第九九話 招かれざる訪問者達
「いやあ疲れたね……」
「わたくし帰ったら改めてお風呂に入りたいです……」
討伐したフォレストジャイアントの頭を切り落とし、残った体は魔術の炎で焼却した後、私たちはライオトリシアへと戻ってきた。
魔物の討伐任務において、討伐を成功させたと証明するものを持ち帰るのが当たり前になっている。
先日のグラトニアは街の近くで倒したため何もする必要がなかったけど、今回のように街から少し離れた場所での任務となると、証明するものを考えなきゃいけない。
フォレストジャイアントは人形騎士とほぼ変わらない大きさだったため、流石に死体を持って帰るわけにもいかず、いろいろ悩んだ結果頭だけを持ち帰ろうという話になり、魔物の頭部をヴィギルスの腰にぶら下げる格好となっていた。
ちなみに首を落とす時も結構大変で……あまりの重さにヴィギルスでも持ち上げるのに一苦労で、さらに大量の血液が流れ出して辺りが悲惨なことになったりなど、超重労働になってしまった。
パトリシアなんか一度吹き出した血液をモロに被ってしまって、近くの小川で体を洗う羽目になったが、まだ匂いが気になるとかでずっと不機嫌だ。
「血抜きはしているけど……ちょっと不気味ですねえ」
「……どこかでこういう絵面見たことあるな、なんだっけ」
パトリシアが装甲馬車からヴィギルスを見上げてそう呟くのを聞いて、私はふと前世の博物館で展示されていた合戦絵巻を思い出してしまった。
とはいえこの世界では冒険者が討伐対象を馬車に積んで引き回したりするので、まあ似たようなものだと思えばいいのか。
ライオトリシアを歩くヴィギルスが腰にフォレストジャイアントの首を括り付けているのを見て、街の住民が驚いているが、まあそうだろうね。
ケントオン山にいたフォレストジャイアントは、パトリシアの見立てだと推定一〇〇年以上生きていた個体だそうで、かなり前からあの山に住み着いていたことがわかっている。
少し前から狩人があの山に行ったまま戻らないとか、山から逃げ出す小型の魔物がいるとかそういう噂は流れていたから、不安はあったようだ。
実際に先日のグラトニア襲撃などもあったわけで、ライオトリシア周辺の魔物討伐は結構盛んになってきている。
「おかげで冒険者が食いっぱぐれそうだってこの間スティーグが愚痴ってたな」
「スティーグさん元気なんですか?」
「新人冒険者育てるんだって息巻いてたね」
バジリスク戦で共に戦ったスティーグは、ライオトリシアのギルドに所属しているベテラン冒険者の一人だが、年齢がそれなりに行っており後数年でギルドの幹部に招聘されて引退する気だと話していた。
彼もまた長年この街の平和を守るために尽力してきた人物だが、軍で武器の扱いを覚えた後はさっさと退役し、冒険者に転じたのだとか飲んだ時に話してた。
実は子爵家の六男だったとかで、家を出るにあたって名前を捨てていてもう戻る場所がないから、という理由だけでこの街に残ってる酔狂な一面もある。
この世界の冒険者は基本的に超危険な商売だ……何せ魔物は大きく強力であり、人間を一撃で粉砕する能力を有しているからだ。
しかし肉体でこの強大な魔物と渡り合うトップクラスの冒険者もまた人外に近く、そのまま軍に残ってたら確実に軍の英雄となれるような化け物がたくさんいる。
「なんでもすごい新人が他の都市から流れてきたんだって」
「へえ……そういう人結構いるんですね」
「魔物相手に肉弾戦でよくやるよ、とは思うけどね……」
人形使いが天職である私からすると、人形騎士もなしに魔物と戦う彼らは頭のネジがどこか吹っ飛んでいるんじゃないかと思う。
でも軍にいた頃も肉弾戦で敵兵を薙ぎ倒してたようなやつを見てから、この世界にも種類は違えど英雄と呼ばれるような人間は数おおく存在するのだと知っている。
