04 出会い
「はじめまして、アスラン様。こちらこそよろしく」
マリーは微笑んで挨拶した。
王族としての礼儀作法は、小さい頃から一応は叩きこまれている。
マリーだってその気になれば、それなりの振る舞いができるのだ、多分。
「これから竜人国の首都まで、私共も同行させていただきます」
「ありがとうございます。でも何故、アスラン様自らお越しになったのですか?」
アスランは少し迷った後に言った。
「マリー様は、僕の妹の恩人ですので」
マリーにとっては覚えがない事であった。
詳しく聞こうとしたが、またいずれとアスランは笑ってはぐらかす。
その日はマリー、アリス、伯爵、アスランで夕食のテーブルを囲んだ。
アリスは侍女だからと遠慮したが、マリーが他の人間の許可を得て同席する事になった。
「竜人国は良い所ですよ」
アスランはにこやかに言う。
「私、竜人国は初めてで。というより他の国へ行った事がないんです」
「マリー様もすぐ気に入ると思いますよ。竜人国にいるのは、竜人だけではありませんからね。長耳族も矮人族も人間もいます」
「そうなんですか?」
「僕はもっと竜人国の事を知ってもらいたいんです」
主にマリーとアスランが話をし、アリスや伯爵は聞き役にまわった。
アリスはともかく、伯爵は興味深そうだった。
他国の情報収集という、大人の事情かもしれなかったが。
晩餐の後は、城内の最上階の豪華な一室に通された。
以前父と母がこの地へ来た時に泊まった部屋らしい。
マリーはテラスに出て、外を眺める。
王都と違って、灯りはほとんど見えない。
あの暗闇の中にも、様々な人がいて、喜んだり悩んだりしているのだろうか?
竜人国も王がいて、王子と王女がいるのだろう。
彼らは何を感じて、どんな風に生きているのだろうか?
竜人国には自分の居場所はあるのだろうか?
そして竜に乗って大空を飛ぶことはできるのだろうか?
とりとめもない思考は尽きない。
マリーは一つため息をつくと、部屋の中に戻りベッドへと潜り込んだ。
……………………
マリーは夢を見ていた
このところよく見る夢だ。
見渡す限りの大草原。
空に舞う竜の群れ。
傍らの竜がマリーに話しかける。
マリーは首飾りをいじりながら、何やら答えている
……………………
と、いつもそこで目が覚める。
これは一体何なのだろう。
ルガール王宮の魔術師に相談したが、彼らにもわからなかった。
両親や兄妹たちにもそれとなく言った事もある。
祖母のミリアムの話ばかり聞いているからだろうと、一笑に付された。
今日も快晴だった。
伯爵に見送られ、竜人国へと入国する。
関所の警備はのどかなものだった。
お付きの騎士が通行証を見せると、すぐに通る事ができた。
道中はアスランとも世間話をする。
だがアスラン達が、どことなくこちらを探るような視線を投げかけているのは、気のせいだろうか。
そして侍女のアリスとも、色々踏み込んだ話をするようになった。
「私の家は……私が頑張らなきゃいけないんです」
「でもその年で家族を支えているなんて、偉いと思うわ」
「いえ、そんな。私も大学に入学させて貰えるって。そしてお給料も貰えるっていうので」
「そうだったんだ」
「それでも、本当は……」
アリスはそこまでで、何やら言いよどんだ。
「なになに?言ってみて。他に誰もいないんだし」
馬車の中は、マリーとアリスだけである。
お付きの騎士や、竜人国の一隊は馬で移動している。
「私、美容やメイクなんかに興味があって。働きながら、王都の学校で学ぶことになってたんです」
アリスは何やら決心したように言った。
この短い期間だが、マリーになら話してもいいと思えたのかもしれない。
そして言葉を続ける。
「その……もちろん、マリー様のお世話をするのが嫌だというわけじゃなくて……」
「そんな事全然思ってないよ!むしろ話してくれて嬉しい」
「それで……竜人国に行くことになって。これだけお金を貰えるんだから、こんないい話はないって。家族にも言われたんです」
アリスの顔はどことなく、切なげでもあり、寂しそうでもあった。
竜人国は文化果つる所などと言われているという事は、マリーですら知っている。
ルガール王国のような、大陸最先端の流行発信国ではない。
竜人国ではアリスが望むような知識を仕入れたり、勉強したりする事も難しいかもしれない。
マリーにとって、今回の件は楽しみでしかない。
だが普通の人間にとっては、ルガール王国の方がずっといいだろう。
マリーといえどもそのことは何となくわかる。
「そっかぁ。なんか……ごめんね」
「そんな、マリー様のせいではございませんわ」
アリスは少しびっくりしたように言った。
「いやでもねぇ。普通は竜人国へ行くのはあんまり気が進まないかもね」
「もう割り切りました」
アリスはそういって微笑んだ。
「そうだ!おばあ様やお付きの侍女達に言えば、色んな物や情報も手に入ると思うんだ。頼んで取り寄せてもらおうか?」
マリーだって、身だしなみには気をつかって清潔にしているつもりである。
だが、メイクだのドレスだの美容だのといった方面にはうとい。
聞いてもよくわからず、今一つ興味も持てない。
基本的にはすべて侍女に任せきりであった。
「とんでもありません!そんなに気を遣っていただかなくても。それよりもったいないですわ」
「何が?」
「マリー様は絶対お化粧映えするお顔ですよ!」
そんな事を言われたのは初めてであった。
アリスはマリーの顔の向こうに、何やら思い浮かべているようであった。
そしてルガール王国の国境を出てから五日ほどたち、竜人国の首都であるレメンドへと到着した。
竜が歩き回っているのかと思っていたがそんな事もない。
建物の様子なども、多少デザインが違うがルガール王国のものと変わらない。
「父が是非マリー殿下にご挨拶したいと申してます」
アスランが言う。
マリーは、まがりなりにもルガール王国の第十王女である。
だから国王直々に謁見があるという事だろうか?
そういえば、そんな事を聞いていたようないなかったような気もする。
まずは控えの間で少し休憩した後に、謁見の間に招き入れられる。
そして国王が入室したことを、係が告げた。
「はじめてお目にかかる、マリー殿。ハインツと申す」
「こちらこそ、以後よろしくお願いします」
マリーは一国の王に対する礼をする。
国王の横には、黒髪の幼い少女がいた。
こちらを見て、にっこりと笑う。
マリーもやや曖昧な笑みを浮かべた。
その女の子は、親し気な視線を送ってくる。
彼女と会ったことはないはずだが……一体何故だろうか?
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