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1-06 転売屋ケイトの憂鬱

 私はケイト・エインズフェロー。

 ダイダロス帝国の首都星系ゼビュロスから離れた、トッド侯爵が治めるクセナキス星系に生まれました。

 父は金属加工業の会社を興し、今では星系でもそれなりの規模に成長しています。会社の株式は上場せず家族でその経営を支えています。いわゆる同族経営です。

 末っ子に生まれた私も小さい頃は家業を支える積りでいたのですが、父を手伝う兄姉が上に7人もいれば、父の会社に自分の居場所は無い事には、流石に途中で気が付きました。


 それでも特にやりたい事はありませんでしたので、高校までは勉学に励んで星系で最高峰の大学に進学し、大学では家業である程度知識を得ている金属加工とリサイクル技術を専攻しました。

 高校まではそれほどモテる方では無かったのですが、大学に来てやたらと男性に声を掛けられるようになりました。金属加工やリサイクル技術を大学で専攻する女性は余り居らず、同じ専攻の同学年100人の中で、女性は私を入れて4人しか居なかったのは大きな理由でしょう。

 私に声を掛けて来たうち、一見真面そうな何人かの男性とお付き合いはしましたが……最初は普通にお付き合いしていても、やがて父の会社へのコネや、家の金目当てであることがどの男性にも見え隠れし、こちらから交際を打ち切りました。


 ただ家を出てもやりたい事は無く、卒業後の進路が決まらないまま最終学年に上がったある日、リサイクル技術を学んでいる教授から興味を引くニュースを耳にしました。

 クセナキス星系より更に辺境のクーロイ星系で、新たに建設された大型コロニーに入植者が到着したのが5年前。ところが元々が資源採掘の為の技術者中心の五千人規模のごく小さな星系だった所に、採掘に関係の無い数万人の入植者が加わった事で、処理できない程のゴミが捨てられ、あっという間にゴミ問題が深刻化したようです。

 惑星の衛星軌道上のコロニーしかないその星系にはゴミ処理施設を増設する事が出来ず、昔遺棄したコロニーに、処理しきれないゴミを投棄することにしたらしい、との事でした。


 未処理のゴミがそのまま投棄されるのであれば、そこから使える物を探し出して転売すれば、それなりの稼ぎが出来るかもしれません。通常のゴミ処理で使うような大規模設備での選り分けは出来ないでしょうし、クーロイ星系の規模を考えると、高価な携帯用探知機や選別機を持って参入する同業者がいるとも思えません。ゴミの選別は手探りになるでしょう。

 ここで私が、そういった高価な探知機を持って参入した場合、他の業者よりも効率的にそれなりに稼ぎが見込める可能性が有ります。

 親しい数人の友人は家の事を抜きにして付き合ってくれますが、彼女達を除けば、常に家の事が付きまとうだろう事に半ば嫌気が差し始めていました。なので、この星系を出て人の少ないクーロイ星系に行って小規模ビジネスを始めるのもいいかと思い始めていました。


 家族に相談すると、会社に入れば良いだろうとか、ゴミ漁りなんて女の仕事じゃないと猛反対されました。ただ父とすぐ上の姉だけは、父の会社に既に私の居場所が無いだろう事には理解を示してくれました。

 父は念のためクーロイ星系のことを詳しく調査してくれました。クーロイ星系のコロニーの一つは十数年前に天体の衝突で破壊され遺棄されたこと。そしてゴミ問題の先送り策としてその遺棄されたコロニーにゴミを投棄しようとする計画が動いていて、既に稼働直前であることを私に教えてくれました。

 星系の規模は小さいので、会社としてそこに乗り込むのは時期尚早ですが、いずれはその遺棄コロニーで投棄ゴミの再利用処理施設が建設される可能性を父と私は感じ取りました。

 その時までに小さくても橋頭保を作っておいて、施設建設に会社として関わる事が出来れば大きな機会になると感じた父は、大学卒業後に私を契約社員扱いとして、少なくない資金と最新型の携帯型金属探知機を持たせてくれた上で、現地調査名目でクーロイ星系に送り出してくれました。



