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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第8章

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8-08 バートマン中佐の足取り

 エレベーターの中でひと眠りして、起きて食事をしてから再びコントロールルームへ。金属の箱……AIのアイちゃんは、カメラを既にこちらに向けて待っていた様子。

 昨日と違うのは、金属の箱の傍に、私よりも背の低いロボットがいる。


「いらっしゃい。良く眠れたかしら?」


「おはよう、アイちゃん。

 宿泊エリアは埃だらけだったから、エレベーターに戻って寝たの。」


「そっか。17年も前から掃除してなかったら、ベッドも使えないわね。

 ごめんなさい。」


「それで、クイズのヒントは見つかった?」


「クイズのヒントになるかどうか、分からないけど……17年前、丁度3区の事故の直前か直後だと思うけど、採掘場に来た人がいるみたい。

 IDの記録によると……ダニエル・バートマンって人。」


「!」


 という事は、スパイさんを逃れて、バートマン中佐は採掘場に降りて来てたってこと? 中尉さんも准尉さんも驚いてる。

 でもこれで、ヒントがこっちにある可能性は高くなったと思う。


「そのバートマンって人は、降りて来てから宿泊エリアで2時間ほど休んだあと、採掘場に行ったみたい。その人が休んだ部屋は、ここから宿泊エリアに行った左の一番手前の部屋だね。今からその部屋を調べてみる?」


「そのバートマン中佐がどこに行ったか、記録に残ってる?」


「……休んだ後、ここから運搬用バギーで、マスドライバーの方に向かったみたいだね。

 マスドライバーの近くで車を降りて……そこから後はわからない。」


 バートマン中佐は、スパイさんから逃れて採掘場に降りた。休んだ後、マスドライバーの方に行って……そこから先の足取りは不明、か。


「ところで、マスドライバーって、何?」


 あ、と中尉さんが呟いた。


「そう言えば、マーガレット君には説明してなかったか。

 マスドライバーと言うのは、惑星表面から宇宙空間に向かって物体を打ち上げる時に使う、大型のカタパルトのことだ。

 恐らく、今は採掘した鉱石を他所に送る際に使っていると思う。」


「……ってことは、バートマン中佐も、それを使ってどこかに逃げたのかな?」


「それは分からない。

 ただ、解除するための手がかりか何かが、マスドライバーの周辺に残っているかも知れないな。」


 だったらマスドライバーの方を先に調べないとね。


「それでは、採掘場の方を先に見て回りたいな。

 アイちゃん、だったか。案内してくれるか。」


「……今は昼時間になったから採掘はしてないけど、採掘場を見て回るなら良い時間ね。向こうの許可が下りたし、案内するわ。

 このロボットを遠隔操作するから、ついていらっしゃい。」


 そう言って、箱の傍のロボットが動き出す。

 足の裏に車輪が付いてるのか、2本足で立った状態のままスーッと動いてコントロールルームを出て行くから、ちょっと驚いた。

 ただスピードは、私達の歩く速さに合わせてくれてる。


 ロボットはエレベーターの扉がある大広間に戻ってから、採掘物を運び出す用の大きな扉の方へ向かう。扉の所に来ると、大きな扉の横に人が通れるくらいの小さな扉が付いていた。


「ここから先は空気が薄いから、宇宙服を身につけて。」


 全員が宇宙服を付けてから、その扉にロボットが近づくと自動で開く。

 ロボットに続いて中に入るとエアロックになってて、空気を調整してから抜けると、さっきの大広間と同じ位の広さのエリアに、壁際に同じ形の大きな機械が並んでいる。

 その大きな機械には、中尉さんよりもずっと大きいタイヤが付いていたり、付いてなかったり。


「大型のダンプカーだな。人かロボットが操縦して、採掘現場とここを往復して鉱石を運んでいたんだろう。」


 え、これ操縦して動かすの?


