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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第9章

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9-16 外から見たクーロイ騒動

本日は2話投稿です。ご注意下さい。


今回は俯瞰視点です。

(以下、帝国暦328年11月16日 帝都政治経済新聞より記事抜粋)


 帝国暦328年11月15日。

 この日クーロイ星系にて、自治政府・3区行方不明者家族の会(通称:3区の会)共同主催となる、3区事故行方不明者追悼式典が行われた。

 マスコミ側との事前調整の結果、0区シャトル駅の特設会場で前半の式典を行った後、3区へ移動して献花と慰霊祭を行う予定だった。0区での式典は問題なかったが……3区での来賓スピーチの途中、宇宙軍が式典に乱入した。


 その後、乱入した宇宙軍によって、星系領主であるエミール・アレッサンドロ・カルロス侯爵、自治政府トップの行政長官含む高官複数名、3区の会会長および事務局、そして取材に当たっていたマスコミ各社の記者・カメラマン等全員が拘束されている。

 そして現在は領主代理として、第四皇子フォルミオン=アエティオス・ダイダロスがクーロイ星系の統治に当たっている。


 式典が明けた翌日である、11月16日現在、分かっている事実はこれだけだ。



 これに対し、帝国政府が発表した内容ではこのようなものだった。


 星系領主カルロス侯爵および自治政府が、戦略物資の横流しをしている疑いがあり、また3区の会等市民団体への不当な圧力をかけている等により、自治政府の統治能力自体に疑念を生じた。

 その為、第四皇子フォルミオン=アエティオス・ダイダロスを、監察官としてクーロイ星系へ派遣、領主および自治政府の監査を行った。

 調査の過程で不正が明確なものになったが、それを糊塗しかつ監察官への叛意に及ぼうとする意志・行動が明らかとなった為、監察官は鎮圧のために宇宙軍の派遣を要請。帝国側はこれを受理し、宇宙軍を派遣し、クーロイ星系を制圧。

 現在、監察官が代理領主として事態の収拾に当たっているが、叛乱勢力が外部との連絡を図り混乱を拡大させるのを防ぐ為、一時的にクーロイ星系を行き来する航路(隣のハランドリ星系との間のものしか無いが)、およびクーロイ星系外との一般通信回線を遮断している。



 ただし、これには幾つもの矛盾点、疑念点がある。


 そもそも、星系領主カルロス侯爵および自治政府が、戦略物資の横流しをしている疑いについて、どのような証拠を元に不正が明らかになったのか。

 不正が明確になったと言うならば、どのような不正でどのような影響があったのか、詳らかに説明する義務が、帝国政府ないしクーロイ星系代理領主側にある筈だ。ただ、それは現在の所明らかにされておらず、政府関係者も口を閉ざしている。


 次に、宇宙軍が3区の会会長ナタリー・エルナン氏、および式典の運営に当たっていた事務局メンバーを軒並み拘束している点である。

 監察官をクーロイ星系へ派遣した元来の理由の1つとして、3区の会と自治政府との軋轢を挙げていた筈である。それが、何故3区の会メンバーを拘束するに至ったのか。こちらの経緯について、帝国政府は何も説明していない。


 また、マスコミ各社がクーロイ星系に派遣していた関係者全員が拘束されているのも不可解である。拘束の理由も不明である。

 理由もなくマスコミ関係者全員を拘束するのは、言論統制を目的としたものではないのか。そのような疑念が拭えない。



 これに対し、3区の会に賛同し協力していた他星系の市民団体を中心に、異なる見解が挙がっている。彼らによる見解は以下の通り。


 3区コロニーには17年前の事故当時からの生存者が居り、3区の会は公表していなかったが、生存者達を援助し、最終的には救助することを目的の一つとしていた。

 ところが援助の中で、3区奥のエリアで、17年前の事故に関する何らかの人為的関与の証拠が見つかった。

 帝国軍がその証拠の存在を知り、証拠を抹消するために密かに宇宙軍を派遣。証拠の抹消には失敗したが、星系領主や自治政府高官、3区の会事務局など、その証拠を知る可能性があった者達を拘束。

 しかし、17年前の事故に関する証拠の存在を匂わせる情報が市民の間に流布してしまい、宇宙軍への不信感から市民のデモ行動や暴動に発展しているため、代理領主側は暴動の情報が漏れるのを恐れ、クーロイ星系を封鎖せざるを得なかった。


 こちらの見解は、1つのある証拠を軸に論理提示している。

 それが、『星姫』なる謎の歌手が3区を去る際に残したもの、とされる、ラジオ放送の録音データだ。

クーロイ星系の通信封鎖前に他星系へ送信されたデータの中に、このデータが添付されていたものが数通だけあったらしい。

 このデータを入手した市民団体たちがこの見解を示しているが、こちらはこちらで問題がある。


 1つは、このデータそのものの信憑性だ。

 この録音データの中では、3区で事故後も少数の生存者が生き残っており、『星姫』なる少女は事故後に生まれた、と主張しているが、その事自体そもそも信憑性が低い。事故後の現場捜索は何カ月も行われたと記録にある以上、それで見つからなかった生存者が実はいました、と言われても信憑性に欠ける。

