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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第9章

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9-01 交流する日常

9章がどうしても書きたくなって、

予定を前倒しして一気に書きました。

今までの章より長いですが、お付き合いください。


今回はメグ視点です。

 採掘場でのやり取りで、中尉さんと准尉さんは「ちょっと」信用できそうだな、と感じたから、帰って来てから2人とももう少し交流しようと思った。


 持って帰ったデータの分析や本の調査が長時間になってきて、疲れたので休憩時間にしようとなった時に、お姉さんと私が准尉さんを気分転換がてら料理に誘ってみた。


「料理ですか……全くの未経験なんですけど、ちょっとやってみたいなって思っていた所です。

 ずぶの素人でも良いのですか?」


「私もまだ、お姉さんに習い始めてから何カ月か位しか経ってないよ。

 それまではレーションパックしか食べるもの無かったしね。」


「メグちゃんに、最初に『料理って何ですか?』って聞かれたのは驚いたけどね。

 誰だって最初はみんな未経験だし、やってみたいって気持ちがあれば大丈夫よ。」


 という訳で、准尉さんと一緒に、夕食作りをすることになった。

 夕食のメニューは野菜炒めと餃子、チャーハンに中華スープの予定。まずは私が餃子の餡作り、准尉さんが野菜とかチャーハンの具材を切り揃える役目。

 マルヴィラお姉さんはなるべく手を出さずに、初めて料理をするという准尉さんを見守っていて、私の方も時々は様子を見てくれる。

 私は餃子の餡を作るのに、解凍したお肉をミンチにして、ニラとかニンニクを刻んで、コネコネ混ぜる。

 その間、准尉さんは野菜炒めの野菜を切ってるんだけど……。


「メグちゃんはその調子よ。もう少し混ぜたら、冷蔵庫で少し寝かせましょう。

 准尉さんは……慌てなくていいから、落ち着いて切ってね。」


「……料理、した事無いからなあ……。

 マルヴィラさんやマーガレットさんみたいに、手際よく切れるようになるのかしら。」


 准尉さんは野菜を切るのも、最初はサッサと切ろうとして自分の爪を切っちゃった。指を切らなくて本当に良かった。

 今は一回一回慎重に包丁を落としてる。結構ゆっくり切るから、准尉さんが野菜を切り終わる前に、チャーハンの具材も私が切っちゃった方が良いかな。

 私がお姉さんに教わって料理を始めた時でも、もうちょっと早く切ってた気がするんだけど……。


「包丁で食材を切るのも慣れの問題よ。

 准尉さんは、包丁の正しい使い方を覚えながら、色々な食材を切る練習をしましょうね。

 肩に余計な力が入っているから、一度包丁を置いて、はい深呼吸。」


「すぅー――、はー――。」


 准尉さんが言うには、軍人さんになるまではずっと両親と一緒に暮らしてて、軍に入ったら全部軍の食堂や外食で食事を済ませてたから、包丁も持ったこと無いんだとか。

 初めて包丁を持って緊張してるのかな。


「軍に入って、ナイフの訓練とかしないの?」


「私は情報分析とか、IT技術を買われて軍に入ったの。

 初めての訓練で、『軍人として現場に出る以上は武器や体術の訓練が必要だけど、武器を扱う以前の問題。体力をつけないと駄目だ。』って上官に言われてね。

 結局入隊してから今まで、体力作りの訓練しか受けさせて貰ってないの。

 ようやく体力はついてきて、初めて現場に出させてもらったけど、中尉からは『危なくなったら逃げろ』って言われているしね。

 ナイフなんて持たせてもらってもいないわ。」


 言いながら、准尉さんは慣れない手つきで、おっかなびっくり野菜を切ってる。


 そう言えば、私の場合は機械のメンテナンスで、配線の被膜を切る時に小さいナイフを使ったりして、何だかんだで刃物を使ってたね。私の場合は料理の前にある程度刃物の扱いに慣れてたから、包丁も初めからそこそこ使えたのかな。

