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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第9章

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9-02 バートマン中佐の日誌

主人公視点が続きます。

 採掘場から持ち帰ったマスドライバーのデータと、密閉袋に入った本を、皆で手分けして調べる事になった。


 マスドライバーのデータは映像記録としてしか持ち帰れなかったので、これを調べてコンピューターに入力し、データ化することに。

 この作業は、解析するのにクーロイ星系の詳しい星系データが必要らしく、専門的な知識も必要ということだったので、中尉さんと准尉さん、サポートにセイン小父さんをつけることになった。


 私はグンター小父さん、ライト小父さん、マルヴィラお姉さんと一緒に、密閉袋に入っている本の調査。

 グンター小父さんとライト小父さんは、事故前は準軍属でバートマン中佐とも接点があったらしい。マルヴィラお姉さんは、マスドライバーの方を手伝えないからという消去法だった。



 密閉袋を開いてみると、入っていたのは黒いハードカバーの、厚さ3cmくらいの本。表紙や背には何も書かれていない。

 開くと縦書きのノートになっていて、日付を書く欄が右端の列にある。ただ、表紙の裏にも最初のページにも何も書かれていない。

 次のページを開こうとすると……あれ?


「メグ、どうした?」


「ページの端が、次のページと貼り付いてて。」


 糊か何かで、ページの端だけが貼り合わされてる。それもこの最初のページだけじゃなくて、後のページも同じみたい。下の隅にだけわずかに貼り合わされていない所があるけど、指で摘まめる様な幅じゃない。

 仮に摘まめても、無理にページを引っ張ると破けてしまいそうだけど……。


「……ピンセット取って来る。」


 部屋を出て行き、整備室からピンセットを持って戻った。

 ピンセットでページの下角を摘まみ、ゆっくりページを引き上げていくと、ペリッ,ペリッという音と共に少しづつページが捲れてきた。


「なんか、えらい時間かかりそうだな……。

 これもバートマン中佐の嫌がらせか?」


「そうかもね。開き口に糊を塗ったんじゃないかな。

 採掘場で見つけた時に、その場でページを無理に開かなくて良かった。」


 最初のページを捲ると、次の見開きページは左右のページごとに日付が書かれていて、何やら文章が書かれてる。

 最初の日付は帝国暦308年5月20日、次のページはその翌日。


「日誌かな、これは。日付は事故の6カ月前くらいだな。」


「ちなみに、事故が起きた日付っていつ?」


「同じ年の11月29日だったはずだ。」


 次のページもやっぱり糊が付いている。


「これさ、今日はページ剥がしと、内容を写真に撮るだけにしない?

 全部撮ってから、写真で中身を確認した方が早い気がする。」


「1ページずつこんな事してたらキリが無いぞ。

 ページを写真に撮るのは賛成だが、糊の付いたページの端だけ切ってしまえば、いちいち剥がさなくても良いんじゃないのか。」


「あ、そっちの方が良いね。」


 という訳で、各ページの開き口の糊の付いた部分をカッターナイフで慎重に切っていき、見開きページごとに写真を撮っていった。

 写真を撮りながらなので細かくは読んでないけど、日付が飛んでなかったから、書いた人は几帳面に毎日書いていたっぽい。

 所々、あの部屋に置いてたヴァイオリンって楽器を弾いてる女の子の写真が貼ってあって、その内何枚かは、侍女の服を着たニシュらしきアンドロイドが映りこんでいた。

 ニシュは中尉さん達の方について貰ってるけど、ニシュはこれを見たら何か思い出せるのかな。


 最後に日誌に書かれていたのは、事故当日、帝国暦308年11月29日。

 この日の分は8ページに渡って書かれていて、その後、本の後ろ4分の1くらいは、何も書かれていなかった。

 ここまでで結構作業時間が掛かったから、一度時間を置くことに。




 休憩中にお姉さん、准尉さんと料理を作ってみんなで食べて、軽くスカッシュで負けた後、今度は写真に撮った日誌の中身を確認することにした。

 読み始めると、前半はほとんどがバートマン中佐と一緒に管理エリアで暮らしてる、奥さんと娘さんの話だった。

 バートマン中佐は、ここのコロニー勤務がとある事情で長期化してしまって、離れ離れで暮らしてた家族を特例で呼びよせて貰ったらしい。その事情ってのは日誌には書かれてなかったんだけど、何も無かったクーロイに来てくれた家族への感謝とか、娘さん――ナターシャさんの成長を喜ぶ内容が多かった。


 ただ、所々にレーニシュと言う名前が出てくる。誰なんだろうと思ったら、家族を呼び寄せる際に、バートマン中佐の上司に当たる人から贈られた家族の世話用のアンドロイドらしい。

これって、もしかしてニシュの事?



