第九〇話 ハインケス工房兵装実験
『よし、衝撃杭を使ってみてくれ、的は用意してある』
「気乗りしねえなあ……」
ハインケス工房の試験場……この世界の広大さに慣れてしまっていて、すでに感覚がバグっている気がするけど、この工房はひとつの城塞くらいのサイズ感がある。
そのため巨大な人形騎士を稼働させたり、各種兵装をテストするための場所が併設されている。
人形騎士開発では運動性能を確認したり、戦闘能力を確かめるために模擬戦を行ったりするため、どこの工房でもこのくらいの設備は有しているらしい。
そのため大規模な工房はどうしても都市圏に集中してしまうのだが、中には古い城塞そのものを改造してそこで開発をしている貴族なんかもいるそうだ。
ライオトリシアで最大とも言えるハインケス工房はこの設備投資にかなりの資金を投入していたらしく、辺境とはいえ設備は潤沢に揃っている。
『衝撃杭の使い方はわかるか?』
「腰についている先っぽを相手に向けて、横の取手……レバーを握って後ろに引く、だろ?」
『設計書をよく読んでいるな、その通り……衝撃はかなり強いから踏ん張ってから打ち出せ』
「射程はどのくらいだ?」
『装甲を撃ち抜くとするなら密着から格闘戦の距離か……』
「わかった格闘戦の距離だな」
私は設計書の写しを見ながら衝撃杭の構造を見ていくが……中に入っている杭は前世でいうところのパイルバンカーそのものだが、盾や腕についていない分射程がめちゃくちゃ短い。
ある意味この武装を叩き込んで急速離脱を図るには、ヴィギルスのような機動性重視の人形騎士でないと役に立たないだろう。
ポルタリウス向きじゃない……鈍重な機体と球面状に成形された装甲が明らかにこの兵装の使用を妨げている、それがわかっているからこその衛兵隊向けってことか。
内部機構だが、レバーを引くことで中に入っている魔道具が強い衝撃を発生させ、その勢いを利用して杭を打ち出し相手の装甲を貫く。
中に入った杭は一度伸びた後、ばね仕掛けの機構で元の場所へと戻るようになっているが、何度か使うとばねが劣化してしまうので、連続で使用するのは避けた方がいいと書かれている。
「じゃあ動かすよ、しかしこいつ中身はヴィギルスそのものだな」
『こちらから見ている分にはヴィギルスには見えませんね』
『そいつは実験用だ、言うなれば零号騎ってところだな』
今私が搭乗している人形騎士、外見はグラディウスに近いが各部の装甲がヴィギルスと同じ単層構造となっているほか、一部の装甲が外されていてシルエットが異なる。
頭部は完全にグラディウスそのものなのが違和感あるな……ただ私が機体を立ち上がらせた瞬間の軽い動きはヴィギルスに近い感覚だ。
心臓部に当たる力の核そのものは変わっていないので、体に伝わる鼓動は同じものなのが奇妙な感じではあるな。
零号騎を歩かせていくが、衝撃杭が腰に装着されている分重量は少し重くなった感触がある……とはいえ、腰部は元々装甲が薄く作られており、この兵装を装着するにあたって形状が変わっている。
「思ったより動きにくくはない……ただ剣をしまう場所を考えないとね」
『的はそこにある訓練用人形を狙ってくれ』
「はいよ」
私がゆっくりと視線をターゲットへと向けると、そこには人形騎士を模した高さ八メートルほどの人形が立っている。
懐かしいなあ……この訓練用人形は、帝国人形使いが攻撃の基本を教わる際に使う巨大な土塊だ。
古い人形騎士を使うケースもあるんだけどそれは壊れた敵国製を鹵獲した時だけで、基本的にはこういった土を持ってひと型にした的を使う。
基本動作などはこういったものを使って、実際の戦闘に使うような応用方法は模擬戦なんだよなあ……私が少し腰を落とした格好から一気に前に出ると、魔道具から見学中の職人たちのため息が漏れる。
『は、早い……ッ!!』
『なんて速度で走らせやがる……!!』
「んじゃ一撃でぶっ壊してやるよッ!」
