9-09 追悼式典、その長い一日(4)
視点を変えながら話は進んでいきます。
(???視点)
どうしてだ。当初の目論見通りに行っていない。
セレモニー会場ではそんな様子は無かった。しかしこの3区に来てみれば、女に付けた者共は居ない。それなら警備隊を使って奴らを押さえようと思ったら、取り込んだはずの総務長官も警備隊長も姿を見せない。
……くそっ。奴等、しくじったか。
こうなったら、突入隊を一部こちらに振り向けて、奴らを押さえるか……。
部下が近づいてきて、私の宇宙服に自分の宇宙服を着けて来た。
「閣下、突入部隊は、管理エリア側は大量にデブリが舞っていて近づけないそうです。もうすぐこちら側に接舷すると、連絡がありました。
衝撃にお備えください。」
「……向こうに、近づけない?」
「ええ、なので予備で設定していた接舷地点……つまり、この式典会場の辺りに突入する事になります。
予定は変更になりますが、想定ケースには入っていますので、引き続き作戦を実行します。」
目論見通りにはいかなかったか……まあ、彼等の想定範囲内なら、後は任せよう。
「……わかった。
では突入次第、事前に決めた者達……特に例の女は最優先で確保しろ。」
「了解しました。
その様に指示します。」
それだけ言うと、部下は離れて行った。
簡単にはさせてくれないか。
*****
(ジェラルド視点)
監察官、侯爵、行政長官のスピーチが終わり、今はナタリー・エルナン氏のスピーチ中。
周りに合わせてスピーチを聞く格好のまま軍の通信を傍受している。
『ドラゴンリーダー、こちらフライリーダー。
サード突入隊、間もなく第三目標地点へ接舷。
途中、軌道変更したため、接舷予定時刻は〇二三三。
ドラゴンリーダー、巻き込まれない様注意を願う。
接舷予定時刻は〇二三三。』
『こちらドラゴンリーダー、状況は理解した。
作戦行動を続行せよ。
ドラゴンライダーから指令あり。突入後、標的Xを最優先で確保。
繰り返す。標的Xを最優先で確保。
その後は速やかに、後続の作戦を実行せよ。』
『こちらフライリーダー、了解。
サードフライ、指示内容は了解したか。』
『こちらサードフライ、了解した。
突入後、標的Xを確認後、最優先で確保する。』
……つまり、大体2分後か。
ドラゴンリーダー……作戦指揮官は、恐らくこの式典会場にいるらしい。
「テキストメッセージ作成。
2分後に、軍の突入隊がこの会場に突入予定。
……メッセージ送信。」
俺は式典のスピーチを聞く格好のまま、音声操作でテキストメッセージを送信した。
何とか、脱出してくれることを願う。
これで依頼された証拠の1つを押さえた。
もう少し待って、もう一つテキストメッセージを送る。
……さて、そろそろ俺も準備をしないと。
「録音終了。
現在の軍用通信の傍受を軍用A6通常回線へ切り替え。
切り替え後、直ぐに録音開始。」
俺は今まで傍受していた回線を切り、別の回線へ切り替えた。
*****
(???視点)
部下から聞いていたとおりなら、そろそろか。
その時、式典会場内に大きな揺れが起きる。来るのが分かっていたので、何とか衝撃に耐えられた。
数秒置いて、近衛隊が周りに集まる。近衛隊との回線で隊長から通信がある。
『殿下。乱入した者達を迎撃しますか。』
「不要だ。あれは友軍である。
私の警護は通常通りで良い。」
『友軍ですと!? 彼らは一体何を……。』
「カルロス侯爵とラズロー中将の共謀による、クーロイ星系からの戦略物資横流しの疑いがある。取り逃がさない様、一斉検挙をする為に来て貰った。
彼らは他の容疑者を確保する。近衛隊は侯爵閣下と中将を押さえてくれ。」
『……騒ぎに巻き込まれては大変ですから、侯爵閣下とラズロー中将は、丁重にお連れしましょう。』
彼らには侯爵の身柄を確保してくれるだけで良いか。
中将は、かの者等が捕まえてくれるはずだ。
程無くして、近衛隊に囲まれた侯爵が私の所に来た。
抗議に来たようで、回線をこちらに合わせて話し出す。
『監察官閣下、これはどういう事ですかな。』
「侯爵、貴方にはラズロー中将と共謀の上、採掘場からの戦略物資横流しの疑いがある。加えて、各コロニーで暴動の兆候を確認したので、それぞれ鎮圧部隊を送っている。」
『何ですと? 証拠はどこにあると言うのだ!』
「こちらの独自調査で判明した。
充分な証拠と判断したため、友軍を動員して鎮圧に当たらせて頂く。
また貴方のクーロイ星系領主としての権限は、監察官の権限により一時凍結とさせて頂く。
