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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
閑章 廃棄物狂騒曲(ラプソディア・アポリマートン) ~カエサルの物はカエサルに~

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01 クロエ・リーゼンブルー

本業が多忙のため、3月中に投稿する予定がかなり遅くなってしまいました。


この閑章は、時系列的にはクーロイ星系に宇宙軍が来た前後の話になります。

本編の主要人物は登場しないか、ちらっと名前だけ出る程度です。

<自治政府 都市整備部 シャトル運航課施設管理係 クロエ・リーゼンブルー>


 式典では、0区でのセレモニー準備に追われました。私はまだ若い一般職員だからという事で、列席者の方々が3区へ向かわれ、会場の片づけを終えた後で上司から帰宅を促されました。

 帰宅後は式典の様子を放映するTVを点けながら家事をしていましたが、突然宇宙軍の突入部隊が乱入した辺りで上司から連絡が入りました。


「リーゼンブルー君。

 申し訳ないが、今から庁舎に戻って来ることは出来るか。」


「それは構いませんけど。

 一体どうしたのでしょうか。式典の関係ですか?」


「関係あるというか、そうでないというか……。

 式典に宇宙軍が乱入したことがTVで放映されているが、こっちのコロニーのシャトル駅にも宇宙軍の艦船が接近しているらしい。

 シャトル駅の職員から連絡が入った。」


 つまり施設管理係として、宇宙軍が来た時の対応を取る、という事ですか。


「分かりました。今から準備をして向かいます。」


「済まない。頼んだ。」




 スーツに着替えて庁舎に戻り、勤務する施設管理係に向かいます。

 職場に入ると、上司と先輩数人が出かける準備をしています。


「今からシャトル駅に向かう。君も一緒に来なさい。」


 思ったより、宇宙軍が来るのが早かったのでしょうか。


「わかりました。1区や2区は大丈夫なのですか?」


「向こうにも宇宙軍が来ているらしい。どう対応するか方針は伝えてある。」



 公用車でシャトル駅に行き駅長室に向かうと、既に軍服を着た数名が駅長室の前にいて、駅職員達と話をしているのが見えました。軍服の1人は対応している駅職員の胸倉を掴んでいます。


「皆様は、どちら様で?

