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2話



 「…春川先輩、好きで」


 —ガチャ。


 背後で扉が開く音が聞こえ、僕は慌てて言いかけた言葉を飲み込む。振り返ると、そこに現れたのは春川先輩だった。完全に自分ひとりの世界に入っていた僕は、突然現れた思い人を前に固まってしまう。


 「…っ!」


 まさか今の聞かれてないよな。聞かれていたら、かなりまずい!独り言を喋ってた上に、す、す、好きとか言おうとしてたぞ、僕!自分でやっておいて何だが、これはかなり気持ち悪いのでは?まずいぞ!「えっと、あ、あ、あの…」とひとり、あたふたする僕。



 「あれ?まだ残ってたの?」


 「っえ?あっ…ぼ、ぼ、僕は、ちょっと仕事をその、あの…残業であります!」


 慌てた僕は盛大にどもった上に、謎のオタク口調になってしまう。これはかなり恥ずかしいぞ!何をやっているんだ僕は、落ち着け!


 火照った頬を隠すように俯く。そんな僕のことなど気にする様子もなく、先輩は「そっかー、大変だね。お疲れ。」などと言いながら、僕の隣の自分のデスクに近づいてくる。…あれ?先輩普通だぞ。もしかして、聞かれてない?


 

 「せ、先輩こそ、こんな時間にどうされたんですか?確か…出張の後、直帰でしたよね?」


 僕は精一杯、平静を装いながら先輩に尋ねる。先輩の予定なら、事細かに把握しているくせに、確か…とか言って、思い出している風を装う姑息さも忘れない。「んー、ちょっと今日中に確認したい事があってさ。」と、隣に腰掛ける先輩。



 …普通だ。やはり聞かれていなかったのか。タイミング的にギリギリセーフだったのかもしれない。僕は、隣に座る先輩の顔を盗み見る。


 改めて見る先輩の顔は、心なしかいつもより疲れているように見える。そうだ、出張に行っていたのだ。疲れているに決まってる。僕は自分のことしか考えていなかったことを恥ずかしく思い、「出張大変でしたね。お疲れ様です。」と心を込めて、言葉をかける。


 「ありがと。」

 

 少し疲れた表情ながらも、僕をまっすぐ見つめ、ふんわり微笑んでくれた。可愛いい!なんて可憐なんだ!このまま先輩をずっと見つめていたいと、心から思う。


 実際は、そんな大それたことが出来るはずも無く、「い、いえ。」などとモゴモゴ言いながら目を逸らす。これ以上先輩の仕事の邪魔をしてもいけないので、僕はパソコンに向き直る。



 —好きだという言葉が、いっそ先輩に聞こえていたら。先輩は、何て答えるのだろう。受け入れてくれるのだろうか、やはり拒まれるのだろうか。告白する勇気もない臆病な僕は、ひとりグルグルと考える。



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