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マリーよ、竜に乗れ!~無能王女は竜人国で覚醒しました~  作者: 流あきら


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13/40

13 栽培

「はい、それでは今日は農業実習です」


 教官の声が響く。

 マリーたちは大学の所有する栽培園にいた。

 今日は農業実習の授業であり、実際に作物を育てるのである。

 

 マリー、侍女のアリス、矮人族(ドワーフ)のミラミラ、長耳族(エルフ)のユリアの四人とも、この授業をとっていた。


「こんなに本格的なのは初めてですわ」

 アリスが言う。


「といっても、体験学習だからね」

 ミラミラは本格的な農業の経験がある。

 彼女にとっては、こんな授業は遊びのようなものだろう。


 マリー達はせいぜい、ちょっと土を耕したり、草むしりをしたりといった程度だ。

 それでも王族や貴族にとっては異例の事だろうが。


 最初は用具や実習の流れ等の簡単な説明だ。

 本格的な栽培は次回以降になる。


「とりあえず育てる作物の種や苗はこちらで用意します。持ち込みの希望があれば考慮します」


 教官はそういって、初回の授業は終わった。


「ねぇ、ミラミラ。あのドワーフ芋は育てられないかな?」

 マリーはふと思い立って聞いてみる。


「気に入ったの?多分この土地でも育つと思うけど」

「うん。美味しかったし、栄養があるって事だし。もっと広まればいいのに」


 ミラミラから聞いたが、ドワーフ芋というのは凄いものらしい。

 痩せた土地でも栽培でき、収穫まで三ヶ月。

 くせがなく、何にでも合う味。


 これは小麦に替わって主食になるのではなかろうか?

 この大陸の国々にも、定期的に小麦が不作の年があり、飢饉も起こる。

 ドワーフ芋がそれを解消できるかもしれない。

 決して、マリーが食いしん坊だからこんな事を考えるのではないと思う。


「魔法の作物なんてないよ、マリー」


 芽に毒があったり、作る土地によっては病気に弱かったりするらしい。


「でもやってみて損はないでしょ?」

「そうだねぇ。まぁ先生の許可が出れば」


「もしかして、あれって他の国に持ち出しちゃいけないものとか?」

「そんな事ないんだけどね。ただあまり広まらないのよ」


 それはわかる気がする。

 この大陸では、あまり芋というものを食べる習慣がない。

 うまいかまずいかとは、また別の話であった。


 そして授業の後は、竜魔術師のハネスに会いに王宮に行く事になっている。

 週に何回か通う事にしたのだ。


 あらためてマリーを、ハネス以外の幾人かの魔術師が検査をした。

 だが、魔力のかけらも見当たらなかった。


 ただ「我らの使う地水火風の魔法とは違う波動を感じます」と言われた。

 竜人国(ドラゴニア)における魔法も、ルガール王国の魔法と基本的には同じらしい。


「マリーさん、お疲れ様」

「マリーさん、こんにちは」

 

 竜人国(ドラゴニア)の騎士や貴族らしき学生達が挨拶をしてくる。

 マリーも挨拶を返した。

 あのエリザとの試合以降、彼らの見る目が変わったようだ。


 竜人国は尚武の国であり、女性であっても強いものは尊敬される。

 確かアスランがそう言っていた。


 母国にいた時は、王女が剣や槍や弓を習ってどうするのだと言われたものだ。

 ルガールでは学問や芸術に長けた人間が尊敬される。

 国によって違うものである。


 マリーは王宮からの迎えの馬車に乗る。

 一人で馬に乗っていくからいいと言ったのだが、そういうわけにもいかないと断られた。

 何しろマリーは竜人国の王女であるルドミラの恩人でもある。

 

 ここは相手の好意に甘える事も必要だろう。

 そう割り切って馬車に乗る。


 王宮に行けば行ったで、丁重な扱いを受ける。

 かえって気づまりになるほどであった。


「来たか」

 ハネスの部屋へ行くと、彼は既に目を覚ましていた。

 今日は二人きりである。

 ハネスは今は一線を退き、主に後進の指導にあたっているそうだ。


「竜の巫女の事を、もっと話してくださいませんか」

 マリーは話の口火をきる。


「といっても、竜に力を与え、竜を癒し、竜を治める存在という以外はわしも知らぬでな」

「これの事も?」

 マリーは竜の首飾りを見せる。


「竜の巫女がつけていたというものだが……」


 ハネスはそう言って語り始めた。


 はるか昔。

 竜人族の先祖は、光竜と言われる竜が治めていた。

 そして竜に力を与える竜の巫女と暮らしていたという。

  

