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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第9章

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9-08 追悼式典、その長い一日(3)

視点が変わりながら話は進んでいきます。

(???視点)


『計測班、こちらブリッジ。ターゲットの状況を報告せよ。』


「こちら計測班。現在の所、光学計測ではターゲットに変化無し。

 電波計測は状態が悪く、今しばらく解析が必要。以上。」


『計測班、こちらブリッジ。

 了解した。引き続き電波計測の解析を続けよ。』


 俺は第7遊撃部隊に所属している計測士官の一人だ。

 俺が乗艦しているこの艦は、サード隊と言う暗号で呼ばれる3隻の突入部隊の内の1隻、強襲艦クレイピッツである。

 現在作戦行動中で、艦はターゲットとなる小型コロニーに近づいている最中だ。俺の役目は、問題なくコロニーに近づけるかの確認である。

 ちなみにこの艦の計測班は俺一人だ。


 光学計測……視認による確認では、コロニーははっきり見えていて、特に異常は感じられない。しかし電波計測の状態が悪いのが気がかりだ。

 もう少し近づけば、レーザー計測が出来るのだが……。


「ブリッジ、こちら計測班。

 電波計測の精度が上がらない。レーザー計測の許可を求む。」


『計測班、こちらブリッジ。

 レーザー計測は探知される可能性が高い。秘匿性の高い作戦のため、残念だが認められない。引き続き電波計測の解析を続けよ。』


「……こちら計測班、了解した。

 電波計測の解析速度を上げる為、解析AIの起動許可を求む。」


『計測班、こちらブリッジ。確認する。しばし待て。』


 ちっ、レーザー計測は駄目か。ソナー電波を打っても、思ったように反射波が返ってこないのが気になる。

 解析AIは一般のAIよりかなり高性能で、これを使えば状況の把握は早いが、燃費が非常に悪いという欠点がある。

 大型艦だと元々のエンジン出力が大きいから問題にならないが、この小さな艦では解析AI起動中、通常の最大戦速の7~8割しか出せなくなる。


『計測班、こちらブリッジ。

 解析AIの使用を最大5分間許可する。』


「こちら計測班、了解した。

 ただ今より、解析AIを起動します。」


 用意してあった解析AIを起動し、電波計測データを解析AIへ投入する。

 同時に艦の加速度が少し落ちるが、安全ではない場合の回避行動もとり易くなるので問題ないはずだ。

 データ投入から2分程して、AIから解析結果が返って来る。


『解析結果:

 ターゲットとなるコロニーの周囲に、極小サイズから中サイズまで、デブリが多数存在。

 飛散範囲はコロニーの上半分の全周囲、密度は中~高。

 現行速度での衝突は危険。進路を変更し、コロニー下部への接舷を推奨。』


 ま、不味い!

 念のため再解析を実行しながら、ブリッジを呼び出す。


「計測班よりブリッジへ、至急応答願う。」


『計測班、こちらブリッジ。状況を報告せよ。』


「こちら計測班。

 解析の結果、ターゲットのコロニーの上半分、全周囲に極小から中サイズまでのデブリが多数、中から高密度で飛散している模様。

 このまま突入すれば、当艦に甚大な被害が出ると思われます。」


『……計測班、こちらブリッジ。再解析を試みよ。』


「こちら計測班。通信中に再解析を試みましたが、結果変わりません。」


『……計測班、こちらブリッジ。

 状況は理解した。解析AIの起動を解除せよ。』


 解析AIの停止指示を入力してブリッジへ返答する。


「こちら計測班、解析AIの起動を解除しました。」


『計測班、こちらブリッジ。出力が戻った事を確認した。

 引き続き、ターゲット下部の解析を実行せよ。

 追って指示するまで、応答は不要である。


 ブリッジより総員に告ぐ。

 第一、第二目標地点への接舷が困難になったため、ただ今より進路を変更し、加速度を維持したまま第三目標地点への接舷を試みる。

 総員、横Gに備えよ。横Gに備えよ。』



*****


(主人公視点)


 採掘場から戻ってから、ゴミ捨てのシャトルが来なくなった。

 その代わり、いつもの警備の宇宙服と、見慣れない宇宙服の一団が毎日3区にやって来て、コンテナを隅にどけたりしている。


 中尉さんや准尉さんにカメラ映像を見せてみた。


「ああ、これは……恐らく近衛隊の宇宙服だな。」


「近衛隊?」


「帝国皇帝本人や帝室に属する人を護衛する部隊だ。

 今この星系には監察官として第四皇子が来ているから、その護衛を担当する部隊だろう。

 あそこで行方不明者の追悼式典が行われるから、その会場準備をしているのだと思う。

 その為に、ゴミ捨てのシャトルを停止したのではないかな。」


 ……ケイトお姉さんが来れないのは残念。


「式典まで、彼女と連絡が取れないのは痛いが……。

 こちらはこちらで、式典までに準備したいことがある。」


「宇宙船の起動準備?」


「ロックの解除は終わって、エンジン起動準備は出来ているが、逃げる先が決まっていない以上、式典当日までは動かせない。

 それよりも、式典当日に軍がこちらに来ることを防がないといけない。全員の協力が必要だ。」


「じゃあ、皆を呼んで来るね。」



 会議室に全員を集めて来た。


「式典当日、恐らく宇宙軍の突入部隊がやって来る。

 ただ直接この管理エリア近くに来られると、私達が脱出する暇が無い。

 そこでだ。

 このコロニーの上半分の周囲にデブリを撒いて、突入部隊がやって来るまでの時間稼ぎをする。

 デブリを撒く範囲は……。」


 中尉さんは、コロニー全体図を立体プロジェクターで映しながら、デブリを撒くポイントを提示する。


「何でそんな事を?

