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「お前は追放だ!」と近衛を解雇された男爵令嬢、生まれ故郷の辺境都市にて最強衛兵となって活躍する 〜赤虎姫と呼ばれた最強の人形使いはTS転生貴族令嬢!?〜   作者: 自転車和尚
第一章 追放と帰郷

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第四七話 衛兵隊始動 〇五

「グオオオオオオオオッ!!」


「こいつがグラトニア……!」

 ライオトリシア西門前に姿を現したマンティコア特別個体のグラトニア……普通の個体と違い、漆黒の毛に覆われたその姿は普通ではない風格を備えている。

 姿形はマンティコアに相異ないのだが、大きさがまるで違う……通常の個体はどんなにデカくても四メートル程度の体高で人間と比べて相当に大きいというだけで、人形騎士(ナイトドール)からすると半分くらいの高さの魔物だ。

 しかしグラトニアはさらに体高が高く五メートルを超えるサイズである……デカすぎるだろ、明らかに自分の記憶の中にある魔物とは迫力が違う。

 私の想像だけど、立ち上がると人形騎士よりも大きな体をしているのではないだろうか?

『グラトニアの研究を行っている学者の話だと、基本的には強力な膂力と鋭い牙による攻撃が主だと話していた』


「そりゃこの大きさならパワーだけで勝てるわ……」


「グオオオオオッ!」

 グラトニアの漆黒の巨体がこちらの想像をはるかに超える速度で走り出す……ズドドッ! ズドドッ! という地面を揺るがす音と共に一気に距離を詰めた魔物は、その太く巨大な爪を人形騎士へと突き立てようとしてきた。

 だが私の操るヴィギルスは間一髪その攻撃をギリギリで躱すと、大きく跳躍すると距離を離した。

 今放たれたグラトニアの一撃は、前に乗ったクストスなどの重量級人形騎士だと明らかに避けられないほど鋭く速度が乗っていた。

 とにかくライオトリシアから距離を離さないと……私は手に持った長剣を葉形盾(カイトシールド)へと軽く叩きつけて音を出し、グラトニアの意識をこちらに向けるような動作を繰り返す。

 耳障りな音を立てる小癪な巨人がよほど気になるのだろう、グラトニアの赤い瞳がギラリとした殺気を帯びたのが分かった。

 その視線に射すくめられると、人形騎士の視界を通した光景とはいえ背中が少し寒くなるような気になる……だが、大丈夫私はもっとヤバい橋を渡ってきているのだから。

「こっちへ来な、遊んでやるよ」


「グオオオオオオアアアアアッ!!」

 凄まじい咆哮と共にグラトニアが一気に駆け出すが、私は盾を前面に掲げたまま突進する……完全に速度に乗る前に距離を潰さないと人形騎士の装甲とはいえ、あのサイズの魔物相手には心許ないのだ。

 私が前に出てきたことで虚をつかれたのか、グラトニアの突進スピードがほんの少し緩んだ気がした、その瞬間私は盾を手放して機体を回転させながら相手の左側へと滑るように移動しつつ魔物へと剣を叩きつける。

 相手の肉体を切り裂く手応えとと同時に、盾が視界を塞ぐ格好になったまま衝突したグラトニアは悲鳴とも咆哮ともつかない声をあげて轟音と共に地面へともつれるように倒れ込んだ。

 ズドオオオンッ! という轟音が辺りを振動させる……ライオトリシアの方からはあまりの音に異変に気がついたのか悲鳴のような声と喧騒が広がっていく。

『お、おい! 大丈夫か?!』


「一撃入れたが、なんて固さだ……!」

 過去に戦ったマンティコアは今の一撃で大体絶命するはず、そもそも外皮が硬すぎて刃が通らないっていう魔物はそう多くはないのだ。

 しかし、と私はモニターに映る長剣を見るが美しい刀身の一部に軽い刃こぼれが生じてしまっており、無理に武器を叩きつけると剣が簡単に折れてしまうことがはっきりとわかる。

 あの黒い毛皮は人形騎士の装甲に匹敵する硬度を備えているらしい、今まで私が戦った魔物の中でもトップクラスに面倒な相手だ。

 ヴィギルスの腰に下げたもう一本の長剣を引き抜き身構えると、怒りに満ちたグラトニアは赤い瞳でこちらをじっと見つめたままゆっくりと身を起こす。

「……無効ってほどじゃないってことか、殺せる相手だ」


「グオオオオッ!」

 大きな咆哮を上げたグラトニアだが、先ほど一撃を叩き込んだ腹部からはボタボタと赤い血が流れ出している……硬いが切り裂ける、ただ皮下にある筋肉が硬すぎてそう何度も切りつけたところで相手を倒せない。