 クーロイ星系・第三惑星オイバロスの静止軌道上の宇宙港に到着し、父から持たされた契約社員としてのIDを提示し、市場調査名目での半年の滞在許可を申請します。

 事前に父が根回ししてくれていたようであっさりと許可が下り、0区コロニーへ入ります。まずは0区の安ホテルを取り、ネットでこの星系のゴミ処理事情と金属加工業、リサイクル業の会社を片っ端から調べます。

 天体衝突事故が起きたのは3区と言われるコロニーで、天体衝突の傷跡で大きな穴が開いたまま放棄されていた様ですが、この星系の自治政府は既に3区へのゴミ投棄を決定し、3区の外壁補修工事が完了間近であるという政府発表記事が見つかりました。外壁補修とはいえ本格的な物では無く、単にゴミが宇宙に飛散しない様穴を塞ぐだけの簡単な工事の様です。

 外壁補修工事が完了すれば、直ぐにでも3区へのゴミ投棄が開始されるようです。投棄されたゴミからの再利用品回収については、小規模ではあっても会社として申請する必要がありそうで、既に十程の業者が登記済となっています。


 この星系はコロニーしか居住域がありませんから、回収した再利用品はコロニー内での需要に回すことになるでしょう。採掘で成り立つ星系だけあって機械の修理需要はかなり多い様子。補修部品の需要は大きいため、金属加工や機械修理の業者はどれも小規模ながら多く存在していました。

 再利用品の金属を溶かして成分ごとに分離する電炉はエネルギー消費量が大きく、また星系外から購入する必要があるため、電炉を持っている業者は少ないですが存在するので、不要な機械を溶かして金属成分ごとに分けて再利用する流れは有りそうです。

 私一人であれば、まずは再利用品回収業者として実績を上げ、徐々に金属加工や電炉による金属再利用に乗り出せば、この星系ではそこそこのビジネスになりそうです。駄目なら再利用品回収業者を廃業して、また違うビジネスチャンスを探しましょう。



 そう思って、まずは金属加工や機械修理業の多い1区コロニーへ移って治安の良い区域に部屋を借り、父の会社の支社として再利用品回収業者登録を行います。手続に時間が掛かる間に、金属加工業者や機械修理業者を挨拶周りします。業者といってもクセナキス星系で言う町工場の様な規模ばかりでしたので、私の様な若い女性が珍しいこの業界では皆様が温かく迎えてくれました。再利用品回収業者という言い方は長いので、彼等は皆、転売屋という俗称で話していました。

 ただ手続きに思った以上に時間が掛かり、再利用品回収業者登録が完了した頃にはすでに3区へのゴミ投棄は始まっていました。

 登録が完了した後で他の回収業者へ挨拶に回ると、更に新規業者が来るのかと悪態をつかれ露骨に嫌がられました。その日は事情が分からなかったのですが、自治政府に回収手続きをしに行ったときに担当者から事情を聞くことが出来ました。

 再利用品回収は2週間に1回、未処理ゴミを投棄しに行くシャトルに同乗し、ロボットがゴミコンテナをコロニー奥に設置して帰るまでの4時間だけ回収が許可されます。ところが古いゴミからは再利用品が殆ど見つからず、他の業者は毎回その日に捨てるゴミから再利用品を回収しているらしいです。

 ある業者がロボットを持ち込んで、次回の回収までの間にロボットに再利用品回収をさせようとしたらしいのですが、次回来てみるとロボットが行方不明になっていたそうです。

 3区は誰も住んでいないから、誰かがシャトル以外の手段で3区に行って再利用品回収しているのではないか、と業者間で疑心暗鬼になっている模様です。担当者の方は、ゴミ投棄自体に問題はないため、態々費用を掛けて調査をする必要性も感じていない様子でした。

 でも他の業者は手作業で再利用品回収をしている様なので、この時は私もまだ、持ち込んだ探知機で古いゴミから再利用品を探せるのではないかと思っていました。



 シャトルで3区へ行くと、既存の業者達に結託され、その日に持ち込まれた新しいゴミからの再利用品回収作業から締め出されてしまいました。

 携帯用探知機の事を知られると奪われてしまう可能性もあったので、1人で奥のゴミコンテナから再利用品を回収しようと向かいますが、探知機で調べてみるとどのコンテナも残っているのは数ミリ単位の小さい金属部品ばかりで、とても割にあいません。

 確かに変だなと思っていると何か奥の方で動く気配を感じ、探知機を向けると宇宙服らしき輪郭が探知でき、誰か小柄な人が居るようでした。

 近づいて取り押さえてみると……女の子?


