第一三話 街道での待ち伏せ
「いやー、瓦礫投げつけたら怒ったのなんのって……」
『あの……アーシャさん結構楽しんでます?』
通信用魔道具から聞こえるトリシアの声は若干呆れ気味ではあるが、まあ……私は十分楽しんだので良しとしよう、うん。
馬車に並行しながらロックヘアを慎重に歩かせるが、六足歩行獣スレイプニルも同じ場所に長時間いたために最初に出会った時よりもはるかに人形騎士に慣れたようだ。
軍でも人形騎士に怯えるスレイプニルは、同じ場所に何日間か係留することで匂いに慣れて怯えなくなるなんて話があったけど、その通りだろう。
今私たちは山賊の砦から逃げ出し街道に出るために山道を下っている、混乱もあり今のところ追いかけてくるような様子はなかった。
人の足では追いつけないだろうから、馬車もしくは騎馬での襲撃なども警戒していたのだが今のところその兆候はない。
『わたくし達、逃げ切れたんでしょうか?』
「いや、砦の奥にもう一つ格納庫らしきものがあった、もしかしたらそっちにも人形騎士があったかもね」
『まずいなそれは……』
ミハエルの声が魔道具から入ってくるが、確かにその通りだ……このロックヘアどういう保管状態だったのか分からないが、とにかく整備がきちんとなされていない。
よくこの状況で動かしてたな……と思うくらい力の核、心臓部に当たる魔力で動く大型ポンプの駆動音に違和感があるし、関節なんかもひどく軋んで異音を立てている。
軍にいる頃は人形騎士専門の整備兵が常駐したり、もちろん人形使いによる日常の軽メンテナンスも行われるのが普通だったからだ。
万全の状態で戦えると言うのは当たり前ではないな、と今更ながらこのロックヘアを動かしていて痛感してしまう。
『どうしましょう……』
「トリシア、それに皆にも言ったろ、私がなんとかする」
『……はい』
この言葉だけでどれだけ安心させられるか分からない、だけどその言葉がなければ彼らは諦めてしまうかもしれないのだ。
ロックヘアを歩かせながら、私は計器類のスイッチを細かく調整していく……とにかく駆動を止めないことだ、これが止まると人形騎士は動けなくなる。
魔力切れでも同じことが起きるが、力の核は人間で言うところの心臓に近い機関で魔力を通じて機体の全身に生命の水を送り込んでいる。
人間は心臓が止まれば死んでしまうのに対し、人形騎士は再起動するまで動かなくなるだけだが、それでも最も重要な場所であることには違いがない。
動きを止めた人形騎士などまな板の上の鯉のようなものだからな、戦場で動けなくなった機体に歩兵が群がっていく光景は結構な悪夢だと思う。
「少し絞った方がいいか……うーん、調整が難しい……」
『大丈夫ですか?』
「大丈夫、戦場では随伴魔術師が遠隔で調節するんだが、人形使いは簡易整備なども学ぶのでね」
随伴魔術師……魔術師の中でも特に人形騎士のサポートに特化した存在だ。
人形騎士は操縦者単体でも十分動かせるが、その真の力を発揮するためには随伴魔術師の存在が不可欠だ。
人形騎士は顔に取り付けられている目で視界を確保しているけど視野含めて結構狭く、背後なんかは見れない。
さらにその機体を動かす動力源や繊細なコントロールには様々な調整が必要になる。
これを人の手でどうにかしましょう、と言う発想から生まれたのが|随伴魔術師と言う人々であると言える……人力でどうにかしようって発想がかなりマッチョイズムを感じるけどな。
彼らは契約した人形使いを通じて人形騎士へと魔力を送って接続し、機体各部の調整をほぼ瞬時に行うという能力を有している。
まあそれだけじゃなく、根本的な人形使いの能力向上なども果たせるんだが……これは人によって効果がまるで違うので割愛するが。
「トリシアも随伴魔術師の勉強はしたろ?」
『はい、でもわたくし成績はそれほど良くなくて……』
「安心しろ、私の元パートナーは、成績最低ランクだったって自慢してたよ」