 刺突による一撃で確実に相手の急所を突かないとダメだな、剣を構えた私をみてグラトニアはこちらの意図を明確に察知したのだろう、まるで威嚇するように後ろ足を使って立ち上がると前足を大きく広げて凄まじい雄叫びをあげた。

 次の瞬間背筋にゾッとするような殺気を感じた私は、咄嗟にペダルを踏み込んで大きく人形騎士を横っ飛びさせる……それまで私がいた地点に凄まじい音を立てて何かが突き刺さると土砂と土煙が宙へと舞い上がった。

「な、なんだ……?!」


「グオッ?!」

 先ほどまで私のいた場所に黒い影が突き刺さっている……それは驚くほど太く長い巨大な針であり、私はすぐにグラトニアへと視線を戻すと、魔物の背後でゆらゆらと巨大な蠍の尾が左右に揺れているのがわかった。

 そしてその尾の先から、ズルズルと粘液を伴って新しい針が生えていくのが見える……マンティコアの尾には凄まじい猛毒を持った針が備わっている。

 しかし……! 針を自由に射出できるという個体は聞いたことがない、むしろ今初めてみたぞ?!

 グラトニアは先ほどの一撃を回避した私に多少なりとも驚きを感じたのだろう、いやらしく歪む口元が先ほどよりも大きく歪むと、さらに殺気を放つ。

 狩りの獲物として最適、もしくは好敵手だと判断したのだろうか? 二本足で立ち上がっていたグラトニアは再び四足歩行の体勢に戻ると、前足で軽く地面を蹴るような動作を見せた。

「オオオオオオオオッ!!!」


「来るか……ッ!」

 地響きをあげて一気に黒い巨体が、私めがけて地響きを上げながら走り出す。

 咆哮と共に迫るグラトニアに対し、剣を構え直した私は相手の動きをじっと見つめる……焦ると負ける、魔物との戦いでは恐怖や焦りといった感情が生死を分けることが往々にして起きる。

 人間はなまじっか知恵があり、感情が豊かだ……それ故に闘い慣れていない人間は恐怖で思考が回らなくなり、結果自滅する。

 戦場で何度もそういう人間を見てきた私は、常に冷静になれと戦争中には最も信頼する魔術師(マグス)から口酸っぱく教え込まれた。

 その薫陶もあるのかもしれない、焦りはないし冷静でいる自分を自覚はしているものの、本能的な恐怖からか操縦桿を握る手に汗が滲む。

 グラトニアが大きく振り上げた腕を見ながら、ペダルを踏み込むと同時に機体を限界まで低く沈み込ませて一気に魔物の後背へと抜け出す。

 ヴィギルスの背中部分、つまり装甲を隔てた私の背中ギリギリを金属が擦れるような嫌な音を立ててグラトニアの鋭く太い爪が通り過ぎていくのがわかった。

「まずはその尾を叩き切るッ!」


「グギャアアアアッ!!!」

 私は一気に右手に握っていた長剣を振り抜く……ザンッ! という凄まじい手応えと共に、真っ赤な血液が舞い散り、のたうち回る蠍のような尾が地面へと叩きつけられた。

 そのまま私はヴィギルスを軽く跳躍させて、ほんの少し離れた位置へと機体を移動させると、肉体を傷つけられて激怒したグラトニアの前足がそれまで私がいた場所を薙ぎ払って空を切る。

 あの尾が最も厄介だった、人形騎士には飛び道具が装着されることが少ないので遠距離戦を強いられると手詰まりするからだ。

 一応無くはないんだけど、そもそも騎士の乗り物だし接近戦用の武装で戦うことを「(グロリア)」とする文化により、人形騎士に大型の射出武器が持たされることはほぼないからな。

「ははっ!! 尾は随分と脆いな特別個体さんよ」


「グオああアアアアアアアッ!!!」


「かかってこい! キャン言わせてやるッ!」

 怒りに身を震わせるグラトニアは激情と殺意をみなぎらせて赤い瞳を爛々と輝かせて私を睨みつけている。

 そこへライオトリシアから一台の装甲馬車(アルカヴァリス)が猛スピードで走ってくる……あれはメルタの操縦する装甲馬車か?

 ヴィギルスと同じように白を基調としたその装甲馬車は、馬などを繋がない自走型のタイプでその屋根から一人の女性が上半身を乗り出しているのが見えた。

 装甲馬車は派手に後輪を滑らせながら、ヴィギルスから少し離れた場所に陣取るように急停車すると、その背に姿を見せる私の随伴魔術師(コメス・マグス)は、美しい金髪をなびかせながら叫ぶ。


『アーシャさんッ! 力を貸します……魂の契約に基づき、我パトリシア・ギルメールはアナスタシア・リーベルライトと共にありッ!』

_(:3 」∠)_ もうそろそろ一章終了です


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