 それが、事故の4か月前くらいから、徐々に気になる内容が書かれ始めた。


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帝国暦308年7月25日

 宇宙軍の星系内警備艦隊との定期交信が、向こう側の都合で急遽中止された。

何かあると思い警備艦隊の機密通信を傍受したところ、『トラシュプロス』で何かが起きたらしい。『トラシュプロス』とは何だ?

 交信内容から、恐らく第5惑星アンドロポスの更に外側だと思われるが、そんな場所に何かあるのだろうか?

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帝国暦308年7月28日

 傍受した内容から類推すると、どうやら『トラシュプロス』とは、アンドロポスの外側、かなり離れた軌道を周回する物らしい。

赴任前に見せられたクーロイ星系図には、そんな物はなかったのだが。

 そして、『トラシュプロス』へ向けて『デルタ』から何かを発射させる、という交信内容も気になる。

 警備艦隊は、宇宙軍は、何か大きな隠し事をしているのではないか?

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帝国暦308年7月29日

 『デルタ』……つまりこの下の採掘場から、夜中に何かが打ち上げられていた。観測データからは、5m×10mくらいの小惑星のようだが、かなりの速度で飛んで行った。採掘場には打ち上げ設備など無かった筈なのだが……。

 交信を傍受すると、打ち上げられた小惑星が『トラシュプロス』に近づくまでおよそ20日、それに合わせて何かの作戦を実行するらしい。

 航法コンピューターを使ってこの小惑星の速度から分析すると……どうやら『トラシュプロス』は、星系中心からの軌道半径がアンドロポスのそれの7倍という、かなり遠い軌道上を回っているようだ。

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帝国暦308年8月1日

 小惑星の打ち上げが気になったので、稼働状況の確認名目で採掘場の定期視察を宇宙軍に申し入れたが、却下された。

 リオライトが枯渇した今、採掘場で一体何が行われているのだろう。

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帝国暦308年8月19日

 『トラシュプロス』で、何かの作戦が実行されたらしい。

作戦自体は成功したが、不測の事態……惑星表面を覆う氷が一部飛散したらしい。幸い、軌道計算上コロニー付近へ近づくものは無いらしいが。

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 この辺りから、またしばらく家族の事についての記載が増えるけど、また、所々気にある記載がある。


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帝国暦308年10月29日

 何年か振りに、恒星イーダースに大規模なフレアが発生し、強烈な恒星風が放出された。

 幸い、3区は丁度オイバロスの影になった形で被害が無かった。1区や2区、宇宙港も被害は軽微で、外側の観測機器の故障が幾つかあった程度だとのこと。

 ただ警備艦隊には少なくない被害が出たらしい。艦隊の約半分で機器の故障が相次いで、一部の艦船は航行できない状態らしい。ただ、人命に被害が無かったのが幸いだ。

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帝国暦308年11月10日

 恒星フレアは止まったが、影響がまだ続いている。

 警備艦隊の艦船は航行できなくなった分から優先して宇宙港へ曳航し、機器交換をしているらしいが、クーロイは最辺境だからか、交換する電子機器の到着も遅れていて、動けなくなった艦船以外の修理はまだ着手されていないらしい。

 飛来物の観測を行う観測船も被害を受けていて、まだ復旧できずに不完全な観測しかできていない。

観測船がいち早く飛来物を検知するのは、コロニーに住む我々の命綱だ。修理機器を早く送って貰うよう、私からも具申しなければ。

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 それから事故の7日前までは、観測船の修理が進まない事に苛々するという内容が多かった。

