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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第9章

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9-07 追悼式典、その長い一日(2)

視点を変えながら話は進んでいきます。

(ケイト視点)


 警備隊の服を着てもらった5人と別れ、3区行きの式典出席者用シャトルに乗ります。

 出席者用シャトルは全部で5台になります。まずは侯爵閣下と自治政府職員等で1台、次に我々3区の会と行方不明者家族で2台、マスコミ関係者で1台、最後に監察官閣下と警護する近衛隊で1台、と分乗します。


 シャトルに乗る前に荷物検査を受けました。

 男性の荷物は自治政府側の警備隊が、女性の荷物は近衛隊の女性が検査をします。これは、手回り品の検査を男性に検査されることを女性側が嫌がることが主因で、自治政府の警備隊には女性隊員が居ないためにこうなりました。

 他の行方不明者家族の参列者達の場合、宇宙服が貸与品なので手荷物検査だけです。

 私の場合は宇宙服も持ち込みで、手荷物も宇宙服もかなり念入りに検査されました。時間は掛かりましたが、特に注意を受けることなく通過しました。

 後になって近衛隊の女性隊員から聞いたのですが、私や事務局メンバーについては重点的に検査するよう、監察官側から指示があった様です。


 荷物検査の後、シャトルに乗り込みます。

 シャトルの中も空気や重力は普通通りですが、念のため、発車する前に全員に宇宙服を着て貰う必要があります。

 行方不明者家族の方々は宇宙服を着慣れていないので、参列者が宇宙服を着込むのを、事務局や自治政府職員達が手伝うことになり、その影響で出発が遅れました。



 0区から1区を経由して3区まで行くのは、この高速シャトルでも4時間弱の時間が掛かります。

 行方不明者家族の特に若い方々は、窓から見える惑星オイバロスや宇宙空間に浮かぶコロニーの写真を撮ったり、窓の景色をバックに自撮り写真を撮ったりしていました。

 でも1区を過ぎて暫く経った頃には、退屈になったのか、眠ってしまわれる方々が多かったです。


 そんな中、シャトルが1区を過ぎて暫く経ち……行方不明者家族の方々の大半が眠ってしまわれた頃、男性が声を掛けてきました。


「エインズフェロー女史でいらっしゃるか。」


「ええ、そうですけど。どちら様でしょうか。」


「私は自治政府で行政長官を務めております、シュミット・カークバーンと申します。

 前総務長官ステファノ・アイアロスが失礼した件で、自治政府を代表して謝罪に参りました。」


 !!!