 駅職員への無体は困りますな。」


 上司の声掛けに、軍服達は一斉にこちらを向きます。


「我々は宇宙軍の者だ。君達は誰だ?」


「自治政府でシャトル運航関連設備を管理しています、都市整備課施設管理係長のルメール・カルストと申します。」


 上司の自己紹介に、職員の胸倉を掴んでいた男が手を離して答えます。

 粗暴そうな振舞でしたから下っ端だと思ったら……よりによって責任者ですか。


「宇宙軍第7突撃部隊、第4歩兵部隊長のウィリアム・バーンズアウトだ。

 自治政府の、という事は、ここのシャトル運航の責任者か?」


「私共はこちらの駅施設の管理責任者ですね。シャトルの運航管理責任者は別に居ります。

 それで、宇宙軍がこちらに何の用ですか?」


「……施設管理の責任者か。まあいい。

 宇宙軍より通達する。

 当クーロイ星系領主のカルロス侯爵に叛乱の疑いが生じたため、先ほど3区にて侯爵および行政長官以下、高官数名を拘束した。

 宇宙軍第7突撃部隊は、叛乱協力者の捜索および捜査を監察官から委託されている。そのため、我々はこのシャトル駅に駐留し、クーロイ星系の捜査に当たる。

 ついては、当シャトル駅施設を、我々の駐留の為に明け渡して頂く。

 1区や2区、宇宙港のシャトル駅にも我々の別動隊が到着している頃だ。そちらも同様に明け渡して頂く。

 これが、その通達書だ。」


 そう言って、男は部下から書類を受け取って、上司に渡します。


「……期限が書いてありませんが、いつまで?」


「捜査が終わるまでだ。」


 それからも幾つか上司が質問しますが、期限やこちらからの費用請求について明確な回答はありません。

 そんな事より、有無を言わさず明け渡せと言う感じです。


「……やむを得ませんか。

 では、我々は職員を連れて引き揚げれば宜しいので?」


「シャトルの運航管理に当たる者以外の職員についてはその通りだ。

 だがその前に、駅施設の図面と、どこに何があるか把握している者を寄越して欲しい。駐留するにあたり、配置を決めなければならん。」


「それなら私と部下のフェアイルドでご説明しましょう。

 後の者は、引き揚げ準備に入りますが、それで宜しいですか?」



 上司と同行した一番上のフェアイルド先輩が説明に当たり、他の先輩たちと駅の撤収作業に入りました。

 作業に入る前に、先輩の一人に呼び止められます。


「あそこの売店で奴等がなんか揉めてるみたいなんだよね。

 後で、あの店の人に奴等と話してた内容を聞いておいてくれない?」


 ふとその売店を見ると、前に数人の兵士が集まって、店のおばちゃんと口論まではいかなくても何か揉めている気配です。


「いいですよ。あいつ等が離れたら聞いてきます。

 あ、そうだ、先輩。

 あいつ等、ゴミをちゃんと捨ててくれると思います?」


 駅は色んな人が行き交うし、特に0区は外からのお客さんも来るから、ゴミ問題は厄介。特にここクーロイでは処理施設の容量が限界なので、あまりゴミを出したくない。


「……やっぱり、捨てっぱなしにして、押し付けて来るんじゃないかな。

 それに、人数も結構いるかも知れない。」


「ダストシュートを使えるようにしてあったら、あいつ等、何も考えずにどんどん捨てちゃいません?  それって大問題だと思うんですけど。

 かと言って、係長に進駐を止められるとは思えませんし……。

 いっそのこと、ダストシュートに全部ロック掛けてしまいたいです。」


 駅は雑多な人が行き交う場所なので、ゴミの分別が疎かになりがちです。

 かと言って、それを後で人手によって分別するのは大変手間なので、駅には自動分別機へ繋がるダストシュートが設置されました。

 ダストシュートに捨てられたゴミは自動分別機で分別され、分別されたゴミ毎に袋詰めされ、事業ゴミとして処理施設内へ流されます。

 しかしこれは、あくまで旅客の捨てるゴミが想定されています。


 今回宇宙軍は、恐らく大人数の兵士を連れて来ています。当然ゴミの量は半端ないものになるでしょう。彼等が野放図にゴミを捨て、それが処理施設に直接送られると、処理施設がパンクしそうです。

 0区全体のゴミ処理施設ですから、パンクすると0区のゴミ処理が麻痺してしまいます。


「本当は係長とその上、あと清掃処理課にも相談が必要だと思うけど、時間が無いな。

 ……そうだね、君の言う通り、一旦全部ロック掛けてしまおう。」


「清掃処理課なら、私が後で電話を掛けてみます。」



 先ほどの売店では、数名の宇宙軍兵士達が先ほどまで店主のおばちゃんと揉めていましたが、今は兵士達は買い物を終えて去っていくところでした。

 兵士達が離れて行ったのを見計らって、おばちゃんの所に行きます。


「おばちゃん、こんにちは。」


「あら、クロエちゃん。丁度良かった。

 さっき兵隊さんから聞いたんだけどさ、明日からサンドイッチを兵隊さん達に無償で出す事になった、ってホントかい?」


 ええ!?


「そんな話、初めて聞きました! 上司もそんな事は一言も……。」


「やっぱりねえ。

 いやね、あの兵隊さん達、明日から沢山来るから、サンドイッチをたっぷり用意してくれって言うのよ。

 代金はどうするんだって聞いたら、政府が払ってくれるから心配ないって言ってたのよね。でも人数聞いたら、全部で2000人とか言ってたしね。そんな食材どこにあるのよって思ってたのよ。

 しかもさ、さっき買う分も政府にツケ払いさせろって煩かったのさ。

 この店の事、出入りの業者だと思ってたみたいでね。」


 ……ああ、そういうこと。話が読めた。

 宇宙軍の奴等、始めから食糧もゴミも、全部政府持ちで駐留する積りなのか。

 そんな事、さっき見せてもらった通達書にも書いてなかった筈なんだけど。

 しかも人数が2000人って……他星系ならいざ知らず、このクーロイでは無理よ!


