9-14 追悼式典、その長い一日(9)
視点を変えながら話は進んでいきます。
(主人公視点)
さっきの録音をループ再生する設定をして、ラジオ室を出た。
会議室に戻ってみたら誰も居なかった。ブリッジの方にみんな集まってるのかな、
セイン小父さんとブリッジに戻ってみると、中尉さんと准尉さん、グンター小父さん、ライト小父さん、ニシュの5人が航法コンピューターの所に集まって、何やら話し合ってた。
……あれ。ケイトお姉さんとマルヴィラお姉さん、まだ戻ってないの?
「ニシュ、お姉さん達は?」
ニシュに呼びかけると、ニシュはライト小父さんの方をチラッと見る。
「……ちょっと、ニシュと一緒にメグと話してくる。
グンター、中尉さん達とよろしく頼む。」
「ああ、そうだな。宜しく頼む。」
ライト小父さんはグンター小父さんに話しかけた後、ニシュとこっちに来る。
「メグ。その事で、ちょっと……。
会議室に行こうか。」
訳がわからないまま、私とセイン小父さんは、ライト小父さんとニシュに連れられて、もう一度会議室に戻った。
会議室で、人数分の椅子をニシュが用意して、全員で輪になって座る。
「メグ。よく聞いてくれ。
……ケイトさんとマルヴィラさんは、3区に残るそうだ。」
「……え?」
どう言う事なの?
「理由は2つある。
ケイトさんはさっき、追手に撃たれて、脚を怪我している。
マルヴィラさんが応急手当をして、血は止まった。
命に別状は無いが、それまでの出血が多くて、しばらくは動かせない。」
「そ、それなら、マルヴィラさんかニシュが、抱えて来れば……。」
そう言ったんだけど、ライト小父さんは首を振る。
「……もう1つ。
今、あのゴミ捨て場で、たくさんの人が兵士達に捕まっている。
メグのおばあさんも、あそこで捕まっているんだ。
ケイトさん達は、その人たちの為に、残る事を決めたそうだ。」
「え……でも、お姉さん達、戻って来るって……。」
「……メグ。
マルヴィラさんはともかく……ケイトさんは、戻るとは一言も言ってない。
メグが『早く来てね、待ってる』って呼びかけた時……『うん』としか、言ってないんだ。
……初めから、俺達に情報を渡した後、戻るつもりだったんだろう。」
そう言えば、預かった情報を渡すって。
「ケイトさんが持ってきた情報は、ニシュが持ち帰って、グンターに渡した。
それでグンターが、中尉さんや准尉さんと、その情報を調べている。」
「お姉さん達、3区に残ってたら……捕まっちゃうよ。
助けに行かないの!?
今からでも、話をして……。」
「メグ。
ケイトさん達は……俺達には、無事に逃げて欲しい、と言ってな。通信が向こうに傍受されてもいけないし、……話せば、会いたくなってしまうから、と言って……交信を切った。
だが……。」
ライト小父さんはそう言って、ニシュの方を向く。
「メグさん。
情報を持って帰る時に、ケイトさんとマルヴィラさんから、メッセージを預かっています。
自分の言葉でメグさんに伝えたいって仰っていましたので、録音してきました。
……それでは、再生しますね。」
……ピッ。
『……メグちゃん。
そっちに行けなくて、ごめんなさい。
最初は、そっちに行って、メグちゃんと会って情報を渡してから、帰るつもりだったの。
でも、さっき、脚を撃たれてしまって。
マルヴィラが応急処置をしてくれたけど、それまでの出血が多かったから、動けないの。
それにね。
私が今日、ここに来るために……いっぱい、たくさんの人に助けて貰ったの。
その人達は今……式典の会場で、兵士達に捕えられているわ。
その中には、メグちゃんのおばあ様……ナタリーさんもいるし、他にも小さい頃から私を助けてくれている人達もいる。
私がメグちゃんと一緒に3区から脱出したら、今度はその人達が危ない目に遭ってしまう。
だから、私は……ナタリーさんや、私にとってメグちゃんと同じ位大事な人達を助けるために、こちらに残る事にしたの。
