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「お前は追放だ!」と近衛を解雇された男爵令嬢、生まれ故郷の辺境都市にて最強衛兵となって活躍する 〜赤虎姫と呼ばれた最強の人形使いはTS転生貴族令嬢!?〜   作者: 自転車和尚
第二章 帝国戦勝式典襲撃

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第七六話 逃亡者は退場する

「くそっ……くそっ!」


 ライオトリシア郊外……月の淡い光が差し込む深い森の中を男が走っていた。

 男が着用しているのは帝国軍が支給している軍服だが、襟元には階級章が乱暴に剥ぎ取られた跡が残っており、男が軍を離れた人物であることがわかる。

 男は初老と呼んでも良い年齢に差し掛かっており、無精髭なども相まって荒れた印象を感じさせる風貌だった。

 彼の名前はダルコ・ヴァフルコフ元准将……カリェーハ女伯爵を憎む『鉄槌を下す者(マレイ)』の中心人物であり、元々は辺境守備師団(コルホス・リミティス)の指揮官でもあった。

 だが今彼は必死に郊外の森の中を走っていた……先ほどまで浴びるように飲んでいたワインの影響なのか、時折立ち止まって口元を押さえて吐き気を堪えると、何かから逃げるように走り出す。


「ルファヌーめ……しくじりおって……!」

 鉄槌を下す者を結成するきっかけとなったのは、ライオトリシアの支配者であるカリェーハ女伯爵と新任のバララーエフ少将による辺境守備師団の綱紀粛正にある。

 元々ヴァフルコフら鉄槌を下す者のメンバーは、このライオトリシアにおいて相互利益を得ていた者たちであり、莫大な利益を分け合ってきた仲間だ。

 カリェーハ女伯爵は長年政治的対立者として、このメンバーとの政治闘争を繰り広げてきていたが、彼女自身は貴族であり、政治的な手腕は高かったが軍事という面では手札を持たない人物であり、辺境守備師団に対しては手を出せなかった。

 女伯爵と敵対する貴族達は、その身の保護を目的に辺境守備師団へと働きかけることで、容易に手を出しにくい構図を作り上げていて、それが長年ライオトリシア内での不正が横行する原因となっていた。


「だが俺たちが生きていれば……まだ再起はできる、ライオトリシアを女狐のてから取り戻すのだ……!」

 不正により蓄えた私財は莫大なもので、彼らはその資金力を持ってさまざまな汚職に手を染めていた……だが、終戦後に女伯爵による嘆願が受け入れられ中央から一人の人物が送り込まれる。

 バルトロメイ・バララーエフ伯爵……帝国第三皇子であるグラディス・バルハード・ゼルヴァインが女伯爵のために中央にて色々な働きかけをして、抜擢した人物。

 戦争末期に少将へと昇格したバララーエフ伯爵は、本来は引退を待つだけの将軍であり、これほどに有能な人物だとは誰も思っていなかった。

 おそらく准将も含めて、敵対派貴族の大半は金をちらつかせれば靡くのではないか? と軽い気持ちで考えていたに違いない。

 しかし……少将は清廉潔白な人物であり、女伯爵だけでなく第三皇子の意図をよく理解していた。

「……誰だッ!?」


「いやいや、酒に酔っても気がつくのはさすがですな」


「クレイアトス・バーレイか……」

 顔に大きな傷を持つ五〇代くらいの人物……クレイアトス・バーレイと呼ばれた初老の男はイムジア商会の副会頭として彼らの前へと現れ食うに困っていた鉄槌を下す者たちへと多額の資金を提供してくれていた。

 ヴァフルコフは見知った顔を見て安心したのか、ほっと息を吐くと立ち止まる……クレイアトスは味方であり、イムジア商会を通じてざまざまな恩恵を受けており、それには金だけでなく都合よく扱える女性などが含まれていた。