「前総務長官が3区の会に付けた者達は、宇宙軍第7遊撃部隊所属の士官だとか、解放しないと自治政府が処罰されるだとか、そんな妄言を取り調べで吐いている様です。

 ただ言動が破落戸そのものでしたので、今は拘束したまま警察の牢屋に放り込んでおります。


 3区の会の皆様には、クラークソン補佐官への御連絡と捜査への御協力、誠に有難うございました。

 今はクラークソン補佐官を総務長官代行に任命し、その様な者を警備隊と偽って引き込んだ前総務長官と警備隊長について、厳しくこれから取り調べさせて頂きます。」


 そう言って、長官は頭を下げます。

 何となく軍所属の者達だろうと思いましたが……破落戸として牢屋に入れてくれましたか。


「謝罪は受け入れますわ。実際の被害は無かったので、私共としては適正に対処頂ければ、問題ありません。それより長官は、どうしてこのシャトルに?」


「セレモニー終了後、総務長官を解任して代行を任命する手続きをするために、取り急ぎ庁舎に戻っていたのです。

 そのせいで侯爵閣下の乗るシャトルに間に合わなかったので、こちらに乗せて頂きました。

 忙しくてシャトル内でも仕事をしていたら、貴女が緊張しているのか起きていらっしゃるのを見かけて、声を掛けさせてもらったのですよ。

 やはり、式典の運営は緊張されますか?」


 今日は別の緊張はありますが、普段から、シャトルの中では眠ってはいませんね。


「何度も、資源回収業者として3区に行った事はありますが……その時は、眠っても居られなかったのです。

 私が眠っている間に回収した荷物を探ろうと、様子を窺いに来る同業者達が後を絶たなかったもので……ずっと気を張っていなければならなかったのです。

 その癖なのか、どうもシャトルの中が落ち着きませんで。」


「……そうですか。

 回収業者達の間でカルテルを組んで貴女がたを締め出していた可能性を、清掃処理課の担当者からも伺っています。その辺りも総務長官管轄ですから、前総務長官を問いただしておきましょう。」


 長官はふうと一息つき、首を振ります。

 クラークソン補佐官……総務長官代行の仕事はまた増えそうです。資源回収現場の雰囲気は余り良くありませんが、風通しを良くしてくれると有難いですね。


「そうそう、もう一つ、貴女にお伝えしたいことがありまして。

 今すぐでは無いですが……3区の会の活動が落ち着いたら、貴女を是非、政府にスカウトしたいと思っています。」


「え?」


 行政長官は顔を近づけ、小声で話す。


「式典準備における3区の会事務局の仕事振りは、政府内でも高く評価されているのですよ。会は貴女が実質的に人を集め、方針を決めて運用しているであろう事は、見る者が見ればちゃんとわかります。

 貴女自身の資質もそうですが、優秀な人が周りに集まってくる、組織作りが出来る人が、政府には喉から手が出る程欲しいのです。

 あと……。」


 行政長官は更に声を潜め、ある言葉をささやく。

 すぐに彼は元の場所に戻る。


「今すぐは返事を頂きません。よく考えておいて頂けると有難いです。」


「御評価頂いて有難うございます。

 ですが、その話は落ち着いてから、ゆっくり検討させてください。」


「勿論です。それではまた、会場でお会いしましょう。」


 そう言って、長官は去っていきました。



*****


(ジェラルド視点)


 ……長い退屈な時間を経て、シャトルは3区に到着した。


 フィトとサムエルは、0区会場の式典では取材側として参加した――多少金銭の支払いがあったが、自治政府への寄付扱いだった――が、3区の取材枠は取らなかった。

 そもそも幹事社に高額を払って枠を買うのも嫌だったが、それ以前に3区に行かなくてもやってもらう事があったのだ。その為、2人とはセレモニーが終了次第、借りた家に帰って貰った。


 ……ここからは空気の無い場所なので、宇宙服をちゃんと閉めてください、と自治政府職員によるアナウンスが流れる。

 周りの列席者たちは慌てて宇宙服のバイザーを閉める。中にはシャトル内で窮屈な宇宙服を脱いでいて、今になって周りに手伝って貰いながら慌てて宇宙服を着込む者までいる。


 俺は、周りがバタバタしている間に宇宙服のチェックをする。この宇宙服は3区の会側から用意された特別製だ。今回の仕事用に色々と仕掛けが施されているが、他の参列者達が貸与された宇宙服と見た目は変わらないため、乗車前の宇宙服の検査はほぼ素通りだった。

 この宇宙服は本気で欲しいと思うが……今回の仕事が終わったら、返却しなければならないのが残念だ。


 宇宙服の足元をチェックする振りをしながら、ある物を宇宙服の足にある隠しポケットから取り出し、シャトルの前の席の下から投げ込む。


 乗車した全員が宇宙服をちゃんと着たかを確認の上で、シャトルの扉が開かれ、自治政府職員の誘導に従って参列者達が3区へ降り立って行く。会場と反対方向の降り口は開かず、そちら側の窓を覗くとホームからの出口に宇宙軍がバリケードを設置していて、立ち入り禁止になっていた。



 このコロニーは1区、2区と同型で、元々軍政時代に採掘技術者や研究者、軍などの限られた人数が滞在するために作られた小型コロニーだった。

 0区の様な大型コロニーであれば、住人は惑星上と同じように自動車や自転車等で移動するのだが、クーロイの小型コロニー、1区や2区は軍の長距離巡航艦が設計のベースになっているのか、中がビルのような重層構造になっていた。