誤解しないで欲しいのだけど……。
私も、メグちゃんに会いたくて仕方なかった。
久しぶりに会って、色々お話もしたかった。
よく頑張ったねって、抱きしめてあげたかった……。
でも……ごめんね。
メグちゃんを3区から逃がしてあげることが最優先だったけど。メグちゃんを助けたら……次は、それに協力してくれた皆を、助けなきゃ。
私やマルヴィラは、ここで捕まっても、命まで取られる事は、無いわ。
でも、メグちゃん達は違う。
メグちゃん達が捕まると、多分……殺されてしまう。
だから……小父さん達や、中尉さん、准尉さんと、逃げて頂戴。
私達も何とか、メグちゃん達が戻って来られるよう、頑張るわ。
だから……また、会いましょう。
大好きよ、メグちゃん。』
――こっちに来ないって聞いて。
ひょっとして、会いたくないのか、嫌われたのかと思っちゃった。
とっても寂しかった……。
でも、メッセージの向こうに居るケイトお姉さんは――いつもの、暖かい、私の事をとっても考えてくれる、あの優しいお姉さんのままだった。
……疑っちゃって、ごめんね、ケイトお姉さん。
私も、お姉さんのこと、大好き。
聞いていて、涙が止まらない。
『メグちゃん。
バイバイって、ちゃんと挨拶が出来なくて、ごめんね。
最初は、ケイトを連れて、そっちに戻るつもりだったわ。
でもケイトは、最初からこっちに残るつもりだった。
どうしてケイトがそう考えたのか、理由を聞いたわ。
今までメグちゃんを助ける為に、協力してくれた皆の事を助けたい。
だから皆を守る為に、残るんだって。
今回も、私を守るために、メグちゃんの所に行けって言ったの。
……こう見えて、ケイトはとっても頑固なの。
一度自分でこうするって決意したら、誰が何と言おうと決意を曲げない。
いくら私が危ないよって言っても、それが正しい事だと思ったら、梃子でも動かない。
でもね……ケイトって、周りの事はよく見えてるのに、自分の事が見えてない事があって。
皆を庇って1人で守っていたら、責められるのがケイト1人になってしまうって事に、無頓着でね。
私は、そんな危なっかしい……でも大好きで、尊敬もしてるケイトの事を、守ってあげたいの。
ケイトとは小さい頃から、ずっと一緒に過ごしてきたわ。
楽しい事も、辛い事も苦しい事も、2人で一緒に分かち合ってきた。
だから、今回も――ケイトが受けるだろう、痛みも苦しみも、2人で分かち合うために、ケイトと一緒に残る事にしたの。
ケイトの事は、絶対に私が守る。
追手に捕まっても、ケイトが酷い目に遭いそうになったら、相手をぶっ飛ばしてやるわ。
だから、心配しないで。
一緒に料理を作ったり。スカッシュしたり。パジャマパーティーしたり。
短い間だけど、この3区で一緒に過ごせて、とっても楽しかったわ。
大好きよ、メグちゃん。
ちょっとの間、会えなくなっちゃうけど。
……すぐ、また会えるわ。
その時は、お互い、笑顔で会いましょう。
気を付けて、行ってらっしゃい。』
……マルヴィラお姉さん。
私も、お姉さんと一緒に過ごして、一緒に笑って泣いて、怒って……とっても、楽しかった。
マルヴィラお姉さん、ありがとう。
お姉さんの事も大好き。
ケイトお姉さん、マルヴィラお姉さんは、どっちも……とっても大きい人。
マルヴィラお姉さんは、体も大きいんだけど……2人とも、一緒にいて、辛い事、苦しい事、悲しい事、悩んでる事……色んな物をぶつけても、全部受けとめてくれる。
2人とも、何だか大きくって、心はとっても温かくて……頼れるお姉さん達。
2人に会えなくって寂しいって気持ちは、変わらないけど。
お姉さん達の大きさに……寂しいって、自分の事だけで泣いてる自分が、恥ずかしいって気持ちが、湧いてきた。
私がお姉さん達に憧れる気持ちって、どこから来るんだろうって、ずっと考えてた。
いっぱい色んな事を知ってる事?
……違う。
料理が出来る事?
……違う。
いっぱい抱きしめてくれる事?