 准尉さんは、刃物の扱いそのものに慣れてないんだ。


「料理を作るのは、准尉さんには気休めとか気分転換にならないのかな。」


「あ、あの、折角なので頑張ります。」


「止めろって言ってるわけじゃないの。誤解させちゃったらごめんなさい。別の気分転換も必要かなって思って。

 それじゃあさ、ご飯食べたら、分析に戻る前に少し運動しない?」


「えっ……でも、早くデータ解析しないと……。」


「中尉さんからも『あまり根を詰め過ぎるな』って言われてたじゃない。

 中尉さんとライトさん達が今やってる程の激しい運動じゃなくて、軽く2~30分運動するだけでも気分転換になるわ。

 メグちゃんと1ゲーム、スカッシュするだけでも良いんじゃない? 今なら結構良い勝負になると思うわよ。」


 私達が料理をする間、中尉さんと小父さん達はトレーニングルームを占拠してスカッシュをしたり、筋トレをしたりしてる。

 特にライト小父さんと中尉さんが張り合うと、つい熱中して運動が激しくなってしまうらしい。

 多分ご飯の前にヘトヘトになってそうだから、止めなくて良いのかなって思うんだけど、お姉さんは『それ位の方が食事中大人しくなって良いわ。男共はどうせ食べたら元気出るんだから』だって。


 結局、准尉さんが野菜炒めの具材を切り終わる頃には、私は餡を混ぜ終わって、更にチャーハンの具材を切り終わってしまった。

 それからお姉さんの指導を受けながら、寝かせていた餃子の餡を2人で皮に包んだ。准尉さんの方がコツを早くつかんだのか、私より早く綺麗に包んでいたのがちょっと悔しい。手作業だけなら准尉さんって器用なのね。



 料理の方は、マルヴィラお姉さんが野菜炒めと焼き餃子を作って、お姉さんの指導で准尉さんがチャーハンを作ってた。

 私は中華スープを作ったけど、他の料理はお姉さんがさせてくれなかった。油を多く使った炒め物や焼き餃子は『油跳ねが危ないから』、チャーハンは『重い鍋を振るう体力がまだ無いから』だって。


「チャーハンって、作るのに結構腕の力が要るんですね。

 もうパンパンです。」


「それくらい腕が疲れている方が、メグちゃんとスカッシュする時のハンデに丁度良いかと思ってね。ふふふ。」


「ええ、じゃあわざと疲れさせたんですか!

 ……言われてみれば、家でお母さんがこんな風にチャーハン作っているのを見た事無かったです。騙されたぁぁぁ!」


 普通にスカッシュやったら准尉さんの方が強いから、ハンデつける為にチャーハンで腕振らせたって事?


「普通の家にはこんなに火力の強いコンロは無いから、家で作る時はフライパンの上で振らずに炒めるだけなのよ。

 でも折角強いコンロがあるんだから、今日みたいに作った方が美味しくなるわ。中尉さんにも美味しいって言って貰えるかもよ?」


「っ……!」


「あら、やっぱり。

 准尉さんってば分かり易いわね。可愛らしいわ。」


「かっ、揶揄わないで下さい。」


 准尉さんは恥ずかしそうに顔を逸らしてて、耳もちょっと赤い。

 それを見てお姉さんは微笑んでるけど、何が『やっぱり』なのかな?




 小父さん達と中尉さんは予想通り激しめに体を動かしたみたいで、皆タオルで汗を拭きながら戻ってきた。それを見てた准尉さんの頬がちょっと赤い気がする。

 それから皆で夕食。

 

「いつもメグが作ってくれるのも良いが、今日はどれも美味しいな。野菜炒めも餃子もだけど、特にチャーハンがいつもより美味しい。

 あ、メグがいつも作ってくれるのも美味しいけどね。」


「作り方見てたけど、私はまだ、こんな風にチャーハン作れないから。

 確かに私が作るよりも美味しいと思うよ。」


 今日のチャーハンはご飯がパラパラしてて、セイン小父さんの言う通り、確かにいつも私が作るのより美味しい。

 私が出してるのって、冷凍チャーハンを温めるだけのものもあるしね。


「ってことは、マルヴィラさんが?」


「野菜炒めと餃子を焼いたのは私だけど、スープと餃子の餡作りはメグちゃん、チャーハンを炒めたのは准尉さんよ。

 准尉さんは今日が初めての料理って言う割には、上出来だと思うわ。」


 お姉さんの発言に、准尉さんが今ちょっとビクッてなった。


「うん、確かに美味いな。初めてでこれが出来たのか。

 准尉はなかなか、料理上手になりそうだな。」


「あ、有難うございます……。」


 今度は准尉さん、真っ赤になって俯いちゃった。


 そんな准尉さんを見てセイン小父さんはウンウン頷いてるし、マルヴィラお姉さんはクスクス笑ってる。一方、黙々と食べてる中尉さんを見てグンター小父さんとライト小父さんは首を振ったり肩を竦めたり。

