第九七話 森の巨人 〇三
——本来であれば人形騎士の目を通じて視界を映し出す水晶モニター……今その表面には漆黒の闇が映し出されていた。
「しまったモニターが……!」
人形騎士は人間の構造を模した作りとなっていて、職人たちは基本的な構造を変更することなく何百年も黒金の騎士を作り続けてきた。
人間に例えるならフレームが骨、生命の水が血液、力の核が心臓の役割を担っており、顔などが人に近い形状をしているのは機体に付属する目は一眼や二眼など形状の差異こそあれど、ちゃんと機能している器官の一つである。
目に当たる部分はモニターと同じく水晶製となっていて、それ単体が魔道具として機能していると構造を勉強していた時に教えてもらった。
つまり人形騎士が目を潰されれば視界を失うので、この手の攻撃を受けにくいように顔には装甲が施されてて、兜のような形状になっているのだ。
人形騎士同士の戦いでは目をつぶすなんて行動はあまり行われない……狙うには小さすぎて、そこだけに攻撃を当てるなんて芸当はそう簡単には出来はしない。
「ごあああああああ!!!」
『アーシャさん?! どうしました?』
「目をやられた、完全に壊れたわけじゃないけど視界が……くそ、これには頼りたくないんだが」
ちなみに、人形騎士の設計思想によるんだけど……よほど密閉を強化している機体でなければハッチにある小窓を開けて外を確認する仕掛けがある。
ただまあこの小窓は前世でいうところのトーチカ並の視界しか確保できないので、気休め程度なんだが……私がその小窓を開けると、視界に入ってきたのはフォレストジャイアントが別の木を引き抜いて大きく振りかぶったところだった。
急いでヴィギルスを動かして少し後方へと機体を下げ、相手の攻撃範囲から一度離脱するが、再び巨人の攻撃が地面へと叩きつけられ、大きく土煙が舞い踊る。
今なら確認ができるな……私はモニターを軽く片手で叩いてみるが、その動きに応じて一瞬風景が映ったように思えるが、すぐに真っ暗に染まる。
どうも視界が完全に失われたわけではなく、あまりに強い衝撃の影響で一時的に魔道具の機能が失われただけに思えるな。
これなら大きな修理は必要ないだろう……ホッとした私へと、少し慌てた様子でパトリシアが魔道具で話しかけてきた。
『アーシャさん、機体は大丈夫ですか?!』
「視界が完全に失われたわけじゃない、だけど回復に時間がかかる」
『そんな……解決する方法はないのですか?』
「あるよ……私たちにしかできない方法だけど」
『……わかりました! 契約に基づき、我と共にあれッ!』
そう、私とパトリシアは契約をしている……彼女が随伴魔術師として私の側にいる限り、死角が生まれることはないのだ。
背筋を駆け抜ける電流のような魔力と共に全ての感覚が人形騎士そのものへと変化していった。
だが視界が共有されるのと同時に、全ての光景が漆黒へと染まっていく、だがこれは人形騎士の目が今うまく動いていないからだ。
それを感じたのかパトリシアはすぐにその原因を取り除こうと調整を開始していく……魔道具に魔力を送り込み、その機能を回復させていく。
ほんの少しの時間で人形騎士の目が何度か瞬いた後、再び目の前の光景を映し出していく。
『これで大丈夫ですよ!』
「ありがとう、トリシア……!」
「おめら、なにしとるだぁっ!!」
フォレストジャイアントが私たちへと木を振り上げて迫る……見た目以上に早い一撃、その上段から振り抜かれた力任せの攻撃を、軽い動きで避けて見せる。
驚くほど体が軽い、いや正確には軽く感じるのはヴィギルスが軽量化を果たした人形騎士だからではない、パトリシアの持つ圧倒的な魔力が、力の核を凄まじい速度で動かし全身に生命の水を行き渡らせているからだろう。
手に持った長剣を横薙ぎに振ると、フォレストジャイアントが持つ木が瞬時に両断される……ザンッ! という音とともに切り裂かれた武器を見て、巨人が驚く。
だがその一瞬の隙を見逃さずに私たちは一気に前に出る……左手に持つ盾をフォレストジャイアントの顔へと叩きつける。
「な……おぐああああああっ!!」
「ぶっ飛べッ!!」
『ぶっ飛びなさいッ!!』
ガンッ!! という音と共に叩きつけた円形盾の衝撃で、フォレストジャイアントの顎が跳ね上がる……ゆらりと巨人の上体が揺らぐのを見過ごさず、私は剣を振るった。
先ほどと違い斜めに振り抜いた斬撃が、フォレストジャイアントが反射的に掲げた左腕を、今度は完全に断ち切って見せる。
鮮血が飛び散り巨人は激痛に顔を歪める……だが、そこで攻撃は終わらない、私はそのまま機体を回転させると裂帛の気合いと共に鋭い突きを放った。
一瞬の手応えと共にその刺突はフォレストジャイアントの喉を一撃で貫く……ずぶり、と食い込む切先が肉を貫き、巨人の体が一度大きく跳ねるような動きを見せた。
パクパクとその口を何度か動かしたフォレストジャイアントだが、ぼたぼたと流れ落ちる血液の量が増えていくに従って、その瞳から光が消えていく。
「あがががが……ごぼお……」
「すまないね、討伐任務だから殺さなきゃいけない……恨むなよ?」
『アーシャさん止めをッ!』
「ああッ! これでおしまいだッ!!!」
喉に突き刺さった剣を引き抜くと、どばっと大量の血液がフォレストジャイアントの喉からこぼれ落ちる……痛みを感じているのだろう、彼は手でその傷口を押さえようとするがその勢いは止まることはない。
私は一歩踏み出すと共に横に剣を振る……電光石火の一撃が、巨人の首を瞬時に切り離し、目を見開いた表情を浮かべたままフォレストジャイアントの頭が地面へと転げ落ちていく。
巨人は人とほぼ同じ姿をしている……それ故にまるで目の前で人が死んでいくかのように、首を失った体が痙攣しながら、ゆっくりと地面へと倒れ伏していった。
戦争で散々人を殺した私ですら、ほぼ人間のように見えるフォレストジャイアントの死にほんの少しだけ罪悪感のようなものが芽生える。
いや、姿は同じであっても巨人は魔物に分類される脅威であり、討伐対象である……さらにこの個体はひどく飢えていた。
放置すれば更なる被害が出たに違いない、私はそう考えることにして大きく息を吐く……その心情を察知したのか、パトリシアの温かい魔力が私を背中から包み込んだような感覚があった。
『アーシャさん、お疲れ様です……大丈夫ですか?』
「あ、ああ……見た目が人間に近いとちょっとね」
『そうですね……私もちょっとかわいそうかなって思ってしまいました』
魂が繋がっている私の感情を、パトリシアも同じように感じているのだろう……ちょっとかわいそうかな、と思ってしまう自分がいるのは甘いのだろうか?
だがすでに戦争が終わっていて、無理に人を殺すこともない時代が訪れている故に、少しだけセンチメンタルな気分を感じてしまっている。
戦争中に師事した人からすれば今の私が抱いている感情は良くないというだろうな……だが私は前世があり、平和な場所から転生してきた故に完全に魔物の形をしている相手以外だと、内心ひどく動揺することがあるのだ。
何度か深く深呼吸を繰り返した後、私は接続されたままのパトリシアへと話しかけた。
「ごめん、少し考えすぎた……これで討伐任務は終わりだろうから、片付けてから帰ろうか」
_(:3 」∠)_ ようやく終わり
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