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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
閑章 廃棄物狂騒曲(ラプソディア・アポリマートン) ~カエサルの物はカエサルに~

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07 アルベルト・ローモンド(後)

 長官代行の執務室から戻って、早速、処理施設長へ電話を掛ける。


『ああ、ローモンドさん。それで、ゴミはどう処理すれば良いのですか?』


「宇宙軍からは、“適切に”処理してくれという事でした。

 ですからクーロイの法を厳格に適用しましょう。」


『それって……不法投棄は投棄者に突き返すという事ですか?

 じゃあ、奴等に押し付けられた分は、全部奴等に突き返しますか!』


「ええ、勿論です。

 そちらの処理能力を超える分は全て、宇宙軍からの押し付け分と見做して構いません。」


 元々、施設の処理能力を超える分は全て外部からの持ち込みと見做して、持ち込んで来た相手に返す、というのが元々のクーロイの法律である。

 今まで能力を超えた分を3区に持って行ったのは、住民のゴミが増えてしまった為であり、コンテナの中身を個別に返すのが困難なので、運用上そうしていたに過ぎない。


『……ふふふ。だから”厳格に”なのですね。』


「その通りです。

 ただ、他にも色々と宇宙軍に対して意趣返しをしたいのです。

 余剰分を直接宇宙軍に突き返すのではなくて、いつもの通り全部貨物ヤードに運び込んで下さい。何往復しても構いません。」


『ゴミからの資材回収はどうしますか?』


「手間でなければ……と言いたいところですが、そんな余裕は無いでしょう。

 明日以降、回収業者に回収させるようにこちらで手配します。

 ですので、施設からは未処理のまま運び出して頂いて構いません。」


『有難うございます! では、早速その様に手配します。』


 処理施設への通信を切り、今度は全回収業者への緊急通達を作成する。

 内容は、3区が宇宙軍によって損壊したため3区での回収が出来なくなった事、そして明日以降、シャトル駅貨物ヤードにて宇宙軍が出したゴミからの資源回収を行う事。最後に、大量の資源回収が見込めるので、各業者で回収物を運搬するトラックを用意する事を記載した。

 記載後、上司の承認を得て、全回収業者へ配信する。


「係長。宇宙軍から、貨物ヤードのゴミについて問い合わせが来ています。」


「こっちに繋いでくれ。」


 若手のカマロ君が、宇宙軍からの電話を繋いできた。


『宇宙軍第7突撃部隊、司令部のキンバートン中尉だ。

 貨物ヤードに大量のゴミが持ち込まれているが、あれは何だ!

