第九一話 人形騎士ポルタリウス
「それじゃこの子を起動するよ」
『あんまり激しい動作はさせるなよ? アタリをつけるだけでいいんだ』
魔道具から響くジーモンの心配そうな声をよそに、私はゆっくりとポルタリウスを立ち上がらせる……外見同様にこの戦士級人形騎士は少し手応えが重く、重量級らしい感覚で立ち上がった。
一昔前のフレーム、つまり人形騎士フェラリウスがベースだと思えないほど洗練された感覚があるが、これは素体となるフレームが最終型を利用していることにも起因しているのかもな。
フェラリウス最終建造型はほとんどグラディウスと変わらない程に改良が施されたものも多く、終戦間近になっても愛用していた人形使いもいたわけだし、なんとなく納得できる気がする。
「クストスみたいな変な鈍さはないね……歩かせてみる」
『まずは軽くぐるっと回ってくれ』
「あいよ」
ポルタリウスをゆっくりと前進させていくが、重量級のくせに歩き出しが妙に軽い……ペダルを踏んだ感覚にほんの少し補助が加わっているのか、踏みしろよりもほんの少しだけ前に出る速度が速く感じる。
人形騎士によってはこの一歩目の動作でその機体の運動性能がわかってしまうものもある……例えばクストスなんかはこの一歩目の踏み出しに重量感を感じるのだが、見た目は似ているのにポルタリウスはひどく感覚がグラディウスに似ている気がする。
例の連邦製補助機能の働きだろうか? レバーを動かした瞬間に動力そのものに補佐が入るのか、軽く腕を動かそうとした瞬間に機体は一瞬のラグを置いてから俊敏に反応を繰り返す。
『お、おいおい……なんか奇妙な動きになっていないか?』
「補助が入っているんだろう、これは切れないのか?」
『それ込みでの機体だからな……』
「なんとなく癖がわかった、走らせる」
私はポルタリウスを歩かせていく中で、徐々にその速度を上げていくがその動きに合わせて機体は私の意図を忠実に反映していくのが感じられるが、微妙に違和感が残っている。
ほんの少し踏み足すとその動きに合わせて遅れて動きをトレースしようとする感覚……ちょっと最初の感覚が鋭すぎる気がするがこの辺りは調整でどうにかなるだろう。
と、私がいつもの調子でレバーなどで調整を行おうとするが……操縦席周りは異常なほどシンプルにできており、あるべき場所にないものが多い気がして目を丸くしてしまった。
「んん? この子は調整どこでやるんだ?」
『連邦製の調整機構だぞ……半自動化だ』
「……マジか、微調整ができないのはキッツイな」
帝国や王国などの人形騎士は力の核や各部の調整するためのレバーやダイヤルなどが所狭しと配置されているのだけど、ポルタリウスはそういったものがほぼ排除されている。
唯一いくつかのレバーが存在しているが、それは器官閉鎖するためのものらしく注意書きのプレートが貼ってあったりする……ってことはある程度こっちの操作に合わせて最適化しているとでもいうのか。
自分で好みの調整ができない、となってくると途端に感覚が狂ってくる気がする……私はこれまで微調整などを繰り返して好みのセッティングを順次切り替えていくスタイルで動かしていたのだ。
ところがこのポルタリウスはそういう細かい部分のセッティングができず、言うなればオートクチュールを着用するのか、プレタポルテを着用するかの違いのような状態になっている、つまりはどうにもしっくりこない。
既製品も着心地が良いものもあるけど、転生して貴族令嬢とかやっていると驚くほどに体にフィットする衣服というのがあることに気がついたんだよな……それからずっと手直しを前提にした服を発注するようにしている。
話がそれたが、なんとなくポルタリウスの操作感には微妙な心地悪さがある気がするんだよなぁ……。
「……どうにも違和感があるな……全力疾走させるぞ」
『お、おい……!』
「元々そのつもりだろッ!!」
いうが速いか私はポルタリウスを一瞬でフル加速させる……重量級のくせにほんの少しの違和感のあとは、驚くような速度で前に出る。
地面を蹴った時の感触がほんの少し間に何かを挟んでいるような感覚があるが……そのまま目の前に置いてあった訓練用人形に向かって全力で走る。
軽く左右に機体を振ってから一気に沈み込ませて右側へと飛び込む……やはりここでも一瞬反応が遅れたような感覚があり、思わず奥歯を噛み締めたがポルタリウスは見事高速回避運動を成功させて訓練用人形の背後へと滑るように移動する。
それと同時に魔道具から驚きの声が上がる……私がよく使う機動フェイント、左右に機体を振ってそこから相手の右もしくは左脇をすり抜けるという運動は一朝一夕でできるようなものではないからだ。
そもそも人形騎士の大きさ、幅、高さなどを熟知していないとこんな動きは到底不可能だ……エース級人形使いなら同じことはできるだろうが。
『……腕がいいのはわかってるつもりだが、新品でそれをやるなよ……』
「今の動きで股関節部に負荷がかかったみたいだ、一度戻すよ」
『新品なんだぞ……』
ジーモンは魔道具越しにブチブチと不平を漏らすが、だがまあ今の動きでなんとなくポルタリウスの性能の一環は感じ取れる、ヴィギルスよりも瞬間的な出力は高く、戦力としては申し分ない。
当然のことながらこの世界にデジタルメーターの類はないけど、さまざまな計器類が並んでおりその中でも股関節の接続部分を示す針がブルブルと震えていて、私は軽くため息をついた。
今の高速機動で新品同然の機体に負荷がかかりすぎたのだろう……まあこんな機動をやるのは私くらいなもんで、一般的な人物ならもう少し優しく扱うかもな。
ゆっくりと各部に負荷をかけないように元の位置まで戻ると私は機体を駐機態勢にして膝をつき、ハッチを開けて外に出た。
そのまま飛び降りて少し歩いたあと、振り向いてそれまで乗っていたポルタリウスを見上げる……随分厳つい顔つきだ。
「……うーん……いい機体だと思うんだけど、どうにもしっくりこないな」
『お疲れ様ですアーシャさん、ちなみに参考までに違和感のある部分を教えてもらえますか?』
「そーだな……私が操作しようとすると少し間があってから動く感じがする」
『連邦製の操作補助の問題か? だがリーベルライトの嬢ちゃんほどの反応速度で動かすやつはいないからな』
「まあそれもそうか……そういや模擬戦はやるのかい?」
魔道具から聞こえるパトリシアの声に私は言葉を返していくが、そのまま言語化するのであれば思ったとおりに動いてくれない、だろうか?
だが反面動き出した後の速度は十分に高い……ヴィギルスの方が根本的に軽いので速度は出るけどね、それでもこのサイズ感と装甲でこれだけの速度が出せるのは正直驚く。
辺境守備師団の連中に与えるにはちょっと高性能すぎる気がするけど、とそこまで考えた私は先日のヴァルカリオン戦で見たケレリスの人形使い達のことを思い浮かべる。
少しギクシャクした動きを見せたり、どうにもなめらかではない動作を繰り返していた彼らがポルタリウスを動かすとどうなるのか、ちょっと見てみたい気がしたからだ。
私の質問を待ってましたとばかりに、魔道具から声が響く……それはいつの間にか試験場に来ていたタラスの声だった。
「おい赤虎姫ッ、俺に内緒で楽しそうなことしてんじゃねえよ……俺がそのまんまるを動かすから、おまえは零号騎を使え、模擬戦だッ!!!」
_(:3 」∠)_ 久しぶりの模擬戦
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