 それに、食料も何もない廃棄されたコロニーで、17年もの間生きていたというのも荒唐無稽である。

 このデータそのものが妄想であり、これをベースに論を組み立てる事自体ナンセンスである。


 次に、彼等の主張は、このデータ以外に明確な証拠があまり無い事である。

 彼らの主張では、宇宙軍は式典のかなり前、9月前半から密かにクーロイ派遣部隊の編制を進めていたという。これは、クーロイ派遣部隊所属の複数の末端隊員の家族からの証言として挙げている。

 クーロイ星系への監察官派遣の時期と符合するため、初めからクーロイ星系を制圧する目的で編成されたものではないか、というのが団体の主張だ。しかし、証言では明確にクーロイ派遣の準備としては語られておらず、単に不定期の異動がその時期にあった、と言うだけに過ぎない。

 唯一、通信封鎖前の複数の現地住民との通話記録として残された情報から、式典当日の遅い時間、現地で暴動が起きていたらしいことは、信憑性はそれなりにあると思われる。


 つまるところ、現在の所、クーロイ星系は現在、第四皇子殿下が代理領主として統治の任に当たっている、と言う以外、明確な情報が無い。


 ともあれ当局には、一刻も早い混乱の収拾と、航路/通信封鎖の解除、そしてマスコミ関係者達の解放を望むばかりである。


帝都政治経済新聞 編集主幹

アルバレート・ウィルキンス




*****


商都市民団体『ラヴ・アンド・リベルテ』

帝国暦328年11月16日 帝都政治経済新聞記事に対する見解

(市民団体公式ページより抜粋)



 帝都政治経済新聞 編集主幹ウィルキンス氏により、当団体の主張が丸々否定されている事は、極めて遺憾である。


 元々帝都政治経済新聞は、帝国政府寄りの報道を繰り返す大新聞である。

 当記事は、『星姫』なる少女の主張を封殺し無かった事にしようとする、帝国政府側のプロパガンダであると断じざるを得ない。


 まず、当方の主張について、ウィルキンス氏は明確に記事に記載していない事が多すぎる。


 例えばクーロイ星系派遣軍の編制についてである。

 多数の末端隊員家族から協力が得られたので、彼等の証言をまとめると、編成時期は9月前半、編成内容は8000人規模。

 通常の宇宙軍艦隊の編制と比べてかなり小規模にも関わらず、この編成の中に長距離航行可能な大型宙母5隻も編成している上、宙母に積載する艦艇の編制が、小型の巡航艦が宙母1隻に対し20隻、接舷による白兵戦を行う強襲艦が宙母1隻に対して10隻と、通常とは異なりかなり歪な編成となっている。

 軍事専門家からは、この編成は小型宇宙船の臨検、および兵士によるコロニー制圧に特化した編成との意見を頂いており、初めからクーロイ星系を制圧し、星系領主および自治政府の実権を奪う目的で編成されたものと考えている。


 ウィルキンス氏が妄想と断じた、帝国市民の間で『星姫』のメッセージと称される録音データであるが、いつ誰が作った物かは確かに定かではない。

 しかし、現れては削除されるこのデータの流布元が、クーロイ星系であることは確認している。我々がこのデータを入手した相手は、身元は明かせないがクーロイ星系の住民である。

 それにこのデータを当局が躍起になって削除に回っている事自体、妄想と断じる事が出来ない証拠である。本当に妄想だと断じているのであれば、どうぞそのまま流布させて頂きたい。


 そして、クーロイ代理領主が、クーロイへの航路も通信網も封鎖した事。

 式典の取材に訪れたマスコミ関係者を、理由もなく拘束している事。

 これらの事象から推測すると、クーロイでは各コロニーを制圧した宇宙軍に対する市民のデモあるいは暴動が頻発しており、代理領主は戒厳令を発令して、航路や通信を封鎖し、マスコミ関係者を拘束して言論統制を行っているのではないか。


 ともあれ、代理領主には、本来航路や通信の封鎖といった権限は無いはずだ。

 つまり代理領主たる第四皇子殿下は、自らの皇族としての権威と、宇宙軍部隊司令官という軍務権限、代理領主たる領地貴族権限を、いい様に使い分けているとしか思えない。

 これは、皇族による職権乱用の悪例であり、かつ皇族に権限を集中させ過ぎている悪例でもある、と言わざるを得ない。


 そうまでして何を第四皇子殿下はクーロイで成そうとしていたのか。

 そう考えると、ウィルキンス氏が妄想と断じた『星姫』のデータに、信憑性が増すと、我々は考えている。



 ウィルキンス氏の主張に真っ向から反論を掲げたが、唯一、ウィルキンス氏の記事を評価する点がある。帝国政府発表の公式見解に対する、矛盾点の指摘である。

 帝国政府寄りの大新聞によって指摘されたという事実は、それはつまり、帝国政府の公式見解が、あまりにお粗末であることの証左である。


 我々としては、帝国政府による不都合の糊塗を一刻も早く除くことを望む。つまり、クーロイ封鎖の解除、および3区の会メンバーの全員即時解放である。


商都市民団体『ラヴ・アンド・リベルテ』

代表 エスターシャ・カーネマン



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