零号騎の体を左右に振りながら全力で駆け出すと、訓練用人形との距離をあっという間に詰めた私は衝撃杭のレバーを引く。
ズドオオンッ! という凄まじい爆音と共に腰に装着した衝撃杭が飛び出し、訓練用人形の胴体を一撃でブチ抜く……はずだったが、あまりの反動に機体が思い切り後方へとズレた。
ひっくり返りそうになった機体を必死に堪え、私はなんとかペダルを踏み締めて零号騎の姿勢を立て直す。
当然目測よりも距離が離れてしまった衝撃杭は訓練用の人形ではなく空を打ち抜き……そしてジャコン! という音を立ててケース本体へと格納された。
ポカンとした表情でそれを見ていた私だが……それを見ていたジーモンの声が魔道具から響く。
『足を踏ん張れって言ったろ、何してんだ』
「おい、これ実験で的に当たったの何回だ」
『……工房秘密だ』
「打ち出す際に反動が強すぎて、後方に跳ね飛ばされる……欠陥品じゃねえか!」
『うるせえな! もっと近づけば当たるんだよ!』
『二人とも喧嘩は良くないですわ』
魔道具越しに罵り合いを始める私たちとそれを止めようとするパトリシア……先ほどの射出でわかったけど、これ実戦で使うには背中を何かで抑えないと無理だ。
もしくはもっと重量級の機体に装着して文字通り重さで押さえつけるしかない……だが、そこまで考えてふと何かを思いついたような気分になり私は顎に手を当てて黙り込む。
重さ……そもそもヴィギルスは重量級ではないため、この衝撃を押さえつけるだけの機体重量が不足している、しかし装甲板を厚くしたところでこの人形騎士の良さを消すだけだ。
つまり……『踏ん張れないなら物理的に押さえつける、もしくは食い止める何かがあればいい』ことになる? ん? 物理的に抑えることができれば解決するのか。
『何黙ってんだ、お前さんの腕を見込んで任せてんだぞ』
「……獣ってさ、地面に爪を食い込ませるんだよね」
『はぁ? 嬢ちゃん何をいって……』
「だからさ、ヴィギルスが軽すぎるなら地面に爪を立てればいいって話だよ」
『ああ! つまり人形騎士の足に杭をつけるってことですか?』
『……なるほど、物理的に固定すればいいのか』
これも前世のロボットアニメであった気がするが、巨大な大砲を発射する際に反動で機体がひっくり返るのを避けるために、足から地面に食い込む爪が出てくるロボットがいた。
そのロボットは馬鹿でかい大砲をぶっ放して敵を殲滅するのだが、反動を押さえつけられないことを見越してそういう機構がついていた記憶があるのだ。
ヴィギルスは機動性に特化した人形騎士で、下手な重量増は性能を殺してしまう……それであれば後付けでも構わないので連動して動く文字通りの杭を突き出せば反動を殺せる。
「問題は発射前の動作中にその機構を動かせるかどうかだね……でもうまくいけばもっと巨大なものを装着できるんじゃないか?」
『可能だな……機構の連動が難しいが、追加のレバーを一つつければおまえさんなら問題無いだろ?』
「そうだな……タラスもできると思うが、作ってくれたらテストするよ」
私の声に魔道具の向こうから職人たちが和気藹々と議論を始めているのが聞こえる‥…工房の職人たちは文字通りの技術者たちだ。
こちらからのフィードバックをもとに、様々な技術的課題を乗り越えようと議論し、より良いものを作ろうとしていく。
これは前世だけではなく、転生したこの世界でも大して変わらない……魔道具から聞こえるさまざまな声を聞きながら私はほっと息を吐いてハッチを開けた。
懐から帝国印を取り出して火をつけると、紫煙を燻らせる……おそらくこの装備が一番マシで他はテストするにはちょっと危ない気がする。
私が視線を動かすとそこには人形騎士ポルタリウスが駐機態勢のまま膝をついているのが見えた。
「……よし次はキミだ、いい動きを見せてくれよ?」
_(:3 」∠)_ パイルバンカーはそのうち登場ということで……
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