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「お前は追放だ!」と近衛を解雇された男爵令嬢、生まれ故郷の辺境都市にて最強衛兵となって活躍する 〜赤虎姫と呼ばれた最強の人形使いはTS転生貴族令嬢!?〜   作者: 自転車和尚
第二章 帝国戦勝式典襲撃

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第六〇話 平穏なる日常

「おい()()さん、あんまり根を詰めん方がいいぞ」


「ん? ああ……もう少しやってから終わりにするよ」

 私が工房に出入りして人形騎士(ナイトドール)ヴィギルスの修理に参加するようになって一週間ほどが経過していた。

 人形騎士の軽整備などは衛兵隊駐屯地にある格納庫にて行うのだが、ここまでの修理は流石にできず工房での作業となっている。

 すでに一号騎(プリムス)の修理は完了しているのだが、ジーモンの指示でいくつか改修するとかで別工程に回されていて衛兵隊に戻されてはいない。

 今は二号騎(セクンドゥス)の修理に参加しているのだが、ケルベロスの攻撃で損傷した箇所はそれほど大きくないというのが理解できて内心少し安堵している。

 日中は衛兵隊の巡回に参加し、夜遅くまで工房で修理を手伝うという生活なのだが、足繁く通う私を最初は腫れ物でも扱うような目で見ていた職人達だったが、ここ最近は声をかけてくれるようになり少しだけ距離が近くなった気がする。

「戦争に出てた人形使い(ドールマスター)ってのは簡単な修理もできるものなんだな、最近の連中は外装すら触りもしねえからな」


「本格的じゃないし素人の手習いさ……私と組んでいた指揮魔術師(マグス・インペラトル)がいてね、そいつによく言われたんだよ」


「ほう?」


「乗るだけ一流のやつは多いけど、構造も理解している奴は超一流で数が少ないってさ……それから機体構造を覚えたんだ」

 手についた油汚れを手拭いで軽く拭いてから、額に浮かんだ汗を手の甲で拭うと私は遠い記憶の中にある一人の男性の姿を思い浮かべた。

 五年以上前のことなのに、私の中にはいまだに()の痕跡が残穢のようにこびりついたままだ。

 魔法(アナテマ)も『タバコを吸うときに楽だろ』という気軽な理由で教えてくれて、なかなか上手くできない私にどうやったらそれが再現できるのかを嫌がらずに説明してくれた。

 野営方法のコツとかだけでなく、私に『考えること』を教え込んだのも()である……それまでの私は闇雲に突撃して、それでも能力だけで打ち勝っていた。

 だがそれだけではダメだと、()は私に何度も考えることを諭してくれた。

 その教えの甲斐もあって私は深く考えることを覚え、今まで生き延びてこられていると思っている。

 ある意味人生の師匠とも言える存在なのだ……尊敬と共に、この人のような優しい人間になりたい、と心より思った人物でもある。

 女性に転生しても私の性的趣向というか価値観があんまり変わっていなくて、男性に対して友人になりたいとは思うが、愛情を向ける相手という認識はない。

 だが()の優しい眼差しに、なぜだか心が落ち着くような感覚があったのが当時はとても新鮮だった。

「いい指揮魔術師だったんだな……」


「ああ、私には勿体無いくらいの師匠だ」


「そんなにいい奴なら俺も会ってみたいな」


「もういない、戦争中の任務で……」


「すまない! 俺が不躾だった、じゃ、じゃあ俺はこれで……」

 私の顔が露骨に曇ったことで職人のおっさんは慌てた様子でそそくさと側を離れていく。

 胸の中にあるぽっかりと空いた穴には新しい契約者であるパトリシアの存在が強くなってきていて、以前ほど私は悲しみを覚えていないことに驚いた。

 失ってすぐの頃は半身を捥がれたような感覚に苦しんだのだが、パトリシアの存在が次第にその失った部分を埋めていっているような気がする。

 それもこれも時間と共に魂の痕跡が薄れていっているのか、それともパトリシアという存在が上書きしているのかわからないけど……もう忘れて前を向けということなのかもしれない。