 うん、これで腹が括れた。


「あのね、おばちゃん。

 これから宇宙軍が駅を占拠して駐留するらしいの。だから、シャトルの()()()()()()()()()()()()()()することになります。」


「そうかい! それじゃあ、私も全部引き揚げたらいいのね。

 あいつ等の相手せずに済むなら清々するわ。ふふふ。」


 屋台店舗以外の、駅施設に店を構える売店は全部政府が管理している。

 特に食品は政府が供給量をコントロールするので、コンビニとか食料品を売る店の場合は、食材は全て政府から提供し、店の運営だけ委託している。

 しかも運営者、販売業務従事者は政府の嘱託職員扱いになっている。

 運航管理以外の職員全員が撤収するなら、店も開けないのだ。


「あと、おばちゃん。

 撤収する時は絶対にダストシュートをロックして、故障札を掛けておいて下さい。」


「ああ、そうね。分かったわ。

 野放図にゴミを捨てられたら、溜まったもんじゃないわね。」


 ここでおばちゃんの店を後にして、先輩に電話します。


「あ、先輩。

 おばちゃ……じゃなかった、売店職員が聞き出してくれたんですが、宇宙軍の駐留は2000人。

 しかも、食料やゴミは全部政府に押し付ける積りの様です。

 余りに酷い内容だったので、あの売店職員も引き揚げる様に独断で依頼しました。ダストシュートも鍵を掛けて、故障札を上げる様に指示しています。

 大丈夫ですか?」


『……やっぱりか。そんな話だったら、リーゼンブルー君の対応で問題無い。

 他の店も全部引き揚げさせるか。ダストシュートも全部故障札を掛けよう。

 現場判断でそう対応するって、俺から係長や他の皆には伝えておく。』


「お願いします。私はこれから、他の店も回って呼びかけておきます。

 あと清掃処理課には、私から報告しておきます。」


 先輩との通話を切って、本庁舎の清掃処理課に電話を掛けます。


「そちら、清掃処理課でしょうか。

 こちら、シャトル運航課施設管理係のリーゼンブルーと申します。

 廃棄再利用係へ……。」


『おや、リーゼンブルー君か。久しぶりだね。

 生憎と、清掃処理課は私と回収係以外、全員式典で出払っていてね。

 課長の私が要件を聞こう。』


「ええ!?」


 清掃処理課長さんが自ら電話応対!?


「……っと、失礼しました。

 実は今、駅に宇宙軍が進駐して来ていまして、駐留の為に駅の明け渡しを要求されています。

 突っぱねるのも難しいので明け渡しはすると思いますが、運航管理以外の職員は全員撤収します。運航管理職員は、残る事になると思いますが。」


『……駐留する人数は分かるかい?』


「正確な人数は後で係長から連絡が入ると思いますが、売店職員が聞き出したところ、駐留する人数は2000人程らしいです。」


『2000!?』


「ええ。そんな人数でゴミを好きに捨てられても困るので、駅のダストシュートには全てロックを掛けて故障札を掲げようと思います。

 そうすると、駅周辺の一般ゴミ捨て場や事業ゴミ集積所、処理施設へ、恐らくしわ寄せが来ると思うのですが……。」


『大量のゴミが駅地下の処理装置に送り込まれてたら、処理装置が壊れると思う。

 そうなると大変な事になるからね。それに比べたらよっぽど良いよ。

 是非、その方向で対応して下さい。駅地下の分別処理装置もロックを掛けてくださいね。

 リーゼンブルー君。連絡有難う。』



 その後、他の先輩達と手分けして駅構内の他の売店全てに声を掛け、売店施設に置いている食品とレジの現金は全て引き揚げて貰いました。他の物品も鍵の掛かる棚に全てしまってから、撤収してもらいました。

 ダストシュートは投入口に全て物理的に鍵を掛けた後、故障の札を掛けておきます。マスター端末からもう一度ダストシュートをロック。地下にある分別処理装置も動かせない様ロックを掛けました。


 全部の処理を終わって、宇宙軍から解放された係長達と合流しました。

 売店と食料品の全撤収や、ダストシュートのロックの対応を先輩が報告しました。対応案を出したのは私だと先輩が話してくれて、係長からは『大変良くやってくれました』とお褒めの言葉を頂きました。