戦争中、私にも随伴魔術師がいた……星屑の塔での成績は最悪だった、と彼は言ってたがそれでも戦争中は彼に大きく助けられたことは確かだ。
さらに契約を果たしたパートナーとの魂が繋がることで、人形使いの能力を飛躍的に向上させる……反面契約を果たせる相手との相性が重要視され、必ずパートナーが見つかるわけじゃない。
そのため随伴魔術師と組める人形使いは一部に限られていた……それでも帝国軍は魔術師の育成に熱心だったことから、それなりの人数が随伴魔術師として人形使いとコンビを組んでいた。
各国もそれを取り入れ、戦争中期からは各国も同じように魔術師育成をするようになったが、それでも長年の研究からその優位を崩すには至らなかったと言われている。
『人形騎士は人形使い一人で動かすものではない、だが一人で戦わなくてはいけないことの方が多い』
騎士学園に入ってすぐ、帝国における人形使いの基礎教育ではまずこの言葉を教え込まれる。
コンビを組んだ連中には人生最良のパートナーとしてお互いを必要とするくらいの絆を結んだ連中もいる……それはそれで幸せなことだろう。
私のパートナーだったあいつはこの場にはいない……戦場ではお互いを助け、信頼しあっていた間ではあったが……今は私一人でなんとかしなきゃいけないのだ。
私が少しの間だけ黙りこくったことに不安を感じたのか、魔道具からトリシアの声が聞こえた。
『アーシャさん?!』
「あ、ああ……大丈夫それでなんだっけ?」
『前を……!』
トリシアの声に私はモニターに視線を向ける……そこには銀色の巨人が二体私たちを待ち構えるように立っているのが見える。
そしてその足元には怒声をあげる山賊達の姿が……先回りされたのか、確かに山道を降るときに方向としてはあっていたはずだが、どうやら別の近道が存在していたと言うことだろう。
私はロックヘアの手を動かして馬車を止めるように指示する……馬車を停止させるのと同時に、トリシア達を庇うように私が前に出ていく。
それを見た銀色の人形騎士の一体が、片手持ちの曲刀を抜き放つと伝声管を使って話しかけてきた。
『止まれ、随分と派手な逃避行だったが砦に戻ってもらおう』
「なんだ、山賊っぽくねえのが出てきたな? どこにいたんだよ」
『女の声……あの赤毛のやつか』
ロックヘアから聞こえた声が私の声だったことに多少なりとも驚いたのか、声をかけてきた人形騎士の搭乗員はおそらく男性だが、彼の声は驚きに満ちたものになった。
そして私はこの機体を見たことがある……アルヴァレスト連邦で開発された新型機だったのか? 魔導新聞に載ってた格好とそっくりだったため、すぐにわかってしまった。
確か……名前はラプター? 兵士級ながら各部の強化により戦士級に匹敵する性能が出るとかって喧伝されてたやつだ。
皮肉なことに連邦製のラプターは前世における日本の鎧武者にちょっとだけ格好が似ている……関節部は皮で覆われているが、当世具足のように板を組み合わせて作られていて軽量化を図った跡があるしな。
頭部は肉食獣を思わせる形状なので、まるで恐竜が鎧を着て二足歩行しているかのような奇妙さなのだが。
「……で? 新型持ってこられたって、はいそーですかって話にはならねえよ」
『口の減らないやつだ……おい、巻き込まれたくなかったら離れていろ』
もう一騎のラプターも剣を抜く……その動きに合わせて山賊達が距離をとり始める。
私も馬車に後退するように合図を送ると、トリシアたちは不安げな表情を浮かべたまま離れていく……私はそれを見届けると、ロックヘアに装備されている小剣を抜き放つ。
こちらが引き下がる気がない、と理解したのかラプターはそれを合図に前進を始める……私は操縦桿を握りながら笑う。
「かかってきな、性能の差が結果に結び付かねえってこと嫌ってほど教えてやるよ」
_(:3 」∠)_ ついに人形騎士同士の激突へ……!
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