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気怠い鬱金香  作者: 鈴原 紫蘭
6/10

魚氷に上る【伍】


白藤神社を後にした私たちは

桃ちゃんの案内で、桃ちゃんの自宅に向かう事にした。


桃ちゃんの話では

もうそろそろ妹さんが幼稚園から帰ってくるそうだ。


「いいかい桃ちゃん

 もしも、桜ちゃんの身に危険が迫っているようなら

 桜ちゃんは一旦白藤神社に連れていくからね」


と、前もって桃ちゃんにこれからの話をしておいた


もしも、悪しき者に憑かれていたのなら

神聖な場所で守り、清める必要があるからだ。


そんな話をしてから

ずっと怯えた顔をしていた桃ちゃんの顔が

また少し青ざめていた。


そんな不安そうな桃ちゃんとは逆に

桃ちゃんの家の玄関から

「ただいまー!」と元気な声が聞こえてきた。


桃ちゃんのお母さんに手を引かれて

リビングに現れたのは

幼稚園で沢山遊んできたのか少し泥だらけの

桜ちゃんだった。


桃ちゃんのお母さんに「お邪魔しています」

と、軽く挨拶を済ませると

私たちは桜ちゃんを連れて、桃ちゃんの部屋に移動した。


。。。。。。。。。。。。。。。


桃ちゃんの部屋では、桜ちゃんが

きゃっきゃと笑いながらお人形遊びをしていて

そんな彼女を見ながら、どう話を聞きだすか

考え込んでいた。


何故なら、私は生きてる人間の子供が苦手だ。


何を考えているのかさっぱりわからん。


(月姫と星姫の事ならよくわかるんだがなぁ…)


と、考えながら難しい顔をしている私を見て

くいなが私の代わりに桜ちゃんに話しかけてくれた。


「ねぇ、桜ちゃん

 今日は幼稚園楽しかった?」


「うん!今日はね、砂場でメルちゃんと

 いーっぱいお山作ったの!!」


「メルちゃん?」


「うん!この子だよ!!」


と、楽しそうな顔で彼女が差しだしたのは

さっきから大事そうに抱いていた

ピンク頭の古びたお人形

随分古い物らしく少しくたびれてはいるが

その人形から悪い気配は何も感じ取れない。


まぁ、悪い気配がしないだけ


桜ちゃんが大事そうにしているお人形には

魂が宿っているのは間違いない。

でも、桜ちゃんに大切にされてきたからこそ

宿った魂だ。

桜ちゃんと一緒に居られる事をとても喜んでるだけで

悪さをするようなヤツじゃないのは確かだ。


この人形は違う、と

くいなにアイコンタクトを送ると

またくいなが桜ちゃんに話しかける。


「桜ちゃんには他にどんなお友達がいるのかな?」


「んーとねぇ、あぶちゃん!!」


きた!!


やっと本題の話を聞けそうだ。


桜ちゃんに優しく話しかけるくいなが

ぎゅっと拳を握った。

ここからは慎重に話を聞き出さなければならない。

くいなも少し緊張しているようだ。

だが、表情は崩さないまま

優しい問いかけを続ける。


「そっかぁ、あぶちゃんかぁ

 幼稚園で仲良しのお友達なのね」


「んーん、違うよ

 あぶちゃんはね、幼稚園の子じゃないの

 だってね、あっくんにもにーなちゃんにも

 あぶちゃんは見えないから

 だからあぶちゃんは桜だけの特別なお友達なの!」


「どうして、あっくんとにーなちゃんには

 あぶちゃんが見えないの?」


くいながそう問いかけた時

さっきまで楽しそうに話していた

桜ちゃんの表情が一変した。


「それはねぇ…桜しかお守りを持ってないからだよ」


くくくっ…と悪戯に笑う桜ちゃん

さっきまでのあどけない笑みとは違う

悪魔のような笑み

それを見た瞬間、部屋の隅で様子を見ていた

桃ちゃんが一瞬「ひっ」と悲鳴を上げた。


しかし、それに屈することなく

くいなが質問を続ける。


「へー、そうなんだ。

 それはどんなお守りなの?

 良かったらお姉ちゃんにも見せてくれないかな」


「優しいおじさんが言ってた。

 このお守りは桜のだけの特別なお守りだから

 桜にしか見えないって

 だから、見せてあげれない」


ふんっ、という感じで背中を向ける桜ちゃん


その時、桜ちゃんが抱いていた

お人形から微かに声がした


『…くび…て…くび…』


その声は、必死に私に何かを訴えかけている。

まるで、私に助けを求めるかのように


私は何か嫌な予感がして

慌てて桜ちゃんの細い手首を掴んで

両方の手首をまじまじと見た。


桜ちゃんの左の手首には

黒い糸のような物が桜ちゃんの細い腕を

今にも千切らんとする勢いで食い込んでいる


「桜ちゃん…これ、痛くないの?」


恐る恐るそう尋ねると

桜ちゃんは不思議そうな顔をして答えた。


「お姉ちゃんには、見えるの?」


「うん、見えるよ

 これ、大丈夫なの?」


「ぜーんぜん痛くないよ」


そんなやり取りを見て

くいなも桜ちゃんの手首をじっと見るが

桜ちゃんの手首に食い込んでいる黒い糸が

くいなには見えていないようだった。


これは、私と桜ちゃんにしか見えていない。


しかも、この黒い糸のような物からは

何か禍々しい物を感じる。

それに、私はこの黒い物を過去に見た事がある。


まるで、これは


『アレ』の一部


これは、黒い糸なんかじゃない

こいつはきっと『アレ』の髪の毛だ。


桜ちゃんの人形が必死に私に訴えかけてきたものは

これで間違いない。

これをすぐに外さないと、桜ちゃんは他の子同様に


姿を消してしまうだろう。


まさか、こんな所で『アレ』の存在と再び出くわすなんて


私の頭の中に幼い頃の記憶が一気に駆け巡った

大きくなっていく黒い塊、生気を失っていく母の顔

恐怖焦り悲しみありとあらゆる負の感情が沸き起こって

体の震えが止まらない冷汗がだらだらと滝のように流れる。


また私はこいつに大事な物を奪われるのか…!!


その時、温かい手が私の両頬に触れた。


「琴音様、怯えてはいけないのです。」


私の右の頬を月姫が撫でる。


「琴音様は星姫たちが守るのです。」


私の左の頬を星姫が撫でる。


いつの間にか現れた二人の優しく笑いかける顔を見た途端

私は、急激な睡魔に襲われて

そのまま意識を失ってしまった。











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