08 竜の魔術師
「えっ。は、はい。わたしですか?」
その長耳族の少女は、びっくりしたように答えた。
どことなく落ち着かない様子でこちらを見ている。
マリーはそんな彼女を安心させるように、穏やかに微笑む。
「うん。これからみんなでドワーフ芋を食べるんだけど、よかったらどう?」
「ドワーフ芋……ですか」
「好きじゃない?」
「いえ、食べた事なくて。聞いたことはありますけど」
「よかったら、こっちへおいでよ」
マリーは自分の隣の椅子を指さす。
「……え、あの……し、失礼じゃなければ……その」
長耳族の少女は下を向いたまま、きょろきょろと顔を動かす。
マリーは、ゆっくりと立ち上がって彼女に近づいた。
何となく、人慣れない犬を相手にしているような気分だ。
「じゃあ、おいでよ」
「は、はい……それじゃあ」
長耳族の少女はマリー達のいるテーブルへとやってくる。
「自己紹介がまだだったね。私はマリー。あなたは?」
「私はシレジアから来たユリアといいます。ルガール国のマリー殿下ですよね?」
「マリーでいいよ。ここはそういう所なんだし」
「は、はい。マリー……さん」
「私はルッカ国からきたミラミラ。よろしくねユリアちゃん」
「マリー様の侍女のアリスです。よろしくお願いしますユリアさん」
「は、はい。こちらこそ……」
しばらくして
「できたよー」
ミラミラの声が響く。
竈から鍋を運び、鍋敷きの上に乗せる。
テーブルにはあらかじめ、皿とナイフやフォーク、紅茶のポットとカップが並べられている。
「これどうやって食べるの?」
「ナイフで切って、皮をむいて、まずはそのまま食べてみて、マリーちゃん」
ミラミラは慣れた手つきでドワーフ芋を切り、食べる。
「やっぱり美味しい」
そういってにっこりマリー達に微笑んだ。
マリー、アリス、ユリアの三人は、おっかなびっくり目の前の芋をつつく。
マリーはドワーフ芋をナイフで切る。
黄色い断面が見えた。
身を切り分け、フォークで突き刺して、思い切って口の中に入れる。
「あ、あつっ……でも」
ほんのりと甘みがある。
思ったよりくせがない味だ。
「どう、マリーちゃん?」
「思ったよりくせがなくて、いくらでも食べられそう」
「塩やバター、ジャムなんかをつけても美味しいんだよ」
四人はそれぞれドワーフ芋に舌鼓を打った。
「バターをつけるとより、おいしさが増す気がします」
と侍女のアリス。
「お塩かけてもいいですね」
と長耳族のユリア。
あっという間に目の前のドワーフ芋はなくなっていく。
「美味しいねぇ。もっと食べれそうかなぁ」
「でも、夕ご飯あるからね。マリーちゃんやみんなが気に入ってくれたのなら良かった」
ミラミラは笑顔を見せる。
その間にも四人でおしゃべりに花を咲かせる。
長耳族のユリアは最初は口数が少なかったが、次第に打ち解けて、ぽつりぽつりと自分の事を話すようになった。
「私、シレジアの田舎から出てきて。誰も知り合いがいないんです」
そういえばクラスの長耳族は、担任の先生を除けばユリア一人だった。
ユリアは竜人国にあるシレジア地方の男爵家の出身らしい。
実家は魔道具作りをしているそうだ。
元々頭は良く、周囲から将来を期待されてもいた。
ただ実家には大学へ行かせるような資金はない。
そこで竜人国に新しい大学ができるという話を聞く。
元々成績が良かった事もあり、試験を受けて特待生になった。
授業料や寮費は免除だとの事だった。
「へぇ、ユリアちゃんて頭いいのねぇ。私は半額免除だなぁ」
「そんな。たまたまですよ、ミラミラさん」
なにしろできたばかりの大学である。
実績作りのため、授業料や寮費を学生によっては無料にしたりしているのだろう。
と、ユリアは推測を述べる。
(みんな、苦労してるんだなぁ)
マリーはふと自分を振り返る。
ミラミラやユリアに比べれば、自分は随分と恵まれている。
兄弟姉妹に馬鹿にされたり、使用人に陰口を叩かれたり、たまに夜会に出ようとしたらドレスを切り裂かれていたり。
などというのは、大した事は無いだろう、多分。
正直授業についていけるかはわからない。
マリーが入学したのも、政治的な思惑に間違いない。
できが悪すぎて退学という事もないだろう。
だがお情けで進級させて貰うのも、少し癪であった。
(頑張らなくちゃね)
まだまだ自分は知らない事が一杯あるんだな。
もっともっと勉強しなければ。
そうあらためて思うマリーだった。
そして翌日――
「マリー様、お迎えにあがりました」
豪勢な馬車が、学校の寮へと迎えに来る。
「じゃあ行ってくるね」
「お気をつけて」
侍女のアリスや、ミラミラ、ユリアたちに見送られて馬車に乗り込む。
窓からは寮生たちが、何事かと思ってこちらを見ていた。
あまり注目されすぎるのも、少し恥ずかしい。
馬車は一路王宮へと向かう。
一時間もかからずに到着した。
一旦控えの前で小休止したあと、広間に通される。
「ようこそ、マリー殿」
「よく来てくれたね、マリー」
「こんにちは、マリーお姉ちゃん」
王、アスラン、ルドミラがそれぞれ挨拶する。
「お招きいただき、ありがとうございます」
マリーは軽く一礼する。
「まぁまぁ、そう堅苦しくせずとも」
王は優しく微笑んで言った。
昼食は軽めのものだった。
山菜のサラダや鱒の焼き物と、にんじんのスープであった。
「学校はどう?困った事はない?といってもまだ始まったばかりだけど。」
アスランがマリーにたずねる。
「もうお友達できました」
「いいなぁ。わたしも学校へ行きたい」
「ルドミラにはまだ早いよ」
しばらくは様々な話題で談笑する。
まだ会って二回目だが、彼らとずっと昔からの知り合いのような気がしていた。
すると王が真面目な顔で口を開いた。
「実は、この間の件に関してだが、マリー殿に会って欲しい人物がいるのだ」
「それはどなたでしょうか?」
「竜魔術師でハネス様だ」
「ハネス様にお目にかかれば、何かわかると?」
「そう。マリー殿が竜の巫女かもしれないという件だ」
「承知しました」
マリーは簡潔に答えた。
無能と言われたマリーに何か隠された力があるのだろうか?
こうしてマリーは竜魔術師に会う事になった。
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