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「お前は追放だ!」と近衛を解雇された男爵令嬢、生まれ故郷の辺境都市にて最強衛兵となって活躍する 〜赤虎姫と呼ばれた最強の人形使いはTS転生貴族令嬢!?〜   作者: 自転車和尚
第一章 追放と帰郷

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第四一話 帝室の皆様は色々忙しい

「エゼルレッド伯爵令嬢を除隊させて、何を考えているのだ?」


「それよりも飼い犬の躾がなっておりませんな、首輪くらいはつけてもらわないと困りますが」

 グラディス帝国第三皇子は、帝室に連なる人間としては少々行儀の悪い姿勢にてソファへと腰を下ろしていた。

 目の前には不満げな表情で彼を見つめる異母兄でありテーオドリヒ第二皇子……実質的には帝国の後継者争い第二位として目される人物である。

 銀色の髪に赤い瞳を持った美形ではあるが、戦場にて鍛え上げられたグラディスと違い政治の世界で生きている人物らしく、少々線が細く神経質そうな表情が印象的な人物である。

 テーオドリヒの母は第二側妃であるロキサーヌ妃であり、グラディスの実母である第六側妃のジーグリンデ妃と比べると格としては上にあたり、年齢も含めてグラディスはテーオドリヒよりも序列が低かった。

 大陸の覇者として君臨するゼルヴァイン帝国皇帝ドリスタンは、一〇人の妃を娶っている艶福家であり、実子は多いがそのほとんどが女子であり、一四名の子どものうち男子はたった四人しかいない。

 正妃であるイゾルテ王妃の実子であり長兄として皇太子を務めるレオニドヴィチ以下、男系はテーオドリヒ、グラディス、コンスタンティンの四名であり、それぞれが成人して帝国の要職を務めていた。

「そもそも近衛隊は俺の管轄なのは取り決めていただろう?」


「記憶にないですな」


「今近衛がどれだけ混乱しているかわかっているか?」


「それはあのクラークとかいう俗物がなんとかするべき問題では?」


「おかげで近衛が本来果たすべき仕事が滞っている、どうしろと言うのだ」


「直接指揮を取ればよろしいでしょう? なぜ手を入れないのです?」


「俺は軍のみを相手にしているわけではない」

 嫌味を込めてそう告げたつもりが、むしろ反撃の材料としていけしゃあしゃあと返答を返す弟の厚顔無恥さに腹立たしい気分となっていた。

 実際に帝国軍は戦争終結後より有能な人材を失い、次第に内部が弱体化を始めており、帝国中枢部の人間であれば危機感として感じている事実であった。

 功績が高い兵士を早期除隊や、なんらかの理由をつけて叩き出すと言うのはここ数年のうちに幾度となく行われてきた。

 その弊害として本来抜けてはいけない人材がごっそり抜けているという空洞化が問題となっている。

 最前線の軍人だけでなく屋台骨を支える軍官僚についても同様の事態が発生しており、滞るはずのない人事などについても混乱が起きている。

 結果的にクラーク大佐のような人物が高い地位へと押し上げられることで、軍部の腐敗が揉み消されるなど緩みが生じている。

 それでも帝国軍の総兵力は微減……統計を見れば大幅な弱体化はしていないはずだが、その大きな体を支える屋台骨が揺らぎを見せていた。

「戦争中は放っておいても自浄作用が働いておりましたが、どうやら再編の時期に来ているようですなぁ?」


「再編成には陛下の許可も必要だ、そんなに簡単なものではない」


「俺の赤虎姫(ティグレス)を飛ばすのには、随分と()()()()ようですが?」

 テーオドリヒはグラディスが一瞬見せた怒りのような表情にギョッとするが、彼はいつもの笑みを浮かべ直して、感情を押し隠すように微笑んでいる。

 アナスタシア・リーベルライト男爵令嬢……赤虎姫の名で知られる彼女は、戦争中の大活躍により英雄と称された人物の一人だ。

 帝室の一員であるテーオドリヒも赤虎姫が公爵本家の血を引いている『隠された公女』であることは知らされている。

 とはいえ、一度目にした彼女は男性顔負けの長身とおおよそ貴族令嬢らしくない振る舞いなどで、興味を失った記憶がある。

 グラディスが戦後、アナスタシアを近衛部隊へと転属させて欲しいと依頼してきた時は、彼が後々側妃として取り立て箔をつけるためだと思った。

 だが数年経過しても彼女は近衛に残ったままだったので、弟は彼女への興味を失ったのだと判断していた。

 そのため上奏を見た時も、大して疑問には思わなかったのだ。

「……なら手元におけば良かったろう?」


「あれは軍に残さないといけない人物ですよ」

 五年という年月の間に、帝国軍を率いる人物は大きく様変わりをしていた。

 終戦時に帝国中央軍には英雄的な活躍をした人形使い(ドールマスター)が一〇人ほど残っており、今後の軍を率いる重要な人物と目されていた。

 本来中央軍に再配置された時点では、お飾りの役目というよりは帝国辺境や地方の貴族などに中央軍の精強さをアピールする狙いがあった。

 気がつけば先日除隊したアナスタシアを除くと、中央軍に残る戦争の英雄は二人しか残っておらず、それもまた、いつ離脱するかわからない状態だ。

破城鬼(デモリトル)』グウィード・デュ・コンスタンタン伯爵と『白炎の鎧姫(アルバ・フランマ)』シャルロッタ・ストリンドベリ夫人は、中央軍の人形使いとして人形騎士(ナイトドール)を使った戦闘訓練に従事しているが、すでに軍の再編成対象に入ってしまっている。