 その女の子はジャンク屋を名乗って、ここのゴミから使える物を根こそぎ持って行っているとの事。つまり回収業者達が話していた、シャトル以外の手段でここに来ているモグリの業者って事なの?

 女の子は回収品の取引を持ち掛けてきたけど、どんな品を用意しているかサンプルを見せて欲しいと言うと、既に用意されていたケースに入ったサンプルを見せてくれました。

銅や銀などの金属配線、各種金属ネジなど、ただ回収しただけでなく錆落としや研磨等がされた跡があります。これなら修理業者達も良い値段で買い取ってくれそうです。特に銀配線は新品だと非常に高価ですので再利用品は喜ばれるでしょう。

 女の子に取引できる量と金額を尋ねると、箱の蓋の裏に今回の代金と次回の取引場所を書いた紙があるから今日はこのサンプルを持って行ってくれと言い残し、女の子はあっという間に去って行きました。


 他の業者にはあの女の子のことは伏せ、余り戦果は無かったという事にして、家に帰ってからサンプルケースの中を調べました。

 ケースの蓋の裏が外せるようになっていて、外すと中に紙が2枚挟まっていました。1枚は代金の事を書いていましたが、代金はお金ではなく、一般的な機械補修用品や潤滑油、工具などが書いてありました。

 え、物々交換ってこと? それもリストにあるのは0区や1区で比較的安値で手に入りそうな物ばかり。どう考えても私の方がかなり得をしそう。

 もう一枚は、次回の待ち合わせ場所が書いてありました。


 疑問は次の取引の時に氷解しました。まさかこの3区に人が住んでいようとは……。

 しかも、このメグという女の子は天体衝突事故の後に生まれているから、帝国国民なら誰もが持っている筈のIDを持ってない。それでは確かに他のコロニーへは行けないし、通信も途絶えているならお金を持っていても使えない。欲しい物は物々交換で手に入れるしかないわけね。

 彼女との取引で安定的な利益は見込めそうなものの、同時に厄介事を抱え込んでしまったと、内心頭を抱えました。

 彼女の事は政府や航宙軍には話せません。彼女が危惧する通り、事故の生き残りが3区に住んでいると知れば、軍や政府が隠蔽工作をする可能性は決して低くないでしょう。


 ただ、一緒に住んでいるのは(部屋は流石に別だと聞きました)年配の男性3人だと言っていましたので、メグというあの女の子は、女性として知っておくべきアレコレや、女性用下着などについてはアドバイスする必要がありそうです。

 取引の代金に含めてしまうと会社の収支報告的に不味いので、あくまで個人的な贈り物として、女の子用のアレコレを毎回買って持って行くことにしました。



 次回の取引の時に私からの好意としてそれらを渡すと、そう言った物はやはり彼女は男性達に相談出来なかったみたいで、素直に感謝されました。そうしてお互い「ケイトさん」「メグちゃん」と呼び合う仲になりました。

 ただ、化粧品、ぬいぐるみとか人形など、女の子が普通好きそうな物を幾ら持って行っても反応が悪いです。0区で流行っているスイーツやドリンクなどを持って行っても、これが美味しいのかどうなのか良く分からないと言われます。どうも、宇宙食として使われている再生レーションパックしか食べた事が無いみたいです……。


 彼女との取引自体は順調です。傷薬や風邪薬などの市販薬や、機械の補修材・補修部品の他にも、小父さん達からの要望なのか時々ワインやブランデー、焼酎なんかを頼まれます。

