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03 竜人国へ

 そして竜人国(ドラゴニア)へ出立する日がやってきた。,,


「それでは行ってきます」


「気をつけてな」

「どこに行っても、ルガール王国の王女としての気品を忘れないようにね」


 父と義母が言う。

 続いて見送りの一同から、次々と言葉が発せられる。

 彼らは表面上は笑顔を浮かべていた。

 特に姉妹たちは。


 竜人国(ドラゴニア)へ行ってみたいという奇特な人間は、マリーだけなのだろう、多分。

 竜人国(ドラゴニア)の首都へは馬車で北に向かい、十日ほどの距離である。

 なにしろ一国の王女がやってくるということで、国境ではあちらから迎えが来るそうだ。


 マリーと侍女のアリスは馬車に乗る。

 そして護衛の騎士に守られて、出発した。


 アリスは窓から身を乗り出して、いつまでも手を振っていた。

 きっと家族が見送りに来ていたのだろう。


 マリーも外を見る。

 小麦畑が一面に広がっていた。

 遠くには緑に覆われた山々が見える。


 しばらく進むと、なだらかな丘に差し掛かった。

 そろそろネセバルの丘も近いはずだ。

 その時マリーの鋭い目は、遠くの人影をとらえた。


「ちょっとごめん。とめて!」


 御者に命じる。

 アリスは少し驚いたように、マリーを見た。


 マリーは馬車から降りる。


「ちょっとだけだから」

 護衛の騎士にマリーはそう告げて、丘の上をめがけて走る。


「マリー様」

「マリーお姉ちゃん」


「みんな、ありがとう。見送りに来てくれたんだ」


 それはいつも仲良くしている、遊牧民の子や農民の子供たちだった。

 その親たちは一様に笑顔を浮かべ、頭を下げている。


「マリーお姉ちゃんこれ、コチカの実だよ」

「ありがとう、アリシア。道中でいただくわ」


 その女の子は少し嬉しそうだった。

 コチカの実を干したものは、この国では一般的な軽食であった。


「マリー様、よければこちらを。お守りです」

「ヴェロニカありがとう。大切にするね」


 ヴェロニカは少しはにかんだ様に軽く頭を下げる。


 他の者も次々に挨拶する。

 口々に、入学のお祝いの言葉を述べた。


「ねぇ、マリーお姉ちゃん。でも竜人国(ドラゴニア)って怖い所じゃないの?」

「そんな事ないよ!帰ってきたらお土産話をしてあげるね」


 実のところは、竜人国(ドラゴニア)がどんな所かマリーにもわからない。

 多少なりとも不安のようなものはなくはない。

 だが少女を安心させるために、そう言った。


 そしてマリーは再び馬車に乗り込んだ。

 馬車の窓から身を乗り出し、丘の上の人たちに手を振る。

 姿が見えなくなるまで、彼らもずっと手を振り返していた。


「マリー様、あの人たちは?」

「騎馬の民よ、アリス。いつも仲良くしてもらってるの。アリスもこれ食べる?」

 アリスは礼を言ってコチカの実を受け取る。

 そして奇妙な目でマリーを見ていた。

 

 そのような目で見られる事は慣れている。

 一般的には騎馬の民とは、昔ながらの暮らしを守る変わった人達という印象だろう。


「私、初めて見ました」

「とてもいい人たちよ」


「その……マリー様が、ああいった人達と交流なさっている噂は聞いていましたが」

「そう?変かな?」

「いえ、とても素晴らしい事だと思います」


 アリスは少し慌てたように言う。

 とはいえ騎馬の民の天幕に泊まった事がある王族は、マリーと祖母のミリアムくらいだろう。

 定期的に族長が王都に挨拶に現れるくらいで、王族も貴族も基本的に彼らとかかわる事は無い。


 国境につくまでは特に変わった出来事もなかった。

 馬車は王族用の最上級のものだ。

 途中休憩し、馬を替え、王室の別邸に泊まる。


 ぽつりぽつりとだが、アリスとも色々話すようになった。


「アリスは何歳?」

「今年十五歳になります」

「じゃぁ私と同い年なんだ」


 アリスは貧しい地方の男爵家の出身で、今年からマリーの側仕えとなった。

 七人兄妹の長女らしい。


「男爵といっても名ばかりで。私が家族を支えなきゃいけないんです」

「その歳で立派だと思うよ」

「ちょうど運よく、マリー様付きの人員が空いてまして……いや、あの……」


 アリスは口ごもる。

 

 マリーは決して横暴な主人ではないだろう。

 むしろ王宮にいない事も多い。

 だがルガール王室の変わり者という事で敬遠されていた。


 王家の人間の侍女ともなると、全員が貴族出身である。

 少しでも有力な王族に仕えたいというのは人の情だ。

 また女性であれば、女主人のドレスやアクセサリーを貰えたりという役得もある。


 それに対してマリーと言えば……

 

 鬼ごっこの相手をさせられる。

 無理やり馬に乗せられる。 

 いつもボロボロの服を着ている。

 弓の的にされる。


 などといった評判だった。

 実際はそんな事はないのだが、いやはや噂というものは恐ろしい。


 ただ五年前に一度、寒い冬の日に侍女を馬の遠乗りに付きあわせてしまった事がある。

 その後、その女の子は風邪をひいて寝込んでしまった。


 その時は後で祖母にもきつく叱られた。

 確かにそれについては、深く反省している。


 他に昔は、蛇やトカゲを捕まえて、侍女に見せたりしていたらしい。

 ただ、何分幼児の頃であり、マリー自身は覚えていない。

 これも若気の至りという事で許して欲しいものだ。


 そうこうしているうちにあっという間に日は過ぎて行った。

 そして、ルガール王国での最後の拠点である、ウラニエ伯爵の城へと到着する。


「はじめまして殿下、ウラニエ伯ボリスでございます」

 年のころは四十くらいとおぼしき男が、うやうやしく挨拶した。


 城は小高い丘の上にあった。

 石造りで堅固な要塞のようでもある。

 大勢の騎士たち、使用人達の出迎えを受けた。

 

 広間に通され、上座に座らされる。


「こちらは国王陛下が以前いらっしゃった時にお座りになりました」

 との、伯爵の言だった。


「ところで殿下、既に竜人国(ドラゴニア)より迎えの一団がこちらの城に来ておりまして」

「そうなの?お目にかかりたいわ」

「それが……第一王子のアスラン殿下が直接いらしてるそうで」

「ええ!すぐお呼びして」


 伯爵は部下に命じた。

 しばらくすると、竜人国(ドラゴニア)の人間らしき一団がやってきた。


 マリーの護衛や侍女のアリスは、興味深そうな視線でその一団を見る。

 竜人と呼ばれる人間を見るのは初めてなのかもしれない。


 もちろんマリーも竜人国(ドラゴニア)の人間と会うのは人生初だ。

 一見したところ、普通の人間と変わらないように見える。

 だから知らずに竜人を見かけているという事はあるかもしれない。

 竜に変身する種族というが、本当なのだろうか?


 一団の中の一人が前へ進み出る。

 驚くほどの美貌の少年だった。


 黒髪に茶色の瞳。

 まだ大人になりきっていない、華奢な体つき。

 年のころはマリーやアリスと同じくらいかもしれない。


 彼は軽く一礼して挨拶した。


「はじめまして、マリー殿下。竜人国(ドラゴニア)の第一王子アスランと申します」

読んでいただき、ありがとうございます。


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