 政府側の責任で持ち帰り給え。』


 中尉か……司令部付きということはエリートだと思うが、司令部の中ではかなり下だろう。実際、声も若い。


「清掃処理課、廃棄再利用係のローモンドです。

 貨物ヤードのゴミは、元々貴方がた宇宙軍が捨てたものですよ。こちらの処理施設では到底処理できない量でしたのでね。

 それに、そういう処理施設で処理し切れないゴミは、今までは3区へ持って行っていたのですがね。3区に穴を開けたのはどちら様でしたでしょうか。」


『それはっ……。』


 案の定、宇宙軍側の瑕疵を指摘すれば口ごもる。


「宇宙軍が垂れ流したゴミは、明日以降も貨物ヤードに運び込みます。

 ただ、それでは貨物ヤードがゴミで溢れるだけですから、再利用品の回収はしましょうか。宇宙軍の出したゴミは未処理ですから、回収すると半分くらいの嵩にはなるでしょう。

 明日から、星系内の回収業者を集めて回収に伺うので、上に伝えておいてください。」


『……上に確認を取るので、手配はしばし待って頂きたい。』


 下っ端には判断できないでしょうが、ここは押し切ります。

 既に手配していますし。


「明日からの手配だと、今から手配しなければ間に合いません。

 宜しく上に伝えて頂きたい。それでは。」


『お、おい! 待て!』


 通話を打ち切ります。


 カマロ君と他の数人の若手職員を集めて会議室に入る。

 彼等には、明日以降の貨物ヤードでの再利用品回収作業と、その準備としてエインズフェロー工業に処理装置を貸して貰う依頼をするよう指示した。



 カマロ君はロージェル氏の所へ行って交渉した結果、明日以降の作業で処理装置を動かしてくれることになった様だ。カマロ君達には、貨物ヤードをひっかき回して貰おう。

 次に食糧管理課のバルドー製造係長に電話をする。


「廃棄再利用係のローモンドです。

 長官代行閣下の依頼の件ですが、例の製造ラインは動かせそうですか。」


『ローモンド係長ですか。

 ええ、2年ぶりの稼働なので点検しましたが、少しの調整で動かせそうです。

 材料は大丈夫ですか?』


「貨物ヤードに積まれた、宇宙軍の垂れ流したゴミからの回収を明日以降実施します。順次そちらのラインまで運びますので、製造をお願いできますか。

 完成品を詰めたコンテナは、後で見分けが付く様に、ハンドルを赤く塗って頂ければ助かります。」


『それは了解ですが、見分けって……。』


「バルドー係長にも、結果は御連絡します。

 すいませんが、これは長官代行閣下の案件でして、事前には話せないのですよ。」


『代行閣下の案件ですか。了解しました。

 何をするのか分かりませんが、楽しい事なら、結果を楽しみにしていますよ。』


 よし、これで製造の方も何とかなりそうだ。

 バルドー係長にも代行閣下から話が行っているようだし、宇宙軍へ一泡吹かせる積りであることは察しているかも知れない。


 あと、都市整備部に電話。

 この部門はシャトル運用だけではなく、コロニー内の大型車両、特に大型トレーラートラックの管理もしている。

 宇宙軍が来たことによって、政府内部では今までになく大型コンテナでの運搬需要が増えている。

 普段の運行では、所有する大型トレーラートラックの半分くらいの台数で政府の必要分がカバーできていた筈だが、このプランを実行すると大型コンテナの運搬がかなり増大してしまう。なので都市整備部にはちょっと無理をして貰わないといけないのだが、プランの事を話すと、


『宇宙軍の奴等に一泡吹かせられるなら、出来る限り協力するぞ。

 そのプランだったら、数日位ならなんとかウチの人間だけで回せそうだ。

 流石に1か月とかになると無理だから、早めに決着をつけてくれると助かる。』


 と、何とも頼もしい返事が。


「あまり監察官閣下が意地を張ると、宇宙軍にも大きな影響が出ますから、多分そんなに長くかからない筈です。

 それに長引く前に、長官代行がケリをつけると仰っていますので、大丈夫だと思います。

 それでは、お送りした計画表での対応をお願い致します。

 上手く行った時には結果報告と、部署全員に長官代行からお土産をお渡しする予定ですよ。」


 と、長官代行から委託されたお礼をお渡しする約束をした。

 事前検討で懸案だった都市整備部の協力も、取り付ける事が出来たので一安心だ。


 あとは、長官代行への報告だ。

 ほぼ当初のプラン通りの手筈は整え、明日から回収と製造作業に入る事を連絡した。

 数時間後、夕方になって長官代行から電話があった。


『ローモンド君。準備は順調の様で何よりだ。

 納品について監察官閣下からの指示があった。明後日の午後、シャトル駅に艦船を接舷するので、そちらに納品して欲しいそうだ。

 納め終わった後、宇宙軍内部で簡単なセレモニーとパーティーをするそうだ。派手好きな閣下らしい。』


「ではその前に我々は全部納品して、退散しないといけませんね。

 新たに別の艦船をシャトル駅に?」


『納品先は、監察官閣下の御座乗艦だそうだよ。

 宇宙軍の慰労と、自分の権威を見せつける為だろうな。』


 ……それはまた、面白い事になりそうだ。


「それは傑作ですね。プランが上手く行けば……。」


『確かに面白い事になりつつあるが、ローモンド君、気を抜くなよ。

 サプライズは、事前にバレたら台無しだからな。』




 翌日、カマロ君達は貨物ヤードで資源回収の指揮を執って貰い、私はその他の段取り調整の為に庁舎で仕事をする。

 貨物ヤードで回収した資源のうち、水と有機物は予定通り製造ラインの方へ運び込む様手配した。

 その他の金属素材や電子部品などは、水や有機物を除いた残りのゴミから、各回収業者が選別して運び出す。残り滓はコンテナに再び入れられて、貨物ヤードの隅に置かれることになる。

 バルドー係長へ連絡すると、製造ラインは順調に動いている様子。製造ペースとしては、納品を求められている2000人分の食糧1週間分は今日中に製造できそうだとの事。

 ただ、回収している水と有機物だけでは、材料が少し足りないかもしれないという事で、その場合は、シャトル駅が占拠された事で消費されず余り気味の生野菜や加工品を、古いものから製造ラインに運び、材料にするそうだ。


