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天笠製薬へ(2)


「せまいなー!」

「わぁ暴れるな、(ケージ)が倒れる!」


 リーが檻の中で身動ぎすると、ガッシャガッシャと檻が揺れる。

 いまにもバランスを崩して檻がひっくり返りそうだ。


「きゅーくつで、なんかムズムズする!」


「目的地についたらいくらでも体を伸ばせるから、

 今はガマンしてくれ……」


「むー!」


 俺たちはそれぞれが檻の中に入り、

 後ろが荷台になったクルマ――バンで運ばれている。


 檻は大型犬が使うようなモノをさらに大型化したもので、

 人間でも楽々入ってしまう大きさだ。


 さすがに檻の中で立つことはできないが、座っている分には問題ない。

 檻に背中を付け、足を伸ばすだけの広さがある。

 

 しかし、この檻はリーにとっては小さすぎるようだ。


 檻の中のリーはネコのように箱座りするしかなく、みっちりといった感じで檻に詰まっており、尻尾が檻の格子からはみ出ていた。


 ネコは箱に詰まるのが好きだが、リーはそうではないようだ。

 見た目がネコっぽくても、中身は人間だからな。


「はぁ……こんな方法で入ることになるとは」


「まぁ、これは仕方ないだろ。

 俺たちが天笠に入るには、これしか方法がないんだ」


「それはわかりますが、気分は良くないですね」


「まぁね」


 俺たちが檻に入っている理由は他でもない。

 天笠の工場に入るためだ。


 いくらエイタが天笠の主任だといっても、

 天笠とは無関係の人間を、工場の中に入れることはできない。


 そう。人間なら入れない。


 しかし、モンスターの血清を打った人間の場合は違う。

 「検体」という名目で中にいれることができる。

 

 天笠ではモンスターの血清を打った人間は、

 モンスターと同様の扱いなのだ。


 あまり気分の良い話ではないが、

 この際、これを利用するしかなかった。


 天笠のロゴの入った檻の中に入った俺たちは、

 檻ごとクルマの荷台に乗せられて、工場の中をエイタに運ばれていた。


「せまく、苦しい思いをさせて申し訳ないです」


 運転席でハンドルを握っているエイタが、申し訳無さそうにいう。


「気にすんな。無理を言ったのはこっちが最初だし。

 でも、なるだけ早くつくことを願うよ」


「はい」


 檻の中に入っているせいで、外の様子はまるでわからない。

 クルマのボディ越しに聞こえてくる音と、

 平衡感覚だけが外の様子を知るための手がかりだ。

 

 ここにいると外が見えない。

 だが、クルマが前の方に傾いている感覚は感じる。

 ということは、地下に潜っていっているのか?


(クルマが下にいくってことは、天笠(アマガサ)の工場は地下にあるのかね)


 下に向かって動き始めてから、30分くらい経っただろうか。

 バンが止まり、檻をのせている荷台のリアドアが開いた。


「皆さん、つきましたよ」


「っと……やれやれだな」


 エイタが荷台の檻を開け、俺たちを外に出す。

 クルマの中にずっといた俺は新鮮な空気を求めて息を深く吸い込んだが、

 空気にどことなくオイルのツンとする臭いが混じっていた。


「なんかくさいなー!」


 床に爪を立てて伸びをしているリーも、この臭いに気づいたようだ。

 彼女はすんすんと鼻を鳴らし、へちゃっと顔をしかめる。


「何か油臭いよな」

「うん。キカイの腹の中にいるみたいだー!」


「やっぱりわかりますか。

 ここは深すぎて、あんまり排気がうまく行ってないんですよね」


 シヴァのシェルターでは、こんな不愉快な臭いは無かったが……。


 機械の換気装置と、モンスターの能力を使った力技の差かね?

 そのことをエイタが知ったら驚きそうだな。


「クルマが下に向かってる感じはしていたが、

 ここってやっぱり地下なのか」


「はい。安全性に問題があったり、機密性の高い作業をする場所は、

 物理的に人から遠ざけているんですよ」


「まるで悪の秘密結社の研究所みたいだな」


「始めてここに来た時、僕も同じことを思いました。

 ちょっとテンションあがりません?」


「わかる。なんか壁の感じとか設備もメカメカしいし、

 マジでそれっぽいよな」


 クルマが止まっている場所はターンテーブルの上で、

 その背後はジャッキやフレームがむき出しになった、

 メカメカしい立体駐車場になっている。


 サキュバスになったとはいえ、俺の中身は男の子だ。

 こういうものを見ると、魂が()かれてしまう。


「さぁ、こちらにどうぞ」


「あ、クルマはいいのか?」


「えぇ、後は勝手にやってくれますので」


 俺は理解しかねたが、彼の言葉の意味はその後すぐにわかった。

 ターンテーブルが自動的に回転して、

 クルマが自分でかってに動き、車庫の中に入っていったのだ。


「車が勝手に……自動運転か?」


「すげー!」


「魔法みたいでしょ」


「じゃあさっきまでの運転も?」


「はい。工場の中は私有地なので、

 色々と融通がきくんですよ」


「はぇーすっごい」


「さ、僕の仕事場に案内しますよ。

 ここは僕が一人で使っているんで、心配はいりません」


「あ、あぁ」


 案内された彼の仕事場は、学校の体育館くらいの広さがあった。

 室内には何に使うのか分からない機械やロボットアームが

 ひしめきあって並んでいて、工場というよりは研究所みたいだ。

 

 ぱーどぅん? この施設をおひとり様で?


「なぁ……シヴァ、もしかしてエイタってすごい人?」


「今さら気がついたんですか?

 あの若さで天笠の主任をしているのは異常ですよ。

 彼はエンジニアとしては天才の部類ですね」


「なんでそんな人材があんな廃屋で、

 エナジードリンク漬けになって使い潰されてるんだよ……」


「残念ながら、万人に一人の技術を持つ人よりも、

 どこにでもありふれたお金をたくさん持っている人のほうが偉いのです」


「やるせねぇ……」




や、やるせねぇ…。

しかし割と現実ではよくあること。

マッポー!

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