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1-07 グンターの憂慮

2022/01/27 軍側の引継ぎリーダーの階級を中佐→中尉に変更しました。

 俺はグンター・シュナウザー。コロニーの運用に欠かせない再利用処理装置等の機械装置をメンテナンスするための準軍属の機械技師として最初に星系クーロイに来たのは、俺が20の時だった。

 ちなみに準軍属というのは、正式な軍階級は無く普段は民間の仕事をしているが、偶に軍の特殊ミッションの際に召集される者たちの事だ。ミッションは危険が多かったり、軍属以外の人に話せない内容だったりするので準軍属になるための審査は厳しいが、その分達成時に高額報酬を得ることができる。


 星系クーロイの第三惑星オイバロスはハイパードライブ航法の要となる触媒鉱石リオライトが採掘できるため、採掘基地やコロニーの全体が軍管轄である。そのため、コロニーの維持運用も全て軍属か準軍属の人間が担当する。しかし、惑星を離れてコロニーで生活するのは人間にとっては大きなストレスであるため、コロニーの維持運用の交代要員としてやってきたのだ。

 こうして俺は5年の任期を務めあげ、高額報酬を手に故郷の星系に引き上げた。


 俺は出身星系へ引き上げた後、星系内のメンテナンス会社に就職し、半年後に地方政府の官僚をしていた幼馴染シャルリーと結婚した。2年後に長男クラウス、4年後に長女エリーゼと二人の子供が生まれ普通に幸せな家庭を築いていたので、結婚後は殆どの軍のミッションを断っていた。

 しかし子供達が大きくなってきたある時、クーロイのコロニーで使っていた機械について大きなトラブルが発生し、クーロイ赴任経験のある俺にも助けてほしいと指名ミッションが伝えられた。最初は断ったがどうしてもと報酬増額を提示され、妻と相談の上で危険は少ないだろうと判断し、このミッションを引き受けることになった。


 その頃は惑星表面の採掘基地は変わらず軍管轄だったが、生活基盤となるコロニーは自治政府が立ち上がり、軍から自治政府へコロニー運用を引継ぎしているところだった。しかし自治政府側にはロボット技師は多く居たが装置類をメンテナンスする機械技師の数が明らかに足りておらず、装置メンテナンスの要諦を自治政府側のロボット技師に伝授するのがミッション内容だった。

 運用が始まって50年、このコロニーに設置された装置類はすでに旧式の物が多い。最新式であればメンテナンスはもう少し簡単になるが、50年も稼働している旧式の装置は見えない部分にガタが来ているだろうし、五感に頼る部分も出てくる筈なのだ。

 俺が呼ばれたってことは最新式に装置が取り換えられている訳でもなく、旧式の装置のままなのだろうが、それをロボットに全部の作業をさせるつもりか?と俺は内心呆れ、軍の担当者も同じ意見だった。しかし自治政府側は予算も人手も不足しているようで、ロボットによる遠隔メンテナンスをすることにしたようだ。

 前の赴任時の俺の担当は3区コロニーだったので、今回の引継ぎも3区の分を行うことになった。軍側はクレッグ中尉をリーダーに軍属のマンサ医師とロボット技師と事務官1人、準軍属は俺とレーダー技師のライトの6人。

 政府側のメンテナンスチームは20人ほどの若い男女ばかりで、医師はおらず女性看護師が1人だけいた。

 メンテナンス対象の各装置はマニュアルが残されていたが、俺が赴任したときの物と大差なかった。しかし稼働50年も経ちあちこち不具合が発生しており、大きな部品交換なども必要になる。その作業に立ち会いながら政府側チームに覚えてもらうという方針で引継ぎを行うことにした。

 政府側からは一人だけ、セインというロボット技師だけは直接自身で俺に同行して、メンテナンスのノウハウを直接俺から聞き、装置を見て触って作業を覚えていったが、他のメンバーは誰一人俺に同行せず、遠隔操作ロボットを通じて引継ぎを受けに来た。セインに聞いてみると、他のメンバーは五感共有型のVRタイプの遠隔操作ロボットで参加しているが、彼はVRタイプの遠隔操作と自分の実際の体との感覚の違いに慣れず苦手らしい。

 準軍属のライトとはこのミッションが初対面だったが、彼の方もほとんどのメンバーが遠隔操作ロボットで引継ぎを受けていて、船外作業で何人かロボットが宇宙に投げ出されたらしい。その度に回収してくれと政府側から頼まれて、回収作業のため引継ぎが思うように進んでいないらしい。これは先が思いやられる。

