目覚めた先で
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
どこなのかはすぐにわかる。王都の客室のものだ。
ということは、俺は今度こそきちんと『次』に来ることができたということだろう。
「……都合のいい結末、か。」
狐冥に言われた言葉が頭の中で反響する。
あの問いに、俺はなんと答えたのだったか。
ぼんやりする頭で思い出す。
そう、俺は
「なら俺は目の前にあるこの世界は信じないで、お前の話は信じようかな。」
とか口から出たんだった。
「キミ、バカでしょ」
狐冥は即答してきた。
今も、言った時も、『何言ってんだ俺』ってなってたし気持ちはわかる。
「何を信じるかは俺の自由だし、結局この世界が偽物なら何言ったってどうしようもないしな」
まあようするに、吹っ切れたってことだ。
こんな答えのない問答、考えるのもめんどくさい。
「はー、そういう答えがくるかぁ」
「ともあれ、信じてやったんだ。ちゃんとした『次』の世界に行かせてくれるんだよな?」
「あーもーわかりましたよ。言葉遊びしてんじゃないってのに。」
パチン、と指を鳴らす音が聞こえる。
「ま、でもそういう答えも嫌いじゃないよ。好きでもないけど。」
俺の意識はそこで途切れて、今に至る。
やけにちゃんとした寝室。この部屋に居るのは俺だけ。
「さて…今回はちゃんとした世界なのかね」
身体を起こそうとするが、上手く力が入らない。こういうところは前と一緒か。
「あー、まだだめか。急がないといけねえんだけどなぁ…」
声くらいは出せる。
大声で誰かを呼ぶのも手だが、まあいずれ誰か気づいてくれるだろう。
「……もう一眠りしとくか…」
あまりにもやれることがないので、とりあえず俺は寝る事にした。
「あ、これ起きてますね」
声がする。多分冬野だこれ。
「起きてんのに一言も挨拶しないで二度寝かましてますコイツ。一発ぶん殴っていいですか?」
「まあ氷河だしいいんじゃない?」
「意義なし」
「意義ありませーん」
「意義なしなのじゃ」
うーん、声的につららとりでると造だな。意識が寝起きで朦朧としてるけど覚えたぞ。
「よーし、いっくぞー」
いや、『いっくぞー』じゃないんだよ。
「ちょ、待て待て!!」
慌てて飛び退いて静止させる。何が悲しくて寝起きでそんなもん喰らわなきゃいかんのだ!
「あ、やっぱり起きてた」
「え、氷河本当に起きてたの!?」
「寝息がいつもと違ったからな」
「ほえー、気づかんかったのじゃ」
…何を言ってんだ?
「おはよう。随分重役出勤かましてんね?」
冬野のイヤミが開幕早々俺にブッ刺さる。
「……ちなみに、あとどれくらい猶予あるんだ?」
自分が起きるまでの時間がよく分からない以上、聞くしかないが嫌な予感しかしない。
「ん」
と言って指を3本立ててくる。
「三ヶ月…?三年…?」
「3日。」
3日。
「………あれ、ちょっと待て!?」
あまりにも自然に溶け込みすぎて気づかなかったが…
「つらら、お前…あの氷どうしたんだ!?」
さっきまでの世界が偽物だとしたら本当の世界線ではまだつららはあの氷の中に閉じ込められているはず。
またこの世界も偽物かもしれない。そんな不安がよぎる。
「あー、食べちゃった」
「は?」
「いやほら、かき氷って美味しいじゃん」
「上手に削るための道具はボクが作ったのじゃ!無駄に固かったから苦労したのじゃ。」
「そんなことで何とかなったのか…?」
「そんなとは失礼な!約一ヶ月かき氷暮らしをした私の身にもなって欲しいね!!」
腹壊すぞ。
…と言いたかったが俺が原因な分強く言いづらい。
「まあとにかく、もう作戦は最終段階だ。お前が起きるのが遅すぎるんだが……」
りでるの言葉が止まる。
「それも仕方ないってことにしといてやる。とりあえず行ってこい」