 翌日本庁舎にて勤務していると、数人が荒々しく施設管理係にやって来ました。来客の初期応対は私の役目なのでカウンターに立ちます。


「シャトル駅に駐留する、宇宙軍の者だ。」


「どちら様でございましょうか。

 念のため、部隊名と職名、お名前をお願いします。」


「っ!……第7突撃部隊所属、第4歩兵部隊第1中隊長のミヤタ准尉だ。

 ここは、シャトル駅の施設管理を担当する部署で合っているか。」


「その通りです。

 それで、御用件はどの様な事でしょうか。」


「用件は2つ。

 ダストシュートを使えるようにする事と、食料の売店を出して貰う事だ。

 責任者に取り次いで貰いたい。」


 ニッコリ笑って返答します。


「私が担当者ですので、お答えしておきます。

 ダストシュートは故障中のため、全てロックを掛けております。

 それから昨日の通達書にて、運航管理以外の職員は全員撤収しろとの仰せでしたので、皆様が退去されてから修理致します。

 売店は契約業者ではなく政府職員による運営ですので、同じく運航管理以外の職員は全員撤収させて頂きました。」


「下っ端の女では話にならん。責任者を出せと言っている。

 さっさと代われ!」


 こっちが若い女だと思って怒鳴ってきます。

 目の前で唾を飛ばさないでください。


「代わった所で、返事は変わりませんよ。」


 あ、良かった。係長が出て来てくれました。

 係長の後ろに下がって、ハンカチで顔を拭きます。

 ああ、ばっちい。後で化粧直ししましょう。


「昨日の施設の引渡し書面をご確認下さい。

 『運航管理以外の職員は全て引き揚げとする』

 『機密保持の為、宇宙軍が駐留する間、運航管理に関わらない無関係の職員の立ち入りを禁じる』

といった条項がありました。こちらはそれに従っただけですよ?

 ダストシュートの修理担当も、運航管理以外の政府職員ですから、宇宙軍が駐留している間はダストシュートの故障は直せませんね……残念ですが。」


「何だと!

 それでは、我々はどこにゴミを捨てれば良いのだ!」


 やっぱりゴミの捨て場所に困って、クレームを入れに来たのですね。


「ゴミの廃棄については我々の管轄ではありません。

 清掃処理課へお問い合わせください。」


「売店についてはどうなんだ!

 兵士達にまともな食事をさせたいのに、店は何故出さん!」


「売店の運営も政府職員です。取り決め通り職員は引き揚げました。

 あの取り決めのお陰で、売店業務の再開の目途が立ちませんから、売店で扱っていた食材は総務部の食糧管理課に返却しました。

 ですからここに来て怒鳴られた所で、何も解決しませんよ。

 駅の外の屋台は我々の職員ではありませんから、各自でお支払い頂ければ彼等は喜んで提供すると思いますがね。」


「宇宙軍の駐留規定に従って、食糧提供をして貰おう!

 屋台の代金は政府持ちにしろ!」


 図々しいですね、宇宙軍。でも係長は涼しい顔です。


「駐留規定には、『自治政府側と協議の上で』とありますが、協議が開かれたとは聞きませんな。

 やむを得ず駅施設はお貸ししていますが、協議が開かれていない以上、その様な要求に従う必然性を感じません。

 食糧提供については、政府高官と協議の上で、食糧管理課にお問い合わせを。

 駅周りの売店への支払いは、各自でどうぞ。」


 この宇宙軍側の対応を見る限り、他の星系だったら、駐留規定を盾に政府が要求を飲む事が多いのかも知れません。

 でもクーロイでは、ゴミとか食料はこちらの死活問題。宇宙軍はそれを分かってない。


「おのれ……!

 この件は上に報告しておく。覚えておけ!」


 そう言って、クレーマ……ごほん、宇宙軍の者達は引き上げていきました。

 出て来てくれた係長にお礼を言います。


「中隊長となれば、もう少し理性的だと思ったんですけど、見誤りましたね。

 目の前で怒鳴られた時はちょっと怖かったです。

 対応頂いて有難うございました。」 


「リーゼンブルー君。

 クレーマーはすべからく、威圧と暴力で押し通そうとするのです。

 クレーマーの相手は、君がしなくても良いのですよ。

 困ったら他の男性職員を直ぐ呼んで下さいね。」


 係長、少しは取り繕いましょうよ。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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