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湯気に隠れる悩み


「しゅしゅ、それじゃ水浴びに行ってきましゅね」

「ふ,ふふ……リーをよろしくね」


「あっ、はい」


「いってらー!!」


 アイラとサオリさんは、公衆浴場みたいなところに行くようだ。

 部屋の風呂を使えるのは、体の大きさの関係で俺とリーだけだからな。


 二人を見送った後、うきうきした様子のリーが風呂に俺を案内する。


「こっちが風呂だ―!!」


 うーむ。

 リーのテンションがケタ外れに高い。


 トラって一応ネコの仲間だよなぁ。

 ネコはお風呂嫌いなんじゃなかったっけ。

 トラはそうでもないのかな?


「リー、そんなに興奮したら危ないよ」


「誰かと一緒にお風呂に入ることってなかったからなー!!」


 ――ああそうか。


 この部屋のお風呂を使えるのはリーだけだ。

 彼女はお風呂の時間はいつもひとりきりになる。

 だから、誰かがいるのが嬉しいのか。


「うぉー!!」

「こらこら、脱ぎ散らかしちゃダメだよ」


 彼女が脱ぎ捨てた服を畳んで、脱衣所のカゴに置く。

 これもサオリの糸で作った服なのかな?


 リーの服は、カンフーの達人が着るアレに似ている。

 拳法着から袖を取っ払った感じで、とてもゆったりしている。

 以前の俺だったら、部屋着に欲しかったかもしれない。


 ……ふむ。この手触りからすると、たぶんそうだな。

 普通の素材じゃリーの爪が引っかかって、すぐにボロボロになりそうだもんな。

 モンスターの服はモンスターの素材で作らないと()たないんだろう。


 俺も服を脱いでタオルを巻くと、洗い場に向かった。

 すると、リーはちょこんとタイルの上で箱座りしていた。


 うーむ。こうしてみるとほんとネコっぽいな……。

 とりあえず湯船にお湯を入れるか。


 俺は時代がかった水道の蛇口をひねってお湯を注ぎ入れる。

 今どき温度調節のない蛇口ってマジ? 昭和感すごいな。


「お風呂にお湯を入れている間、体を洗おうか」

「おう!! これ使ってくれよなー!!」


 リーが俺に手渡してきたのは、見たことないシャンプーだった。

 ボトルには、泡に包まれているネコのイラストがラベルに描いてある。


 これ、ペット用のシャンプーか……?

 ――!! もしかすると、もしかするぞ?!


「ちょ、ちょっとまってな」

「おー?」


 俺はお風呂場と洗面場を見て回る。

 が、ダメ……ッ!!

 ここには石けんとペット用シャンプーしか無いようだ。


 ペット用かぁ……。

 俺みたいな人間――いや、人間型のモンスターが使っても大丈夫なのかな?


 石けんで髪を洗うとガサガサになりそうだしなぁ……。

 仕方ない。ペット用でも使うしかないか。


「ルイねーちゃん、どうしたー?」

「今戻るよ。湯船に入る前に、洗ってキレイしないとね」

「おー!!」


 とは言ったものの、どうするか。

 リーの背中を手ぐしでとかしてやると、結構なボリュームがあるのがわかる。

 こりゃ大変そうだ。


「リー、いつもはどうやって洗ってたんだ?」

「そこのブラシでやってたぜー!」


 リーはそう言って風呂場に立てかけてあるデッキブラシを指す。

 ……これって風呂掃除に使うやつじゃなかったんだ。


 ふむ。よく見ると先がシリコン製のクシになっている。

 シャンプーブラシのモンスター用か?


「なるほど、これかぁ……」

「これ、イマイチ背中がかけなくてさー!!」

「よーし、任せな!」


 俺はシャンプーを手に取ると、ポンプを押してリーの背中に直接落とす。

 そしてシャワーで濡らしながら、手ぐしでぐしぐしと泡立ていった。


「うひー! なんかくすぐったーい!!」

「こら、ガマンして……よし、こんなもんでいいかな」


 泡立ちの頃合いを見て、俺は次にブラシでガシガシ洗っていった。


 なんか動物園の飼育員になった気持ちだ。

 でもちょっと楽しいかも。


「お客さん、かゆい所ないですか―?」


「お、おっ、あ、もうちょっと上ー!!」


「はーい!」



 湯気で真っ白になった浴室の中で、リーが湯船に浸かっている。

 なんかこう、彼女は黙っていると威厳があるな。

 いつもは子供っぽく感じるけど、じっとしていると獣の王って感じがする。


 さて、今度はこっちが洗う番だ。


「よっこいしょっと」


「ルイの背中、流そうか!!」


「い、いや……一人でできるよ」


 俺の体は、以前より細く華奢きゃしゃになっている。

 ここでリーに洗うのを任せると、俺の上半身が消し飛ぶのでは?

 そう思って断ったのだが……。


 湯船の中のリーはしゅんとしてしまった。

 さっきまでの元気がなくなって、子猫のように見えた。


「リー?」


「ごめんなー。オレ、ダメなんだ。

 モンスターになってから力の加減がうまくいかなくって」


「あぁ、そういえば農場でも言われてたな……」


「うん……オレって触ったモノをすぐ壊しちゃうから、みんなから――」


「ジャマ者扱いされてる。それを気にしてたんだな」


「うん……いつもそうなんだ。

 オレ、力強すぎっから」


「それは難しい問題だな。

 でも、リーは壊そうと思ってやったか?」


「ううん。オレはみんなを手伝いたくって――でも」


「そうだよな。

 リーの普通はみんなと違う。だから難しいよな」


「うん……オレって嫌われてるのかな」


「リー、そんなことはないよ。

 アイラもサオリもリーのちがいを認めてるだけだ。

 嫌いだからそうしてるわけじゃない」


「ちがいを認めてる?」

「あぁそうだ」


「どういうこと?」


「無理に苦手なことをさせないってことさ。

 畑で野菜を取るのは俺たちに任せればいい。

 リーはそれをたくさん運べばいい。

 今もそうしてるだろ?」


「うん……」


「上手くいかないことはある。

 だからって自分を嫌いになっちゃ駄目だ」


「自分を嫌いになったら、次は仕返しをすることになる。

 その嫌いを周りの人にふりまきはじめるんだ。

 もしそうなったら、リーは本当に嫌われちゃうぞ」


「うん……」


「できないことはできないこと。

 なら頼ればいいだけさ。リーは今日からそれを学ぶんだ

 できないこと、それを学ぶんだ」


「できないことを学ぶ?」


「人間はやりたいことや、好きなモノの数だけ苦しみを持つ。

 それはアイラみたいな友だちを持つだったり、自分の力だったり……。

 そういう好きなモノが自分の手からはなれていったら、つらいだろ?」


「うん……」


「好きをたくさん持とうとすると、苦しみが増える一方なんだ。

 だから……失っても、できないことを嫌いにならないようにする。

 そうすればリーは自分が好きになれるはずだ」


「そうかな……?」


「あぁ、だって俺がそうだからな」


「ルイねーちゃんは何でもできそ―だけど?」


「オレなんか全然だよ。

 友だちになるって、自分と他人のそういうのを知っていくんだ」


「ちがいを知る?」


「そうだ。それで友だちに無理をさせない。

 それが友だちになるってことかな」


「……うん! わかった!」




この作者、急にマトモになったな。

すんません、(作者)こういうやつなんですホントに。

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