 大きな通路には、壁に設置された取っ手状の物――正式にはグラビティ・ハンドルと呼ぶらしいが、住人達は単にハンドルと呼んでいた――があり、そこを通る住人はそのハンドルを持って移動する。

 こういった様式の小型コロニーは帝国内でも数える程しかなく、殆どが軍用のコロニーだという。一般の人間が立ち入る事が出来る小型コロニーは、クーロイ以外には無いようだ。この星系に来て式典が始まる迄の間、3人で1区や2区を取材した時は、その生活様式の違いに驚いたのだった。


 この3区もかつては同じ様な中身だった筈だが、17年前の事故で内部が大きく破損した今、こうしてゴミ捨て場となっているエリアは、外殻だけは修理されている。まるで巨大な倉庫と言った様相だ。

 奥の方には大きなコンテナが山と積まれていて、その更に向こう側は見えないが、向こうは事故当時から手つかずになっているエリアで、危険なため立ち入りが禁止されているそうだ。

 到着時、3区コロニーは夜時間になっていて、シャトルの車窓からコロニーの外観を確認できなかった。しかしシャトル駅や会場含めたコロニー内部は、多数のパネル照明が点いていて、かなり明るい。

 これが、ゴミ処理の追いつかなくなった自治政府が、ゴミを捨て置く場所として整備したエリアか。



 自治政府職員達の誘導により、参列者達は三々五々と会場に向かう。ここは完全に無重力ではなく弱い重力が働いていて、何かの拍子に飛ばされる事は無い。

 会場は、この巨大な倉庫のこちら側に空いた大きなスペースに設置されており、多数のパイプ椅子が列席者用に並べられていた。他には、向こうのコンテナの山側の所に献花台が設けられている。

 その献花台から左手の外殻近くにはスピーチ用と思われる壇とマイク、その裏には放送設備らしい大きな機械が置いてある。

 ここには空気が無いため、司会や来賓達のスピーチは全て放送設備を使って各人の着る宇宙服に流されるそうだ。


 壇と献花台の間には、この倉庫奥へと続く通路らしきものが続いており、誘導のための黄色いテープが床に貼られている。このゴミを置いているエリアの奥に、整備前の……つまり事故当時の状態、内部がメチャメチャに破壊された当時のまま置かれているエリアを見る場所があるそうだ。

 式典の中で、希望者がその当時のままのエリアを望み、事故による行方不明者達を偲ぶ時間が、プログラムの中に設けられている。危険だということで自治政府側の反対にあったが、3区の会側の非常に強い希望で実現したものだという。

 それでも政府側は希望者のみとしたが、参列する家族の大多数がこのプログラムの参加を希望し、政府側が折れて全員参加とする事になった、という経緯が、参列者向けの会報には書かれていた。



 監察官や侯爵と言った来賓席は別として、参列者席は前から先着順となっていた。

 ただ、式典会場は献花台に向かって緩やかな下り坂になっていて、どの席からでも献花台や、その上にある事故前の3区コロニーの写った巨大写真パネル、更にその上に掲げられている『天体衝突事故による3区行方不明者追悼式典』の文字パネルなどは、どの席からでも見えるようになっている。


 3区での式典プログラムは、最初に自治政府の行政長官、監察官、侯爵、3区の会会長ナタリー・エルナン氏それぞれのスピーチが行われる。

 その後、献花台への献花を、最初に監察官、侯爵、行政長官、ナタリー・エルナン氏の4名が同時に行い、その後で参列者の献花が順に行われる。献花が終わった者から、順に奥のエリアへ行き祈りを捧げる事になる。運営上、奥のエリアは一人5分までと制限時間が設けられた。