……大好きな所だけど。憧れって意味じゃ、ちょっと違う。
多分だけど……自分の事以上に、人の事を考えられる、受け止められる所。
そんなお姉さん達の、懐の大きさに、憧れたんだと思う。
私は……こんな風に、してていいのかな。
寂しいって、泣いているだけじゃ……それって、自分の事だけじゃないの。
お姉さん達は、『また、会いましょう』って、言ってくれた。
また会えたとき……今のままの自分じゃ、なんか、恥ずかしい。
どうせなら、憧れのお姉さん達に、一歩でも近づいた自分で、会いたい。
一歩でもお姉さん達に近づいて、恥ずかしくない自分で、また会おう。
涙を拭って、顔を上げる。
「……分かった。
お姉さん達は……また会おうねって、言ってくれたんだから。
だからきっと、また会える。
……だから、行こう。
待っててくれて有難う。ライト小父さん。」
*****
(???視点)
「久しぶりだな。」
『……お前か。
未だに、お前の整形後の顔には、慣れんな。』
お前ほどじゃないだろう。
そう思ったが、無駄話をしに来たわけじゃない。
「殿下の命令を伝えよう。中将閣下だが……一般牢に収監しろとの事だ。
殿下は、中将閣下に歪んだ敵意をお持ちだからな。」
『殿下の手前、ああやって捕えはしたが……閣下は、丁重に保護する。』
「……殿下には黙っていよう。好きにすると良い。
殿下が閣下の様子を見たいと言ってくる様であれば、連絡する。
用件はあともう一つ。
先ほど3区の奥から、戦闘アンドロイドが出て来たそうだ。」
『なんだと!? まさか、3型か?』
「いや、女性服を着ていたらしい。多分2型だろう。
奴の家族の世話をしていた侍女ドロイドの方だと思う。」
『3型じゃないのなら――奴は、向こうには居なかったという事か。
そこは、一安心だ。』
「それなりに、深手を負わせたはずだ。
奴が生きている筈が無いとは思うがな。」
『だと良いのだが……私は心配性でね。』
心配性ねえ……。
『しかし、2型……侍女ドロイドか。あれは、動けなくした筈なんだがな。
今生きてる奴が、メンテナンスをしているという事か。
一体誰なんだろうな。
彼女からは……誰が残っているのか、具体的な事は聞いていないが……。
そうだ、思い出した。
以前、お前から聞いたな。誰が3区に残ったか、あいつ等が残したメモがあった筈だ。
そのメモを私に寄越してくれないか。
彼女が持ち込んだIDと照らし合わせて、誰が残っているのか確認したい。』
「……わかった。向こうに戻ったら確認する。
誰が残っているか分かったら、俺にも教えてくれ。」
『そうしよう。
……そういえば、ドロイドが出てきたという事は、作戦は上手く行きそうにないか、
煩い殿下を、そろそろ宥めないといけないんじゃないのか?』
「……突入部隊での向こう側の確保は無理だろうな。
外の部隊で押さえられるといいのだが。
それじゃあ、俺は殿下の御守に戻るとする。
また連絡する。」
……この後の事を考えると、頭が痛い。
*****
(主人公視点)
「グンター小父さん、中尉さん。
脱出先の事は、判った?」
「ああ。大丈夫だ。
先ほど、ケイトさんの情報通りに座標をセットした。
航法コンピューターも、エンジンも、準備は出来ている。
メグは……大丈夫か?」
「うん。お姉さん達のことなら、もう大丈夫。
きっと、また、会えるよ。
さあ、行こう!」
「それじゃあ、皆、席についてくれ。」
ブリッジの中、予め決めていた座席に座って、シートベルトを締める。
中尉さんは全部を操作できる席に座って端末を操作する。
やがて……ゴン!と振動が起きて、周りの景色が少しづつ動き出す。
「准尉、こちらに接近する艦は?」
「今の所ありませんが、正面方向に艦影4隻。
恐らく小型巡航艦と思われます。
巡航艦の位置を、航法コンピューターに転送します。」
「准尉、有難う。
……距離は遠いな。これ位なら振り切れそうだ。
デブリを抜けたら、右舷回頭して最大出力で加速。
更に別の船が来なければ、5分後に目標へ向けハイパードライブに入る。」
『こちらは宇宙軍第7突撃部隊所属、巡航艦テッサロニキである。
今3区から発信した小型艦船。
至急停船し、臨検を受けよ。さもなくば発砲も辞さない。』
「大丈夫だ。右舷回頭、エンジン最大出力。」
『繰り返す、至急停……おい! 停まれ!
停まらなければ撃墜するぞ!
くそ、速い!
各艦、最大戦速! 追え! 追え!」
この管理エリアの宇宙船……かなり速い!
レーダー画像では、右に回頭してから急加速して、あっという間に宇宙軍の艦を引き離していく。
でもしばらくすると、別の船がまた遠くから何隻か近づいてくる。
「心配ない。
もうそろそろ、ハイパードライブ航行に入る。
10,9,8.……。」
カウントが終了すると、窓から見える星の光が、あっという間に後ろに流れた。
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