「もう残り二人……使いにくい連中しか残っておらんぞ」


「二人はまだいうことを聞く方でしょう」


「そもそも彼女がそれほど大事なら、側妃にでもして引き止めろ」

 仕事は大量に山積みだ、グラディスの相手をしながらでも事務作業しなければ追いつかない……テーオドリヒは非常に有能ではあるが、信頼できる副官には恵まれていない。

 グラディスは笑いながら余裕を見せつけるかのように、手元のカップから行儀悪く音を立てて茶を啜る。

 その音がまた癇に障るのだろうテーオドリヒは眉を潜め、弟の顔を睨みつけるが本人は気にしないでくれとばかりに手をひらひらと振っている。

 テーオドリヒの派閥は皇太子派閥と比べるとやや勢力に劣り、目の前にいるグラディスの派閥を引き込まなければ兄と争えない。

「そんな勿体無いことを俺はしたくありませんね」


「ドレスを着せればそれなりなのではないか?」


「興味がないわりによく見ておりますね?」


「どことは言わんが、あれは目立つだろう」


「そういうのがお好みですか、知りませんでしたな」

 グラディスはニヤニヤと笑ってから、兄の顔を覗き込むような仕草を見せる。

 その笑顔は少し不気味なものを感じさせ、テーオドリヒは本心を決して見せようとしないグラディスに言いようの無い寒気を感じている。

 まるで主人に噛み付く闘犬だな、とテーオドリヒは書類で表情を隠しながら軽く舌打ちを漏らす。

 出来が良すぎる弟ではあるが、戦争中に彼へと役職を与えて活躍させたのは決して間違っていない……期待に応える働きを彼はし続けていた。

 実績は素晴らしく名声を持ち得ているが、生まれた時期が少し遅かったために兄二人の派閥ほど地盤を固められないグラディスは、コウモリのような第三勢力に甘んじている。

「俺は妻以外に興味はない」


「そうですか、レオ兄とは違うと」


「少なくとも副官には手を出していないな、俺は」

 そう口にするものの、実際にはレオニドヴィチとテーオドリヒは表向き対立しつつも、目障りになってきているグラディス派閥を蹴落とすために、一部では手を結んでいた。

 放っておけばグラディスは明らかに帝位争いの邪魔になる……また、天然の人たらしである彼を慕う貴族は非常に多く、中立派貴族だけでなく派閥の貴族すら、彼との交流を好むものは非常に多い。

 それは二人の兄からすると脅威である……自らの派閥を切り崩しにきているとしか思えないのだから。

 グラディスは余裕を見せるかのように口元を歪めるまま茶を飲むが、テーオドリヒからするとあまりに考えが見えないため恐ろしさすら感じる。

「兄上も節操がありませんなあ」


「もし手元に置くのであれば、軍などではなく愛妾として囲えば良い」


「勿体無いと申しました、あれは得難い宝ですよ」


「全く、宝ならば手の内に……」

 テーオドリヒはふとエゼルレッド中尉の強制除隊について考える。

 彼女は軍参謀としての経歴も素晴らしく、近衛に配属されるまでも非常に辣腕を振るっていた才女であるが、実家や実兄との関係が悪いと聞いていた。

 もし……そういった状況を見越して自分たちに気が付かれないうちに彼女をグラディスが懐柔していたとすればどうなるのか?

 ハッとした表情で目の前に座るグラディスへと視線を向けると、彼はニタニタと笑いながらカップをテーブルへと置くと笑う。

「この茶は美味しいですなあ、仕入れ先を教えてください」


「お前……彼女をどこへと向かわせた?」


「再就職先を斡旋しただけですよ」

 グラディスはもう用はないとばかりにさっさと立ち上がると、優雅な一礼を見せてから部屋を出ていってしまった。

 テーオドリヒは先ほどまでの会話を考えつつ、一つの結論に達する……グラディスは自らの子飼いの貴族家のどこかへとエミリーを送っている。

 なんのために、という陳腐な疑問は必要ない……弟は帝位を狙っているのだ、そして本気で派閥の切り崩しを図ろうとしている。

 軽く手を叩くと、彼の背後に黒ずくめの男が膝をついた状態で姿を表す……影と呼ばれる彼らは、帝室の情報網を支える有能な臣下である。


「……エミリー・エゼルレッドを探せ……おそらくグラディス派閥の貴族家のどこかだ、それとクラークをよべ」

_(:3 」∠)_ 兄弟間の争いは異世界も変わらないのです。


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