外に出るよう言われているのは現状を知るためだろう。
あと3日。世界の崩壊3日前というのはどういうものなのだろうか。
ドアを開け、部屋の外に出る。
廊下を抜け、街の方へ。
物の配置からなにから全部狐冥の世界と一緒で嫌な予感ばかりが増えていく。
その考えの真偽を問うためにも、街を見渡せる場所に出る。
「………なんだ、これ」
美しかった街並みは全て無くなっていた。
それどころか、この城以外が…無かった。
ただ広がる暗いなにか。
真っ暗な闇の中には何も見えない。
「目が覚めたとの連絡は受けております。本当に、ギリギリまで寝こけてくれやがりましたわね?」
愛上が嫌味たっぷりに歩いてくる。
「……すまない。これは…どういうことだ?」
「これが、『崩壊』ですわ。過去に例を見ないほど酷い状況ですけど。」
何も言えない。
空いた口が塞がらないとはこういうことだろうか。愛上はこんなのを毎回乗り越えてきていたのか。
「…おい、あれ」
黒く、暗い闇の中から人の手が伸びているのが見えた。
何かを探すように踠いているように見える。
「放っておきなさい。近づくと後悔しますわよ」
「何言って…ん……」
『何言ってんだ、大切な国民だろ』と、言おうとした。
でも、明らかに違った。
その手は…本当に、『手』が伸びていた。
腕などなく、ただ手だけが異様に長く伸びてきている。
指先に眼球を宿し、手のひらに顔が付いていた。
「なんだよ…あれ…」
これもまた狐冥のタチの悪い幻想だ。そうに決まってる。
「あれが、私達の世界の住人の成れの果てですわ。」
先程見た手は、手のひらの顔を歪めながらとてつもない勢いでこちらに向かって伸びてきている。
声もないまま絶叫する表情だけが醜く歪み、こちらに届こうかというギリギリの距離で止まる。
指先の眼でこちらを凝視し、そのまま帰ってゆく。
「これが、正真正銘最後の崩壊ですわ。もう、世界のループは行われない。次のない完全なる崩壊。」
「俺たちは…何をすればいいんだ」
「貴方に戦闘力は期待しておりません。精々自分の身は守ってくださいまし。」
「………だから!この状況を打破する策が!あるはずだろ!!」
これまで何も出来ていなかった事実が、この景色を見ただけでも重くのしかかる。
ここまで追い込まれるまで、誰も欠けずに来れているのだろうか。
何をどうすればここから完全な崩壊を回避できるのか。
何もわからない現状がどうしようもなく俺を焦らせる。
「貴方には、私たちの最後の切り札になって頂きます。そのために、そのためだけに、貴方を守ってきたのですから」
「俺が…?」
「冬月の能力は知っておりまして?…まあ知らなくても良いのですが。それを使って、貴方には交渉と囮をこなして頂きます。」
ここにきて交渉…?囮…?
誰と交渉して何に対しての囮になれと言うのか。
「…やれることはやる。だからもう少し分かりやすく話してくれ」
「この世界を滅ぼすのは勿体無い、とでも思わせてきてくださいな。これの元凶に」
確かにわかりやすくとは言ったが。
そんな話が出てくるというのは、これの元凶…それが分かっているということ。
分からないことだけがどんどん増えていく中、俺がやれることはそれだけらしい。
現状も、元凶も。これが現実なのかも疑わしい。
それでも歩みを止めることは許されない。
今更ながらこのストーリーってなんでもありだよなって思ってます。
言い方変えれば魔法から何からなんでもありのはちゃめちゃご都合展開なわけで。
そんなことは置いといて。外の選挙カーの騒音を聞きながら書きました。他のBGMが欲しいモンです。
仕事の合間合間に書くから進みが遅くて仕方ない…あとなろうのアップデートにまだ慣れないんですわ!!
半分愚痴で終わりそうな後書きで申し訳ありませぬが、また次回!