第一〇話 地下牢からの脱出
「ああ、そろそろあの女どもとお楽しみでもするかぁ……」
山賊団の幹部であるランベールが少し緩んだ腹をボリボリと掻きながら、昼間とらえた乗り合い馬車の乗客を思い返す……特に彼は気の強そうな軍服を着た赤毛の女性と、金髪の魔術師の顔を思い返して、自らの暗い情欲に火が灯るのを感じていた。
ランベールがこの山賊団に参加したのは四年前……彼が元々いたのは大陸の中でも唯一貴族や、王族による統治を行っていない自由都市国家群として知られるエルダリス自由都市同盟である。
この都市国家群を拠点に傭兵として活動していた彼は、五年前の『統一戦争』終戦に伴い飯の種であった戦いを失い、食うために山賊となった男だった。
「ランベール……お前が最初かよ」
「うるせーな、さっきカードで俺が勝ったろ」
「全く……壊すなよ? あとで俺らも楽しむんだから」
「悪いな、一番生きがいいのはもらうぜ」
ランベールは山賊に身を堕としてから様々な悪事を働いてきていた……農民の家に押し入り、泣き叫ぶ少女を殴りつけながら犯したときは最高だった。
抵抗しようとする男を剣で刺し貫くのは快感を感じた……自分が今まで我慢してきていた暗い情熱をこの稼業で解消していくことで、罪悪感を次第に感じなくなっていったのは元々この生き方が性に合っていたこともあるのだろう。
地下牢へと降りていくと、ランベールの気配を感じたのか何人かが息を呑む声が聞こえ、それがまた彼の加虐的な性格を刺激する。
赤毛も良いが、あの金髪の魔術師はおそらく初物だろう……まずはあれから楽しむとするか、と彼は地下牢の奥で息を潜めている捕虜のことを考えつつ、壁にかけられていた鍵を手に取る。
薄暗い地下牢の中でも特に目立つ金髪の少女は、彼の姿を見ると怯えたように目を伏せる……美しい顔立ちに、幼さを感じる表情。
「へっへっへ……さあお楽しみの時間ですよぉ……」
「ひっ……」
金髪の少女が軽い悲鳴を上げるのを見て、ランベールの情欲が抑えきれなくなっていく……彼は貴族が嫌いだった。
傭兵として活動していた時期に、無理筋な理由で叱責され鞭打ちされたことを未だに覚えている……貴族とは驚くほど自分勝手で、理不尽なものだと彼は理解している。
地下牢の鍵をゆっくりと開けると彼は捕虜たちが抵抗しないように腰に下げていた小剣を引き抜くと威嚇するように他の捕虜たちを追い立てる。
だが……それを見ていたであろうくたびれた軍服姿の赤毛の女がまるで媚びるような艶かしい表情を浮かべると、彼へと話しかけてきた。
「ねえ……アンタすごい激しそうだね? そんな貧相な体をしている子じゃ全然満足できないだろ?」
「あん?」
「ひ、貧相!?」
「なあ、私だけは助けておくれよ……ほら、アンタの好きにしていいからさ……」
赤毛の女は胸元を強調するように、着崩した軍服の下に着用していたシャツを指で軽く下げる……驚くほど大きい胸の一部と白い素肌が垣間見え、ランベールはごくりと喉を鳴らす。
元々後で楽しむ予定だった赤毛の女……順番が変わったところで大した影響はないだろう、彼は軽く手招きするように赤毛の女を呼ぶと、彼女は軽く舌舐めずりしながらゆらゆらとその体を見せつけるかのように、科を作りながら彼へと近寄ってきた。
よく見れば驚くほどの美女……スタイルの良さはこの捕虜の中でも抜群に良く、抱き心地の良さそうな彼女の妖艶な笑みに彼は興奮を隠しきれなくなり、衣服が突っ張るのを感じた。
「ほら、早く出ろ……お前が俺を満足させてくれるなら、最初に助けてやるよ」
「そんな焦らないでよ……助けてくれるってなら色々するよ? そういうのがいいんだろ?」
赤毛の女は自らの指を軽く舌で舐めると、その指を使ってランベールの唇へとそっと擦り付ける……女は怪しい笑みを浮かべたまま彼を受け入れるようにそっと抱き寄せる。
