第九四話 新しい討伐任務
「うーん……ようやく戻ってきた」
「えーと、少し内部機構に変更を追加しているそうです、あと例の衝撃杭は再設計してから納品するとか」
私たちが勤める衛兵隊駐屯地に、久しぶりに戦士級人形騎士ヴィギルスが戻ってきた。
先日のヴァルカリオン戦でかなりのダメージを負ったヴィギルスだが、各部の調整や修復なども含めて結構な時間工房に預けっぱなしだった。
まあどちらかというとジーモン・ハインケス伯爵がいじり回したいだけだったらしいけど、それでもほぼ新品同様となったピカピカの機体を見ると、職業柄どうしてもワクワクしてしまうのだ。
ヴィギルスを見上げて思わず顔が綻ぶ……私が人形使いであるためだろうか、仕事道具が磨き上げられているのは何だか満足感が高い。
「なんか仕事ないかなあ……動かしたい」
「人形騎士がない間苦労しましたものね……」
遺跡の調査で悪魔と出会い戦闘になったのは記憶にも新しいところだが、結局のところそのほかにも街の巡回任務や、細々とした頼まれごとなど……それって衛兵の仕事でしたっけ? という依頼が舞い込み、私たちはそういった雑用じみた仕事に駆り出され続けていた。
私とパトリシアは女性ということで何故か聖教が構えている外れ地区にある小教会で子供相手に食事を作ったり、遊んであげたりしたのだが、実は戦闘よりもそっちの方がきつかった。
自分が子供の時にラファエラにこんな甘え方しなかったな……と思うくらい女児だけでなく、男児からも妙にベタベタ触られてしまい、一日の終わりには髪の毛がボサボサになったくらいだ。
ちなみに私がシチューを作ろうとしたら、パトリシアが『アーシャさん、食材には絶対に触らないでくださいね』と死んだ魚みたいな目で告げてきた時が一番怖かったな。
ちなみにタラスとマルツィオは女伯爵家が設立した図書館の中に発生したゴーストの討伐とかやってたらしいが、歴史的に価値のある書物を幾つも真っ二つにしたとかでめちゃくちゃ怒られてた。
「図書館に出たゴーストの討伐って、昔どこかで聞いたことあるような……まあいいか」
「何ぶつぶつ一人でおっしゃっているのですか?」
「なんでもないよ、それで参謀殿から任務来てるのか?」
「ええと……郊外から少し外れた場所にあるケントオン山に出る魔物の退治だそうです」
ケントオン山とは辺境であるライオトリシアにいくつか存在する山の一つで、古くにはここに小さな村が作られ開拓が行われたこともある場所だ。
統一戦争前期にこの開拓が中止され、村は捨て置かれたままになっていたが魔物のコロニーと化したことで、当時の辺境守備師団が攻撃を行った、とされる山である。
ちなみに魔物の集団がコロニーを作って暴れ回る現象を『獣たちの狂乱』なんて呼ぶが、これはライトノベルなんかでよくでてくるスタンピードのことらしい。
で、この獣たちの狂乱が発生するとその地域の街なども含めて大洪水のように魔物が押し寄せ、凄まじい破壊が行われることになる。
「おとぎ話でよく見たけどさ、ケントオンの血戦だったかな」
「わたくしも知っていますよ、大活躍した騎士様が魔物を薙ぎ倒す話ですよね」
「現実味がないって話したら、ラファエラが悲しそうな顔してたわ」
「子供らしい反応じゃなくて悲しかったんでしょうね」
でまあ、あまりに危険なため帝国は、ライオトリシアに駐屯していた辺境守備師団を持ってこれに対応したと記録に残っている。
この魔物のコロニーは当時まだ現在よりも兵力を有していた辺境守備師団が苦戦するほどの大規模なもので、後世のおとぎ話にも出てくるほどの激戦が繰り広げられたらしい。
まあらしいというのも、おとぎ話になるくらい古い記録なので……当然のことながら当時の伝聞を脚色して伝わっているため、当時活躍したとされる騎士爵が空を飛びながら槍の雨を降らせたなんて逸話が残ってるのを聞いて思わず吹き出しそうになった記憶がある。
人形騎士が空を飛べないように、魔術の使えない人間は空を飛べないし、何もない場所から槍を作り出して投げつけるなんて芸当はできたりしない。
「あそこって魔物でたっけな……いや私が知っているのももう一〇年以上前か」
「まあ何でも少し前にはいなかったはずの魔物が出現するとかで」
「人形騎士を持ち出さないとダメな大きさなのか」
「らしいですね、具体的な姿形は報告者からは何も伝えてきてないです……」
戦時中だと生死に関わるから、ちゃんと情報を伝えろってよく言われたんだけど軍隊レベルの精度を民間人に期待しても仕方ないか。
ともかく山に魔物がいる、そしてそれはコロニーを作っているわけではないが、目撃されていて危険である……危険じゃない魔物なんかこの世界には存在しないが。
人形騎士を使って戦うレベルの大きさ……となってくると、やはり五メートル以上のサイズがある何か、何だろう。
オーガとかか? 私は軍の任務で人形騎士を使ってオーガと戦ったけど、初めて見た時は普通に巨人じゃねえかと思うくらいデカかったのを覚えている。
人を好んで捕食するし何なら凶暴さでは群を抜いてヤバい連中な上、ある程度の知能を兼ね備えたとてつもなく獰猛な魔物だ。
「オーガだとしたら面倒だな……あいつら人形騎士と普通に殴り合いできるからな」
「そうなんですか?」
「兵士級人形騎士だと破壊される可能性があるよ」
腕力だけじゃなく武器の扱いなどもできるので斬り合いになるし、装甲がそこまで厚くない兵士級人形騎士だと下手すると負けるしな。
あとは前にも戦ったマンティコアなんかもチョー厄介な魔物だし、ライオトリシア周辺だと珍しいけどグリフィンなんかも面倒な相手だったりする。
そもそも人間が太刀打ちできないサイズって時点で、この世界の魔物は異常なんだよな……慣れてしまってあまり疑問を持たなくなっているけど。
そしてもっとまずいのは竜種、つまりドラゴンがいた場合だ……正直に言えば私は人形騎士に載ったとしても一人で戦うのは難しい気がする。
「ドラゴンじゃないと良いけどねえ……」
「竜種ってそんなに強いんですか?」
「強いよ、少なくとも無事じゃ済まないよね」
軍隊にいる時に竜種と戦ったこともあるけど、一撃で人形騎士を粉砕する巨大なドラゴンもいるわけだしね……人間が竜種と戦うために建造した人形騎士だけど、実はその技術を持ってしてもドラゴンという最強の存在には勝てないことが多い。
軍隊動員して人形騎士をしこたま用意してそれでようやく互角……竜種って本当に強いからな、もしそんなものが山にいたら、と思うとゾッとする。
とはいえ竜種は巨体で目立つ存在であり、さらには様々なおとぎ話で登場する非常にメジャーな魔獣の一つでもあるため、もしそんなものがいたら『竜がいました』と報告してくるはずなのだ。
なので……最初の報告時点でそういう言及がない場合ほぼ一〇〇パーセント竜種はないだろう、というのが私の現時点での認識である。
私が懐より帝国印を取り出し火をつけて、軽く立ち上っていく煙を見ているとパトリシアが話しかけてきた。
「アーシャさんが慌てていないということは、本当に危険すぎる魔物ではないということですかね……信じますね」
_(:3 」∠)_ ということで魔物退治に行きます!
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