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テラリウム

「ここが農場でしゅ」


「建物の中に森が……?」


「すげーだろー! 意味わかんねーよな!!」


「あぁ、うん。ここまでとは思わなかった」


 俺が想像してたのは、もっとこうメカメカしい感じだった。


 人工照明が天井に並び、立体的な水路となった栽培装置が並ぶ。

 そんな空間を想像していた。


 だが、俺の目の前に広がっている光景は、それとは真逆だ。

 どこぞの森をハサミで切り取って持ってきたような「ザ・大自然」だ。


「こりゃ大したもんだ。みんなでつくったのか?」


「でしゅ!」


「おう!! 土をほって、土をほったり、とにかく色々やったぞー!!」


 リーはふふんと勝ち誇るようにして、白い胸を反らした。

 両手と首にバケツを下げてなければ、もっと様になっただろう。


「しゅしゅ! 中へどうぞでしゅ!」


「うん……わ、これはすごい天井の高さだな」


 部屋の中に入った俺は、天井の高さに驚いた。


 扉の高さはかなりのものだったが、天井はそれ以上だ。

 それなりの太さを持った木が、自由に枝を伸ばせるくらいある。


 木の幹の太さは、俺が手を回しても全然足りる気配がない。

 2人か3人がかりで囲んでようやくだろう。


「あの木、どっから持ってきたんだ?」


「シヴァさんが持ってきた苗木を育てたでしゅよ」


「おー! 最初はこんなだったぜー!!」


 リーがトラの手で「こんなサイズ」とやって見せる。

 だが、その大きさはサッカーボールくらいだ。


「そんな小さな苗木を……?」


 リーのいう事はちょっとおかしい。

 このシェルターはできてから4,5年のはず。

 だが、目の前にある木の背丈は、俺よりもはるかに大きい。


 ここの壁には、かつて床があったであろう場所が模様になって残っている。

 模様の数は3つ。


 ひとつの階が3メートルだと仮定すると、天井は9メートルくらいだ。

 しかし、(こずえ)は天井をこすっている。

 たった4,5年の短時間で、ここまで木が大きくなるはずがない。


「愛情がいっぱいだから良かったんだろうな―!」


「でしゅ! 温かい言葉をかけるとよく育つといいましゅ!」


「そんなバカな……」


「いえ~彼女たちの言うとおりですよ~」


「――え? のわっ! いつの間に!?」


「最初から~いましたよ」


 俺の後ろから、誰かがミョーに間延びした声をかけてきた。


 振り向くと、琥珀(こはく)色をした宝石のような眼がこちらを見ている。

 憮然(ぶぜん)とした表情を俺に向けるのは、生木でできた人の像。

 そう形容するしかない人だった。


 人の姿はしている。

 しかし肌は木そのものだし、髪の毛も葉の生えたツタと花でできていた。


「見ない顔~ね」


「え、えっと……ご挨拶が遅れましてすみません。

 ルイです。えっと、サキュバスです」


「……」


「彼女はカオリさん。農場のご主人(すじん)のドリア―ドでしゅ!」


 ……ドリアード?

 この名前は、ゲームか何かで聞いたことがある。

 木のモンスターだ。森のステージでよく出てくるやつだ。


 彼女は木のモンスターの血清を打ったのか?

 人間が植物になるなんて……。


 カオリさんは俺をじーっと見つめている。

 木だからなのか、表情の変化が乏しくて何を考えてるか読めない。


 ひょっとして、怒ってるのかな……?


「……先~にいわれた~」


「しゅしゅ!! ごめんでしゅ!!」


「もー!! アイラは世話焼きだからなー!」


「くやしいから~最初から~」


「あっはいルイです」


「カオリです~」


「…………」


「よ~ろ~し~く~」


「よーろーしーくー?」


 俺は彼女のペースに、ついひっぱられてしまった。


 なんていうか、この人の時間の流れは独特だな。


 この性格はモンスターの血清のせいなのか?

 それとも、元になった本人の性格なのだろうか。


「それで~何のよう~?」


「お野菜を分けてもらいにきたでしゅ!」


「うん~いいよ~」


 彼女はカシカシと木のきしむ音を立てて歩き始める。

 言葉の速度感に反して、意外にも動きはすばやい。


「畑はどこだい?」


「32番~夕採りするなんて~(つう)だね~?」


 植物の根のように長くねじれた指で、カオリは天井を指差す。


 天井を見ると、鉄のパイプが格子状に張り巡らされていた。

 パイプにはところどころ、シャワーのヘッドのようなモノがついている。

 なるほど、水やりはアレでやってるんだな。


 シャワーヘッドにはそれぞれ数字が書いたプレートがついている。

 アレを頼りに進めというわけか。


「あれを見て進めばいいのか。夕採りが通ってのは?」


「お野菜は昼間に甘みを作るから~夕方が一番甘くてえぐみがない~」


「へぇ~!」


「でも水気は少ないから~すぐ乾く~今日食べるのおすすめ~」


 さすがプロだ……参考になるな。


 俺たちは32番の札が下がったシャワーの下につく。

 そこには大きな菜園があり、たくさんの実がなっていた。


「ナスやキュウリ、それにカボチャとトマトか。夏の定番野菜だな」


「しゅしゅ! 嫌いなものとかダメなものとかあるでしゅか?」


「いや、特にないかな」


「んじゃ! 取っていこうぜ―! ふぎゃ?!」


 菜園に突撃しようとしたリーが、カオリに捕まった。

 なんだなんだ?


「リーは踏み荒らす~から~ルイとアイラだけ~」


 ……わりと順当な理由だった。


 ここまで歩いてきた地面を見ると、それも納得だ。

 リーが残す大きな足跡は、オレたちのものに比べて深さもすごい。

 彼女が菜園を歩くと、その気がなくても掘り起こしちゃうな。


「じゃあ取っていくか……」

「しゅしゅ!」


 俺はアイラと一緒に野菜を取る作業を始めた。


 菜園の中に入って気づいたが、この32番は壁に近いようだ。

 大きな円筒の穴が開いたコンクリートの壁が見える。


 穴の中では大きなファンが回っている。

 ここからでも、穴に向かって流れる風を感じる。


 そうか、シェルターの空気はここでつくられてるのか?


「なぁカオリ。ここで作った空気を建物の中に回しているのか?」


「そうだよ~でも最近調子が悪くって~」


「調子?」


「ファンが時々~大きな音を立てるんだよね~」


「ふーん……」


 俺はカオリと世間話をしながら、野菜の収穫を続けた。

 野菜はどれもたいした大きさで、バケツが一杯になるのもすぐだった。


「よし、こんなものかな」

「しゅしゅ!」

「おー! メシだメシだ―!!」





おや、何かのフラグが立ったような……

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