 シャトルでやって来るのではないのか?」


「突入部隊はシャトルでやって来るのではなく、強襲艦という、宇宙船に直接穴を空けて兵士を送り込むための艦でやって来るだろう。スピードを出して、勢いよくコロニーにぶつかって来る。

 そこに、コロニーの周囲にデブリを撒いておいて、強襲艦がデブリに衝突すれば、中の兵士は無事では済まない。そうなれば撤退するか、デブリの無い場所に進路変更するかだろう。」


 なるほど。ここに直接来られたら、どうしようも無いもんね。

 でも……。


「その撒いたデブリが、逆にコロニーに衝突しない?」


「その危険はあるから、ただ撒くのではない。

 これから毎日夜時間に、コロニーの外から軽く投げて行く。毎日投げていると、投げた日に応じてコロニーからの距離が変わってくるはずだ。 

 直前に残りのデブリを大量にばら撒く位が良いと思う。」


 こうして式典までの間、皆でコロニーの外に出てせっせとデブリを撒いて行った。

 デブリの元になる瓦礫は住居エリアに山ほど材料があるんだけど、あまり大きな瓦礫を出しちゃうと事前にバレて回収されちゃう可能性があるから、大きくても拳大のものにしてくれって中尉さんから指示があった。

 マルヴィラお姉さんは宇宙に出た経験は無かったけど、体の使い方が上手いのか直ぐに慣れた。命綱は必須だけどね。

 ただ、ある程度訓練を受けた軍人さんのはずの准尉さんは、宇宙空間が怖いらしく、命綱があっても出入りのハッチからあまり離れられなかった。無理して出なくていいよって言ったんだけど、『それはそれで仲間外れにされたみたいで嫌』なんだって。




 式典当日は、管理エリアの会議室にモニターとか計器類を持ち込んで、皆で式典会場となるゴミ捨て場の様子を眺めてた。

 ゴミ捨て場の各所に隠したカメラは、会場を整理する一団が居ない時間帯に、見つかりにくい別の場所に移動させたので、幸い見つからなかったみたい。

 しばらくすると、大勢の人がシャトルに乗ってやってきた。人数が多くて、1台終わったと思ったらまた1台と、計5台のシャトルが来た。

 どこにケイトお姉さんが居るかわからないなと思ってたら、マルヴィラお姉さんがモニターの1点を指差した。


「ケイトは多分この辺りよ。」


 注意して見てみると、見たことあるような宇宙服の人が、他の人に行き先を案内したり、警備隊らしき人に話しかけられたり、忙しなく動いていた。多分これがケイトお姉さんかな。

 時折、会場の中をキョロキョロしてたけど、私達が設置したカメラの位置を探してるみたい。見つからない様に元の場所から変えちゃってるから、ケイトお姉さんには見つけられないんだと思うけど、今から教える訳にもいかないからね。



 式典が始まって、偉い人らしい人のスピーチが始まった。

 始める前にチャンネル番号を書いたボードが掲げられてたから、そのチャンネルを開いて内容を聞いてみる。


『セレモニーでも自己紹介したが、改めて。

 帝国より監察官の任にある、フォルミオン=アエティオス・ダイダロスである。

 17年前の事故当時は、……』


 この人、なんか偉そうな物の言い方してる。

 それになんか宇宙服が……。


「この変な宇宙服の人、誰?」


「変なって……まあ、一人だけ金のラインが入って目立つがな。

 これは第四皇子、つまり皇帝の4番目の息子だよ。」


 へえ……あの話に出てきた皇帝の、息子。

 口調といい嫌な奴っぽいけど、宇宙服で顔が見えないね。


 その嫌な奴のスピーチは、偉そうな口調のまま5分くらい続いた。

 その後でカルロス侯爵のスピーチに入ってからしばらくして、ピピピッ、ピピピッと計器類に音が鳴った。

 外に撒いたデブリに紛れ込ませた、パッシブセンサーに反応があったみたい。


「敵さんのお出ましの様だな。

 私は航法コンピューターの立ち上げと、出発準備を始めよう。」


「俺達は、そろそろ嫌がらせの準備を始めるか。

 メグ、准尉さん、何かあったら教えてくれ。」


「わかった。いってらっしゃい。」


 中尉さんと小父さん達は会議室を出て行った。

 准尉さんは、センサー類から来る情報を分析してる。

 しばらくして結果が分かったのか、通信をONにして説明してくれた。


「感度をかなり高めに調整して正解でしたね……。

 信号の発信源は3つ。信号の出力強度からすると小型艦船、恐らく宇宙軍のステルス強襲艦でしょう。

 1隻あたり、最大100人くらいの兵士が搭乗可能ですから……300人の兵士が、3区に突入してきます。」


『300人!?』


 ここに押し寄せる人数は、せいぜい数十人位だと……。


『慌てなくても大丈夫だ。まだ対処する時間はある。

 外に撒いたデブリがあるから、強襲艦はこちらに真っ直ぐ来られない。多分式典会場の近くに回って、そちらにもかなり人数を割くはずだ。

 准尉とマーガレット君は、引き続き、こちらに来る兵士達の状況の確認を頼む。』


 中尉さんが私達を安心させようと、声を掛けてくれる。


『大丈夫よ。

 もしこっちに来るようなら、私が蹴散らしてあげるわ。』


 マルヴィラお姉さんは先に管理エリアを出て、ゴミ捨て場に向かっている。

 お姉さんと一緒にいるニシュは、相変わらず侍女服のまま。


「お姉さんも無理しないで、危なくなったら逃げて。

 ニシュ、お姉さんのことお願い。」


『そうするわ。有難う、メグちゃん。』

『ええ、任せてください。』


いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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