 何だろう、この空気感。

 小父さん達とお姉さんの間では何か分かってるみたいだけど、私には何が起きてるのかさっぱり分からない。後でお姉さんに聞いてみよう。


 因みに、食事後に軽く准尉さんとスカッシュをしたら、途中から腕の調子が元に戻った准尉さんに負けてしまった。




 スカッシュでひと汗かいてシャワーをした後で本の調査をして、寝る前に整備室でツイテクルンとタドルンの分解整備をしていたら、中尉さんとグンター小父さんが部屋に入ってきた。


「やあ、マーガレット君。

 整備中に悪いんだけど、その台車の事で、ちょっと話を聞かせてもらっていいかな。」


「整備しながらで良いなら構わないけど。

何が聞きたいの?」


「人が歩く後を着いて来たり、ロープを辿って動いたりする大きい台車は、大きい工場や建設現場で見た事があったんだ。

 でもダクトの中を通った時の小さい台車は、今まで見たことも無いものだったから、これはどうやって作ったのかなって思ってね。」


 そういって中尉さんは調整中の小さい台車……タドルンを指差す。


「ああ、これ?

 大まかなアイデアは私が作って、図を書いたけど、作るのは小父さん達に手伝ってもらったの。

 グンター小父さんには、台車側を作るのに材料を切り出したり、溶接したりを手伝ってもらったし、セイン小父さんには制御プログラムを手伝ってもらったし。

 ライト小父さんには、台車同士での荷物の受け渡しの動きとか、台車で人を運ぶ時の動きのことでアドバイスを貰ったかな。」


「炉を使っての成型とか溶接とか、メグには危ない所は俺達がやったが、作ったのはほぼメグじゃないか。

 セインも助言はしたけど、プログラムはほぼメグが書いてたって聞いたぞ。」


 中尉さんを見ると、驚いたのか目を見開いてる。


「……そうか。

であれば、マーガレット君やグンターさん達に、頼みたい事がある。」


「頼みたい事?」


「状況がどうなるか分からんが……脱出して落ち着いたらで構わない。

この、タドルンだったか。同じものを作ってくれないか。」


「へ?」


 ちょっと予想外の頼み事だったので、変な声が出てしまった。


「軍の仕事で、今回みたいにあちこち潜入捜査をすることがある。その時に、こんな便利なものがあると良いなと思ってね。

 他にも、色々と道具を作ってくれってお願いするかもしれない。」


「軍の中にも、色々作ってくれる部署とかあるんじゃないのか。」


 グンター小父さんが尋ねる。うん、それはちょっと思った。


「内部監査などもあるから、軍の中では頼みにくい事もある。

 そういう時に、マーガレット君やグンターさん達にお願いしたいなと思ってね。」


「……つまり、脱出後に向こうで暮らす事になったら、中尉さんが仕事をくれるってこと?」


「定期的にとは限らないが、受けてくれるならお願いしたいと思っている。」


 そう言えば……ここを脱出してからどうやって生活するか、考えてなかったね。


「……向こうで暮らす事になったとして、小父さん達は手に職があるから何とかなるんだろうけど、私はどうしようかなって思ってたの。

 選択肢の1つとして、考えさせて貰っていいかな。」


「メグ1人位、俺達がなんとかしてやるぞ。」


 小父さんの気持ちは有難いけど、ぶら下がるだけなのは嫌なの。


「マーガレット君なら、職人としても十分やれると思うけどな。

 ……まあ、いずれにせよ脱出してからの話だが、頭に入れておいてくれると有難い。

 あんまり話していると整備の邪魔になるだろうから、そろそろ戻るよ。」


 そう言って、中尉さんは整備室を出て行った。




いつもお読み頂きありがとうございます。


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