05 ルドミラ
「マリー殿。あらためて紹介しよう。息子のアスランと娘のルドミラだ」
「ルガール王国第十王女マリーです。よろしくお願いします」
マリーはアスランとルドミラに一礼する。
「むしろこちらが礼を言わねばならん立場だったのに、すまない」
「それはどういう事でしょう?」
マリーの疑問は当然のものだった。
その時その少女がマリーに話しかける。
「お姉ちゃん、あの時はありがとう」
ひょこりと頭を下げる。
だがマリーには覚えがない。
首をかしげているとルドミラ自身が説明する。
「ルガールのお国で倒れていたとき、マリーお姉ちゃんに助けてもらったんだよ」
という事はもしかして……
「まさか……あの時の竜?」
「うん、そうだよ」
ルドミラはにこっと笑って言った。
こうして見ると普通の幼い少女にしか見えない。
五歳くらいだろうか?
「無事で安心したわ。でも私は何もしてないけれども」
「そんな事ないよ。お姉ちゃんから暖かい光が流れてきて、ルドミラは元気になったんだよ」
その時王が口を開いた。
「わしからも礼を言う、マリー殿」
「いえ。でも私には何が何だか……」
「竜人の幼子は、時折力の制御ができなくなる事があってな。マリー殿がいなければ危なかった」
「はい……」
それにしてもどういう事だろうか?
マリーは『無能のマリー』とまで呼ばれた王女だ。
回復魔法も攻撃魔法も何も使えないはずなのに。
「父上、それじゃぁ何もわかりませんよ。順を追って話します、マリーさん」
王子のアスランが笑って言う。
マリーが竜人国へ行くよう命じられた少し前。
王家の一行がルガールの首都ヴァルナへ、同盟の締結のため赴いたという。
王の子供は息子のアスランと娘のルドミラの二人だけだという。
息子や娘に知らない異国を見せたいというのと、ルガール王家への挨拶のためだった。
「急にルドミラが白銀の竜に姿を変えて飛び立ってしまったんです」
国王が言ったように、竜人族の子供は、ごくまれにそういう事があるらしい。
だが竜人国の王家一族は、生まれた時から一度もなかった。
そのため、魔術師もおり、注意はしていたが安心していたという。
「あの時ね。急に誰か呼んだような気がして。それから覚えてないの」
ルドミラが言う。
気がついたら、道で倒れていて、そばにマリーがいたとのことだ。
「竜人の幼児は特に自分で竜変異を制御するのが難しいのです」
アスランはそう告げた。
一体ルドミラに何があったのか。
そして誰がルドミラを助けたのか。
調査の結果、ルガールの王女のマリーらしいと判明した。
是非直接会ってお礼がしたいと申し出たが、父や義母たちは、にべもなく断ったようだ。
気まぐれで横暴な義母ならありうる事だった。
「だからこの度マリー殿下が我が国に来て下さったのは、望外の幸運だと、父とも話していたのです」
そう言って、アスランは微笑んだ。
「私にはわからないのです。なぜあんな事ができたのか」
マリーにとっては初めての情報ばかりだ。
竜人についても、竜に変身できるらしいとしか知らなかった。
「それは……」
そう言ってアスランは王の方を見る。
「マリー殿が、伝説の『竜の巫女』なのではないかと。我らはそう考えているのです」
王は少しためらった後に、言葉をつづけた。
「竜の巫女?何なのですかそれは?」
マリーは少し驚く。
「竜と言葉をかわし、竜の力を強め、竜を癒す存在だと伝わっております」
王は何かに思いをはせるようだった。
「我らの力は年々弱まり、竜変異できない者も増えております。マリー殿には是非我らに協力をお願いしたいのです。それにあの……闇竜教徒たち……いや」
王はそこで言葉を飲み込んだ。
マリーは軽くうなずいて答えた。
「わかりました。これも何かのご縁です。私にできる事があれば協力させて頂きます」
「おお、それはありがたい」
「その前に一つお聞きしたいのですが」
「何でしょうかな」
「私は誰かと結婚させられるのでしょうか?父がそのように申しておりました」
王は苦笑して答えた。
「そのような事はないので、安心してくだされ。我らに関しては事実と異なる誤解も多い。歴史も伝統も無い国なので仕方ないが」
「そう聞いて安心しました」
「正直に言うとマリー殿を迎え入れたのは、実績作りという面もある。竜人国王立大学は今年開校したばかり。ルガール王国の姫も通ったとなれば宣伝にもなろうと思ってな」
「お役に立てるかどうかわかりませんが、頑張ります」
「ありがたい。我ら竜人については、これからおいおいお話ししていこうと思う。それでマリー殿には、王宮から大学へ通って頂こうかと思っているのだが」
「それは……寮に入るのではないのですか?」
「地方の者や外国から来ている者はそうだ。だがマリー殿は特別なのでな」
「できれば私も、寮でみんなと生活したいです。色々な人と触れあってみたいのです」
王は少し考えこんでから言った。
「わかった。マリー殿の希望を尊重しよう」
「僕も今年から入学するんです。よろしく、マリー殿下」
「私の事はマリーと呼んでください、アスラン様」
「わかった。マリー。僕の事もアスランで」
「はい、アスラン。これからよろしく」
王宮でマリーと一緒に暮らせると思っていたルドミラは、少々不満そうだった。
これからいつでも会えるのだからとなだめられ、ようやく機嫌を直した。
「マリーお姉ちゃん、いつでも遊びに来てね」
開校までしばらくは、王宮に泊まっていって欲しいという事で、好意に甘える事にした。
これ以上遠慮しては、かえって失礼になるかもしれない。
マリーといえど、そのくらいの知恵は働くのである。
「こちらでございます」
侍女が案内した部屋は、マリーの自室よりも余程豪華であった。
お付きのアリスの部屋もすぐ隣である。
天蓋つきのベッドに横たわりながらマリーは考える。
入学式は一週間後らしい。
一体どんな生活が待ち受けているのだろうか?
そして、彼らの言う、竜の巫女とは何なのだろうか?
まだわからない。
ただルガール王国にいるよりも、ずっと楽しいわくわくする出来事が待っている気がする。
そんな期待に胸を膨らませながら、いつしか夢の国へと旅立っていた。
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