36 奔走
「だがそれも、アズダハル様が復活なされば問題ではない」
「そんな伝説にしか過ぎないものが、実在するわけない」
「アズダハル様は実在なさる。このルガール王国にな」
「なんですって!」
「お前たちはそれすら忘れてしまったのか。だから愚かだというのだ」
ロムロは低く笑う。
「我らの数は少なく力はまだ弱い。ようやくアングリアの愚かな王のもとに拠点を築いたが」
そこでロムロは部下達に向かって何か合図をした。
マリーは振り返りたい気持ちを我慢する。
「シレジアの毒沼に囚われていたアズダハル様の魂は、ルガールの地下にある体と融合し、聖女祭にて復活なさる、ネセバルの丘でな」
「そうはさせないわ」
言葉を発しながらも、マリーは自分の無力さを痛感する。
だが今は少なくとも、より多く相手から情報を引き出すべきだ。
「おばあ様のご病気も、あなたのせいなの?」
「あれはほんのお遊びだ。お前の義母のイーディスを通じたな。だがお前の祖母も、わずかながらも竜の巫女の力を持っているらしい。そのせいで思ったより上手くいかなかったがな」
マリーはこっそりと目だけを動かし周囲を見る。
いくら相手の魔法はマリーに通じないとはいえ、短剣一本では心もとない。
「竜の血をひく我らに、竜の巫女たるお前を傷付ける事はできぬ。だが竜の巫女の力も竜とともにあってこそのもの。ゆっくりと見定めるがよい。お前の国の行く末をな」
いつの間にか、アングリアの兵らしき人影が周りにいた。
目の焦点があっておらず、正気を失っているように見える。
「ふむ……まだ完全ではないか、操心の術も」
ロムロは軽く唇をゆがめた。
「あと一週間。それで世界は変わる。連れていけ。丁重にな」
皮肉っぽくロムロが笑った。
ここは大人しく従うしかない。
マリーは唇をかむ。
彼らの陰謀をとめねばならない。
だがどうやって?
自室に戻りベッドに寝転がる。
思いは乱れ、考えはまとまらなかった。
翌日の目覚めはとてもいいとは言えなかった。
まずは祖母に相談すべきだろう。
そう思って王太后の部屋へと向かった。
だがすぐに衛兵にとめられる。
「マリー様はお部屋にいて頂くようにと、陛下のおおせでして」
しばらく押し問答をしたが埒が明かない。
仕方なく自室に戻り、アリスを呼ぶ。
だがやってきたのは見慣れぬ侍女だった。
「アリスはしばらくお休みしたいと、実家に戻りました」
「そんなはずは……」
言いかけてやめる。
おそらくこの侍女も、義母かあのロムロの手の者なのだろう。
窓から外を見る。
昨日よりもアングリアの兵の数が増えていた。
このままではいけない。
闇竜アズダハルとやらの復活をとめなければならない。
祖母も助け出さなければ。
アリスはひどい目にあってはいないだろうか?
しかしこのままではマリーにできる事は何もない。
何とか血路を切り開いて誰かに知らせにいくか。
ルガールの騎士や魔術師たちには、おそらくアングリアや闇竜教徒の息がかかっている。
となるとこの場合、味方になってくれそうなのは……
「マリー、やっぱり変だぜこの城は」
思わず心臓が止まりそうになる。
「ド、ドラコ。どこいってたのよあんた。それよりどこから入ってきたの?」
「細かい事は気にすんなよ。それよりさ」
ドラコは見てきたものを話す。
「街にはアングリアの兵が多いし、この城もだ。といってルガールの兵と争っている様子もない。こりゃ前々から仕組まれてたな」
「何でそんな?」
「多分マリーのおばあさんに味方する者を制圧して、実権を握ろうとするためだろうよ」
「それは……でも」
「重臣達や将軍クラスは分断されて、あちこちに閉じ込められてる。部下達は事情がわからず不安がっている」
騎士団や魔術師団と連絡はとれないだろうか?
とはいえマリーは、ここルガール王国ではあくまで『無能のマリー』と呼ばれる第十王女に過ぎなかった。
自分の言う事を聞いてくれるとは思えない。
「それより大変なの。闇竜アズダハルが復活するって。毒沼にいた闇竜の影は、アズダハルの魂だったって」
「アズダハル……アズダハル……うーん。何か思い出せそうだけど」
ドラコは顔をしかめて考えている。
「私の力じゃどうしようもない。ドラコ、竜人国へ行ってこの事を知らせて欲しいの」
「けどさ。大丈夫なのかい?仮に竜人国から兵を出して国境を越えたら、侵略ととられるんじゃないの?」
「それについては大丈夫。ちょっと待ってて」
マリーは机の中から紙を取り出すと、さらさらと書きしたため、指輪で印を押す。
「これを国王陛下かアスランに渡して」
「いいけど、期限は?」
「聖女祭で復活すると言っていたからあと一週間かな」
「ちょい厳しいね。おいらが全速力で飛んでも、竜人国まで三日ってとこかな……マリー手を出して」
マリーはドラコに向けて手を差し出す。
ドラコはその手を握り目を閉じる。
二人の体が光に包まれる。
マリーはしばらくの間、ドラコの暖かな体温を感じていた。
「よし。全速力で行ってくるよ」
「気を付けてね」
「大丈夫。見つかりゃしないって」
そう言ってドラコは取っ手に飛びついて扉を開け、部屋を出ていく。
「あっちょっと!」
マリーは急いで後を追う。
だがドラコの姿はもう見えなかった。
「マリー様いかがなさいました?」
通路の先に立っていた衛兵が不審そうな顔で近づいて来る。
それに適当に返事をしてごまかし部屋に戻った。
彼らはどうやらドラコには気付かなかったらしい。
だが何故だろう?
そういえば今までも何回か奇妙な事があった。
真竜だとも言われる、竜の子供ドラコ。
彼は一体何者なのだろうか?
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