魚氷に上る
厳しい冬が終わりを告げ、風が春の香りを運んでくる。
そんな気持ちのいい晴れた朝
うちの神社(勝手に住み込んでる廃神社)に
いつもの来訪者が来る。
「おはよう、月ちゃん星ちゃん」
春野くいな
私の唯一の幼馴染だ。
とても面倒見が良く、私の事を心配して
毎日、美味しいご飯を運んできてくれる。
そんな彼女の優しさに甘えてしまうから
私は今日もゴロゴロと惰眠を貪ってしまう。
「くいな様、おはようなのですー!」
「くいな様、おはようなのですー☆」
毎日、足繫く訪れる彼女を迎え入れるのは
私の式神 月姫と星姫
二人とも、くいなには良く懐いていて
くいなも二人を物凄く可愛がっている。
という事なので
ドカドカとまるで鬼でも歩いているような
激しい足音を立てて廊下を駆け抜けてきて
私の部屋を思い切り開け放ち
「コラ!!琴音!!
毎日毎日、月ちゃんと星ちゃんにばっかり
掃除させてないで たまには自分でやりなさい!!」
「んー…だってぇ」
「だってもでもも聞きません!!」
これが毎朝のやり取り
長年、私の飯の世話をしてくれているせいか
くいなは段々 肝っ玉母さんみたいになっているような気がする
でも、結局は
「ほら、今日の朝ごはんは琴音が好きな
ハムエッグ作ってきてあげたわよ」
私の大好物ばかり作ってきてくれる
優しいやつ
だからいくらガミガミ言われても
私はくいなが大好きだ。
「さぁ!朝ごはん食べるんだから
早く顔洗ってきなさい」
「んー…あと五分だけ寝かせて…。」
「なんでこんな朝からそんなに霊力
消耗しちゃってるのよ」
「だってぇ、夕影が
今日は新台入れ替えだからってー…。」
と、言い終わる前に
ひんやりとした冷気と共に現れたのが
「あのくそババアああああ!!!!」
怒り狂って今にも暴れだしそうなのは
氷華という私の式神
真っ白い雪のような肌に青みがかった長い髪
氷華はお人形さんみたいに可愛いのに
他の式神の話になるとすぐに勝手に飛び出てきては
顔を真っ赤にして怒るんだ。
「主様!!いい加減あのババアは捨てましょう!
毎度毎度パチンコなんて行きやがって!!
このままでは主様が霊力切れになってしまいますわ!!」
「まぁまぁ、夕影だって仕事はきちんと
こなしてくれているんだし…
それにいくら式神だからって
私にとってお前たちは家族なんだ
だから好きな事やらせてやりたいじゃないか」
「主様…もう、主様がそうやって甘やかすから
いけないのですよ」
「氷華は優しいなぁ
でも大丈夫、減った霊力は
眠れば回復するんだから
…という事で、むにゃむにゃ、zzzz」
ここぞとばかりに二度寝しようとする私を
くいなが許すわけもなく…。
「さっさと顔洗ってきなさーい!!」
。。。。。。。。。。。。。。。。
さっきくいなにげんこつを食らった
頭がジンジンと痛む
だけど、くいなの作ったご飯が今日も美味い
くいなのご飯はいつも優しい味がする
そんな美味しいご飯を食べ終わった後
月姫が食器洗いを始めた頃
くいなが食後の温かいお茶を淹れてくれて
こんな話をし始めた。
「ねぇ、琴音
あんたどうせ今日も暇でしょ?
私、今日一日お休みだから
一緒に買い物にでも行かない?」
「えー…買い物って何買うのさ」
「琴音の服」
「私、服なんて要らないよ」
「ダメ!!今日は琴音の服を買うの!!
あんたもまだ花ざかりの女の子なんだから
そんな安物の服ばっか来てちゃダメよ」
「おい、サラッとONIKUROをバカにするなよー
こんなに動きやすくて機能性もばっちりな
いい服をお手頃価格で提供出来る
ONIKUROの企業努力を」
「でも、地味な物は地味なの!!
それに私のお下がりだって着てくれないじゃない」
「くいなのお下がりは全部フリフリのヒラヒラばっかりじゃないか
私には、あんな女の子らしい服は絶対に着れないね」
「どうして?琴音ってすごく可愛いのに…。」
「うわああああやめろおおお
私はそんな風に言われるのが嫌いだ!!
くいなが一番知ってるだろ」
「でも、勿体ないじゃない」
「確かに、くいながくれる服は可愛いよ
私には勿体ないくらいだ
だから…」
「だから?」
「くいなのくれるフリフリでヒラヒラの可愛い服は
とっても可愛い氷華ちゃんが着てくれているのだ!
おいで氷華ちゃーん!!」
と、私が氷華の依り代である
梅の花びらに触れると
先程と同様に冷たい冷気と共に
氷華が姿を現した。
しかも、しっかりとくいなのお下がりの
リボン付きワンピースを着て
「あ、主様…私、ワンピースより
いつもの袴の方が落ち着きますわ…」
「そうよね!!氷華ちゃんはいつもの
モダンスタイルの方が可愛いわよね!!
という事だから、琴音」
「氷華ぁ…頼むよぉ
私は可愛い氷華が大好きなんだよぉ」
「主様がそう仰るなら
氷華はこれでも構いませんが…
その、戦闘時は流石に」
「わかってる、その服を着てもらうのは
あくまでも、私の目の保養の為なのだから」
私がそう言うと氷華は雪のように白い顔を
真っ赤にしながらもじもじとし始めた
氷華は今日も可愛いなぁ
と、和む私をくいなはジッと睨みつけていた…。