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第一二話 山賊団の秘密兵器

 ——砦に備え付けられた警報器がけたたましく鳴り響いたことで、弛緩し切っていた山賊達は異変にようやく気がついた。


「お、おい……地下でランベールが死んでる! 牢の中に誰もいねえ……捕虜が逃げたぞ!!」

 異変に気がつくまで時間がかかりすぎたのには理由がある、酒盛りをしていた連中は完全に油断し切っていた、それは手に入れた兵器があまりに強すぎたことだ。

 人形騎士(ナイトドール)という強力な兵器を所持しているという事実が、自分たちを攻撃するには軍隊でも動員しなければ難しいということをここまでで何度も見せられてきたからだ。

 戦争時代に従軍したことのあるものであれば、戦場を蹂躙する人形騎士の強さを理解しているものも多く、その強力無比な力が獲物に襲いかかる様を見て自らが強くなったかのような誤解を生んでいる。

 この山賊団が根城にしている廃砦……ここは元ライオトリシアに駐屯していた辺境軍が維持していた場所ではあるが、戦争終結前に放棄され朽ちていくだけの場所だった。

 ここを根城にしようと考えた首領であるアイアスの目の付け所は悪くはなかった……人形騎士の待機場も整備され、非常に大きな砦であるにもかかわらず辺境軍はここを捜索しようなどとはしないのだから。

 しかも街道の一つを確実に抑えることで、安定した襲撃が可能になっている……山賊団の人数はそれほど多くないが、それでも十分に食っていけるだけの報酬を得ていた。

 これが初めての襲撃であれば彼らはここまで弛緩はしなかっただろう……だが数回の襲撃で彼らは増長し、そしてそれが緩みにつながっていた。

「……何があった」


御頭(おかしら)! ランベールや他の連中が殺されて……」


「油断したな……おい、ロックヘアはどうした? 乗れるやつはいるのか?」

 アイアスの記憶にある今日捉えた捕虜……傭兵風の男が一人、そして御者、子供を連れた母親、農民風の男が二人、魔術師(マグス)の少女、赤毛の女性軍人崩れの誰かが彼らを扇動したのだろう。

 傭兵か軍人崩れか……戦争中に殺人術を叩き込まれた彼らは非常に厄介だ、本来であればすぐに殺してしまえばよいと考えていた。

 しかし部下から傭兵は奴隷として売り飛ばすことを提案され、軍人崩れは少し背が高いながら色香を感じさせる風貌をしていたため、殺すことを躊躇ったのだ。

 あの時殺してしまえば……とアイアスは内心歯噛みをしながら必死に指揮を取っていたが、そこへ部下が焦ったように走ってくるととんでも無いことを叫んだ。

「御頭! 人形騎士が動いています!」


「なんだと……?!」

 部下の指差す方向……待機場の方向へと視線を向けると、そこには彼らの見慣れた巨人がゆっくりと、そして驚くほど滑らかな動きで立ち上がるところだった。

 人形騎士、人が作りし黒金の傀儡は力の核(ウィス・コア)が奏でる不規則な鼓動を響かせながら、ゆっくりと足元に落ちていたであろう瓦礫の塊を手に取った。

 ロックヘアと呼ばれるヴォルカニア王国で建造された兵士(ミーレース)級人形騎士は青く光る目を彼らのいる砦に向けながら、手に持った巨大な瓦礫をまるで投擲するかのように振りかぶる。

