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気怠い鬱金香  作者: 鈴原 紫蘭
5/10

魚氷に上る【肆】


久しぶりに訪れた白藤しらふじ神社


少しずつ咲き始めた桜の香りがふんわりと漂っていて

鳥居を潜れば神聖な空気に包まれる。

普通の人なら、この美しい光景を見て

心を弾ませたりなんかするのかもしれない。


だけど、私にとっては

家出娘実家に帰る。

という、何とも言えない気まずさしか感じられない。


少しだけくいなの背後に隠れながら

ゆっくりと足を踏み入れていくと


少し遠くの方から

鬼の形相をした女の子が

物凄い勢いで走ってくる。


「また来やがったな!!!!

 このクソナンパ野郎ー!!!!」


春野ひばり―


くいなの妹で年頃の女性らしい

くいなとは正反対で

見た目はボーイッシュで

よく男に間違われることもあるらしい


そんな彼女が鬼の形相をしているという事は


「ひいいいいいいい!!!!!」


私たちから少し離れて

しれっとついてきていた清秋が悲鳴を上げている。

そんな清秋をひばりは持っていた箒を

ブンブンと振り回しながら追いかけていった。


これが、ひばりセンサー


清秋が白藤神社の鳥居を潜れば

ひばりが清秋の気配を秒速で感知し

どんな所からも駆けつけて

清秋を確実に追い払う。


「ははは、清秋も懲りないな」


ひばりから必死の形相で逃げ去っていく

清秋の背中を見つめながら

私は、少し呆れた顔をする。


そして、顔をフッと正面に向き直すと

突然、両頬を誰かにバチンと掴まれる。

「うわぁ!」と声を上げながら

私の両頬を掴む人物をよく見てみると


これまた鬼の形相をした

朧様のドアップだった。


「こ~と~ね~(怒)」


「お、朧様!?」


「しばらく顔を出しに来ないなんて

 どういうつもりだい!!」


「あぁ~…ごめんなさい。」


「まったくあんたって子は!

 どんだけ私が心配していたのか

 わかっていますか!?」


「そりゃあ、まぁ

 わかっていますとも…それなりには」


と、目を泳がせながら答える私を

しばらくジッと睨みつけていたが

突然、フッと優しく笑うと

今度は私をぎゅっと思い切り抱きしめた。


「まぁ、いいでしょう。

 相変わらず元気そうで安心しましたよ

 霊力もきちんと抑えていられるようですし」


「これも朧様の修行の賜物です。」


「あらあら、修行から逃げ出したくせに

 よく言いますね」


「うっ…。」


ぎくりとした表情を浮かべる私を

朧様はフフッと笑いながら見ている。


そんなやり取りを終えた後

私たちは、朧様に本殿へと招かれた。



。。。。。。。。。。。。。。。。



くいなが淹れてくれた温かいお茶を飲みながら

私は早速、桃ちゃんの件を相談する事にした。


事の経緯を話し終えると

やはり朧様も腑に落ちないような顔をしていた。


「確かに、それは隠し神で間違いないだろうが

 琴音の言う通り 具現化した存在が

 こうも短期間に行動するなんて

 私も聞いた事がありませんね。」


「やはり、朧様もそう思われますか…

 普通の霊とは違って妖のような存在は

 人間に見つからないように

 ひっそりと姿を隠すことが多いのに

 今回の隠し神は、短期間で行動しすぎて

 その存在を認知してない人間たちが騒ぎ始めている。

 このような状況は、本来避けたがると思うのですが」


うーん、と小さく唸りながら

頭を抱える二人を見ながら

くいながポツンと言葉を発した。


「なんだか、生きてる人間みたいな動き方よね」


その言葉に私は疑問の声を投げかけた。


「人間みたい?どういう事さ

 相手は最初から人間だったわけじゃないんだぞ」


「でも、これが人間の仕業だったら

 別に不思議じゃないわよね?

 短期間で行動する誘拐犯だとしたら

 違和感はあまり無いし」


というくいなの意見に

「確かに」と思いながらも考え込んでいると

神社に来てからまだ一言も発していなかった

桃ちゃんが声を上げた。


「あ、あの…っ

 ひとつ、いいですか?」


「おう、なんだい?」


「関係ない事だと思って言いそびれていたんですが

 実は、うちの妹が【見えないお友達】と

 遊び始めるほんの数日前

 変な事を言っていて…」


「変な事?」


「はい、知らないおじさんに

 特別なお友達が出来るお守りを貰ったって…

 でも、お守りみたいな物なんて

 持ってなかったから

 知らないおじさんに物を貰ったらダメだよ

 って注意だけしたんです。」


その話を聞いて、朧様が慌てた様子でこう言った。


「琴音、すぐにその子に会ってきなさい。

 もしかしたらその子…」


「もしかして呪術、ですか…?」


「それを見定める事があんたが今

 やるべき事だろう

 もしその子の命が危険に晒されているのなら

 悪しき者から守ってやるのもお前のなすべき事よ

 それが強い力を持ったお前の使命じゃないのかい」


「…わかりました、自分の使命

 母に代わって成し遂げます。」


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