 いつの頃か、竜の巫女が生まれなくなり、それとともに竜人族の力も徐々に衰えていった。

 竜の巫女の力は地水火風の魔法とは違う系統であること、竜の巫女の見分け方等だけが細々と伝承されたという。


「私は竜人族ではありません。でも竜の巫女の資格があるのでしょうか?」

「竜人族であるかは関係ない。人や長耳族(エルフ)であった事もあれば、もちろん竜人族であった事もあるようだ」


「そうですか」


「竜の巫女の力は魔法とは違い、あくまで竜自身の魔力や治癒力を高めるものだと思っておる。そして竜は竜の巫女を傷付ける事はできないとも言われている」


 そういってハネスは目の前の杯に手を伸ばす。


「この前竜に乗りたいと言っておったが、竜人も古竜もなかなか気難しい。まぁおいおいな」


 そして修行が始まった。

 竜の巫女になるための修行というのは、当然ながら知られていない。

 

 そのため、昔から伝わっている、魔力を高めるための基本訓練である瞑想をする。

 後々は、回復魔術師や補助魔術師が行う訓練もやるらしい。


 マリーは目を閉じ、呼吸を整える。

 まずは鼻から息を吸って鼻から吐くらしい。


 そして頭の中に太陽を思い浮かべる。

 暖かくさんさんと降り注ぐ日差し。

 その光が全身を循環し、それから自分の体が光り輝く様子を想像するよう言われた。

 

 だんだんと体が温かくなっている気がする。


 その時、ノックの音がした。


「何じゃ?しばらく邪魔をするな言ったろう」

「申し訳ありません、ハネス様。緊急事態でございまして」


 入ってきたのは魔術師らしき風体の男だった。

「宰相エーリッヒ閣下のご子息の竜化が止まらず、是非ともハネス様にお越し頂きたいとの仰せで」

「ふむ……わかった」


 ハネスはマリーを向いて言う。


「マリー、おぬしも同行するがよい」

「わかりました」


 という事で、ハネスとマリーは宰相宅へと向かった。

 王宮からほど近い、歩いていける距離である。


 案内された先には部屋の中央に大きな寝台があり、その周りには大勢の人間がいた。


「おおハネス様、それにマリー様も。昼過ぎからオスカーが急にこのように……」


 宰相のエーリッヒは、戸惑い憔悴した様子だった。


 マリーは中央の寝台をあらためて見る。

 オスカーと呼ばれた、小さな子供の(ドラゴン)がいた。

 苦しそうに喘ぎ、うめき声を上げている。

 

「魔術師団の団長はちょうど北方へ巡察に出ておりまして。今の王都の医師や魔術師では……」


 宰相の言葉を聞きながら、ハネスはベッドの上の(ドラゴン)の様子を見る。


「うむ……これは」

 ハネスは祈りながら、宰相の息子の手を握っている。


「子供の竜変異(メタモルフォーゼ)は体に負担がかかります。このまま竜化が止まらなければ」

 エーリッヒは動揺を隠せない口調で言った。


「だが、これはちとやっかいじゃな。時間がかかるやもしれぬ」

 ハネスは難しい顔をしている。


「あの、竜化が止まらないと、どうなるんですかハネス様?」

「ふむ。この機会に知っておくのも良いじゃろう」


 子供の竜変異(メタモルフォーゼ)は体に負担が大きい。

 それだけでなく、竜の姿を長い間取り続けていると、理性を失って暴れ出すのだという。

 そうなってしまった竜人をどうするか、ハネスはあえて言わなかった。


「それは……」


 ハネスは目を閉じ、祈り続けている。

 竜魔術師のハネスにできない事はマリーにもできないだろう。

 だが竜の巫女は竜の力を強め、癒すものだという。


(そうだ、さっき教わったじゃない)


 マリーは呼吸を整え、目を閉じ、太陽を思い浮かべる。

 ハネスの肩にかるく手を置く。

 

 いつの間にかマリーの体は光に包まれていた。

 そしてその光がハネスへと流れ込んでいくのを感じる。


「おお」

 

 宰相のエーリッヒは、驚きと安堵のため息を漏らした。

 オスカーはいつの間にか竜の姿から、元の子供の姿に戻っている。

 そしてじきに、安らかな寝息を立て始めた。 

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