 兵士級とはいえそのパワーは凄まじい、人間が腕に衝突すればミンチになるだろうし、巨大な六足歩行獣であるスレイプニルすら手に持った剣で一刀両断することが可能だ。

 アイアスは危険を察知してその場から一目散に走り出す……次の瞬間、ロックヘアが投げた瓦礫が轟音と共に砦の外壁を崩壊させていく。

「くそ……! 誰だ動かしてるヤツはァッ!」


「俺たちの人形騎士が奪われた!!」

「もうだめだ……ッ! 早く逃げろ……!」

「ふざけんな反撃しろッ! 逃げたら殺すぞ!!」


 予想外の攻撃を受けた山賊団は大混乱に陥っている……腰を抜かしているもの、武器を手にロックヘアへと立ち向かおうとするもの、混乱し喚き立てるだけのもの。

 アイアスはこの状況になって、今まで集めた連中が烏合の衆であることを再認識させられた……拡大と喰わせるので精一杯だったのもある。

 特に人形騎士を仕入れる際に使った金額が予想を遥かに超えていたからだ、大陸の闇市場に潜む闇商人はアイアスが率いる山賊団の足元を見て、かなりの金額をふっかけていた。

 それでもあの捕虜達を捕まえるまではうまくいっていたんだ……アイアスは急いで砦のさらに奥にある格納庫へと走っていく。

 砦に投げつけられる瓦礫はようやく収まりつつあったが、その混乱で山賊達はどうしていいのか分からず、格納庫へと走るアイアスに頼ろうと声をかける。

「御頭どうするんですか?!」


「どうするたって……人形騎士には人形騎士をぶつけるしかねえだろ!」


「……いやしかし……俺たちには動かせるやつが……!」

 実はアイアスには一つの案があった。

 元々人形騎士を動かすためには専門の教育が必要になるが、元々素人である彼らにはそのノウハウがない……軍人上がりのものは一人も存在していない。

 それを闇商人に話したところ、彼はまるでそれを言い出すのを待っていたとでも言わんばかりの笑顔でアイアスに人を紹介すると話してきた。

 正直いえば胡散臭さの方が優ったものの、到着した彼らは思わぬ副産物も連れてこの砦にやってきていたのだ……それを使うしかない。

 アイアスが格納庫にたどり着くと、すでに呼び出そうとしていた二人の男が彼の到着を待っているところだった。

「お、おお……あんたらか、すまねえロックヘアを奪われちまった……!」


「聞いてたよ御頭……俺たちの出番だな?」


「高くつくよぉ?」

 緑の髪に青い目をした痩せぎすの三〇代前半くらいの長身の男……アルヴァレスト連合出身だという『カイ』と名乗るそいつはアイアスに向かってお金を意味するジェスチャーを見せる。

 もう一人、中年……五〇代近いだろうが顔に大きな傷を持った鋭い目をした男はそんなカイを手で制するように身振りを見せると、あらためてアイアスへと視線を向ける。

 彼の名前は『クレメンテ』だったか? どちらにしろ二人の名前は偽名だろう、名前を呼んでも一呼吸置いて思い出したかのように返事をするからだ。

 二人は傭兵あがり……闇商人の紹介で人形使い(ドールマスター)の指南役を派遣してほしいと依頼をかけたところ、彼らが派遣されてきた。

 日当は非常に高く、彼らの襲撃には付き合わないという約束で引き入れているが、唯一襲撃を受けた際は防衛に協力するという約束だけは取り付けていた。

「構わねえ、もったいないが止めないことには明日がねえ、やっちまってくれ」


「はいよ、じゃあ成功報酬用意して待ってな」


「御頭……報酬をもらったら我々は退散する予定だ、国に戻りたいのでな」


「ぐ……いくらでも払ってやるよ……」

 アイアスからしても少し絡みにくい二人だったため、正直なことを言うなら操作方法だけ教えてもらえればさっさと出ていって欲しかったのは事実だ。

 しかし今は彼らの力を借りるしかない……アイアスは、格納庫の奥に膝をついて待機させてあった二騎の人形騎士へと視線を向ける。

 そこにはロックヘアとは別の機体……戦争後期には中立を標榜したアルヴァレスト連邦の開発した最新型兵士級人形騎士「ラプター」が主人の騎乗を待っているところだった。

 整備がしっかりと行われた機体は、錆一つなく鈍く銀色の光を放っており、カイとクレメンテが乗り込むのと同時に、ロックヘアとは比べ物にならないほど軽快な駆動音を立てながらゆっくりと立ち上がっていく。

「頼むぞ! 俺は仲間をまとめて馬車で出る!」


『ああ、どうやらあのロックヘアは逃げ出している……先回りして破壊するぞ』

 クレメンテの言葉が伝声管を通じて外へと聞こえる……この世界の不文律『人形騎士には人形騎士を』と言う言葉。

 元々巨大な竜種を倒すために開発された人形騎士は時を経るごとに戦争の兵器として重用され、決戦兵器としての地位を確立していた。

 重厚な音を立てながら歩き出す二騎のラプターを送り出しながら、アイアスは怒りに満ちた目をロックヘアが走っているであろう方向へと向けて吐き捨てた。


「誰が乗っているか分からねえが……ぶち殺してやるぞ、コケにしやがって……!!!」

_(:3 」∠)_ 敵にもさらに人形騎士が!


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