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気怠い鬱金香  作者: 鈴原 紫蘭
9/10

茅花流し


満開だった桜の花が散りゆき

しばらく時が経ち、今度は向日葵の花が

元気に太陽に向いて咲き始めたある日の事


私は、白藤神社に来ていた。


あの子供たちの行方不明事件の後


再び『アレ』の一部と出くわした時

迂闊にも動揺し意識を失ってしまった。

そんな失態を二度と起こさぬように

私は再び朧様の元で修行をするようになっていた。


白藤神社の裏の修行場で

来る日も来る日も、滝に打たれながら

『アレ』との恐怖心と戦っていた。


『アレ』に抗う事も出来ず飲まれていった母の姿

日に日に弱っていった母の姿

『アレ』に憑かれながらも果敢に霊を祓う母の勇姿

何を思って母は私の前から姿を消したのか


自分の記憶にある母の姿を思い出しながら

生死も分からぬ母の事を想っていると

そんな私に朧様が声を掛けてきた。


「琴音、どうやら心が乱れているようだね

 一旦休憩にしなさい。」


「あぁ、すみません。」


そう言って川から出ると

朧様が柔らかいタオルで濡れた私の髪を拭いてくれた。


「心を乱してはいけませんよ

 あの世の悪しき者たちや妖は心の乱れに付け込んできます。」


「わかっています。

 わかっているのですが…。」


あの禍々しい覇気を放つ、『アレ』の存在

その一部にすら、震えあがって冷汗が流れ出すような

今の私の力では『アレ』の祓い方が分かった所で

祓う事など出来やしないんじゃないか


そんな自分の無力さを

どうしても搔き消す事が出来ない。


暗く沈み込む私の表情を見て

朧様も心配そうにため息を漏らす


そんな時だった。


「けっ、随分と情けない面しよってからに

 こんな弱っちい小娘に使役されとるとは

 アタシも落ちたもんだねぇ」


と、私に厳しい声を投げかけるのは

片手でパチンコの玉をジャラジャラと転がす

夕影ゆうかげだった。


「いいかい、アタシという大物を

 使役してるんだから嬢ちゃんは

 ドンと構えてりゃあいいのさ

 だからこそ面構えぐらいはシャンとしな!!」


そう言ってバシンと思いきり私の背を叩いた。


「痛ぇなぁ…でも、ありがとう夕影

 ちょっと気合入った!!」


「ふんっ、馬鹿みたいに何時間も滝になんて打たれて

 体が冷え切って青っちょろい顔してるじゃないか

 これでも食うて休んどれ!!」


なんて言いながら乱暴に寄こしてきたのは

恐らくパチンコの景品であろう大量のお菓子だった。


言葉は厳しいものの、夕影なりに

私を心配してくれているんだろう。

その後、夕影は「パチンコ打ってたら肩が凝った」

なんてぶつぶつと文句を言いながら

依り代である夕日色の古びたブローチへ

スッと姿を消した。


そんなやり取りを見ていた朧様は


「全く、主である琴音が式神に心配されるなんて

 確かに情けないかもねぇ」


なんて言いながらフフフっと笑っていて

私は「えへへぇ(笑)」なんて照れ笑いをして誤魔化した。


それから私は、夕影がくれた

とても一人では食いきれない量のお菓子を抱えて

神社の境内へ向かうと

そこでは若い女の子たちのきゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえていた。


彼女たちの視線の先では春野ひばりが

せっせと神社の本殿の掃除をしていた。


ひばりは女の子にとてもモテるタイプみたいで

白藤神社に訪れる若い女の子たちは

神社よりもひばり目的で訪れている子がほとんどだ。


確かにひばりは、宝塚のトップスターみたいな

雰囲気のある子だからなぁ


そんなひばりを夕影がくれたお菓子を

ボリボリと食べながら眺めていると

ひばりが私の視線に気付いたようだ。


「あっ!!琴音姉ちゃん!!

 修行おつかれー!!」


「おう、ひばりも掃除お疲れさん

 休憩がてら お菓子の消費手伝ってくれないか?」


「うっわ!すげぇ量持ってんなぁ

 さっきまで修行してたんじゃないのかよ」


「えへへぇ、これは夕影がくれたパチンコの景品だ」


「また夕影のばーちゃんパチンコ行ってたのかよ

 琴音姉ちゃんも主なら式神の管理ちゃんとやれよな」


「いいんだよぉ、夕影はパチンコ行きがてら

 街中の地縛霊や浮遊霊に目を光らせてるから

 この辺の霊たちは大人しいだろ?

 ある意味それが夕影の仕事なんだ」


「ふーん、ばーちゃんもちゃんと仕事してたんだ」


「まぁ、8割はパチンコだけど(笑)」


そんな話をしながら

二人でお菓子を食べていると

突然、ひばりの目つきが変わり

持っていた(んまい棒)をバキッとへし折ると

鬼の形相で箒を構えた。


「また来やがったな!!!あの変態野郎ー!!!」


と言ってひばりが駆け出すと

遠くの方で「ひいいい」という叫び声が聞こえる。


「ははは、清秋せいしゅうのヤツ

 また懲りずに神社に来たのかぁ(笑)」


仕方ないなぁ、と思いながら立ち上がり

ひばりが駆けていった方へ歩いていくと

神社の鳥居から少し離れた所で

ひばりに箒でボコボコにされている清秋の姿があった。





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