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ジャンク屋メグの紡ぎ歌  作者: 六人部彰彦
第8章

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8-07 奇妙な箱との会話

今話から、また主人公視点に戻ります。

 採掘場のコントロールルーム。

 そこの管理端末に繋がった奇妙な金属の箱から、カメラを向けられ、声を掛けられている。


「私達は、上から来たの。

 あなたは誰? ここで何をしているの?」


「私は、この採掘場の管理をしているAIね。

 上……って事は、3区コロニーからって事か。コロニーの閉鎖は解けたってこと?」


 AIなの? この箱。

 しかし正直に答えていい物か……ちらっと中尉さんを見るけど、頷いているので、素直に答えることにする。


「ううん、3区の閉鎖は解けてない。

 私はずっと3区で生きてきたの。閉鎖は解けてないから、出る手段が無くて。

 最近になって、管理エリアが宇宙船になるってわかったんだけど、航法コンピューターにロックが掛かっていて動かないの。

 ヒントが採掘場にあるって書いてあったから、それを探しに来たの。」


「え……ちょっと待って、3区にずっと生き残りがいたの?

 そんな馬鹿な事、ある訳無いでしょう。嘘にも程があるわ。」


 荒唐無稽な話に聞こえたのか、AIにすら信じて貰えてないなんて。


「今言った事は本当なの。どうすれば信じて貰えるの?」


「……あくまで、君がそれを主張するなら、教えて欲しい。

 まずは君の名前と年齢、御両親の名前だね。」


「私はマーガレット・ルマーロ、15歳。

 事故を生き残った父ライノ・ルマーロと、母メリンダ・カートソンの間に、事故の後に産まれました。」


 そのままAIからは反応が無い。

 しばらく経って、AIから答えが返ってきた。


「……事故前の3区勤務者データベースに君の御両親の名前があった。

 ライノ・ルマーロは自治政府所属の技術者、メリンダ・カートソンは同じく自治政府所属の看護師とある。事故当時はまだ2人の結婚の記録は無いようだ。

 そして、3区の事故で行方不明。

 君の名前はデータベースに無いが、年齢からすると、事故の後で生まれたようだね。御両親はお元気かい?」


 首を横に振って答える。


「5年前、宇宙伝染病で……。」


「……そうかい。酷な事を聞いてすまなかったね。

 君が3区の事故の生き残りだという事は一旦信じよう。少なくとも、君はここを調べに来た帝国の犬では無さそうだね。

 それで、隣のお兄さんとお姉さんも、3区の生き残りかい?」


「私達は3区の生き残りではないが、彼女の支援者に頼まれて、彼女を宇宙船で逃がす為に来た。早急に逃がさないと彼女に身の危険があるんだが、彼女では宇宙船を操縦できないからな。」


「……身の危険?」


「管理エリアに、何か帝国に……いや、皇帝にとって重大な秘密があるらしい。

 3区には生存者は居ないという認識で帝国側も放置してきた。

 しかし管理エリアに彼女達が生き残っている事を知った帝国が、クーロイに手を伸ばしてきている。」


「そうか……帝国が動いているか。

 それで、宇宙船を動かそうとしたら、コンピューターがロックされていて動かせない。ヒントは採掘場に、とでも書かれていた、というわけだね。

 それで、どんなロックが掛かってるんだい?」


「クイズ形式で、9問までは解けたんだけど。

 今は10問目で止まってる。

 『あなたが忠誠を誓うのは誰か?』って質問だったの。」


 また、しばらくAIが沈黙する。


「……そのクイズの答えも、そのヒントが何かも、今は分からない。

 アーカイブを探って、事故当時の記録とかも当たってみなければならない。つまり、少々時間が掛かる。

 ここまで来るのに、長時間エレベーターに乗って疲れてないか?

