9-05 回収業者への通達と、その裏
この辺りから、話の途中で視点が変わっていきます。
(ケイト視点)
式典へ向け準備を進めていたある日。
自治政府のゴミ処理担当部署から、全回収業者宛てに通達が出された。
『クーロイ自治政府 総務部清掃処理課 通達 第3281106003号
宛: 清掃処理課登録済 全リサイクル品回収業者
回収業者の皆様には、日頃のゴミ処理とリサイクル品回収へのご協力ありがとうございます。
来る11月15日、3区において天体衝突事故における行方不明者の追悼式典が行われる事は御存じと思います。
当日自治政府他関係者だけではなく、帝国上位の方々含め多数の御列席者が3区へ訪問されます。
その為、当日の式典を恙無く実行できるよう、警備体制を強化する必要が出てまいりました。
つきましては、以下の期間、回収業者の皆様の3区への移動、および現地におけるリサイクル品回収業務を中止とさせて頂きます。
期間: 11月8日 ~ 11月16日
上記の期間におけるリサイクル品回収については、別途各回収業者の皆様へご連絡致します。
直前の御連絡となり申し訳ありませんが、皆さまの御協力のほど、よろしくお願い致します。』
その内容を見て、急ぎ担当者のローモンド氏との面談のアポイントを取った。
翌日、予約した時間より少し早めにローモンド氏の所を訪れる。
「こちらへどうぞ、エインズフェロー様。」
ローモンド氏の補佐についている新人の子の案内で会議室へ入ると、そこにはローモンド氏と、ここに居る筈のないもう1人。
驚いて、慌てて礼をする。
「いらっしゃるとは思わず、失礼しました。」
「いやいや、ちょっと彼に用事があっただけだ。
私はもう行くから、気にしないでくれたまえ。」
そこに居たのは何と……円卓会議室でお会いした、アイアロス総務長官。
「それじゃあ、宜しく頼んだよ。」
「了解致しました。」
長官は立ち上がり出て行くのですが……。
去り際に、私の手にこっそり何かを捻じ込んで行きました。
長官がドアを出て行ってから、ローモンド氏に尋ねてみました。
「エインズフェローさんの用事は、あの通達のことですよね。
長官は、その関係で方針を伝えに来たんですよ。
普段、滅多にこっちのエリアに降りてこない人なのですが。」
「そうなのですね。
今日は、あの通達がどういう経緯なのかと、
その間のゴミ処理をどうするのか、お聞きしたいと思いまして。」
ローモンド氏によると、これは監察官側からの意向らしい――監察官側って、今回の式典では建前上参列者の筈なのですけど。
自治政府に対して強権発動でもしたのかしら。
とはいっても、クーロイではゴミ処理施設の許容量問題は解決していない。
中止している間どうするのかというと、どこからか廃船寸前の航宙輸送船を借りてその中にゴミを持って来て、リサイクル品の回収を行う方向なのだとか。
つい先ほど総務長官が主導で話をまとめた所で、今日中に別に通達が出るらしい。
先ほどの長官の来訪は、これをローモンド氏に伝えに来たとのこと。
回収の結果、残りのゴミは結局どうするのかしらと思って訊いてみたら、
「そこは決まっていないので、長官からも、現場から案を出して欲しいとの事です。
実はその輸送船はレンタルで、綺麗にして返さないといけないらしいのです。
レンタル代は、廃船直前なので安く済んだそうなのですけど……そんな費用、どこから出たのでしょうね。
ゴミは式典終了後に3区に運んで、船を清掃して返す事になると思います。
……その際には、回収業者の皆様にご協力をお願いするかもしれません。」
とのローモンド氏の回答だった。
自治政府庁舎を出て3区の会の事務所に戻る。
事務所の表側は有象無象のジャーナリスト達が押し寄せているから、内緒の裏口から入り、会議室に入って長官のメモを見る。
『侯爵と君が会った事は、監察官側に漏れている。
中将の配下にスパイがいる事は確実だ。中将の配下は信用してはいけない。
式典の時に、私の信頼する配下を3人、護衛につける。
どこかで面通しさせてほしい。』
「……馬鹿じゃない!?」
呆れて思わず叫んでしまった。
それに気づいたのか、しばらくしてキャスパーが会議室を覗いてきた。
「お帰りなさいませ。どうなさったのですか。」
「リサイクル品回収についての通達の確認で、さっき清掃処理課に行ったの。
そうしたら、担当者に面会の場にたまたま総務長官がいたの。
長官はすぐに出て行ったのだけど、去り際に私の手に、メモを捻じ込んで行ったのよね。」
キャスパーにメモを見せると、彼も呆れた顔をする。
「しかも、今回のゴミ捨て中止に際して、古い輸送船を借りてゴミを一時保管するからそこで回収をやってくれ、ですって。
一時保管したゴミをどうするかも考えてないの。
馬鹿じゃないの、と思ったわ。」
もう、突っ込み所が満載すぎて。
「お嬢様は、この一連の狙いを何だと思いますか?」
「多分だけど、式典の前か最中に私の身柄を確保して、向こうが抵抗した時の人質にでもする心算じゃないかしら。
流石に事務所では拉致されないと思うけど、輸送船の回収現場は怪しいわね。」
「私もそんな所だと思います。
この護衛とやら、一応面通しして、裏を取りますか?」
「やるだけ無駄よ。
式典直前にコンタクトを取って来る時点で、味方の筈が無いわ。
あちらの手駒が政府の警備隊の振りをしてやって来るのでしょうけど、身元精査する時間すら勿体無いわね。
向こうは私の事を女だと舐めて掛かっているのよ。
どうせなら引っ掛かった振りをして、逆に向こうを利用してやれないかしら。」
