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06 入学式

「えー、私が王立大学の学長オイゲン・フォン・ライエンであります。皆さまはこれから……」


 学長の挨拶が続く。

 こういう儀式の時、やたら話が長いのは何かの伝統なのだろうか?

 もっともマリーは、学校に行った事はないのだが。


 結局あの後は王宮に数日滞在し、その後は大学の寮に場所を移した。

 義母や祖母が持たせてくれた荷物はそれなりにあった。

 マリーは剣や弓も持ってきていた。

 役に立たないかもしれないが、これらは手放せない。


 この学長も竜人なのだろうか?

 一見したところ普通の人間と変わりなく見える。


 母国にいたころは、竜人というと、角が生えているだの尻尾が生えているだの言われていた。

 だがこちらに来てみるとそんなことはない。

 噂とはあてにならないものだ。


 マリーはこっそりと周囲を見回す。

 ぱっと見は人間もしくは竜人が多い。

 たまに長耳族(エルフ)矮人族(ドワーフ)らしき種族もいる。


 何しろ特別留学生という事で、マリーは最前列だ。

 あまりきょろきょろしていては目立つだろう。


 再び前を向こうとした時、一人の少女に目が留まる。

 銀髪に緑の瞳の凄い美少女だ。

 アスラン王子と何やらこそこそと話している。


 学長の後は、来賓だの学部長だのの挨拶があった

 国王自身の祝辞も述べられた。

 

 ようやっと入学式が終わると。

 初年度の入学者は五百人ほどだそうだ。

 それが五十人ずつ十のクラスに分かれる。

 マリーは王子やあの銀髪の少女と同じクラスだった。


「みなさーん、こんにちは。担任のエヴァ・ノヴァクです」


 金髪に長い耳という典型的な、長耳族(エルフ)の女性だった。

 元々長耳族(エルフ)は、非常な長命を誇る種族で、千年も生きるものもいたらしい。

 だが現在では、人間も竜人も長耳族(エルフ)もドワーフも、寿命に違いはない。

 

「これから三年間よろしくお願いします!」


 なかなか気さくで朗らかな人のようであった。

 そして、教育課程の説明に入る。


 最初の一年間は一般教養を学ぶ。

 毎年七月終わりに前期試験、一月終わりに後期試験がある。


 残りの二年で専門的な勉強に入る。

 文学、歴史、工学、農学、医学、魔法学等の科目があるという。

 科目ごとに単位というものが設定されている。

 

 全ての科目の単位を集計し、ある一定以上の単位を取れれば、見事卒業というわけだ。

 もっとも医学や魔法学はさらに数年、専門的な過程で学ぶとの事だった。


「あのぉ、できたばかりの大学なので。いたらない事もあるかもしれませんが、ごめんなさいね」


 ほんわりとした喋り方に、何だか調子がくるってしまう。

 いつもはマリーの方が、兄弟姉妹達に「お前の話はわけがわからん」と言われているのだが。


「じゃぁとりあえず、自己紹介しましょう」

 エヴァ先生の言葉をうけ、学生たちは一人ひとり立ち上がって、自己紹介する。

 それぞれ、出身国や将来専攻したい学科などを喋る。


 竜人国の生徒が一番多い。

 ただそれ以外にも、矮人族(ドワーフ)の国のルッカ国や、ヒベルニア、ロムニアといった国の者もいた。


 そしてマリーの番が来た。


「ルガール国の第十王女、マリー・ド・アーセンと言います。よろしくお願いします」

 何やらこれだけでは芸がない。

 何か言わなければ。

 

「あの、私、竜人国へ来たので、いつか竜に乗って空を飛びたいです!」

 少し変な事を言ってしまったのかもしれない。

 これでよかったのだろうか?

 

 周囲を見回す。

 特に誰も反応しない。

 だが中には少し顔がこわばっているものもいた。

 ……ように思える。


(またやっちゃったのかなぁ……)


 お前は少しずれていると、過去に言われたことを思い出した。

 だが自分ではよくわからない。


 その後も自己紹介が続いた。

 少し意外だったが、貴族と平民が半々くらいである。

 

 この学校にいる間は身分の上下にかかわらず、平等に接するので皆さんもそうするようにと、学長の挨拶で言っていた気がする。


「竜人国ザクセン公爵家、エリーザベト・フォン・ザクセンと申します。エリザと呼んでください」

 あの銀髪の美少女が挨拶した。

 

 綺麗な人だなぁ。

 マリーは思わず、ぼーっと見てしまう。

 

 エリザと目が合った。

 彼女は冷たい緑の瞳でマリーを一瞬見た後に目をそらす。

 何か嫌われる事をしてしまったのだろうか?


 そして一通り自己紹介が終わる。

 授業の予定を軽く説明して今日は終わりであった。


 教室を出ようとしたところ、アスランに声をかけられる。


「この間はありがとう」

「いえ」

「マリーのおかげで妹は助かったよ。みんな感謝しているんだ」

「そんな。何度もお礼を言われて、なんか恥ずかしいですよ」


 なぜ今更こんな事を言うのだろう?

 アスランと別れた後にマリーは思った。

 ただ二人のやり取りを聞いていた周りの雰囲気が少し変わった気はした。

 

 マリーは侍女のアリスと一緒に大学の寮に向かう。

 校舎と寮はさほど離れてはいない。

 広大な敷地の中には、まだ建設中の建物もあった。

 何しろ今年開校したばかりなので、当然かもしれない。


 寮は男女別に棟が分かれている。

 管理人に帰宅の挨拶をして、中に入る。

 すると何やら声が聞こえた。


「もうお母さん、いいって言ったのに!」


 矮人族(ドワーフ)らしき少女が叫んでいる。。

 丸顔でマリーより背が低い。

 少女の前には、四角い箱が置かれていた。

 その顔に見覚えがあった。


「どうしたの?」

 マリーはたずねる。


「うちの母親が、芋を送ってきたの。こんなに沢山……ところであなたは?」

 少女はマリーをさぐるような目で見る。


「私はマリー。同じクラスだよね、確か?」

「あたしはミラミラ。なんか見覚えあると思ったよ」


「何かあったの?芋がどうとかって?」


 この大陸では、芋はあまり一般的な食物ではない。

 麦や豆などが主食であった。


 矮人族(ドワーフ)の国では、様々な種類の芋を食べるという事は、知識として知ってはいた。

 マリーは山芋しか食べた事がない。

 ねばねばして、あまり美味しいとは思わなかった。


 ただ箱の中に入っているものは、マリーが以前見たものと違う。


「寮は食事が出るからいいって言ったんだけど。故郷の味が懐かしいだろうって送ってきたのよ」

「ねぇ、芋ってどう?おいしいの?」

 

 マリーの言葉に


「うん、おいしいは美味しいんだけどね」

 とミラミラは返す。


「もしかして、これ?矮人族(ドワーフ)の国の芋って初めて見るよ」

 マリーは、箱の中に入っているものを指さす。

 茶色の小さな塊が、無数に詰め込まれていた。


「普通の芋と違うのよ。ドワーフ芋って呼んでるの。でもこんなに沢山……ねぇ」


 ミラミラは少し怒ったような、困ったような顔で言った。

読んでいただき、ありがとうございます。


「面白かった!」

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