 宿泊エリアにベッドがあるから、そこで一晩休んでくれ。その間に、私はアーカイブからヒントとやらを探ってみる。」


 どうやら、探してくれるらしい。

 あの埃だらけのベッドで寝られるかどうかは別だけど。

 エレベーターから荷物を持ってきた方が良いかな。あの中に寝袋もあった筈。


「有難う。所で、あなたの事は何と呼べばいい? AIさん?」


「私は自律機動型の採掘場管理AIで、アイちゃんと呼ばれている。君もそう呼んでくれていい。

 私は君を何と呼べば? ルマーロさん?」


「私の事はマーガレットでいいよ。

 あと、アイちゃんは採掘場管理って具体的にどんなことをしてるの?」


「ここの採掘場は、完全無人で動いてるんだ。実際の採掘作業は全部ロボットが行ってるんだけど、そのロボットがちゃんと動いているかどうか監視して、故障したロボットを回収して修理したり、採掘した資源を送り出す処理をしたり。

 あと、昼時間になる前にロボットを撤収させたりね。」


「へえ、そうなんだ。

 アイちゃんは、一体ここで何を採掘してるの?」


「ここで採掘してるのは、ケイ素とか、リン鉱石だね。

 重力の低いこの星には山ほどある。でも、私達にとっては命を繋ぐ大事な資源なんだ。」


 ケイ素、リン?

 ここってリオライトの採掘場じゃなかったの?


「元々ここはリオライトの採掘場だったらしいね。昔は1区や2区以上に採掘量の多い場所だったらしいんだけど、採掘しすぎて随分前……事故よりも前に枯渇したみたいだね。

 私達にとってリオライトは、ケイ素やリン程必要なものでもないし。

 今は、私達がケイ素やリン鉱石を掘っているの。帝国には内緒でね。」


 枯渇……つまり、採れなくなったってことか。

 それじゃあ、侯爵はリオライトの横流しなんてしてないってことかな?

 中尉さんの方を向く。


「君の言う事が正しいのか、この目で見て確かめたい。また後で実際に採掘場を見させて欲しいが、それは構わないか?

 出来れば、マスドライバーも見せて貰いたい。」


 マスドライバー? それって、何?


「……ふうん。

 そっちのお兄さん達は、そこの女の子を逃がすのが目的、って言ってなかったっけ。

 本当はここの事を調べるのが目的なわけ?」


「私達がクーロイに来た経緯だが、クーロイの統治をしているカルロス侯爵がリオライトを横流ししている疑惑がある、と皇帝陛下から主が調査を命じられたのが切っ掛けだ。

 隕石がここに落ちたり、ここから飛んで行ったりしているのは確認している。何が起きているのか、事実関係の確認も目的の一つではある。

 確認して主には報告するが、主からは皇帝陛下には報告を上げないだろうね。」


「……何故だい?

 お兄さんの主は、帝国に仕えているんじゃないのかい。」


 あれ、中尉さん達って軍人さんでしょ?


「理由は2つ。

 1つは、ここの採掘に侯爵は直接関わっていないと思われるからだ。

 エレベーターまでの警備は帝国宇宙軍のロボットで行われていた。侯爵に宇宙軍を動かす権限もつながりもない。侯爵や自治政府が、3区の採掘場に直接関わる事は出来ない筈だ。横流しによる利益を侯爵が得ている形跡はどこにも無かったしね。

 もう1つは、君たちが採掘しているのがケイ素やリンだという事だ。これらを必要としている理由が、私の想像通りだとしたら、かなり切実なものだと思う……これは、採掘現場で鉱石の状態を見て判断したい。