まあ人形騎士なんてロボットがあるんだから、前世の基準で考えちゃうといろいろおかしくなるんだろうな……私がそんなことを考えながらヴィギルスを歩かせていくと、ふと前方に大きな乗り物が止まっているのが見えた。
あれは……人形馬車か? 私たち衛兵隊の駐屯地前に横付けして、ひどく邪魔な位置に置いてある。
人形馬車とは軍でもよく使われるタイプの大型馬車で、主に人形騎士を収納して運ぶ前世でいうところの輸送用トラックに近い存在かな。
こういう運搬用の馬車……馬車といってもその動力は人形騎士と同じ力の核を使っているタイプが多いのだが、ともかくこういう乗り物が発達しているのもこの世界は特殊だ。
「なんだ? なんでこんな場所に人形馬車が……」
「新しい機体でも持ってきたんでしょうか……?」
パトリシアも困惑気味にその大きな車体を見ているが、外装は黒く塗装されていて無地に近く紋章の類なども全くつけられていないことから、どこの所属なのかわからない。
私はヴィギルスを動かしてその人形馬車の近くへと歩いていくが、その音でこちらに気がついたのか人形馬車の屋根に一人の男性がよじ登ってくるのが見えた。
緑色の髪に赤い瞳……細身でスラリとした体型をしたその男性は、仕立ての良い参謀むけに支給されている軍服を着用し、その胸には光り輝く『星の徽章』が下げられていた。
どこかで見たような気が……と私がその男性を見ていると、彼は軽く髪をかきあげるような仕草を見せた後、ビシッ! と私に向かって指をさして言い放った。
「貴様ッ! この私を誰だと思っている……ッ!!」
「……どちら様でしょうか? そこは衛兵隊の駐屯地なので邪魔なのですが……」
「ふん……低俗な衛兵如きに名乗る名など本来は持ち合わせていないが、いいだろう」
「……なんなんだよアンタ……」
男性は再び気障ったらしい仕草で髪の毛をかきあげると、胸に手を当ててから優雅な一礼を見せた。
言うだけのことはあって、堂々としたものだ。
彼は口元を歪めて笑うとなぜかポーズを決めながら、ヴィギルスに乗る私へと再び指をさし……そしてその指を装甲馬車から上半身を覗かせるパトリシアへと向けた。
なんだ……? と私がパトリシアへと視線を動かすと、彼女は真っ青な顔のまま驚きのあまり、両手で口元を隠して震えている。
うまく言葉が出ないのかパクパクと口を動かしてから、一度息を呑む……その反応を見て私はもう一度緑色の髪をした男性へと視線を戻す。
魔道具から小さな声で、パトリシアの震える声が漏れ聞こえたことと、思いもかけない人物が視界に入り私は思わず息を呑んだ。
『ど、どうして……なぜここに……』
「トリシア? ……ッ!?」
「クハハハッ! そうだパトリシア……お前の婚約者たる私がきてやったぞ……このバーナビー・レミントンがなッ!!」
パトリシアの婚約者……つまりバーナビー・レミントン侯爵三男か、昔見た時はもう少しふっくらした容姿をしていたので気が付かなかったが、確かにその面影が残っている。
そして私はもう一人、人形馬車の屋根へとよじ登ってきた人物を見て絶句してしまう……小柄で小太りの体型は対して変わっていないが、少し薄汚れヨレてしまった軍服を着用し、居丈高な姿勢でヴィギルスを見上げる忘れもしない私の元上官。
帝都でふんぞり帰って近衛部隊を隠れ蓑に好き放題やっているんだろうな、と思ってすっかり忘れていた人物グリン・リー・クラーク大佐がバーナビーの隣に立つと、私に向かって指を差して叫んだ。
「アナスタシア・リーベルライト……! 貴様、我が近衛部隊の恩を忘れて逃げ出した裏切り者めッ! この私グリン・リー・クラークが貴様に天誅を加えてやるッ!!!!」
_(:3 」∠)_ ででーん! 二人がやってきた!
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