「タイヤが付いていないのは、壊れて動かないの。部品取り用に置いている。

 それ以外は、鉱石の運び出しで今でも使っているわ。

 でもあなた達の案内には大きすぎるから、別の乗り物を用意する。」


 ロボット……アイちゃんが説明をしながら、そのまま広間を真っ直ぐ抜けていく。

 着いて行くと、ダンプカーの並んだ広間の向こう、出口の横の壁際に小さい乗り物が並んでいるのが見えた。


「採掘場は、あのロボット運搬用バギーを使うわ。

 小さい物でも6人乗りだから、全員乗れるはずよ。」


 ロボット運搬用バギーは太いタイヤが左右に3輪づつ付いていて、上に2つづつ3列の座席がある。右前の座席の前には、丸いハンドルに足で踏むのであろうペダルが2つ。


「なんだ、普通の車と同じように運転できそうだな。」


 ロボットはそのハンドルの付いた座席……運転席に座り、中尉さんがその隣。

 私はニシュと一緒に真ん中の列の座席。准尉さんが後ろの列に座る。


 ロボットは運転席にある端子に線を繋いだと思ったら、車が一瞬揺れて、ブォンと大きな音がする。

 と思ったら、運転席の横に採掘場の地図がホログラム表示される。地図の丁度真ん中で、点滅している点がある。


「この点滅してるのが、今いる場所ね。まずは、こっちのリン鉱石の採掘現場に行くわ。

 結構なスピードが出るから、シートベルトは締めて、しっかり掴まっててね。」


 採掘場の地図の右上を指差しながらアイちゃんが説明する。

 シートベルトって何……と思ったら、後ろから准尉さんが、座席の横にあるベルトを伸ばして私の前に回してくれた。それを横にいるニシュが、座席の反対側にあるバックルに留める。

 全員が同じようにベルトを締めたのを確認して、ロボットがバギーを操作する。

 バギーはすぐに動き出し、出口を出て坂を下りて地表に出るまで加速していき、地表に降りた時にはかなりスピードが出ていた。

 ひぃぃぃぃぃ……!!! こんなスピード出して大丈夫なのぉぉぉ!!!




 そんなスピードで30分近く走った頃、漸くスピードが落ちて来た。


「そろそろ、リン鉱石の採掘現場よ。」


 走っている間、前の座席の後ろに付いている手摺を掴んだまま、顔を伏せていたんだけど、スピードが落ちてきて漸く前を見る余裕が出て来た。

 見ると、前の方に地面にクレーターみたいな巨大な穴が開いてるのが見えた。車で上り下りするスロープみたいな道が何か所もある。


「ここは露天掘りで簡単に採掘できるし、質の良いリン鉱石が採れるの。

 実際に採掘されている鉱石が見たいなら、鉱石の保管場所まで案内するわ。」


「是非見せてくれ。今は昼時間だから採掘は動いてないんだろう?」


 バギーは採掘現場を降りて行き、底に着いたらクレーターの奥の方へ走り出す。暫く走ると、クレーターの壁のほうに何か所も横穴が掘られているのが見えた。

 バギーはその横穴の一つに入って行く。穴の壁にも何か所もまた穴が掘られ、そこには採掘の為であろう機械や、エレベーターの所にあった物と同じダンプカーが並んでいた。

 一番奥には広い空間があり、石の山と、その横に大きなシャベルの付いた機械が沢山あった。


「ここが、リン鉱石の保管場所ね。ここのリン鉱石は含有率が高いけど、精製する設備は無いから、鉱石はこのまま運び出してるわ。」


 全員で降りて、鉱石を見てみる。

 とは言え私には、淡い黄色をした石が山積みになっている様にしか見えない。


「結構大量に採掘しているみたいだな。埋蔵量は大丈夫なのか?」


「埋蔵量だけなら、今のペースで採掘しても100年くらいは大丈夫らしいわ。

 それに、ここと同じ位の埋蔵量の、未採掘の大規模鉱床があと2か所あるの。」


 それから、アイちゃんの案内で他の採掘現場を見て回った。

 リン鉱石の採掘はさっきの所だけだったけど、ケイ素の採掘現場は2か所あって、それぞれ純度の低いもの、純度の高いものが採れる場所らしい。

 それから、廃棄されたリオライト採掘現場も見せてくれた。廃棄されたとあって、ここには全部錆び付いていた作業ロボットと採掘用の機械が若干置いてあったくらい。壊れて動かなくなったまま、放置されているらしい。


