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気怠い鬱金香  作者: 鈴原 紫蘭
3/10

魚氷に上る【弐】



そんなこんなで、結局は

くいなに無理矢理 買い物に付き合わされる羽目になり

久しぶりに街へと繰り出していた。


が、くいなの顔はずっと怒りの表情を浮かべている。

何故ならば


「琴音お嬢様、こちらのパーカーなど如何です?

 お嬢様好みのとても地味なデザインですよ」


「んぉ、清秋せいしゅうは私の服を選ぶセンスがあるなぁ」


「有難うございます。

 やはり、ONIKUROは最高でございますね」


「おー!清秋あれ見ろ

 とっても地味な腹巻があるぞ!」


「素敵でございますね。

 もう春とはいえ、まだ日暮れは冷え込みます

 お腹を冷やしてはいけませんし

 購入しては如何でしょう」


「清秋!これ、カイロを入れるポッケもあるぞ

 便利だなぁ!!」


「機能性も抜群でございますね!」


そんなやり取りをムッとした顔で見ていた

くいなも流石に我慢の限界なのか


「ちょっと待ちなさいよおおおお!!」


とっても大きな声が出た。


「なんで清秋がしれっとここに居るのよ

 あんたどっから湧いて出てきたの!?」


と、怒鳴るくいなとは正反対に

清秋は冷静にさも当たり前に答える


「何故と言われましても

 私、琴音お嬢様の付き人でございますから」


芦屋清秋

こいつはいつもどこからともなく現れて

私に引っ付いて歩く謎の男だ。

あの手この手で私の育て親でもあり師匠である

おぼろ様に近付こうとするせいか

春野シスターズには嫌われている。

ちなみに何故か、うちの月姫と星姫も

こいつの事を嫌っている。


「何が付き人よ!!

 あんたはただ朧様に近付きたいだけでしょ!?

 あんたの目的の為に琴音を利用しないでくれる?」


「利用だなんて失礼な…

 私はあくまでも琴音お嬢様の付き人でございます

 まぁ、あわよくば朧様にも再びご挨拶をさせて頂ければ

 幸いでございますが」


「それを利用って言うのよ!!」


「まぁまぁ、くいな落ち着けよ

 こいつが朧様に近付けない事くらい

 くいなが一番知ってるだろ?」


「確かに、こいつが一歩でもうちの鳥居を潜ろうものなら…」


「ひばりセンサーに引っ掛かって

 こいつはひばりにボコボコだ(笑)」


「恐ろしい事です、あの小娘

 いや、あれは最早 小鬼と言うべきか…」


ギリギリと爪を噛みながらブツブツ独り言を

言い出す清秋を見て

くいなは大きくため息をつく


「まぁ、いいわ

 この人が居たんじゃ下着屋さんにも

 入れないし、いつもの喫茶店にでも行こうか」


「そうだなー、そろそろ

 あいつにも美味いコーヒー飲ませてやりたいしな」



。。。。。。。。。。。。。。。。。



人が賑わうショッピングモールを出た私たちは

いつもの通い慣れた閑散とした静かな喫茶店に来た


今時の若者が好きそうなデザートなんかは置いてないが

レトロな雰囲気やマスターの淹れるコーヒーが絶品な

隠れ家的な喫茶店


いつもの決まった席につくと

私はポケットから出した古びた懐中時計に触れる

すると、現れたのは


「おや、主殿この香りは…。」


雲路くもじの好きなブレンドコーヒーだ

 しばらく飲んでなかったろ?

 お前、あまり表に出たからないもんな」


「えぇ、不要な時に現れて主殿の霊力を消耗させるわけには

 いきませんからね」


そう言いながらも目の前に置かれたコーヒーカップを手に取り

コーヒーの香りを楽しんでいる。


「相変わらず雲路さんは琴音思いの式神ね」


「おや、くいな殿

 挨拶が遅れて申し訳ございません。

 誠にお久しぶりですな」


そう言いながらコーヒーを口にすると

何とも言えない幸せそうな顔を浮かべる


雲路は何ていうか

THE紳士!って感じの落ち着いたやつだ

コーヒーを楽しむのが好きで

コーヒーと向き合っている雲路の幸せそうな顔が

とても好きなんだが

雲路は、私に遠慮がちで私の霊力の消耗を心配して

不要な時は呼ばれたがらない


私にとって式神は、物ではないんだがな


と、物思いにふけっていると

喫茶店のドアが開き、来客を告げるベルが

カランカランと店に鳴り響く


何気なく音のする方へ眼を向けると

古びた喫茶店には似つかわしくない

若い女子高生が三人立っていた


「こんな所に女子高生なんて珍しいわね」


と、くいなもボソッと呟いた。


そして、マスターに案内され

席に着いた女子高生は何故か声を潜めながら

コソコソと話を始めた。


「それ本当にこんな所でしか出来ない話?」


「大きな声で言えないならカラオケの個室でも良くない?」


と、不満を漏らす子たちの向かいに座ったのは

どこか怯えた様子の女の子

その子が恐る恐る口を開く


「ねぇ、最近ニュースでやってる話知ってる?

 小さい子供たちの行方不明事件」


「あぁ、なんかあの神隠し?とか言われてるやつ」


「最近多いよねー、でもそれがどうしたの?」


「ニュースのインタビューで居なくなった子たちの

 親御さんが言ってたじゃない

 居なくなった子たちの共通点」


「えっと、なんだっけ

 【見えないお友達】とか言ってなかった?」


「でも、それってイマジナリーフレンドってやつでしょ

 小さい子供にはよくある事らしいじゃん」


「もしそれが、空想とかの存在じゃなくて

 幽霊…とかだったら?」


「きゃー、なになに怖い話?(笑)

 わかった!雰囲気作りの為にわざわざ

 こんなボロっちい店に来たんだ!!

 もも本格的ー(笑)」


「はぁ…桃、いい加減にしてよ

 あんたがマジで悩んでたから

 私、塾休んでまで時間作ったんだよ」


「待って、ちゃんと聞いてってば」


「そんなくだらない話聞いてらんない!!

 私、非科学的な話嫌いなの!

 もう帰る、まだ塾間に合うかもだし」


「待って、菜々《なな》ちゃん!!」


「えー、私は面白そうだと思ったけど…

 でも菜々が帰るなら私もかーえろ」


小梅こうめちゃん!!ねぇ聞いて

 本当の話なの!!」


すごい勢いで帰り支度をする女の子と

それを必死に止めようとする女の子

でも、結局は制止を振り切り

二人は帰って行ってしまい


一人残された女の子は

目にいっぱいの涙を溜めて

立ち尽くしていた


「大丈夫ですか、お嬢さん

 無礼だとは思っていたが少しだけ

 聞き耳を立ててしまってね

 その不思議な話、良ければ私に聞かせてくれませんか?」


と、彼女に声をかけたのは


さっきまで大人しくしていたはずの

清秋だった。


「あの、バカいつの間に…!」


いつの間にか席を立っていた清秋に

腹を立てている様子のくいなだったが

でも、実はくいなも興味津々で

聞き耳を立てていたのは私にはわかっていた。


「いいじゃんか別に

 私もその話聞きたいなー

 ねぇ、雲路」


「そうですな、そもそも

 そんな悲しい涙を浮かべる女性を

 放っておくことも出来ませんしね」


という訳で、突然声を掛けられて

驚いている彼女を自分たちの席に招いて

彼女の話を聞いてみる事にした。







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