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31/42

天笠製薬へ(1)


★★★


 天井の高い大きな倉庫の中で、男たちが机を囲んでいる。

 室内にもかかわらず、男たちはサングラスをかけて黒い背広に身を包んでいた。


 黒服の男たちは、暴力をビズにしている者が持つ特有の雰囲気を持っている。

 ただそこに立っているだけで、倉庫の空気はピンと張り詰めていた。


 彼らはヤクザ・アサシンだ。


「ウェイウェイ!」

「ウーッス!」

「チョレタッス! スマンス!」


 机を囲んでいたヤクザ・アサシンが、言葉らしき音声を発する。

 その音声は意味を理解するどころか、

 通常の人間では聞き取ることも困難な音階を持っていた。


 彼らが交信に用いているのは、「ウェイ語」と呼ばれる特殊な言語だ。


 これは主にヤクザクランが用いる圧縮言語だ。

 ひとつの言葉に複数の意味をもたせ、さらに発音を省略することで、

 効率的なコミュニケーションを実現しているのだ。


 その効率化はすさまじい。

 ウェイ語はなんと「ウェイ」という単語ひとつだけで、

 日常的な会話が可能になっているのだ。


 彼らが用いるウェイ語の始まりは、

 ヤクザ・アサシンの始祖「クニサダ・チョウジ」だと言われている。


 彼はヴァイキングのバトルクライ(雄叫び)にヒントを得て、

 ヤクザの戦闘時の掛け声に意味を追加して、

 より複雑なコミュニケーションをできるようにしたのだ。


 しかし、ヤクザ・アサシンでない一般市民にとって、

 この「ウェイ語」は非常に難解な言語だ。


 いや、とても言語として聞こえたものではない。

 ウェイ語の発音は、非常に日本語に良く似た動物の声と評される。


「ウェイウェイ!」

「ッス!」


「ええい、何を言ってるかわからん!

 ちゃんと日本語でしゃべれ、日本語で!!」


「ウス!」

「ウッスウッス!!」


 机を囲み、奇声を上げる黒服たち。

 彼らの視線はルイのかつての相棒――

 ウーラ・ギルマンに注がれていた。


「ギルマンさん、襲撃の生存者がつきました」


「急に正気に戻られても、なんかアレだな……。

 まぁいい、連れてこい」


「ッス!」


 さがった黒服は、車椅子の上に白い物体を乗せて持ってきた。

 いや、物体はわずかに動いている。


 ――人間だ。

 車椅子に乗っていたのは、

 全身を包帯でぐるぐる巻きにされている人間だった。


「なんだこりゃ、まるでミイラだな」

 

 ギルマンの言うとおり、車椅子に乗っていた人間は、

 実際、エジプトのファラオめいていた。


 車椅子に乗ったファラオを連れてきたヤクザ・アサシンは、

 ひどく鎮痛な面持ちで、なぜこうなったのかをギルマンに説明した。


「ッス、連中をアンブッシュしたッスが、

 やつらの返り討ちにあってめっちゃ火傷してるッス」


「暴力の専門家(スペシャリスト)であるアサシンが、ここまでやられるとはな。

 いったい何があった?」


 ミイラはとても喋れる状況ではない。

 彼のかわりに、車椅子を押していたアサシンが話し始めた。


「へぇ……ギルマンのダンナの言うとおりに、

 こいつらは『嘆きの壁』の近くで待ち伏せしてやした。

 そんで、首尾よくルイちゃんを見つけて尾行をしたんですが――」


「ふむ、何か問題があったのか?」


「はい、なんでもルイちゃんが

 見慣れない連中に護衛されていたとか」


「何ッ!? いったいどんな連中だ!!!

 俺以外にルイの相棒はいないはずだぞ!!!」


 気色ばんだギルマンが、ファラオを激しく上下に揺さぶった。

 そのあまりの勢いに周りのアサシンは驚き、

 慌ててギルマンを止めに入った。


「ッス! 落ちつくッス!」


「クソッ! これが落ち着いていられるか!

 俺以外のやつとルイが~!!」


「落ち着くッス! 女っス!!

 棒の生えてるやつは一人もいなかったそうッス!」


「スンッ」


 そのアサシンの言葉を聞いたギルマンは、

 急に大人しくなった。


「ふぅ、あわてさせやがって。

 そういうのは最初に言うもんだ」


「ッス。情報の優先度が良くわかんないッスね」


「バカッ! それがいちばん大事なことだ!!

 で、返り討ちにされたってのは……その連中にか?」


「そうみたいッス。

 壁にいたルイちゃんは、クルマに乗って高速に入ったんですが、

 そこでコイツらはマシンガンでクルマを止めようとして――」


「おい! 捕らえろって言ったはずだろ!!!」


「そこはほら、みね打ちッスよ」


「銃にみね打ちもクソもないだろ……」


「いや、他のクランは知らないっすけど、うちの銃にはあるんス。

 不殺モードってみね打ちの設定が」


「えぇ……?」


「うち、アワブロ・ヤクザクランはシノギの関係上、

 一般人とトラブることも多いッスから」


「あぁ、そういうことか」


「ンン~!!」


「ほら、コイツも言ってるっす。

 みね打ちモードだったら、クルマのガラスも割れない(・・・・・・・・)ッスから」


「ンーッ!」


「ま、銃弾を食らってピンピンしてるやつなんていないわな。

 俺が戦ったモンスターの血清を打ってたやつでも、

 銃で撃てば普通に傷ついて血を流したしな」


「ッス。いくらヤクザ・アサシンでも、

 捕らえろって指令が出てるのに、

 通常モードでぶっ放すやつはいないっす」


「それもそうだな」

「ッス!」


「「ハハハ!」」


「ンーッ!!!」


「さっきからうるさいな。もういいぞ下がって」


「ッス!」


 やたらと(うな)って、何か言いたげだったミイラは、

 車椅子ごと片付けられてしまった。


「ルイに護衛がついているとなると厄介だな。

 俺も出ないといかんな。

 今の彼女(・・)の状況はどうなってる?」


「偵察員の情報によると、どこぞの民家に入り込んで、

 そこで飯食って寝てるらしいッス。

 ギルマンのダンナ、夜襲するなら今じゃないッス?」


「ふむ……いやダメだ、それは紳士的じゃない」


「はぁ」


「何だその顔は。こういうのは勝ち方も重要なんだ」


「じゃあ正々堂々行くってことっすか?」


「あぁ、白昼堂々襲いかかり、

 男らしくルイをさらっていくんだ!!

 そのためのプランもある!」


「どんなプランっすか?」


「よし、それを今から説明してやる」


 ギルマンは戦闘服の腕をまくり、机の上の地図に指を伸ばす。

 倉庫の高い窓から見える黒い空が白じむまで、彼らの作戦会議は続いた。




こいつらサイド、いつも楽しそうだな…(

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