 私の主は杓子定規な人物ではないのでね。帰ったら私も主に口添えしておくよ。」


 中尉さんには、ケイ素とかリンの使い道についてもある程度分かってるみたい。

 後で聞いてみようか。


「……侯爵の疑惑には直接関係ないなら、見逃してくれるってかい。」


「疑惑というか……侯爵が何か不正に手を染めているとは思っていない。

 それに最優先は、この子を帝国の手から逃がすことだからな。」


「逃がすだけなら、あんたの主が宇宙船を用意すれば済む話じゃないのかい。」


「残念ながら、私の主には帝国内での実権が無い。わざわざ私達が手を尽くして3区に忍び込んだのは、他に手段が無かったからだ。

 それに管理エリアごと逃げなければならない理由も出来てね。」


 中尉さん達は、私達の命の危険を回避する事、あの証拠ごと3区を逃げ出すことの2つが最優先なのか。


「……そうかい。事情はわかった。

 悪いが今の会話は、私に指示を出している人達にもデータを送らせてもらうよ。多分採掘場を見る許可は出ると思うが、マスドライバーについては確認しよう。


 あと5時間もすれば、昼時間になる。それくらいになったら来て欲しい。

 17年前の記録も、その間に確認しておくよ。

 宿泊エリアにはベッドがあるはずだから、そこを使って休んで貰って構わないよ。ここに来る者は誰も居ないから、ゆっくり休んでおくれ。」


 そうアイちゃんは言って、カメラが箱に収納される。今はこれで会話は終わりってわけね。

 まだアイちゃんに聞きたい事は色々あるんだけど、後で聞いてみよう。




 アイちゃんの反応がなくなったので、コントロールルームを後にする。

 宿泊エリアの埃だらけのベッドで寝るのは嫌だから、一度皆でエレベーターに戻る。荷物を取ってこないといけないし、小父さん達とも情報共有しておかないとね。


 エレベーターに戻ってから、まず持ってきた冷凍食料を鍋で温めて、皆で食べる。


「中尉さん、聞いていい?

 ケイ素とかリンって、何に使う物なの?」


 さっきの会話の中で気になってたので聞いてみる。


「ケイ素は鉱石の純度によって用途が変わって来るから、採掘されている実物を見ないと何とも言えん。ただ、リンについては、肥料の用途が一般的だな。」


「肥料?」


「電子部品を作るのにも多少はリンが必要なのだが、農作物を育てる為の肥料の原料としての用途の方が一般的だ。

 居住惑星では惑星内で自給自足できるほどありふれた物だ。クーロイでも、それぞれのコロニーの農業生産ブロックで、採掘場で採れたリン鉱石から製造された肥料を使っていたと思う。

 先ほどのAIは、『命を繋ぐのに必要だ』と言っていた。鉱石の送り先は、食料生産が厳しい場所なのだろうな。」


 肥料か……。

 昔、農業生産ブロックがどこからか流れ着いた事があった。作物を育てて食べる事はできたけど、肥料が無くて、何回か作物を変えて育てていく内に、頑張っても作物が育たなくなった。

 小父さん達曰く、肥料が無くて、土の中の栄養分が無くなったんだろうって。

 あの時に肥料があれば……採掘場に来れていたなら、もうちょっと良い食生活になってたのかな。


 食べ終わったら片付けて、上と通信を繋ぐ。


『もしもし、聞こえるか?

 全員呼んでくるから、ちょっと待ってくれ。』


 繋ぐとライト小父さんの声が聞こえる。

 向こうが揃うのを待ってから、エレベーターで降りてからの状況を説明する。


『……今はその、アイちゃんっていうAIに、ヒントを探して貰っているのか。

 そのAIは信用できるのか?』


「多分ね。今は17年前の記録を探して貰ってる。」


 お互いの状況報告を終えてから、マルヴィラお姉さんに『ちゃんとご飯食べてる?』『今日は疲れてると思うから、早めに寝るのよ?』と心配されつつ交信終了。


 念のため、交代で見張りを立てて寝ようって中尉さんと准尉さんが話をし出したので、私も見張りに立つって言ったら、


「子供は寝ておけ。」

「こういう事は大人に任せて、ゆっくり寝て頂戴ね。」

「メグさんは寝ていていいですから。」


 という2人とニシュに、私だけ見張りは免除された。

 私は翌朝に准尉さんに起こされるまで、ゆっくり寝させてもらった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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