 参列者達が全員着席した後、マスコミ関係者達を載せたシャトルが到着し、会場の後方に用意されたプレスエリアに記者やカメラマンたちが殺到する。陣取る場所は事前に幹事社が決めていたようだが、それを守らない一部の者達が幹事社関係者と揉めたようで、少し混乱が起きていた。

 最後に監察官達が乗ったシャトルが到着し、監察官達は近衛隊と共に、決められた来賓席に着いた。




 自治政府職員らしき宇宙服を着た人が、壇の左下にマイクを持って立つ。その後に別の職員が、式典用のチャンネル番号を指示する大きなボードを2人がかりで掲げる。

 そろそろ式典が始まるので、放送をそのチャンネルに合わせろという事らしい。


 俺は宇宙服のチャンネルをその番号に合わせたが、音量は小さく設定した。

 この特別製の宇宙服には、別の回線を受信するためのもう1系統の回路があり、そちらを使って他に流れている通信が無いかを探る。


「2番回線、政府用電波帯を検索。……対象の電波帯に合わせ、交信内容を受信。」


 変な動きをしない様、音声操作で指示が出来るようになっている。

 検索すると、回線の一つに引っ掛かる物があったので拾ってみる。



『警備隊リーダーから各分隊長へ。

 式典が始まるが、各分隊の現在の状況を報告せよ。』


『第1分隊、来賓エリア、問題なし。』

『第2分隊、ガベージ奥エリア、問題無し。』

『第3分隊、マスコミエリア、問題無し。』

『第4分隊、家族の会参列者エリア、問題なし。』



 ……どうやら、会場警備を行っている自治政府警備隊の通信らしい。こちらは問題ないか。別の回線を探るが、他に飛び交う通信は無さそうだ。


「2番回線、設定を軍用回線に切り替え。

 A1からS8まで、交信のある回線を検索。」


 設定を軍用回線の傍受に切り替える。

 そもそも、何故軍用回線を傍受できるようになっているのか……得体が知れないが、依頼された事は実行しよう。


 探っていると、3つ程使用されている回線がある。

 それぞれを傍受してみると、1つ、怪しい内容の通信が拾えた。多分これだろう。


「録音機能立ち上げ。

 M6回線を傍受。交信内容を録音。

 録音データはメモリカードへの保存と、暗号送信の両方に回す。」


 録音モードを立ち上げ、その通信内容を記録すると共に、バックアップとしてデータ変換し暗号化して変換端末へ飛ばす。

 技術的な事はよく分からないが、あの男は変換端末との通信について、ペアリングとか指向性無線通信とか言っていた。

 そのデータは、先ほどシャトル内に放り込んだ変換端末で極超短波に変換され……惑星の裏側、0区に居るフィト達の元へ届く手筈になっている。


 手筈を整えながら、その不穏な通信内容に聞き入っていた。



『こちらフライリーダー、ドラゴンリーダーへ定時連絡。

 ファースト、セカンド、サード、ホーム、ファールの各部隊、作戦準備オールグリーン。

 ドラゴンリーダーからの変更指示が無い限り、予定通り〇二〇〇より作戦行動を開始する。』


『こちらドラゴンリーダー、全体状況に変化なし。

 予定通り〇二〇〇より作戦行動を開始せよ。』


『こちらフライリーダー、了解。

 〇二〇〇より作戦行動を開始。

 繰り返す。〇二〇〇より作戦行動を開始。

 サードフライ、応答せよ。』


『こちらサードフライ、了解した。

 予定通り〇二〇〇より作戦行動を開始。

 サード隊総員、ただ今をもって、戦闘態勢に入る。

 繰り返す。サード隊総員、ただ今をもって、戦闘態勢に入る。』


そう言えば、0区と1~3区のコロニーの違いについて

今までの話に描いてなかったなあ、と思いまして。


初代ガ〇〇ムで言うと、

0区は、そのまま、あのスペースコロニーのイメージ。

1~3区(3区は事故前の)は、中身がホ〇〇〇〇ースの様なイメージ。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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