本当に味方ならこちらに接触せずに、勝手に向こうの手を潰してくれる方が有難い。
こんな時期に接触してくるのが本当に味方だったら、状況を見る目が無いし邪魔になるだけ。
「下手に断ると、この手の策士気取りは別の手を出してきますからね。
では、クレアさんと……あとシェザンさんを連れて、早めにお嬢様が面通ししてください。
その護衛の方々には、式典までここの表の警備をして貰いましょう。
無料で人を寄越してくれるのですから、有効活用しませんと。」
「……人が悪いわね。でも貴方のそういう所は頼りになるわ。
しかし……式典まで向こうと連絡が取れなくなったのは痛いわ。
先に逃げて貰う事ができなくなっちゃった。」
「こちらがコンタクトを取れない間に、管理エリアを制圧されるのが一番怖いですが……お嬢様が捕まらなければ、式典当日まで向こうには手を出してこないと思いますよ。
それより、当日は警備もかなり厳しくなると思います。
情報はどうやって向こうに持ち込みます?」
「問題はそこなのよね……。
当日はスキャナーで荷物検査されるみたいだし……。
ん? ……そう言えば……。」
スキャナーと言えば……そういえば、以前グンターさんに見せて貰ったアレはどうだろう。上手く作れば、スキャナーでも分からないって言っていた気がする。。
ただ問題は今の私に、グンターさんの手助け無しに、アレが作れるのか……。
一度、ガストンさんに相談してみよう。
「思いついた物はあるけど、まとまった時間を確保したいの。
誘拐の危険もあるし、面通しを済ませて表の警備の手筈を整えたら、式典前日まで姿を隠すわ。
行き先はキャスパーには連絡しておくけど、居ない間の事はお願い出来る?」
「御一人での潜伏は危険ですので、是非クレアさんを護衛に連れて行って下さい。
彼は別の準備をして頂く必要がありますので。
お嬢様の不在の間の事はお任せください。
あれこれ嗅ぎ回られない様、あちらの方も対処しておきます。」
*****
(???視点)
「手の者が接触できました。」
「向こうの感触はどうだ。上手く行きそうか?」
「それが、事務作業の妨げになるからと手の者達は事務所の表の警備に回され、参列者に紛れて押し寄せているジャーナリスト達を追い払う役目に駆り出されています。
式典参列者の手続きで事務作業がひっ迫しているらしく。
外からは、例の相手らしき人物が事務所の中にいる事は、確認できているのですが……。」
「事務所にずっと?
という事は、用意した輸送船の方にも現れていない?」
「初日に従業員が1名来ましたが、自治政府側の担当者に式典終了までは休業する旨を伝えただけで、帰っていったそうです。
代表が式典準備で忙しい事と……あと、端的に言いますと、他の業者がカルテルを結んで締め出されてしまうであろうから、来ても無駄だと判断したようです。
例の相手の運営する回収業者は、取引先や自治政府側の評価が非常に高いのですが、それが他の業者の嫉妬を買っているようで。」
そちらは空振りしたか……。
報告する担当者が何かつぶやいているが、聞き取れない。
「何か?」
「い、いえ。」
「そうか……事務所から出てこないのであれば、事前に身柄を確保するのは難しいな。式典当日の警護については、向こうは了承しているのか?」
「そこは、問題ありません。
彼ら自身が雇っている護衛も居るので、打ち合わせをさせて欲しいと、当日早い時間に事務所に来るよう言われている様です。」
最悪、当日彼らの傍に手の者を送り込めているのであれば、それでも良いか。
「事務作業がひっ迫しているなら……自治政府を通して、向こうに手の者は送り込めないか?」
「既に別星系で派遣社員を雇って、数名入れている様です。」
なかなかガードが堅いな。
「なかなか、手の内を探らせてくれんか。
かの者の配下で、奴らの中に潜り込めた者が居る様だが、かの者から何か情報は入っているか。」
「それが、どうも例の相手が中将と頻繁に連絡を取り合っているようで……。
連絡役に駆り出されているため、そこまで中の様子は把握できていないそうです。」
「中将とやり取りしている内容は?」
「式典当日のこちらの出方を想定して、対応策を検討している様です。
対策案は幾つか考えられている様ですが、内容を確認しても大した策ではないと。
それ以上の事はまだ無いとの事です。」
ふむ……。
事務所の中までは探れていないが、考えられている対策は大したものでは無さそうだな。
実権の無い中将と平民の女に、何程の事ができるか、とは思うが。
「宜しい。式典前日までは引き続き、奴らの動向を見張ってくれ。
勿論、侯爵側の動きに変わった事があれば報告するように。」
*****
(??? 視点)
「殿下への報告はどうだった?」
「結局、今の方針のまま継続だってさ。
輸送船の件もさ、他の業者がカルテルを組んで締め出しているって報告を、以前に出した筈なんだがな。すっかり忘れている様子だった。」
「今のまま……。
向こうにこちらの手の者が踊らされている可能性は、言わなかったのか?」
「言ってどうなる。また要らない事を仕掛けようとして、その分俺達の仕事が増えるだけじゃないか。」
「まあ、そうだな。
それに俺達が気を回して色々献策した所で、上手く行けば殿下の手柄、失敗すれば俺達のせいになるだけだからな。大学の時の事で、もう色々身に染みた。」
「そうそう。俺達は殿下の命令通りやっていれば良いんだよ。」
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