、面倒なものになってくるとゴーストやレイスなど実体のない存在なんかも魔物に分類されていたりする。
実体のない魔物は聖水とかぶっかけたり、聖教の神官が祝福した武器じゃないと攻撃できなかったりするので、ちょっと面倒だったりする。
ただゴーストの発生条件というのはある程度認識されていて、古戦場なんかだと浄化の儀式が可能ならそれで出てこなくなる。
面倒なのは高次元生命体である悪魔とかなんだけど、これは召喚術式などがなければ出てこないのでまず見かけることはない。
「それで衛兵隊がやれってか? 暇そうだからって」
「まあ、そういうことだね……戦闘訓練にもなるので受諾した」
「うげー……ああいう場所って臭いんだよなあ……」
新兵時代に訓練のため立ち入った場所は、帝都の近くにあった『堕落の隠れ家』と呼ばれていた中規模のダンジョンだった。
過去聖教と敵対していた小規模な宗教団体があって、その信者が隠れ住んだという曰くつきの場所で、中は自然の洞窟とそれを結ぶ人工的な通路が入り組んだ構造になっていた。
中の探索自体は統一戦争よりも前に終わっており、住み着いていたのは馬鹿でかいネズミであるヒュージラットや、ヘルスパイダーといった巨大化した生物ばっかりだった。
まあ油断すればちょっと肉を齧られて大怪我を負う程度で済む場所ではあるのだけど、たまたま私と同期の連中が入った時に時期が悪かったのか大量発生しており、ほうほうの体で脱出するなんて状況に陥ったのだ。
人死はでなかったけどその時受けた傷が原因で退役を余儀なくされた同期もいたりして、あまり良い思い出がない場所でもある。
「まあ、衛兵隊の仕事にもこういった民間でどうにもならない場所の捜索などが含まれるので断りにくいんだ」
「そりゃそうだろうけど……それにしたって便利屋すぎやしないかい?」
「衛兵隊は公的な組織だからな、依頼があって対応可能となればやらねばならん……それに今我々は人形騎士を整備に出していて活動が限定的だからな」
「まあそうですけど……」
「ぶっちゃけると整備費用が天文学的になりつつあり、貴族会議からかなりの圧力がかかっているんだ」
衛兵隊は元々辺境守備師団から独立した武装組織ではあるが、これは街の守備をする軍隊とは別組織に、街の内外で起きる事件や揉め事を解決するためという名目で作られている。
当然のことながら、予算の出どころを決めているのは貴族会議になっていて、私たちはいわゆる政治家である貴族会議員の意向を強く反映する組織になっている。
まあ議長は終身でカリェーハ女伯爵になってるから、余程のことがない限りこの衛兵隊そのものが取り潰されることはないとはいえ、おばちゃんもある程度貴族会議の言うことを聞かないといけないわけだ。
そして……ここ最近さまざまな出来事があって、ライオトリシアそのもの治安悪化などに対する不満や不安を解消するために辺境守備師団も含めて目下活動は活発化しているからな。
民間からの依頼とはいえ、ちゃんとその辺りも対応していかないと矛先がどう向くかわかったものではない。
「そんなに壊している気はしないけどね……私は」
「君はまあ……時折だが、その……」
デュポスト隊長は非常に言いにくそうな表情で該当人物の顔を見るが、当のタラス・ノイラート子爵はそっぽを向いたままだ。
タラスは出撃ごとにどこか壊してくる……本人に言わせると『ヴィギルス自体が俺に合っていない』と言う話らしいが、ともかく私の一号騎と比べると二号騎はもう外見すらも別物になりかけているくらい補修や交換部品が多いのだ。
人形騎士そのものが莫大な費用をかけて整備する戦闘兵器であるゆえに、どうしてもこの辺りの予算は予想外に出ていってしまっているのだろう。
予算そのものは都市に住む人から徴収した税金と帝室からの補助金で賄っているそうだが、それも潤沢とはいえないものだ。
税金もいわゆる人頭税やライオトリシアにくる旅人や商人などから徴収するもの、あとは戦争などの非常時の徴収税などがあるらしいが、戸籍調査など貴族以外がぐだぐだになっている辺境などでは、誤魔化しなども結構発生していると聞いたことがある。
なので結局のところ、帝国辺境の税収というのは不安定極まりないものになっていて、街を運営するのは非常に大変なのだ、とかお義父様が話してた気がする。
「……で? その任務をこなすと多少は足しになるのかい?」
「まあな……ギルドからの報酬を入れれば、現在大きく不足している予算は多少マシになるな」
「はぁ……仕方ないか……」
衛兵隊の給料も大して高くない……軍人の時に比べるとほんの少しマシ、というレベルだろう。
ただ、今回集まっているメンバーが金に苦労しているのか? といえばそうではないのだ。
タラスのようにそもそも爵位を持っている貴族だと、自分の家からの仕送りもあるので生活そのものは苦労しない。
私も実家があるので大した影響は出ていない、居候のパトリシアも同じように生活そのものは変わらない……私の実家であるリーベルライト男爵家の負担は増えているけど、その点は本家からの援助があるらしく不安はないらしい。
マルツィオも似たような感じで伯爵家からの援助を合わせているというし、メルタはハインケス工房の職人を手伝ってそちらからもお金をもらっているらしい。
仕方ない、衛兵隊が潰れてしまうと私たちの生活をどうするのか問題が再び浮上してしまうな……私は肩をすくめてから隊長へと返事を返した。
「ま、仕方ないね……その代わり装備はちゃんと支給してくれよ? 私たちは本業じゃないんだから」
_(:3 」∠)_ ファンタジーといえばダンジョン
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