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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第9章

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9-13 追悼式典、その長い一日(8)

視点が切り替わりながら話は進んでいきます。

(グンター視点)


 ケイトさんからだと言う、受け取った3つのそれを見る。


 今飛び出している板を、ゆっくり引っこ抜く。

 恐らく、これは……。


 その板を水平に持ち、そのままゆっくり上下から引っ張る。

 2cmほどの厚みのある金属の板に見えたそれは……断面の中程から上下に分かれる。

 半分の板の、その分かれた上側の面には凸面が。下側には凹面が。


 残り2つも、同じようにやってみる。

 やはり、中の板を上下に引っ張ると、同じように凹面と凸面の板に分かれた。



 これは、一種のパズルみたいなものだ。

 複数の金属の塊を切り出し、サイズを合わせ、嵌め込んだもの。

 スキャナーを通ったという事は、この凸面と凹面は寸分狂い無く、ぴったりのサイズで噛み合っていたという事だ。


 これは……作ろうと思っても、なかなか作れるものじゃない。それなりに金属加工の腕に自信のあった俺でも、これに挑戦するには尻込みしてしまう。

 一つの塊を切って削るだけでは、これは出来ない。どうしても切ったり削ったりすると削り滓が出るし誤差が出てしまう。

 別々の金属の塊から作って、サイズがぴったりになるようミリ単位よりずっと細かいレベルで調整をして、初めて出来る物。


 ちゃんと作れば、どんなスキャナーでもこれを見抜くことは出来ない、と言う話は……俺が作った失敗作を見せながら、確かに以前ケイトさんに話したことがある。


 さっきの、メグがラジオ室に入った後の、ケイトさんとマルヴィラさんの話が聞こえて来た。

 メグに言わずに、このまま3区に残るつもりなのだろう。


 情報を渡すだけなら、この凹凸も外して、直接中尉さんの所に持って行った方が早い。

 でもそうせずに、わざわざ俺の所に渡って来るようにしたのは……。


 ケイトさん、貴女の思いは受け取った。

 だが……それは、次に会った時に、直接聞かせて貰おうか。

 会える日を、待っている。


 俺は、凹凸に外した板を持って、ブリッジへ駆け込んだ。



*****


(ラウロ視点)


 今日は学校が休みになった。


 お父さんは仕事で式典の手伝いで行っているから居ないし、家でTV見ようと思ったら、3つのチャンネルのどれを見ても式典の話ばっかり。

 最初はお母さんと一緒に、0区での式典前半の中継を家で見てたけど、僕はつまんなくなった。


 だから通話アプリを立ち上げて、ロイに電話を掛ける。


「ロイ、今日は暇?」


『宿題をやれって母さんがうるさいから、午前中は宿題する。

 午後からなら。』


「あ、宿題あったんだった。すっかり忘れてた。

 じゃあさ、午前中一緒に宿題して、午後からアレするってのはどう?」


『それは良さそうだね。

 母さんに聞いてみるから、ラウロもそっち行って良いか聞いてくれない?』


 それもそうか。

 朝から一日ロイが来たら、ご飯とかお母さんに頼まないといけないしね。


「ねえ、お母さん。

 今日ね、午前中にロイと一緒に宿題して、午後僕の部屋で遊ぼうかって話なんだけど、いい?」


「うーん、そうね。

ロイ君のお母さんとも話をさせてくれるかしら。」



 結局、お母さんとロイのお母さんの話し合いの結果、こうなった。


「ねえラウロ。

 お母さん達話し合ったんだけど、ロイ君のお母さんは、ロイ君にご飯は家で食べて欲しいんだって。

 だからね、午前中はお互いに家で宿題をやって頂戴。

 ご飯食べてから家にきて、ラウロの部屋で宿題の答え合わせをして、それから遊ぶのはどうかしら。」


「うん、わかった、」




 午前は宿題をやって、午後にロイが家に来た。

 番組表を見たら、式典後半……3区での式典は夕方から。TV中継はその1時間前からやるみたいだから、それまではロイと宿題の見せ合いっこしたり、受信機を弄ってラジオをちょっと聞いたりしてた。


 3区の式典の時間になったから、ロイの携帯端末で一緒にTVを見る。

 僕の端末にTVを入れる事は、お父さんの許可が無いと駄目だってお母さんに言われて、お父さんに聞いたらやっぱり駄目だった。

 ロイは、宿題を終わらせたら見ていいってお母さんに許可貰ったんだって、いいなあ。

 携帯端末に映る3区の様子は、前の星系に居た時にお父さんと見に行った、ジュースの工場の建物をもっと大きくした感じに見えた。


「へえ……3区って、こんなになってるんだね。」


「なんか、体育館を巨大にした感じじゃない?

