9-12 追悼式典、その長い一日(7)
今回は全て主人公視点です。
セイン小父さんと一緒に、会議室を出てラジオ放送局に入る。
ケイトお姉さんからは直接聞いたし、手紙でも書いてたけど……。
AMラジオで流してたあの歌。微弱な電波で流してたあの歌をキャッチしてくれてた人がいて、広まって……帝都にまで流れて。それと一緒に、私の事を誰かが名付けた『星姫』って名前が一緒に広がって。
それが切っ掛けで、おばあ様がクーロイにやって来て。
それが切っ掛けで、帝国軍までやって来て。
『だからね。メグちゃんの歌って、物凄い影響力があるの。
良い物も悪い物も、いっぱい引き寄せちゃう。
だからね。
嫌だなって感じる物を受け取ったら、ごめんね、要らない!って返しちゃおう。
良いなと感じる物を貰ったら、有難う!って、笑顔で受け取るの。』
ケイトお姉さんが言ってくれた、そんな言葉を思い出した。
ケイトお姉さんと知り合ってからは短いけれど、小父さん達とはまた違った意味で、一杯色んな物を貰ってる。
そのどれもが……とっても、良いなと思える物。
そのケイトお姉さんが、初めて、必死に私にお願いしたこと。
それは……私達の事を、AMラジオで訴える事。
私達が事故以来、この3区でひっそり必死に生きてきた事。今になって、帝国軍が、私達が生きてきたことを、本当に無かった事にしようとしている事。
お姉さんにはいっぱい良い物を貰って、有難うって受け取って。
でも、もう……受け取るだけじゃ、嫌。
良い物いっぱい受け取ったら、私からもいっぱい返したい。
私は、今まで……どれだけ、お姉さんに返せてるのか。
だから、いっぱい貰ったケイトお姉さんに、折角だから、いっぱい返したいじゃない。
だから、このお姉さんの精一杯のお願いに、精一杯応えたいじゃない。
だから、私達が抱え込んだこの重い、苦しい、切ないこの想い……精一杯、ラジオを通じて、届けたいじゃない……!
私が放送室に入り、制御室にセイン小父さんが入る。
準備をしてると、ライト小父さんが制御室に入ってきた。
「メグ達は、ここで放送を頼む。
俺は送信機の所に行って、出力を元に戻して来る。」
そうだった。
今は出力を絞ってるから、向こうでは増幅しないと聞けないんだったね。
「グンター小父さんは?」
「あいつは……ちょっと急ぎで、やる事が出来た。
そっちで手が離せなくてな。
……それじゃ、行ってくる。こっちの準備が出来たら連絡する。」
「わかった。」
最初、ライト小父さんの表情がちょっと暗かったのが気になったけど、最後は笑顔で行ってくるって言ってたから、大丈夫かな。
「セイン小父さん。ちょっと準備に入る。
多分、そんなに時間はかからないと思う。
準備が終わったら合図するから、その時点でライト小父さんの準備ができてたら教えて。」
「大丈夫。
メグは、メグのやりたいようにやって。」
放送室の床に立って、目を閉じる。
灰に空気が無くなるまで吐き、もうこれ以上出る物が無くなったら、お腹の力を緩め、鼻から肺いっぱいに空気を吸う。
体の中に感じる、何か。
その何かを、言葉のラベルを貼らず、ただ感じながら……そこから溢れて来る、自分の中からこみ上げるものを……ただ、体を使って、外に出していいんだと、自分を許すだけ。
その感じる何かに、飛び込んでみる。
色んな物が。ぐっちゃぐちゃになっているそれを、味わいながら……溢れるものが、こみ上げるものが、怖くても……自分の余計な力が入ってる場所を感じ、いっぱいに空気を吸って、吐いて、繰り返して……。
そうして、体が、ただ緩むのを感じて。
お姉さん達が教えてくれた。
今ここに居ても、居なくても……私が知っていても、知らなくても……私を見守り、応援してくれる人たちが、たくさんいるんだって事。
その人達を感じ、更にこみ上げるものが強く、強く……ただ、私はそれを、私の深い所にあるそれを――。
セイン小父さんに頷く。小父さんはOKサインを出す。
ライト小父さんは準備をしてくれたみたい。
小父さん達。