 逆に、簡単な加工であれば再利用品の加工なんかもお願いすればやってくれます。事故以来ずっとそういう事をしているみたいで、1区コロニーの加工業者よりも精度の高い物が上がって来るので、修理業者へ高く売れます。



 ある時、彼女に合いそうなワンピース等を持って行ったのですが、その次の取引の時にメグちゃんから相談を受けました。


「ケイトさん、前回貰った服なんだけど……。」


「どうしたの、サイズが合わなかった?」


「そうじゃなくて……あの服は実用的じゃないし、アタシ自身は普段着る物じゃないと思ってるのに、小父さん達が着てくれって煩いの。

 髪も短くしたいのに、切るって言ったら露骨に嫌そうな顔をするし……。」


 メグちゃんはちょっと嫌そうな顔をしてます。ずっとこんな環境で暮らしてて、ワンピースを着たり女の子らしい恰好をする意味がメグちゃんには分からないんでしょう。

 でも、小父さん達の気持ちもわかる気がします。


「ここの暮らしからしたら、ワンピースなんて実用的じゃないでしょうね。だから着なくても良いんじゃないかって、メグちゃんは思ってるの?」


「うん、そう。」


「小父さん達ってメグちゃんの事を娘の様に思ってるみたいだから、多分だけど女の子らしく成長してる姿が見たいのよ。メグちゃんって綺麗な顔してるから、ワンピースを着た所は私も見てみたいわ。

 いつもじゃなくても、偶にはそういう姿を見せてあげればいいんじゃないかな。小父さん達はとっても喜ぶと思うよ?」


「……考えてみる。」


 正直言って、メグちゃんの顔立ちは結構整った方だと思う。大きくなれば結構な美人さんになりそう。

リボンとかフリルが付いた可愛い系の服より、上品なデザインの方が向いてるだろうし、いろんな服とも合わせやすいように縦にギャザーの入ったグリーンのロングワンピースを贈ったので、着た時の写真が欲しいとお願いしました。



 直ぐには着てくれなかったのですが、ある時いつもの様に前回指定された待ち合わせ場所に行くと……あれ、二人いる。

 近づいてみると、いつもの宇宙服を着たメグちゃんと、もう1人の人影は濃紺のロングワンピースを着た、女性型ロボット?


「ケイトさん、紹介するね。こちら、()()()()()で見つけた……。」


「初めまして、ケイト様。私はメグお嬢様にお仕えする侍女の、ニシュと申します。」


 ニシュと名乗るロボットが自律的に話して……ってことは、ロボットじゃなくてアンドロイド!?

 それなりに裕福だった実家でもアンドロイドなんて見た事ありません。それがここに居るってことは、出所は軍関係か、それとも帝国貴族関係……という事は、コロニーの管理エリアに入れた?

 いずれにせよ、厄介事がもう一つ増えてしまったことに内心頭を抱えました。


「こちら、以前ケイト様が以前御所望されていたと聞きます。どうぞお納めくださいませ。」


 そう言ってニシュが渡してきたのは、先日私が贈ったグリーンのワンピースを着たメグちゃんの写真。


「わあ! メグちゃんってやっぱりとっても可愛い!」


「ええ、そうでしょう! メグお嬢様に似合うだろうとこのワンピースを選ばれたケイト様のセンスも素晴らしいですね。」


 あら、アンドロイドからとは言え、センスを褒められるのは嬉しいわ。

 メグちゃんを着飾らせる事についてはニシュと話が合いそうです。


「で、小父さん達の反応はどうだったの?」


「う、うん……皆喜んでくれて、頭を撫でてくれたの。だから時々は、着ても良いかなって……。」


 良かった。これからも服とか持って来てメグちゃんに着て貰おうかしら。メグちゃんって写真を見る限り手足がすらっと長いモデル体型だから、スカートだけじゃなくてパンツルックも似合いそう!


 メグちゃんやニシュの事は誰にも言えないし、言うつもりも無いけど、これ位は楽しんでもいいよね?


いつもお読み頂きありがとうございます。


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