 ここ全部使ったら、サッカーとか普通にできそうじゃん。」


 そんな話をしながら、僕は受信機のチューニングを、1027MHzのAM電波帯に合わせる。

 増幅もしてみたけど、今はここには何も入ってきていない。



 あのラジオは、最近掛かったり掛からなかったりしてる。

 今の所ラジオの電波が来てないなあと思いつつ、3区での式典のTV中継を眺めてた。


 向こうは空気が無いから、みんな宇宙服を着てる。

 だからスピーチが始まっても、宇宙服で誰が誰か分かんないから、誰がしゃべってるのかが写真でワイプ表示されてる。

 最初のスピーチは長ったらしい名前の人。長い名前もだけど、なんか金箔が貼ってあるのかキラキラ派手な宇宙服が気になる。


「なんか、ゴテゴテした宇宙服だね。」

「宇宙服を着て宇宙遊泳してみたいって思うけど、アレは着たくないよな。」


 そんな話をロイとしつつ、そろそろ飽きて来たなあって思ってたら、突然中継画面から大きな音が響いてきて、カメラが横倒しになった。

 中継をするアナウンサーも戸惑ってる。


 暫くしてカメラが元の位置に戻ると、カメラはさっきのスピーチ映像じゃなくて、会場横の壁を映す。

 そこにはなにか筒のような物が壁を突き破ってて……扉が開いて、中から沢山の、大きな棒のようなものを持った宇宙服の人がゾロゾロと出て来た。


『今映っている様な物が3つ、式典会場の壁を突き破ってきました。中から沢山の兵士が出てきます。どうやら、これは宇宙軍の強襲艦の様です。

 これは何事でしょうか。出来る限り、この会場で起きている事を皆さんにお伝えしていきたいと思います。

 繰り返します。ただ今、この3区の式典会場では、突然宇宙軍の強襲艦と思われるものが壁を突き破り、……』


「おお、何か面白い事が起きてる。」


「どうなるのかな、これ。」


 面白くなって見ていると、兵士達がカメラの所にたくさんやって来て、アナウンサーや記者達と兵士たちが揉みくちゃになってた。

 でもしばらくすると、


「今、兵士たちが、カメラや録音、撮影をしないよう、圧力をかけています。

 私達は、できる最後まで、カメラをまわし……。」


 そこで、カメラはまた横倒しになり、しばらくして中継が映らなくなった。

 放送は、直ぐにスタジオに切り替わる。


「なんか、凄い事になってたね。」


「ああ、あんな中継の途中のハプニングって面白いな。」



 受信機側に反応が無いまま、1時間くらいTVを見ていると、なにやら発表があるという事で、また3区の式典会場に切り替わった。

 ステージが映ってて、さっき見た派手な宇宙服の人が立ってた。


『帝国監察官、フォルミオン=アエティオス・ダイダロスである。

 元々はクーロイ自治政府の調査の為に来たのだが、

 この度、自治政府および領主カルロス侯爵の不正が発覚し、

 ……

 以上だ。』


 その派手な人は、長ったらしいスピーチをしてたけど、言ってる内容がよく分からないまま、15分くらい話して中継がまた途絶えた。


 TVはまたスタジオに切り替わっていた。


「ロイはさっきの変な宇宙服の人の話、分かった?」

「いんや、全然。」



 それから30分くらいしたら、TV中継で今度は宇宙港が映った。


『只今、クーロイ宇宙港からの中継です。

 こちらに今、宇宙軍の軍艦が多数押し寄せています。

 ……今、その宇宙軍、第7機動部隊の名前で、声明が……」


『新たな情報です。こちら、0区、シャトル駅。

 こちらにも、帝国軍の軍艦が外にいます。

 どうやらこちらにも軍艦が接舷し……』


『1区シャトル駅にも、帝国軍の軍艦が……』


『情報によると、0区や1区と同様に、2区のシャトル駅にも……』


 なんだか、あちこちに軍の船がやって来てるみたい。TVの中は、あちこちに現れた軍艦に混乱が起きてた。

 そんな時だった。


 ピ―――――


 1027MHzに合わせた受信機に、突然反応があった。


「ロイ!」


「お、おう!」


 慌てて受信機に飛びつき、音量を調整。

 電波が来たけどまだ何も掛かってない今のうちに、録音ボタンを押す。



 やがて、あの、『星姫ちゃん』の歌が聞こえて来た。

 息遣いまで聞こえる……え、これ、ひょっとして生歌!?

 やっぱり星姫ちゃんの歌、いいなあ……。


 歌が終わると、星姫ちゃんは、語り出した。

 星姫ちゃん、名前はメグって言うんだ。


『それから15年……。

 私はこの3区で、数少ない生存者達と

 ひっそり、暮らしてきました。』


 ……え!?

 星姫ちゃん……本当に、3区で……?