 そして、事故の7日前。


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帝国暦308年11月22日

 昨日ようやく観測船の修理が終わったが、今日は何やら警備艦隊の様子がおかしい。定期通信はさっさと切ろうとするし、内容もおざなりだ。飛来物の観測内容の共有もされない。

 気になって傍受してみると、あまりの内容に耳を疑った。

 観測を始めた途端に何か重大な事態が発覚したらしい。その事態が何かはよく聞き取れなかったが、艦隊内部で下士官以下のパニックや上層部の責任のなすりつけ合いが起きている。

しかもその中で、聞き捨てならない話が飛び出した。


 これは記録に残さなければならない。

 私が密かに設置している艦隊の機密通信の傍受機器から、信号をブリッジの通信記録装置に飛ばし、傍受した内容をそのまま記録するよう設定した。そして、かねてから用意していた鍵をかけ、通信記録の改竄や削除がされない様にした。

 やる事が山ほどあるが、まずは住民の避難だ。正式には自治政府とも話をしなければならないが、ひとまず妻や娘も先に退避させよう。

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帝国暦308年11月23日

 自治政府側からは、変わった様子はないとの連絡。

 しかし警備艦隊からは定期通信も繋がらず、何も連絡が無い。

 一抹のきな臭さを感じたので、まず家族を巻き込まない様、旅行に行っておいでと妻と娘をハランドリ星系へと送り出した。妻は何かを察したが、何も言わず娘を連れて行ってくれた。

 レーニシュを一緒に送り出すのは警備に止められ出来なかったのが残念だ。そういえば、アンドロイドを使用人として使う事は特例だったな。

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帝国暦308年11月25日

 自治政府の態度が今日になって急に変わった。通信を寄越した担当者も変わっていたので話を聞くと、視察などの理由で、上層部が軒並み、家族を連れてクーロイを離れて行ったらしい。この間まで通信をしていた担当者も出張で不在だと言う。

 警備艦隊にやっと回線が繋がったので責任者を問い詰めると、巨大な氷の塊が星系に飛来してきている事を認めた。観測船の故障で検知が遅れた間にその塊は加速し、艦隊の故障もあって止められる手段がないとのこと。

 ただ、軌道計算上はオイバロスには接近はするが、コロニーへの影響はないと言う。念のため住民の避難をさせたいと協力を要請したが、影響はないはずだと却下された。

しかし、今は計算上大丈夫でも、宇宙は何が起きるか分からないことは、長くコロニー管理者をやっている私は良く知っている。

 腹が立って、「『トラシュプロス』の後始末は艦隊側の責任ではないのか!」と怒鳴ったら、いきなり回線が切られてしまった。

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帝国暦308年11月26日

 あれ以来警備艦隊とは回線が繋がらない。

 そんな中、自治政府の担当者から非公式で連絡があった。

 接近している氷塊が星系に近づくにつれ加速を始め、3区に衝突する可能性が出て来た、と観測船からの非公式連絡があったそうだ。

 この連絡のせいで、自治政府内がパニックになり機能不全に陥っているとのこと。3区からの避難については、避難指示の発令とシャトルの増便手配を「なんとかやってみる」そうだ。


 こちらも、3区からの住民の避難指示をしなければならない。3区内全域に緊急放送を出そうとしたら、設備と端末の回線が切れていた。自治政府への引継責任者クレッグ中尉に、至急修理をするよう依頼する。

 AM放送ではどうかと思い放送室に行くと、収録済のプログラムが3日分放送されるよう設定されてはいたが、既に誰もいなかった。

 仕方が無いので、ブリッジに居る管理メンバーに、3区各所を回って避難を呼びかけるよう指示を出した。

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帝国暦308年11月27日

 昨日指示をした管理メンバーは、そのまま誰も帰ってこなかった。恐らく彼らも3区から逃げてしまったのだろう。避難指示をちゃんと呼びかけたのかどうかも分からない。

 避難指示放送の機器も回線が繋がらないままで、クレッグ中尉や副官のマックバーン准尉にも連絡が繋がらない。一体どうなっている!

