第三一話 ライオトリシア衛兵隊試験 〇三
「……色々やるみたいだけど最後が人形騎士の模擬戦か……」
「魔力試験なんかもあるんですねえ……」
応募者に配られている紙……これは帝国だけでなく大陸各国に普及している普通の紙、とはいえ前世のような上質で美しい光沢などは持っておらず、結構ざらざらした質感の麻紙のような質感のものだ。
製造方法はよく知らないんだけど、紙を作る工程などは専門の職人さんがやってるとかで、やはり貴族家が後援する製紙工房が販売しているのだとか。
とはいえ紙自体の価格はそれほど安くないので、貴族家や騎士などが使う程度で平民などでは紙を触ったことのない人も結構いるらしい、というのは軍隊時代によく聞いた。
ついでに魔道具による伝達や連絡があるとはいえ、その数にも限りがあるし視界内に捉えていないとうまく伝達できないこともあるので、遠方への連絡は結局のところ紙が主役であるとも言える。
「あ、魔術師は人形騎士の模擬戦は免除だそうです、よかった……」
「魔術師でも乗る奴はいるって聞いてるけど……トリシアは乗ったことないんだっけ?」
「一度だけ学園の授業で乗りましたけど、操作が忙しすぎてよくわからなくて……」
人形使いは前世でいうところの戦闘機パイロットみたいなもんで、私のように初めて触る機体をすぐに扱えるのはかなり珍しい。
操作方法だけでなく、機体ごとに細かいバランスや微調整が必要なケースが多くあり歴戦の人形使いでも新しい機体に慣れるには何日もかかるとされている。
素人には歩かせるのすら難しい、というのが世間一般の常識でありそう考えるとロックヘアをぎこちないながらも動かしてた山賊は結構すごいことをしてたんだよな、とさえ思う。
私とパトリシアが配られた紙を覗き込んでいると、そこへタラスが同じ紙を手にやってくるとニヤリと笑って話しかけてきた。
「おい赤虎姫、人形騎士同士の模擬戦で使う機体見にいこうぜ」
「ん? もう用意されているのかい?」
「ああ、見たら笑うぞ」
タラスは手招きをした後さっさと歩き出すが、私とパトリシアはお互い顔を見合わせて肩をすくめると先を歩くタラスの後をついて歩く。
「北の亡霊」タラス・ノイラート……人形使いとしての腕は超一流だと思う、後ろ姿に独特の迫力があり、死線をなん度も潜った戦士の風格を匂わせている。
当時私がヴォルカニア王国戦線で戦っている時に、人形使いの仲間が北の亡霊と戦ったらどっちが勝つか? という質問を投げかけてきたけど、あの時はその答えが出せなかった。
名前だけしか知らないし、尾鰭のついた伝聞でしかお互いのことを知らなかったからだ……だが、なんの因果かライオトリシアという辺境の地でその答えに決着がつく、となると否が応でも内心ワクワクする。
タラスが急に立ち止まるとそこには野営用の天幕の下で、静かに膝をついている鉄の巨人……ライオトリシアの門を守っていた兵士級人形騎士ケレリスとも違う、板金鎧のような分厚い装甲を持った重厚な外見を持つ人形騎士がそこには存在していた。
「……驚いたね、こんな骨董品がまだ動くのか」
「わあ……なんていうかずんぐりむっくりさんで可愛いですね」
「戦士級人形騎士クストス……まだ残ってるもんだよなあ」
パトリシアが素っ頓狂な感想を口にするが、私達が見上げるその人形騎士は鎧を纏う騎士にすら見えるくすんだ外見をしており、兵士級よりもはるかに重装甲の装甲を有していた。
クストスは戦争開始初期に帝国軍の主力として運用された人形騎士の一体で、戦士級とはいえ量産効果を上げるために各部を簡略化、規格化が施された生産効率重視の機体である。
性能はそれなり……この機体で量産化に向けたノウハウを積んだ帝国軍は、次世代機として戦士級人形騎士フェラリウスという歴史に残る傑作機を送り出すことに成功し、この機体は後方都市の守備などに回されていった。
まあなので私も数回しか姿を見たことがないレア中のレア機体と言っても良い……乗って動かしたことも一度もない機体なんだよね。
「まさか衛兵隊に回すのってこれなのかね」
「それはないんじゃないか? 少なくとも旧式機すぎるぜ、北じゃまだあったけどよ」
フェラリウスは戦場によっては残っていた旧式機だ……少なくとも最前線では運用は終わっており、終戦間際では最新鋭機である戦士級人形騎士グラディウスが配備されていたくらいだ。
つまりこのクストスは三世代も前の人形騎士であり、いくらなんでも配備するには古すぎる機体なのだ……これ乗って最新鋭機とやり合えって言われたら私はすぐに逃げるだろう。
この機体の良いところは各部の簡略化と規格化により、シンプルな構造であったこと、最前線では整備用の物資なども欠乏することがあったので、複雑な機構などは好まれない。
そう言った意味ではクストスは整備隊に好まれる造りだったと言える……生産効率を上げるための機構が、整備の簡略化につながり初期の最前線では愛された人形騎士だ。
「確か重量が重いんだっけ?」
「そうだ、俺は最初に乗った機体がこれでな……反応がひどく鈍かったのを覚えている」
人形騎士も世代が進むにつれ軽量化などを考慮した機体が多く生み出されていた……前に見た人形騎士ケレリスの装甲は板を組み合わせたロリカ・セグメンタータのような構造なのだが、あれは兵士級の弱点である重装甲と運動性を両立させようとした結果そうなっているわけで。
グラディウスも似たような構造の装甲板を多用しており、ケレリスよりも重装甲ではあるが戦士級としては軽快な動きを行える傑作機だ。
あの操作感の軽さというか反応の良さは前線で戦ってた私たちからすると本当に素晴らしい性能だった……主力人形騎士として今でも運用されているのが理解できるくらい、良い機体だったのだ。
タラスはそっとクストスの装甲を手で撫でると、懐かしそうな表情で物言わぬ人形騎士をそっと見上げた。
「俺たちのご先祖さまはこれに乗って戦ってた、と思うとなかなか感慨深いものがあるぜ」
「まあね……でもまあ、搭乗員保護にはこのくらいの装甲が適切か」
「やっぱり世代が新しいと違うんですか?」
「全然違うぜパトリシア様……やっぱり新しいのはなんやかんやで良いんだよ」
パトリシアはあまりピンときていないようだが、この辺りは人形使いじゃないと分かりにくい世界だとは思う……前世のロボット物アニメなどでも最新鋭機に乗る主人公が感心したりするシーンなんかがあったけど……自分も同じ立場になるとやはりそう思わざるを得ないのが事実だ。
ただ本物の人形使いというのはその世代の差を埋めてくるものも多く、エース級ともなれば油断できない相手になる……タラスはそちら側の人間だろう、模擬戦では油断できないな。
そこへ衛兵隊の関係者らしい若い男性が私たちを見つけて慌てて走ってくる……年齢は二〇代前半くらいだろうか? 金髪に碧眼、まだ幼さも垣間見える顔つきをしている彼は、私たちの前に来ると話しかけてきた。
「あの……そろそろ試験が始まりますので、会場の方へ移動してください、人形使い希望の方はそれほど多くないのですが、細工などされると困りますので、触らないでくださいね」
_(:3 」∠)_ 旧ザ⚪︎みてーなもんすね
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