第三八話 禁じられた祭壇
「あー、こりゃすごいな」
「だろう? すまねえがなんとかしてくれ!」
翌日……ギルドからの正式な依頼ということで衛兵隊に今回の任務が発注された。
デュポスト隊長はギルドとのやりとりについては詳しくは話さなかったが、ともかく無事に初仕事としての発掘調査の救援という任務が私とパトリシアに降ってくることになった。
衛兵隊にはまだ人形騎士が配備されていないので、ぶっちゃけ私のような人形使いはやることがあまりないし、細かい仕事でも衛兵隊の宣伝になると考えているらしく、デュポストは『しっかりやってくれたまえ』というありがたい言葉をかけてきた。
ちなみにタラスは初日からすでに姿が消えているらしく、彼の指揮魔術師であるマルツィオは必死に探し回っているそうだ。
なんでも『か弱きライオトリシアの女性を守る任務に就く』とか言ってたらしいので、多分娼館とかそういう場所で特別任務とやらをこなしているのだろう。
まとまりねえなあ……とは思うがまあ、仕事ができたことはいいことだから考えるのはやめよう。
「しかし……こいつはどこで手に入れたんだ」
「ギルドがウルノフ商会を通じて王国で中古になっているのを手に入れたって聞いたぜ」
「兵士級人形騎士ヘルロア、王国最後の主力建造機じゃねえか」
「知っているのか?」
懐かしいという気持ちになるのはおかしいだろうか?
戦争後期にヴォルカニア王国が総力を上げて建造した兵士級人形騎士ヘルロアは、当時の外見そのままに半分地面に埋まった状態で放置されている。
ヘルロアは帝国との戦線が不利になっていた時期にヴォルカニア王国の首都であるガランサスに工房を構えていたエルプセ侯爵家が開発、建造していた人形騎士の一つだ。
エルプセ侯爵……いや工房は王国の主力として活躍した戦士級人形騎士ラヴァロードを建造していた名工廠として知られ、貴族家としても歴史の深い工房貴族だ。
その技術力と生産能力は王国の中でも屈指で、彼らの頑張りが王国の戦線を支えていたと言っても過言ではない。
残念ながら敗戦とともに工房で所有していた秘匿情報や設計図などが全て帝国軍に押収され、現在も名前が残るエルプセ工房はほぼ整備以外が不可能な形で空洞化してしまっている。
「戦争中に散々やり合ったよ、私はヴォルカニア王国戦線で戦ってたから……」
「俺らにはなんとなく王国製とかっていうのしかわからないんだが、見ただけで名前まで出てくるもんなんだな」
「そりゃな……覚えなきゃ生き残れねえんだよ」
そう言った部分を加味してもヘルロアは王国が総力を上げて建造しただけあって、傑作機と呼んでも良い人形騎士なんだよね。
帝国軍の兵士級人形騎士であるケレリスの登場により、それまで主力機として活躍していたロックヘアが一気に旧式化したことに焦った王国軍は、鹵獲したケレリスをベンチマークにした新型機の開発を急いでいた。
その中でエルプセ工房が試作したヘルロアは、ケレリスよりも性能が高く、非常に頑丈かつ生産性に優れた設計だった。
ロックヘアを後方部隊に回し、王国の戦線はヘルロアが担うことになったが、これにより帝国の攻勢はかなり停滞することになった。
ただ全体としてすでに帝国優勢の情勢は覆ることがなく、大局をひっくり返すような活躍はできなかった、という評価だ。
私は散々この機体を駆る人形使いと戦ったが、エース級の人物が軒並み少なくなった時期だったため、性能差をそれほど感じずに戦えていた。
終戦後にテスト目的で搭乗して動かしたのだが、ケレリスよりもよほど良い出来で驚いた記憶があるな。
ぱっと見だが地面に埋まっているヘルロアは整備が行き届いていないのか、ところどころ装甲に錆が浮いていてあまり愛されていないことがわかった。
「……整備しろよ、人形騎士は可愛がらねえとちゃんと動かねえぞ」
「王国製の玩具だぜ? 他だって使い捨てにされてるのたくさんあるだろうが」
「ったくこの国の人間てやつはよ……」
私も帝国人なんだけどさ! 人形騎士は己の命を預ける大切な仕事道具である、これは譲れない。
機械に対する愛情を持たず整備の行き届いていない機体を酷使している、というのは正直どうかと思っている……基本的に機械というのは愛情をかければちゃんと応えるし、かけなきゃ嫌われるんだよ。
ハッチは開きっぱなしになっているため、私は慎重に移動しながら操縦席を覗き込む……王国の人形騎士も基本的には構造が一緒だ。
計器類に書かれている文字はわからないけど、ロックヘアと一緒で帝国のそれと配置や意味はだいたい一緒である……だから動かせるんだけどね。