女はタバコを吸うのか、少しだけタバコと汗の匂いがするのがまたランべールの興奮を誘う……娼婦にもなかなかいない、今からこの美女を抱けるのだという欲情で自らの一部がひどく固くなる。
そんなランベールへと微笑むと、女は耳元にそっと唇を近づけると小声で囁いた……それは感情がまるで混じらない、驚くほどに無機質な言葉だった。
「男ってのは刺すのは得意でも、刺されるのはどうだろうな?」
「……は?」
次の瞬間、女の手が彼の口を押さえるとともに脇腹に熱い何かがねじ込まれる感触を覚えランベールは呆けた頭で何が起きたか分からずに目を見開く。
女はまだ怪しい笑みを浮かべている……視線を下げるとランベールの脇腹に何かが突き刺さり、女は凄まじい力でその何かをぐいぐい、と捻って行くのが見える。
堪えきれずに彼は喉の奥から何か熱いものが込み上がっていくのを感じ、鉄臭い液体が口の中からこぼれ落ちるのを感じて何が起きたのか分からずに口を押さえる赤毛の女の目を見つめた。
視線が合うのと同時に、軽く腕を絡ませた彼女は凄まじい腕力でランベールの首を捻って見せる……ボギリ、という鈍い音と共に何かがへし折れ、視界が歪む。
彼女は驚くほど凶暴な笑顔を浮かべて口元を歪めて笑うと、次第に視界が暗くなっていく彼の耳元でそっとつぶやいた。
「死ぬほど気持ちよかったろ? 黙って死ねよクズ野郎が……」
「後には引けないね……ってなんでトリシアそんなに膨れてるんだい?」
私が小太りの山賊の息が止まったことを確認してから、他の乗客の顔を見回すと安心したような顔の男性達と違って、何故かパトリシアだけが不満そうに膨れっ面で私を睨みつけていた。
何が不満なんだよ……と私が訝しげるような顔で彼女を見るが、パトリシアは『なんでもないです』と膨れっ面のまま外方を向く。
良くわかんねーな……私は痙攣している山賊の懐を探って鍵や武器を手に取ると、ミハエルに武器を放る……ここから脱出のために動かなきゃいけない。
私が山賊を引っ張って牢の隅へと死体を移動させた後、捕まっていた乗客達へと視線を向けるが、彼らは怯えてはいるものの視線に気がつくと黙って頷く。
「いいかい、声をあげるな……人形騎士さえ奪えばあとはなんとかする、あいつらはスレイプニルを殺さなかった、逃げ出すにはそれだけあればいい」
「アーシャさん……わたくしたち逃げられますかね……」
「分からない、敵の人形騎士が一騎だけなのを祈るしかないね」
「本当に動かせるんですか?」
「操作系統は大陸共通だ、あとは気合いでなんとかするさ」
私は尋ねてきたパトリシアに微笑むと、軽く血で汚れた手を軍服の端で拭う……ベッタリとした感触、まだ暖かい血液が手についていることに嫌悪感を感じる。
私は乗客全員の顔をもう一度見てから軽く息を吐く……ここから逃げ出さないことには何も始まらない、それに私は彼らを逃すと決めた。
戦争中に何度も護衛任務や救出任務をこなした……人質が死んでしまったことも数多くある、命を失った彼らの目は私をひどく恨んでいるように見えて、任務が終わった後堪えきれずに何度も吐いた。
私は人を救えないと思い込んでいた時期もあった……だけど、目の前にいる乗客達、パトリシアは助けなければいけない。
今それができるのは私だけなのだから……私は自分の大きな胸をそっと手のひらで押さえる、心臓の鼓動が伝わり早鐘のようにドクドクと脈打っているのがわかる。
私は軽くため息をついてから、パトリシア達に覚悟を決めて話しかけた。
「生きて帰るよ、全員……声をあげるな、息を潜めろ……私たちならできると信じるんだ」
_(:3 」∠)_ 脱出やで!
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