 引継ぎは半年の予定だったが案の定思うように進まず、更に半年延長となった。


 そうしたある日、軍属のリーダーと事務官が急に引継ぎを外れることになった。残るロボット技師もマンサ医師も理由は聞かされていないらしいが、軍の上層部がかなり慌ただしいらしい。セインに聞くと政府側もなにやら上層部が慌ただしいが内容は分からないという。ライトによると軍の航宙艦の3区への出入りが急に増えたらしい。

 翌日になると、軍や政府の上層部、その家族達が急に3区から1区や2区へ最低限の荷物で離れていき、きな臭さを感じた一部住民も1区や2区へのシャトルチケットを買い求める動きがでて、1区や2区行のシャトルチケットが取れないらしい。

 何かおかしいと思った政府側チームメンバーが上に問い合わせても回答が要領を得ないもので、どうしたものかと思っていたら、更にその翌日に政府通達が出た。この3区コロニーに大きな天体が急接近しており、およそ6時間後に衝突の可能性がある、シャトルの運行も停止するため住民は非常用シェルターに避難しろ、というもの。

 これには残された一同驚愕した。この情報をいち早くつかんだ上層部は3区から逃げ出し、必要以上の人口を抱えられない1区・2区コロニーを維持するため、もし天体が3区コロニーに衝突すれば政府は切り捨てるつもりなのだろうか。


 案の定、我先にシェルターへ急ぐ住民でコロニー内は大混乱になった。俺はライトに声をかけ、公表された情報から天体がコロニーのどのあたりに衝突しそうか計算した。その結果、商業エリアから工業・倉庫エリアに掛けて衝突の危険性が高そうなので、残ったメンバーにも声をかけ、シェルターではなく住居エリアの奥、管理エリアに近く衝突の危険が低い地域に避難することにした。このあたりは軍や政府の上層部の住居が多く、他よりも構造上頑丈になっている。ここならシェルターでなくても大丈夫かもしれないという可能性に賭けたのだ。

 行ってみるとこの辺りの住宅はもぬけの殻で、皆いち早く避難してしまったらしい。その中でも頑丈そうな部屋を選んで全員で宇宙服を着て1か所にまとまっていると、やがてコロニー内を大きな衝撃が襲った。

 衝撃で部屋の壁に全員打ち付けられた。部屋の気圧も下がっていくのでコロニー外壁に穴が開いたとみて、急いで軍用コードで端末を操作して我々の要る区域の隔壁を閉じたが、打ち付けられた痛みで意識を失った。



 衝撃が落ち着いてから暫く経って意識を取り戻した俺は、端末でコロニーの状況を確認した。

 天体は商業エリアに衝突して工業・倉庫エリアに抜けて行ったようで、これらのエリアは中が大破した模様。住居エリア含め各地のシェルターに通信を出してみたが、いずれも応答は無い。さらに1区や2区への通信も送ることができず、外へ助けを求めることもできない。

 幸い一緒に残ったメンバーは全員無事だった。そこで、手分けして食料の確保と生存者の捜索、各種装置の確認・修理を行った。上層部の住居域だけあって食料の備蓄は多く、またこのエリアの生命維持に必要な装置類も大きな被害は無かったが、生存者は見つからなかった。住民の大半は宇宙服無しでシェルターに避難したようで、衝突の衝撃からどのシェルターも外壁や隔壁に穴が開いて空気が漏れ、住民達も助からなかったようだ。

 マンサ医師や軍属のロボット技師は管理エリアへの通行や通信を試みたが、こちらも出来なかったようだ。


 それから暫くの日数、このエリアで救助が来るのを待っていたが、レーダーで確認する限りコロニーの周りを大小無数のデブリが舞っており、救助は遅れそうだった。宇宙空間へ出るのも難しい。何日か経ってから軍の無人機が多数やってきてデブリを回収していくようになったが、それでも軍や政府の救助はいくら待っても来なかった。

 そのうち、軌道ケーブルを伝って1区や2区へ脱出しようと言い出すメンバーが現れた。宇宙空間の危険性を知る俺やライトは止めたのだが、日を経つごとに人数が減っていき、3か月もすると10人程しか残らなかった。


 そんな中、政府側の女性看護師メリンダが妊娠したらしく、徐々にお腹が大きくなっていった。夫のライノもここに残っているのは幸いだが、この状況での出産はリスクが高いので、何とか救助を求めることができないか、皆で試行錯誤した。

