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幽霊のユーコさん

『ピピピッピピピッ、起きて、朝だよ。ピピピッピピピッ起きて、時間だよ。ピピピッピピピッーー、』

「……うるさい。起きた……起きたから……」

『おはよう! 今日もいい一日にしようね!』


陰鬱な気分で目覚める朝。年々朝に弱くなっていっているような気もする。


「ねぇ、カーテン開けて」

『はい。わかりました』

「お、晴れてる。まさにハレの日ってね」


人間は植物に似ている。水や酸素は勿論大事だけど、同じくらい日光も大事なんだろうなーってまじまじと思うよ。


「ねぇ、気分の上がる音楽をかけて」

『はい。ズンチャズンチャズンチャズンチャーー、』

「なんだろ、この音楽。全然聞いたことないや」


音も何も無い中で、アカペラでズンチャズンチャと独特のリズムを刻むユーコを他所に、身支度を済ませる。


部屋に立てられた姿見の前。

クローゼットから取り出した新品の制服を手にネクタイとかつけたことないけど、上手に結べるか不安になりながら格闘していると、鏡越しにユーコと目が合う。


『ズンチャ、ズンチャ……………』

「……………」

『あ……その……無茶振りとかするの、やめない?』

「ごめんなさい」


流石に恥ずかしかったのか、顔を羞恥で真っ赤にさせて、責めるような目線を向けてくる。


発展しすぎた人工知能ってわけでもなければ、近未来からやってきたアンドロイドってわけでもない。

あまりに人間味に溢れたそのやり取りは、それもそのはずで相手が人間だからに他ならない。


「でも、そっちが先にやってきたんじゃん」

『なんだとー! このこの!』


肝が冷え冷えするほど透明感に溢れた足で、足元を蹴ってくるユーコ。

どこまでも人間っぽい、というか子どもっぽい。


それでも見た目はとても子どもとは言えず。

スラリとした手足に、同じくらいシュッとした胴体。そのモデルのような体型に加えて、雑誌の表紙を飾れるほどに整った顔面。


キリッとした目に、バシッと生えたまつ毛。パッチリとした二重もシュッとした高い鼻も、どこもかしこもつけ入る隙がないくらい。


そんな風にパーツパーツで見ると、綺麗系な顔立ちをしているのに、本人の性格もあってか表情がコロコロと変わるので、どっちかっていうと可愛らしいという方が適切だと思ってしまう。


「今、着替えてるからちょっと待って」

『へー、それが高校の制服? ん……もっとよく見せて』


そう言うや否や、着替えている最中だっていうのに自分と姿見の間に割り込んでくる。そして、ジロジロと上から下まで観察したかと思うととびっきりの笑顔を向けてきた。


『似合ってんじゃん。格好良いよ?』

「はいはい、それはどうも」


モデル級の美少女に、目の前でそんなお褒めの言葉を頂いても、自分の心の中は海のように穏やかで波風一つ立つことはない。


男として、女性に興味がないってわけじゃないけど、理由をあげるとすればユーコが普通の人とはちょっと違うからだと思う。



まあ違うと言っても、生きてるか死んでいるのかという、些細な違いではあるんだけど。


◇◇◇


自分は別に霊感があるってわけじゃない。今だってユーコ以外の霊は見えないし、感じれもしない。


その出会いは半月前までに遡る。



高校受験も控えて、塾に足繁く通っていた日々のある日の帰り道。

その日は特別授業が押したこともあり、塾を出る頃には街の明かりも消えかけていたことを覚えている。


そうなると自然、帰路への道も急ぎ足になってしまうし、より最短な家路を選ぶようにもなる。

だから失敗してしまった。


いつも使う近道の路地裏を、いつもと同じように通っていたとき、人生で初めて不良という輩に出会ってしまった。


人数は3人ほど。同じ高校の制服を着て、思い思いの格好で建物の壁に寄りかかっており、そのうちの一人はタバコを吸っていたことまで鮮明に記憶している。

それだけ、一目見て怖い思いをしたってこと。


最初、彼らは自分に気づいていないようだった。視界には入っているだろうが、どうでも良いとばかりに気にしておらず談笑を続けている。


だからその横を、逃げるように走り抜けようとした矢先。


「おい、ちょっと止まれや」


たったその一言で、身体は凍ったように動かなくなった。今思い出しても、身体の底から冷えてくる。

別段、大きな声ではなかった。ただそれでも、生物の本能は優秀すぎる。身の危険が迫っていると脳が信号を送るだけで、途端に人は弱く脆くなる。


そのときが原因なのか、今でも偶に怖い夢を見る。街中で不審者に遭遇する夢、家に強盗が入ってくる夢。そういう、無駄にリアル志向なもの。

その度に夢の中で身体が動かなくなることを思えば、普段頭の中で想像する自分の姿が、いかにちんけなことか。


それでもそのときは夢じゃない。不良3人に囲まれて壁際に追い詰められたとき、想像を絶するほどの恐怖に身体を支配されていた。


そして口にされる、お決まりのセリフを。


「金出せよ、金。なあ?」

「持ってんだろ。隠すなって」


吹けば飛ぶような軽い命。それを相手に握られることの、どれだけ恐ろしいか。

例えばそのとき、突然逆上した相手にボコボコに殴られる。それだけで死んでしまう。


完全に萎縮した目には、目の前の3人が人智を超えた化け物のようにさえ見えてしまって。だから止められなかった、


その背後で鉄パイプを片手に振り上げる女性の姿を。


「………っ!!??」


頭に一撃喰らって、痛がる素振りを見せる不良A。まだ立っていられるということは、手加減していたのかもしれない。


だけどそんなことは関係なく。勿論、やり返そうと躍起になる不良たち。

だけどその後の反応を見るに、やっぱり彼らは自分とは違うものを見ていたんだと今になって思う。


一人でに浮かぶ鉄パイプだなんだ、心霊現象だなんだと言って、美少女を前にして尻尾を巻いて逃げていく不良たち。


残されたのは自分と、目の前の鉄パイプを未だに手に持った野蛮な女性。

今度こそ本格的に殺されるんだと、情けなく悟った。


だけど、そんなへたり込んだ自分に優しく手を差し伸べてきたその少女。まあ、その手は掴めなかったわけだけど、恐怖は自然と感じなかった。


それが自分とユーコの出会い。こんな居候を家へと招き入れることとなった原因である。


◇◇◇


「そう言えば、あのときなんで助けてくれたの?」

『あのときって、不良に絡まれてたとき? そりゃもう単純に……顔がタイプだったからだよ。嬉しい?』

「あ、いえ。別に」

『嬉しがれー! 呪うぞー!』

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