「……とはいえ、工房に残るのも変な時間か……」

 私は周りを見渡すが、すでに夜遅い時間ということもあって、ハインケス工房に残っているのは数人の職人とジーモン・ハインケスだけだった。

 ここ連日屋敷に帰るのが遅くなっており、パトリシアはあてがわれた客室の一つですでに寝ていることが多くなっている。

 まあ遅くに帰るようにしていたのは、あの時のパトリシアの行動に多少なりとも私が冷静に考えられなくなっているためだ。

 要するに『彼女と面と向かって顔を突き合わせたくない』というそれだけの理由で、修理に没頭したりしているだけだ。

 ため息をついた私が工具などを片付け始めたのを見て、ジーモンが作業の手を休めて私のそばへと歩いてきた。

「遅くまでお疲れだ嬢ちゃん……お前さんの手伝いでかなり作業が捗っているぜ」


「ジーモン、ありがとう」


「んあ?」


「修理に参加させてくれて、少しだけだけど()()()のことがわかったよ」

 私が人形騎士ヴィギルスを見上げながらそう告げると、ジーモンは少し嬉しそうに笑うと鼻を指で軽く擦ると、大きな手のひらで私の背中をポンと叩いた。

 戦争中もそうだったけど、人形騎士を操る人形使いの中には自分の愛機の構造や動力源などを知らずに動かしている連中が存在する。

 いやむしろそっちの方が多数派で、私のように機械に対してある程度の愛着を持っている人間の方が少ないのだろう。

 人形騎士職人は我が子のように建造した機体を愛するケースが多いが、人形使いのヘマで壊しされてしまうことを悲しむことはよくあるのだ。

 私はどちらかというと自分の愛機には愛情を持って接する方で、それは少しの間しか乗らない機体であっても大事に使いたいと思っている。

「人形使いにしとくのは勿体無いな、衛兵隊クビになったらウチこいよ」


「まだクビになっていないよ」


「はっはっは! そうだな、それにお前さん婚約話が出てるもんな」


「あー……そうだね」

 ジーモンも帝国貴族であり辺境都市であるライオトリシアの社交界に流れる噂話などはすぐに手に入るのだろう。

 長年独身を貫いてきたベリルンド子爵が、帝都より戻ってきたリーベルライト男爵令嬢へと求婚し、男爵令嬢はその返事を保留にしている、とかそんな感じか。

 噂話が大好きな手合いというのは貴族社会にも多く、『噂の鳥(ルモーリス)』なんて呼ばれるらしいが、そういう人が広めてるのかもな。

 ラファエラに頼んでアルフレート・ベリルンド子爵の噂を多少だが調べてもらったが、確かに婚約者がいたそうだ。

 しかし彼女は一〇年ほど前に有力商会の子息と恋仲になってしまい、駆け落ちしたらしく今は別の街へと移住してしまっているそうだ。

「それでどうなんだ? 噂は結構広まっているが」


「親戚のおじさんみたいな聞き方するなよ……」


「そりゃあ、お前さんがケツの青いおチビの頃から知っているんだ、気になるんだよ」


「ったく……」


「で? 俺はあのベリルンド子爵はいい奴だと思ってるがな、ここ最近じゃ珍しく誠実で仕事熱心な青年貴族って感じだが」


「アルフレートはいい人だけど……受ける気はないかな、私は仕事が大好きなんだ」

 ジーモンは私がそう返したのに少し驚いたような表情を浮かべた。

 まあ一般的な貴族令嬢であれば、結婚して家庭に入るってのが普通だし、アルフレートのように独身で爵位も持っていて、なんて好条件をこの年代の女性が受けることは珍しいからだ。

 でも……私はどうしても男性と結婚して家庭に入って、子供を産むという未来が想像できない……当たり前だけど自分は前世が男性であるという意識が強すぎるためだ。

 つまり夜の生活に耐えられる自信がまるでない、むしろ怖すぎて眠れなくなってしまいそうなくらいだし、その点パトリシアはふわふわで柔らかくてよかったな、うん。

 私は軽く手を振って、帰宅の準備を始めるために立ち上がった。


「ま、帰るわ……ある程度作業も落ち着いているみたいだし、明日から必要になったら呼んでちょうだい」

_(:3 」∠)_ 彼に対してはトゥンクしてたかもしれない


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