ちょっと傾いているので乗り込むのに苦労したが、操縦席へと潜り込んだ私はすぐに計器類をチェックしていく。
いくつかあるハンドルやレバーを動かすと、力の核が不規則な鼓動を奏でるが、思ったよりも魔力は減っていない。
埋まってすぐ放置したのは良かったんだろうな、魔力残量は多くこれなら外に出しても当分は動かせるに違いない。
私はハッチから顔だけ出すと、こちらをじっと見ていたパトリシアと冒険者たちへと声をかけた。
「大丈夫そうだトリシア、このまま一度動かしてみるよ」
「了解ですアーシャさん、スティーグ様たちは離れてください」
「本当に大丈夫なのか?」
「アーシャさんは帝国最高の人形使いですよ、問題ありません」
心配そうな冒険者たちへとパトリシアが笑顔でフォローするが、最高の人形使い、ね……まあ信頼があることはいいことだ。
私は軽くレバーを動かしつつ力の核が伝える駆動力を上げていく……ヘルロアの機体が軽く痙攣し、腕を使って地面を押そうとするが、思ったよりも深く埋まっているのかびくともしない。
地盤が緩いわけじゃない、何か空間に機体が落ちかけている気がするな、と私はペダルを使って足を動かそうとするが、手応えのないペダルの反力に眉を顰めた。
軽く操作をしながら足元に何かがないかを感覚でペダルを動かして調べていく……するとゴツッ! という感覚が足裏に伝わったことで、そこに何か足場があることに私は気がついた。
よし……これを使って、とペダルを一気に踏み込むと、軋むような音を立てて機体が地面から持ち上がっていく。
「す、すげえな……本当に埋まっていたのを……」
「アーシャさん、もう少しで全部出ますよ」
「よし、これでいいかな……」
近くにあった巨木を使ってヘルロアの手をかけた私は、タイミングを見計らって一気に地上へと引っ張り上げていく。
整備が行き届いていなく、鼓動も不規則ではあるが……それでも元戦争兵器たるヘルロアは流石のパワーを持って地面へとゆっくりと立ち上がった。
泥と土で汚れているヘルロアを、ゆっくりと歩かせながら行動に支障がないことを確認した私は、駐機態勢として膝をつくと、一度駆動を止める。
スティーグと冒険者達が大歓声を上げる中、私は操縦席から飛び降りると先ほどまでヘルロアの埋まっていた場所、地面に開いた大きな穴の方へと歩いて行った。
足元には広めの空間があった……こんな場所で洞窟が広がっているわけでもないだろうに、なんだったんだ? と私がその穴の淵で中を覗き込むと、そこには二つの目がじっとこちらを見て光っているのが見えた。
「何かいるっ!!!!!」
「逃げろッ! 穴から離れるんだ!!!」
スティーグの声に反応するように、私が大きく後方へと身を投げ出したのと同時に、恐ろしい唸り声をあげて穴の中から巨大な影が泥を巻き上げながら飛び出してくる。
その姿は巨大なトカゲのようだが大きさが凄まじい……長さは五メートルを超えているだろうか? 正真正銘の怪物は私たちを前に威嚇の咆哮をあげた。
トカゲじゃない! トサカのように頭に伸びる器官、ギョロギョロと不規則に動く金色の眼、そして両側に三対ずつ生えている大きな脚。
この世界において非常に危険な魔物として知られるバジリスクが、その巨体を震わせながら再び咆哮を上げた。
「ギョアアアアアアアッ!!」
「うおおおッ!」
「下がれッ! 生身じゃ危ないっ!!」
流石は戦い慣れた冒険者達というべきだろうか? 巨大なバジリスクに怖気付くことなく、彼らは武器を構えると、魔物へと切り掛かっていった。
だがバジリスクの大きさは図鑑などに載っているものよりもはるかに大きく、尻尾を大きく振り抜くと、運の悪い冒険者がその攻撃を避けきれずにぶち当たる。
たった一撃だ……不幸な冒険者の体は大きく宙を舞うと、巨大な岩に叩きつけられたがあまりの衝撃に、グシャッ!! という鈍い音と共に血塗れになって地面へと崩れ落ちた。
まずい、こんな生物相手に今所持している騎兵刀なんか子供のおもちゃでしか無い! 何か武器がなければ……と周りを見回すと、そこには先ほどまで動かしていた人形騎士ヘルロアの姿があった。
私が後方で駐機体勢にしていたヘルロアへと走り出すのと同時に、冒険者を援護するためにパトリシアが杖を振るって魔術を詠唱し始める。
「援護します……! 炎を司る精霊の王よ、その力を持って我の敵を焼き尽くせ!」
_(:3 」∠)_ 魔法詠唱〜
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