 長官代行からは、翌日の納品の段取表が送られてきた。

 正午前後に、監察官閣下の御座乗艦が0区シャトル駅に接舷するようだ。納品する食糧の運び込みは、午後1時から3時までの間に完了しなければいけないとの事。

 この間にコンテナを運搬するトレーラートラックの手配も行った。




 日が明けて、いよいよ納品日。

 段取りとしては、運搬の邪魔になる為、昨日再利用品を取った後の残りのゴミのコンテナを一旦ヤードの外に運び、午後1時過ぎから、順次納品するコンテナを監察官閣下の御座乗艦へと運び込む事になっている。

 因みに昨日新たに運び込まれたゴミは、貨物ヤードの隅に積まれていて、再利用品の回収は納品の邪魔にならない様に規模を縮小して実施することになっている。


 今日は作業指示のため、トラックより先に貨物ヤードに公用車で来た。

 午前10時、2台のトレーラートラックを貨物ヤードに向かわせ、昨日再利用品の回収をした残りのゴミコンテナを運び出します。1度に運べないため、ピストン輸送で3回に分けて運び出した。

 そして午後1時、トレーラートラックで工場からの納品用コンテナを運び込む。トラックは貨物ヤードからシャトル駅に入り、宇宙軍の誘導に従って、シャトル駅奥の桟橋を通り、監察官閣下の御座乗艦の貨物エリアにコンテナを運び込む。

 2台しかトレーラートラックが手配できなかったため、工場と納品場所を4往復し、8台のコンテナを何とか3時までに納品出来た。

 長官代行は、最後のコンテナを運ぶトラックに合わせて、公用車で貨物ヤードにやって来た。


「ローモンド君、そろそろ終わるかね。」


「閣下が一緒に来た、あのコンテナで最後です。

 これで()()()のコンテナ9台、無事運搬完了です。」


「上々だな。」


 長官代行閣下と一緒に話していると、宇宙軍の将官服を着た者を先頭に、一団がこちらに向かって来るのが見えた。恐らく、突撃部隊の上官か、御座乗艦の上官に当たる面々だろう。

 閣下と2人で待ち構える。

 一団は私達の前までやって来て、先頭の将官が長官代行閣下に声を掛けた。


「自治政府の総務長官代行閣下とお見受けする。

 私は監察官閣下御座乗の重戦艦アストゥラピ艦長、アナトール・ロベスピエール准将である。

 宇宙軍第7突撃部隊への自治政府の食糧提供に感謝する。」


「自治政府、総務長官代行ピーター・クラークソンだ。

 宇宙軍の指定通り、駐屯部隊2000人の1週間分以上、45000食分の食糧だ。

 事前の約定通りにハランドリ星系への貨物船運航手続きを進めて貰いたい。」


 長官代行閣下は、准将に対して納品書類を提出。

 准将は書類を一瞥して言う。


「目録には45000食分とあるが、食糧の種類は指定通りか?」


「事前の約定では、食糧の種類までは合意されていない。

 種類まで指定されても対応できない旨、事前に了承頂いている筈だ。」


「……そうか。仕方あるまい。」


 准将はそう言い、書類にサインをし、長官代行閣下に書類を戻した。


「手続きは以上だと思うが、戻らせて頂いても?」


「ああ、構わない。追加供給についてはまた別途。」


 了承を得られたので、閣下と私はこの場を辞去する。

 コンテナの中身を見て難癖をつけられても困るので、さっさと退散するに限る。


 我々の公用車が貨物ヤードを出た所で、長官代行と顔を見合わせ、大笑いした。


「長官代行にお出まし頂いて助かりました。

 私だけなら、宇宙軍も受け取りに下っ端の士官が出て来たでしょう。そうすると中身まで見られて難癖を付けられる所でした。」


「実質政府トップの俺が出て来たから、向こうも将官が出ざるを得なくなる。お互い忙しいから、受け取りも書類確認だけになるだろう、という訳さ。

 向こうが中身を確認するまでに退散するのが、このプランの肝だからな。」


「でも、この後監察官閣下からまた怒られるのでは?」


「それを受け止めるのが、責任者の俺の役目だ。

 まあ心配するな。そう酷い事にはならん。」


いつもお読み頂きありがとうございます。


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