 しかしデブリ回収後は軍艦もシャトルも来ない。ケーブルが破損したのか1区や2区との通信もできない。電波通信も試みたが1区や2区へ通信できるだけの出力が出せなかった。


 そして衝突から1年近く経ったある日、マンサ医師の手助けの下でメリンダは女の子を無事出産した。女の子はマーガレットと名付けられた。


 この頃にはもう救助を期待することは皆諦め、殺伐となりかけていたが、そんな中で産まれたマーガレット……メグは俺達の心を再び一つにした。この子を皆で立派に育てて、どこへ出しても恥ずかしくない子にしようと。

 基本的な字や算数は母親のメリンダやマンサ医師が教えていた。それから歌も母親のメリンダが。俺は絵を。ライトは運動を。セインは裁縫を。父親のライノは専らメグと一緒に遊んだりしていた。とにかく各自ができることをメグに教え、皆で一緒にメグを育てていた。



 段々メグが大きくなってきたある日、メンバーが謎の体調不良になり始め、5日もすれば全員が同じ症状で臥せっていた。

 マンサ医師が残り少ない検査薬で調べたところ、宇宙空間で罹りやすい伝染病の一種だと判明した。ワクチンが存在する種類で、通常は定期的にワクチンが支給されるのだが、今は有効期限がとっくに切れた1回分しか在庫が無いらしい。

 体力があれば生き残れる可能性がある病気らしいので、話し合った結果、在庫のワクチンはメグに打ち、大人は体力勝負となった。


 そして……7日後、生き残ったのは俺とセイン、ライト、そしてメグの4人だけだった。

 惑星上の様に土に埋葬などできないので、亡くなった皆の遺体の棺を廃材で作り、ゴミの射出機で恒星へと射出した。



 それからの日々は、メグにも装置のメンテナンスなどを教え、4人で力を合わせて生き延びてきた。しかしそのまま天体衝突から10年以上が経ち、物資も底をつき始めてきた。もうそろそろ限界かと思った頃、3区に久しぶりのシャトルがやって来た。何事かと思っていると、シャトルから沢山のロボットが資材と共に降りてコロニーの穴を塞ぎ、倉庫区画を修理してコンテナを置いて行った。コンテナの中身を確認すると……再利用処理前のゴミ?

 俺やライトは腹を立てたが、メグだけは喜んだ。


「だって処理前のゴミだよ? 再利用処理したら使える物もあの中に転がってない?」


 ゴミの中身を詳しく調べてみると、処理前かつ分別もしていないゴミだったため、再処理すれば大丈夫そうな食料や水だけでなく、修理用の部品取りに使えそうな機械部品なども紛れていた。これならまだ、生き延びることができそうだ。

 

 それから定期的に、他のコロニーからの未処理ゴミが持ち込まれるようになり、それに伴ってゴミから使える物を回収する者も来始めた。

 最初は彼らに救助を求めることも考えたが、軍や政府が今まで一度も救助に来なかったことから揉み消されるリスクが低くないと判断し、逆に彼らに多くの資源を持ち去られないよう、使える物は出来る限り根こそぎ回収したり、彼らに持ち込まれた回収ロボットをこっそり拝借したりした。


 そして、メグ曰く「人の良さそうな」若い女性の回収業者ケイトと接触し、俺達が必要な物をコロニーで買ってきてもらってゴミからの回収物と物々交換取引を始めた。

 伝染病で母親を亡くして以来、メグには女性の知り合いが居ない。メグには教えていないが、引き渡す物品にこっそりメモを忍ばせて、女性として教えられることをメグに教えてやってほしいとお願いした。

 そしてある日、偶然管理エリアへの道が開け、そこで侍女アンドロイドのニシュと出会った。

 ニシュはどうやら貴族令嬢に仕えていたようなので、女性としてのマナーなどをメグに教えてやってほしいとセインが頼んでいた。


 ケイトやニシュの協力が得られたのか、彼女たちのメグへの教育?も始まっているようだ。こんな環境でメグは粗野に育ちかけていたので、これで少しは女の子らしくなってくれると俺達は嬉しい。



 メグは俺達の光だ。故郷に残してきた家族以上に、俺達は家族だと思っている。

 俺やセイン、ライトはいつまで生きていられるか分からない。なるべく俺達が生きている間に、メグが無事に救助されればいいんだが……。


プロットを練り直しているうちに日付がかなり経ってしまいましたが漸く再会です。

前作の様なペースは難しいですが、完結までぼちぼち更新していきます。

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