 最後に、マスドライバーの方へ向かった。ホログラムの地図で見ると一番右下の方になるそうだ。

 バギーで走って近づいていくけど、遠目に見てもごつごつした岩だらけの小高い丘の様にしか見えない。

 バギーは、その小高い丘の手前で止まった。


「17年前の記録では、バートマンの足取りはこのあたりから記録に無い。

 恐らく、車を降りて歩いて行ったのでしょうね。

 上の許可が下りなかったから、私はこれ以上案内することが出来ないけど、歩いて調べるなら黙認しよう。」


 アイちゃんは、ここから先は案内してくれないらしい。

 仕方なく全員で車を降りる。


 丘の方を見ると、斜面は険しいけど、なんとか人が歩いて登れそうな細い道が丘の上の方へ続いていくのが見えた。斜面を登る道はこれしかなくあとは丘に沿って周囲を歩く位しか出来なさそう。皆で相談して、その道を上ることにした。

 

 斜面の道は人が1人歩いて行ける幅しか無いけど、所々斜面側に手でつかめるような突起が付いている。手摺代わりにこれを掴んで上っていけということらしい。

 上っていくと、下から見えなかった窪地があって、そこに大きな穴が開いている。

 道はその穴の中へ続いている。穴の中は真っ暗そうで、懐中電灯を取り出して点灯する。


「これは、天然の洞穴かな。奥も十分な広さがありそうだし、入ってみよう。」


 中尉さんの提案で、更に洞穴を奥へ進む。並びは中尉さん、私、ニシュ、准尉さんの順。

 洞穴は緩やかに蛇行しながら徐々に降りていく。途中に横穴などは無い一本道だ。しばらく進んでいくと、金属製の扉が突き当りにあった。

 操作パネルなんかはなく、普通にノブが付いていたので、中尉さんがゆっくり開けて中を覗く。暫くして、中尉さんが大丈夫とハンドサインをしたので、全員で中に入る。


 そこは洞穴の中とは思えない、コンクリートの壁の小部屋だった。殺風景なその部屋には机と椅子がある。机は何かの端末と一体になっているのと、机の横に幾つか引き出しが付いている。

 部屋の奥にも扉がある。こちらにはノブが無くて、扉の横に操作パネルがあるけど、パネルの電源が入っていない。


 中尉さんが奥の扉を、准尉さんが机の端末を、私は机の引き出しを調べることにした。

 引き出しは机の左右に3つずつ。鍵は掛かってなくて、引き出しはどれも空だった。

 ただ引き出しを抜いてみると、右下の引き出しだけ奥行きがちょっと短い気がする。引き出しを抜いた奥を覗いてみると、何か袋が奥にある。

 慎重に袋を取り出すとどうやら密封袋で、触った感触では中に分厚い本が1冊。


「操作パネルの電源が入らなくて、奥の扉は開かなかった。こちら側からはどうしようも無い。」


「端末の方は、マスドライバーの情報端末の様です。

 マスドライバーはこの丘の地下にあって、ここから2km先に打ち上げ口があるようです。打ち上げる方向の軌道計算データも閲覧出来ました。

 メモリカード端子が付いていないのでデータの抜出は出来ませんでしたが、重要と思われるデータは映像記録に残しました。」


 中尉さんは収穫無しだったけど、准尉さんはマスドライバーのデータが入手できたみたい。


「私の方は、引き出しの奥に密封袋が見つかったの。

 中身は本だと思う。ここで開けて読む?」


「……いや、ここでは袋を開けない方が良い。

 ここは重力も低くて空気も薄い。下手をすると本が傷む可能性がある。

 3区に戻って、空気のちゃんとある場所で開いた方が良い。」


 中尉さんの忠告に従って、密封袋をバックパックにしまう。

 この本が手がかりだと良いな。


 もう少し部屋を調べたけど、他に手がかりになりそうなものは無かった。

 他に何も無さそうだったので、来た道を戻る。

 アイちゃんのロボットは同じ場所で待っていた。



いつもお読み頂きありがとうございます。


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