『今私達のいる、3区の奥深く。

 ここに、17年前の

 あの事故の秘密が

 眠っているそうです。


 それを知った帝国軍が……

 ここで生きている私達ごと

 それを無かった事にしようと、

 今、この瞬間、

 兵を差し向け迫ってきています。


 なので、私達は、止む無く……、

 自分達の命を守るために、ここを離れます。』


「ラウロ。俺でも、これ何か、大変なこと言ってるって分かる……。」

「ああ、ひょっとしてさ、今、ナントカ官ってのがここに来てるのって……。」



 メグちゃん……星姫ちゃんはメッセージのあと、

 新しい歌を歌い始めた。


『古ぼけた時計 かすれた文字盤

 過ぎ去ってしまった思いを ひとり時をめぐる


 開かない扉 届かないメッセージ

 どうかこの欠片だけでも、と 願いを刻む


 遠く繋がるあの地は まばゆく光って

 目に映る程近く されど道は遥か


 いつか誰かに知って欲しいと

 手紙を小瓶に詰めて 虚空へ流す――』


 ……星姫ちゃん。

 最初に歌を聴いた時、綺麗な声だな、いい歌だなって。

 そんな、ちっぽけな興味だけだった。


 でも、何でだろう。この歌……。


 さっき、星姫ちゃん。

 この歌のこと、『憧れ』って名前だって、言ってた。

 憧れって、何だか温かくなる気持ちの、筈なのに。


 何で、こんなに……悲しい気持ちに、なるんだろう。

 何で、こんなに……どうしようもなく、寂しい気持ちに、なるんだろう。

 何で、こんなに……どうにもならない、何も出来無いような気持ちに、なるんだろう。

 何で、こんなに……言葉にできない、僕の知らない気持ちに、なるんだろう。


 3区から遠く、人のたくさんいる0区を見て、こんな気持ちだったのかな……。



『擦り切れた服 色褪せた本のページ

 こぼれ落ちそうな幸せを ひとり噛みしめる


 聞こえない声 触れられない温もり

 どうかもう一度だけでも、と 彼方に願う


 遠く見守るあの人は まばゆく見えて

 心触れる程近く されどその()は遥か


 いつかあなたに手渡したいと

 手紙に宛名を書いて 机にしまう――』


 一個一個の言葉は、そこまで難しい言葉はない。

 でも……この歌から伝わることが、何なのか……。

 子供の僕には、上手く言葉にできない。

 それが、とっても、もどかしい。


 それでも……。

 何で、……この歌から、耳が離せないんだろう。

 何で、……こんなに……涙が、止まらないんだろう。


 ロイを見ると、彼も目を赤くしてた。


「ロイ……お前も、泣いて。」

「うん。だって、この歌……とっても、不思議な気持ちになっちゃうから……。」



 短い曲が終わると、星姫ちゃんは……それじゃ、また、って言って。

 それで、メッセージが終わった。

 余韻を感じながら、録音ボタンを切る。


 しばらくして、また、星姫ちゃんの歌が繰り返される。


 ……こんな、こんな……。

 ……星姫ちゃんに何か、してあげられないかな。

 なんか、僕にできること、ないかな。


 ……ああ、星姫ちゃん、『一人でも多くの人に、届いて欲しい』って。

 そうだ。ガストンさんからも、頼まれてた。

 それなら、僕のやれることは。


「……ロイ。」

「……うん。なんか、放っとけないよな。」


 ロイも、同じ気持ちだった。

 それから、僕達は……。


 お母さんを呼んで、このメッセージを聞いてもらったら。

 ……友達や、近所の人たちにも、聞いてもらおうかしらって、録音データを持って行ってくれて。


 クラスメイトや、こっちの友達みんなに、『聞いて欲しい』って、このデータを送ったら。

 ……みんな、他の友達にも送るって、言ってくれて。聞いて泣けたって、何人も返信してくれて。


 地元の友達にも、星系外通信で送ったら。

 ……後で返信が返って来てて。彼も聞いて泣けたって。向こうでも友達に送るって、言ってくれて。


 星姫ちゃんで繋がった掲示板に、書き込もうとしたら、

 ……もう、みんなこれを知ってて、聞いてみんなが泣いたって。それから、家で、近所で、会社で、学校で……周りに聞いて欲しいって、もう動いてて。


 あちこちの音楽系のオープン掲示板に上げようとしたら。

 ……幾つかには書き込んだけど、もう、このラジオ放送のこと、広まり始めてて。


 TV局やFM局のチャットや掲示板を覗いたら。

 ……こっちでも、このラジオ放送のこと、書き込みがされ始めてて。レスとか感想とか再拡散とか、もうすごい事になってて。


 もう、皆、このラジオのことで、動き始めてて。

 ……僕達が動かなくても、みんな、もう、星姫ちゃんの為に動いてて。



 僕は、ロイは、顔を見合わせて……。

 泣きながら、笑った。



 ロイは、夕ご飯前に帰って行った。

 お母さんにも聞いてもらうんだって。


 お父さんにも、聞いてもらおうと思ったら。

 ……何故か、この日、お父さんは……うちに帰ってこなかったけど。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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