 数年前よりイムジア商会は彼らへと接触し、人形騎士(ナイトドール)を含む援助がなければ、あのような事件を起こすことなどできなかったであろう。

 いわば共生関係の相手ともなれば、警戒心を持つ必要などないのだから……だが、立ち止まったヴァフルコフの肩を掴む人物がいたため、彼は思わずその方向へと視線を向けた。

「やあ……お急ぎですかね?」


「カイム……!」

 そこにはニコニコと笑顔を浮かべる緑色の短い髪に青い目をしたカイムが立っていた……無作法に肩を掴まれたことにイラッとしながらも、彼は頬を伝う汗を手で拭う。

 普段はほとんど走ることなどもないうえ、酒の影響なのかひどく息が切れる……ヴァフルコフは、思わずその場に腰を下ろしてしまった。

 カイムとクレイアトスはそんな彼を見下ろしながら、普段と変わらない笑みを浮かべ黙ったままだ。

 二人のそんな姿に違和感を感じつつもヴァフルコフは二人へと問いかけた。

「なんだ……こんな場所に来るとは……」


「いえいえ、自分と副会頭も一度ライオトリシアを離れようかと思いましてね、ご挨拶に」


「そうか、俺もしばらく戻らないつもりだ……」

 すでに仲間の一部はバララーエフ少将の部下達によって捕縛されてしまっており、実質的には鉄槌を下す者は瓦解していると言える。

 だが、その意思を継ぐものさえいればいつの日かあの女狐を倒すことができるはずだとヴァフルコフは考えていた。

 行動を起こす前に幾人かの仲間をライオトリシアの外へと逃がしている……その者たちと合流して再起を期して潜伏したのち、勢力を再び元へと戻すのだ。

 そのためにはイムジア商会の力を借りる必要がある、今まで潤沢な資金を提供してきた彼らであればこれからも良い支援者としていてくれるのだろう。

 だが、そんなヴァフルコフの考えを読んでいるのか、カイムは微笑んだまま優しく語りかけてきた。

「そうですか……ではここで我が商会とのお取引は終わりということでよろしいですかね」


「な……! これからも支援をしてくれるのではないのか?!」


「だって皆様は失敗したじゃないですか」


「失敗……だと!?」

 自らの義挙を失敗と切り捨てるカイムという若造には腹がたつ……今回はたまたま運が悪かっただけだ。

 現にあと一歩まで女伯爵を追い詰めているのだ、もう少しルファヌーが上手くやっていれば、確実に女狐を殺せた。

 それは失敗などではなく、女狐の悪運が強かっただけ……長年貴族の立場にあり、そして汚職に手を染め続けたヴァフルコフからすると、時間と人員さえあればどうにでもなる問題だと考えていた。

 しかし……微笑んでいるカイムの隣で、あまり感情を見せない表情のままクレイアトスは頭を振った。

「失敗ですよヴァフルコフ元准将……それも最悪の失敗です、私は損得をよく考える人間でしてね、皆さんの動きは最悪の一言でした」


「最悪だと?!」


「ええ……むしろ私は最後まで逃げずに戦っていたルファヌー元少佐を評価しますね……彼は死んでしまいましたが、皆さんよりもはるかに勇気を持っていた」


「あの役立たずを評価して俺を評価しないのか?!」


「しませんよぉ……どこに評価できるポイントがあるんですか、酒と女しか要求しない豚のくせに」

 カイムがニヤニヤと笑いながらヴァフルコフを罵る……はるかに年下の彼にそうも言われて激昂しない貴族はいないだろう、立ちあがろうとした彼の眼前に鋭い切先が突きつけられる。

 ハッとしてその剣を持つカイムを睨みつけるが……それまでの笑顔と違う、ゾッとするくらいの殺気を帯びた視線に思わず心臓が跳ね上がりそうになる。

 こいつは商人ではないのか?! とヴァフルコフは怯えたままカイムの隣に立つクレイアトスへと視線を向けるが、顔についた大きな傷を指先でそっと撫でた副会頭は、無表情のまま元准将へと視線を合わせた。

「つまりこういうことです、皆さんは踊ったが実力不足で舞台を降りるのです」


「き、貴様……! 裏切りを……!」

 ヴァフルコフはなんとかその場で逃げ出そうと蹈鞴を踏んで後退しようとするが、腰が抜けてしまい思わずその場に座り込んでしまった。

 だが必死にその場から逃げ出そうとするが、思うように足が動かない……酒さえ飲んでいなければ、と後悔するも、カイムが持つ鋭い剣が付きの光を反射してきらりと光る、どうしてこんなことに自分が死ななければいけないのか?

 何がダメだった? 組織を作り人を集め……ルファヌーが行動しやすいように手下を使って準備をしたではないか。

 自分はこんなところで死んでいい人物ではない、いつの日かライオトリシアを支配しその権益と莫大な財を自らのものとするまで、死ぬわけにはいかないのだ。

 何かを喋ろうとしたヴァフルコフの口へとカイムが恐ろしい速度で剣を突き立てる……言葉を発することもできずに彼の意識が次第に遠のく中、クレイアトスが彼へとそっと囁いた。


「裏切り者は皆さんですよ、私たちは舞台で踊る役者が欲しかったが……まあ、ご退場願いましょう」

_(:3 」∠)_ 犯罪者の哀れな末路


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