 自治政府の担当者とも、警備艦隊とも連絡が取れない。唯一、採掘場から、管理メンバーも全員が引き上げるという通信文が入っていた。

 これではもう自分で呼びかけに回るしかないだろう。3区はそれほど大きなコロニーでは無いので、管理エリアに鍵をかけて自分の足で回る事にする。

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 事故直前の混乱ぶりが伝わって来る。

 氷塊の接近を知った人が我先に逃げて行ってしまって、3区内に避難指示が出せなかったみたい。これは酷い……。


 28日の日誌は記載されておらず、1日飛んで29日の記載になった。


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帝国暦308年11月29日

 27日、直接住民達に避難を呼びかけようと住居エリアに降りて行ったら、物陰から黒ずくめ覆面の、ナイフを持った男に襲われた。

 辛くも逃げ出し、住民に出会った所でその男は姿を消したが……。

 その後、住人を見かける度に避難を呼びかける。まだまだ住民は天体の接近を知らされておらず、結構な人数が残っている模様。

 その後も何度か覆面男に襲撃され、管理用通路を使って何とか逃げ延びた。


 迂闊に艦隊司令官に口走ってしまったあれが原因だろう。覆面男は何度か舌打ちをしたおかげで、奴の正体は何となくわかった。

 奴はどうあっても私を始末したいらしい。ならばせめてもの思いで嫌がらせをすることにした。もしこれが後に残った時、これを見た人に事の真相を究明して欲しいという、わずかな願いも込めて。


 航法コンピューターと通信記録に対する仕掛けが出来た所で、奴が仲間を引き連れブリッジ内で襲ってきた。今回は覆面無しで襲ってきたが、思った通りグレン・クレッグ中尉だった。

 隠していた切り札クロミシュのお陰で難を逃れたが、右足を刺され出血が止まらない。部屋から救急箱とありったけの食料を持出し、クロミシュに抱えて貰いながら管理用の狭い通路を通って採掘場行きエレベーターを目指した。

 大型エレベーターにはダミーの爆弾を仕掛け、小型エレベーターで採掘場に向かった。

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(同日)

 出血が止まらないため、採掘場に降りるエレベーター内でクロミシュに私の右足を切断してもらい、切り口を焼いて止血した。

 その痛みの影響で。採掘場に降りてから2時間程気を失っていたらしい。

気づいたらベッドの上で、気を失っている間にクロミシュがエレベーター内の血痕を綺麗にしたようだ。

 無人のコントロールルームで、過去のデータを調べて、採掘場で何が行われていたかを知った。よもや、マスドライバーを地下に秘密裡に作っていて、宇宙軍が自らリオライトを横流ししていたとは。非常にふざけた話だ。


 マスドライバーへ向かう最中、凄まじい轟音が空から響いた。

 嫌がらせが上手く行った事を願うと同時に、3区に残っていたかも知れない生存者達に申し訳ない気持ちが湧く。

 しかし、私は如何に責められようとも、この3区で何が起きていたのか、真実を残さなければならない。


 かなり長くなるが……私の知る真実と、そこからの推測を書き残そう。

 ギリギリの所で刺客から逃れたが、私はこの真実を知っているがために、生きていると知られれば狙われ続けるだろう。

 はっきりしている事は、それだけ敵は強大だという事だ。


 本当は、管理エリアごと逃げられれば良かったのだが……これから残す真実の証拠は管理エリアの通信記録にあり、そう簡単に破棄されないよう仕掛けをしてある。

 残す事の出来る手がかりは少ないが、真実を突き止めんとする者は、詳らかにして欲しい……解き明かすヒントは残したつもりだ。


 何としてでも生き延びて……愛するヒラリ―に、ナターシャに会いたい。

 神よ、私の願いを叶えたまえ。

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 その後に記載されていた『真実』は、衝撃的な内容だった。

 小父さん達は怒りで顔を赤くし、お姉さんは蒼白になってる。


 しかし……航法コンピューターのロック解除のヒントはどこなんだろう。

 一通り読んだはずなんだけど、あの質問に対するヒントらしきものは無かったと思う。

 それともまだ何か、この本に秘密があるの?



いつもお読み頂きありがとうございます。


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よろしくお願いいたします。

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