お姉さん達。
中尉さん。准尉さん。
まだ見ぬ、おばあ様。
私も知らない、ケイトお姉さんの仲間達。
そして……たくさんいるんだよって教えて貰った、歌を聴いてくれた人達。
皆に、これを、届けたい。
ハンドサインでセイン小父さんにキューを出して……。
星は光 星は闇
照らされた 青い光 黒はより深く
星は命 星は死
赤い炎 皆を送る 遠い旅へと
氷が 駆けてゆく 遠い思い出
連星が 奪い去る 手に戻らぬもの
壊れた欠片を 拾い集めて
元に戻れと 祈りを編む
星は幻 星は現身
手に触れる 香を匂う 夢か真か
星は灯 星は道
暗闇を 抜けていく 微かな足跡
久しく 焦がれてた 暖かな夢
歩みを 遮るのは 自らの足
壊れた欠片は 鼓動を刻む
前へ進めと 望みを抱く
「――初めまして。
私は、メグといいます。
皆さんがつけてくれた
『星姫』って言うあだ名は、
気恥ずかしくもありますが
嬉しくて、気に入っています。
……クーロイ星系、第3惑星オイバロス。
その周囲を回る3区コロニーに、天体が衝突して
多くの人が行方不明になる事故が起きたのが、
今から、17年前。
私は、その3区で……。
最果ての星系、見捨てられたコロニーで。
事故を生き残った生存者達の元に、
私は、生まれました。
それから15年……。
私はこの3区で、数少ない生存者達と
ひっそり、暮らしてきました。
話に聞く、大地も、空も、花も……。
木漏れ日に、差し込む
暖かな日差しも、
星の見えない、雨降る夜も。
皆さんが、普通に、知っているはずの
そんな、日々の営みを
私は、知りません。
私が知るのは
どこまでも、黒く深い
吸い込まれそうな、宇宙。
強く輝く、クーロイの二重恒星。
朽ちたコロニーの、冷たい床。
このコロニーで、両親を亡くし……。
宇宙での厳しい環境に、翻弄されながら。
それでも私達は……。
数少ない、支えてくれる人達の
助けを頂きながら……
ささやかな幸せを、抱き締めて
私達は、生きてきました。
しかし、そんな日々は……
もう、終わってしまいました。
今私達のいる、3区の奥深く。
ここに、17年前の
あの事故の秘密が
眠っているそうです。
それを知った帝国軍が……
ここで生きている私達ごと
それを無かった事にしようと、
今、この瞬間、
兵を差し向け迫ってきています。
なので、私達は、止む無く……、
自分達の命を守るために、ここを離れます。
どうか、これを聞いている、皆さん。
この忘れ去られた、朽ち果てた小さなコロニーに
私達が生きていた事。
それをどうか。心に、残してくれたら――
そう願いを込めて。
もう一つ、歌を、皆さんに届けます。
皆さんが、『星の祈り』って名付けてくれた
あの歌と同じくらい、短い歌。
『憧れ』と名付けた、この歌を――。」
古ぼけた時計 かすれた文字盤
過ぎ去ってしまった思いを ひとり時をめぐる
開かない扉 届かないメッセージ
どうかこの欠片だけでも、と 願いを刻む
遠く繋がるあの地は まばゆく光って
目に映る程近く されど道は遥か
いつか誰かに知って欲しいと
手紙を小瓶に詰めて 虚空へ流す
擦り切れた服 色褪せた本のページ
こぼれ落ちそうな幸せを ひとり噛みしめる
聞こえない声 触れられない温もり
どうかもう一度だけでも、と 彼方に願う
遠く見守るあの人は まばゆく見えて
心触れる程近く されどその香は遥か
いつかあなたに手渡したいと
手紙に宛名を書いて 机にしまう
「私のこのメッセージは
時間の許す限り、繰り返し流します。
1人でも多くの方に、聞いて下されば……。
そう、願っています。
それでは、また、どこかで。
皆さんとまた、こうして
繋がることが出来る日を、
とっても、心待ちにしています。
皆さん、聞いてくれて、ありがとう。
それじゃあ、また。」
――余韻を感じながら。
セイン小父さんにそっと、終了サインを出した。
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