近衛隊、侯爵を丁重にお連れしろ。」
『……了解しました。侯爵、どうぞこちらへ。』
『……くっ。』
近衛隊が侯爵を連れて離れて行く。さて、あちらはどうかな。
中将の所に行ってみると、予定通り中将は取り押さえられていた。
他にも取り押さえられている者が数名いる。彼らはこちら側では無い者達だろう。
……ククク。
あのいけ好かないラズローめが、こうして床に這いつくばっているのを見るのは爽快だ。
『准将、何をする!』
『中将閣下には、こちらで大人しくして頂きます。
……殿下、こちらを離れようとしていた中将の身柄を確保しました。』
「御苦労。
暴れない様にちゃんと拘束しておけ。
近衛隊、中将を取り押さえている彼らへの手出しは不要だ。」
『殿下!?』
近衛隊隊長がいちいち咎めて来る。
鬱陶しい、作戦行動中なのだ。
突入隊は、この式典会場の左右と上の外殻に強襲艦を衝突させ、部隊を会場に突入させている。
それぞれが会場を取り囲むように進んでおり、所々で自治政府側の警備隊と揉めているが、彼らは警備隊を無視し、抵抗する者がいれば拘束していく。所々で無抵抗のまま拘束されているのは、3区の会事務局メンバーだろう。
マスコミ連中や3区の会が集めた参列者達は、この騒ぎに立ち竦む者もいれば、パニックを起こしたのかバラバラに逃げようとしている個人や集団がいる。突入隊は彼らの方へも向かい、逃げる者を拘束していく。
参列者達の拘束が一段落し、元の式典会場に一纏めにしたところで、突入隊の隊長が報告にやって来る。
後ろに控える作戦指揮官と共に、状況を聞く。
『報告致します。
式典会場を制圧し、自治政府関係者、および3区の会関係者の大半を拘束しました。マスコミおよび一般参列者は、抵抗する者は拘束致しましたが、その他は会場内に戻しております。』
ん? ちょっと待て。
「大半……と言ったが、最優先確保対象は?」
『元々式典参加者名簿にある他の事務局メンバーは確保しました、
しかし最優先確保対象……3区の会事務局長、ケイト・エインズフェロー氏は、見当たりませんでした。』
なっ……確保に失敗しただと!
『突入後、宇宙服のため個人の特定が難しく、背格好から推定して確保したのですが、臨時で雇われた派遣社員でした。
参列者達に紛れていないかも確認したのですが、見つからず。』
「作戦指揮官、女がこちらに元々来ていない、と言う可能性は?」
『シャトルに乗り込んだ事は確認しました。
恐らく先ほどの突入の騒ぎに紛れて、秘密の通路か何かで向こうに向かったものかと。』
逃げられたか。
向こうと接触される前に確保しなければ。
「通路をいちいち探していては時間が掛かる。
速やかに行ける所から管理エリアへ向かえ。
最優先は女の身柄。生きたまま、向こうと接触前に確保しろ。
接触済の場合は向こうの者達も確保。
大した抵抗は出来ないと思うが、賊だと思って当たれ。
それから、こちらの式場での参列者の監視も抜かりの無いように。
作戦指揮官、人数配分は任せる。」
『了解しました。』
あとは指揮官に任せ、その場を離れる。
その後も、指揮官と突入隊隊長との間で会話は続いていた。
『参列者達は、未だ10名ほどが見つかっていません。誰が居ないかは確認できておりません。第5,第6小隊が未だ捜索中です。』
『……了解した。第5、第6を除く小隊長を集めよ。』
*****
(主人公視点)
あいつ等は、ゴミ捨て場あたりの外殻に艦ごと突っ込んできた。ここは場所が離れてたけどちょっと揺れた。突入場所辺りに設置していたカメラが見れなくなったから、別カメラに切り替える。
外殻を突き破った強襲艦の前が開いて、兵士たちがゾロゾロとゴミ捨て場に入って行く。
「あいつ等来たよ!
外殻を突き破って、ゴミ捨て場の中に入って行った。」
『わかった。こっちの準備は終わっているから、いつでも良いぞ。』
『発進準備はもう少し掛かる。』
小父さん達は待ち構えてるけど、中尉さんはまだもう少し掛かるみたい。
『メグちゃん、ケイトの場所は分かる?』
さっきから探してるんだけど、会場には見当たらない、
……あ!
「あまり警備の居ないエリア、いつもの会議室に行くルートに1人動いてる。
床の隠し扉を開けて中に入って行った。
多分、ケイトお姉さんだよ!」
『有難う。ニシュとそっちに向かうわ。』
「お姉さんも気を付けて!」
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